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富山市から車で20分。ほどよい田舎という雰囲気の場所に、日本一面積が小さい村、舟橋村があります。
この村が全国に知られるようになったのが、子育てに力を入れていること。
さらに、それに共感した移住者が中心になって 2年前に立ち上がった のが、保育料0円の学童保育「fork toyama」です。
「みん営」という新しい資金調達の仕組みで運営し、子どもたちとはフラットな関係性で接する。
3年目を迎えるいま、新しい仲間を探しています。
教育経験はあってもなくても構いません。学校現場などで違和感やモヤモヤを感じたことがある人なら、ここでそれを昇華できると思います。
富山駅から富山地方鉄道立山線にのって約15分。越中舟橋駅で降りる。
駅から見えるほどの距離に、木々が生えている一角が。この中にfork toyamaがある。
古民家を改修した建物で、学童保育で使われる部分のほかに、カフェも併設されている。
子どもたちはまだ学校にいる時間ということで、まずは一般社団法人fork代表の岡山さんに話を聞く。
「ここで学童保育をスタートさせたのが、2022年の7月ですね。当時は十数人の子どもたちを受け入れていて。今は30人にまで増えました 」
「ぼく自身は、学童保育の経験があるわけではなくて。子どもたちと触れ合うことは、今は富山市の学童保育 NPOの人たちがメインで担う形での共同運営を行っています 。仕組みや方針を決めたり、お金回りのことをしたりするのが、ぼくの役割になっています」
物腰やわらかに話してくれる岡山さん。学童保育を立ち上げた経緯を聞いてみる。
「もともと舟橋村に縁があったわけではなく、 5年半前くらいに、子育てのためにこの村に移住してきたんです。村が子育て政策を重視していて、子どもたちがクラウドファウンディングでお金を集めて公園をつくったり、イベントを企画したりと、子どもたちの成長を促しているのがいいなと思って」
「いろんな自治体を見ましたが、こんな村はなかなかないなと。こういうところで子育てをしたいなって思いました」
家族を説得し、関東から移住して来た岡山さん。しかし、その直後に村の政治体制が変わり、村営だった学童保育も急に運営体制が変わってしまうことに。
「ぼくとおなじように子育てのために県内外から移り住んできていた人も多くて。安心して利用できる学童保育がほしい、という話になり『じゃあ自分たちでつくるか!』と」
「自分の子どもも、ちょうど小学1年生になるタイミングで。子どもが楽しく過ごせて、親としても安心して預けられる環境を自分たちの手でつくっていこう。そんなきっかけで始めたのがfork toyamaでした」
fork toyamaを始めるにあたって、各地の学童保育を調査した岡山さん。
「いろんな学童を見ると、保育料も活動内容も本当にさまざまで。預かってテレビを見せているだけ、みたいなところもあるし、時間割が決まっていて、きっちり勉強させるようなところもある」
「なかでも、親の収入や労働状況によって子どもたちがどんな時間を過ごすかが決まってしまうことは、子どもたちの未来にとってよくないと感じて。それで、保育料を無料にすることにしたんです」
保育料なしで運営するためにどうするか。いろいろな方法を考えた結果、企業や個人にサポーターになってもらい、その会費で運営していく「みん営」という方法を編みだした。
「わかりやすく無料にしたほうが応援してくれる人も増えるし、保護者も気が楽になる。ぼく自身も『やるしかない』って、自分に発破をかけることになると思って(笑)」
とはいえ、サポーター制度のみで運営していくのは、持続的ではない面もある。
そのため、カフェを併設してその売り上げを運営費にあてたり、コワーキングスペースをつくる計画を立てたりと、学童保育だけではない、多目的な施設づくりを進めている。
学童でみん営のような仕組みをつくる事例って、ほかにないんじゃないでしょうか。
「なかったです。いくつか参考にした施設はあるんですけど、無料の学童保育はなくて。なので、これができたら面白いんじゃないかっていう思惑はありました」
「視察に来てくれる人も多くて。舟橋村だけじゃなく、必要な地域に学童保育をつくる手段として、みん営が広がっていけばいいなと思っています」
そのほかにも、fork toyamaの特徴として、大人とフラットな関係性をつくるために、学童スタッフを「先生」と呼ばせず、名前やニックネームで呼んでもらうようにしている。
なにかトラブルがあったときも、一方的に指導するのではなく、全員が輪になって話し合う「サークルタイム」という時間を設ける。これは共同運営しているNPO法人によるアイデアで、なにがあって、なにがよくなかったのか、これからどうするのかを、大人がファシリテーターになって話し合うようにしているという。
岡山さんの話を聞いていると、ないものはつくろうというチャレンジ精神や、あたらしい仕組みをつくる独創性など、バイタリティに溢れているように感じる。
「子育てに理想的な場所を探して引っ越すって、きりがないじゃないですか。だったら、今いる環境をよくするほうが、自分の理想に近い環境をつくることができる」
「必死こいて青い鳥を探しても、結局どこにもいないんですよね。それに、その姿を子どもに見せることで、誰かをあてにしすぎるんじゃなく、自分で環境や人生を動かしていこうって考えてくれるんじゃないかと思うんです」
舟橋村は子育て世代の移住者が多く、若年人口が多いそう。
子育てに関して、自分ごとで考えられる人が多い環境だからこそ、岡山さんのようなチャレンジも応援してもらえるし、実際に形になっているのだと思う。
「ここで働く人は、教育関係の経験はあってもなくてもいいと思っていて。もし経験のある人なら、学校で感じているモヤモヤを解消するヒントがここにあると思うんですよね」
「それは上下関係のことかもしれないし、学校教育だと抜け落ちてしまうことが、学童ではできる、ということかもしれない。これは、今働いているスタッフも感じていると思います」
自分の住んでいる地域でこのモデルの学童を立ち上げたい、という人の応募も歓迎だそう。みずから中に入って関わることで、学べることも多いはずだ。
話がひと段落したところで、学童スタッフの人たちがやってきた。
今は別のNPOに運営をお願いしているものの、4月からは岡山さんの法人が学童を運営していくという。
今回は、この1年間fork toyamaを支えてきたお二人と、4月から新たに着任するお二人に来てもらった。
まず話を聞いたのが、この1年間forkで学童スタッフを担当してきた戸圓(どうえん)さん。1年前まで小学校教諭をしていたそう。
「学校現場で5年働いていたんですけど、漠然と違和感があって。そのときにfork toyamaを見学する機会があったんです」
「そのときに、たのしそうだなって素直に思いました。教員をしていて違和感があったのが、『先生』って呼ばれることだったんですよね。上下関係じゃなくて、近所のおばちゃんみたいな、もっと近い距離感の大人でありたいと思ったんです」
安全管理はしつつも、なにかを強制するわけではない場所。名前やニックネームで呼んでくれる関係性も、心地いいと感じたそう。
「子どもたちと関わっているときに心がけているのが、ひとりの人間として見るっていうことで。子どもでも言葉を知らないだけで、伝えたいこととか想いをちゃんと持っている」
「私、ヨシタケシンスケさんが好きなんですけど、その本について子どもと一緒に話したりして。友だちの延長みたいな存在っていうのは、個人的な感覚として持っています」
戸圓さんの話を頷きながら聞いていたのが、おなじく昨年から働いている亀山さん。戸圓さんとおなじく今年の3月末で退任し、新しいメンバーに運営を引き継ぐことになる。
保育士経験者の亀山さん。この学童で働いてみてどうでしたか?
「ここに来ている子たちは、一人ひとりしっかりとした意思を持っている子が多い気がします」
「すごく素敵なことなんですけど、伝えたい気持ちがつよい子も多い。どのようにすれば、それぞれが自分の想いを伝え合える場になるか、考えながら日々過ごしています」
岡山さんも話していた、サークルタイム。どんなふうに進めているんだろう。
「たとえば、1年生の男の子たちがプロレスごっこをしていて、まわりの女の子たちがあぶないからいやだって言ったんです。それでサークルタイムを開いて」
「そのときは一個帰着して、一個は持ち越しになりました。すべては解決しなくても、みんなの意見を聞いてお互いが納得する。それが大事なのかなと」
1日の流れとしては、14時くらいまでは事務作業などをして、子どもたちが集まってきたら15時くらいからおやつの時間。
遅くても19時くらいには全員お迎えが来るので、片付けて終了。長期休暇のときは、朝7時半から来るようにしている。
続いて、引き継ぎを受けるために来ていたお二人にも話を聞く。
左から、板谷あつこさんと大橋えつこさん。なんと双子の姉妹だそうで、揃って4月から働く予定。新しく入る人にとっては、頼りになる先輩になると思う。
まずはあつこさん。
「人と関わる仕事が好きで、今回こういうお話をいただいて。初めての挑戦なんですけど、岡山さんの『ないなら自分でつくればいい』っていう考えにすごく共感したんです。だからその一員になれるっていうのは、すごくうれしいですね」
引き継ぎを受けて、どんな気持ちですか。
「公設の学童と比べて、自由度がすごく高いなと思いました」
「公設のところって、時間割が決まっていたりするので。子どもたちが自分でやりたいことをできる環境は貴重だと思います。あらためて、4月からやるぞっていう気持ちも芽生えてきました」
やるべきことの枠を決めていないぶん、来た人の得意なことを活かして子どもたちと関わることができる環境でもある。
「ここだったら泥んこ遊びでもいいし、運動もできる。ロープがあれば、木と木の間にロープをわたして迷路をつくるとか。そういうこともできそうだなって。フィールドとして魅力的だと思います」
隣で聞いていたえつこさんも加わる。
「わたしはカヌーとかキャンプファイヤーとかの野外活動の指導員をしていて。ここでも野外活動のようなことをできたらいいなって思っています」
新しく入る人も、自分の好きや得意を活かしてほしい。
最後に、どんな人に来てもらいたいか、この1年fork toyamaを支えてきた戸圓さんが答えてくれた。
「子どもが好きなのは大前提だと思うんですけど、ただ無責任にかわいがればいいわけではなくて。しっかり線引きをして、子どもにNOって言える人がいいと思います」
「あとは子どもたちだけじゃなく、保護者の方や地域の方とか。いろんな人と関わる仕事でもあるので、一人で抱え込まないようにしてほしいですね。岡山さんもいるので、相談してみんなで解決していけたらいいんじゃないかな」
土台づくりが進み、これからさらにステップアップしていく段階のfork toyama。その想いに共感した人が集まり、子育ての村にとっては欠かせない存在になりつつあるように感じました。
日本一小さい村での、日本で初めてのチャレンジ。ともに形にしませんか。
(2024/1/15 取材 稲本琢仙)