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「福祉がせなかを支えつつ、おなかは地域のほうを向いている」
福祉の仕事をしながら、地域づくりにも取り組む西村さんと過ごすなかで、浮かんできた言葉です。
Beスマイルの西村さんには、10代から100代まで、たくさんの仲間がいます。ある人は社員、ある人は利用者さん、またある人は同じまちに暮らし働く一人として。
自分をひらいて、目の前の人と笑顔で生きていたら、いつの間にか仲間がたくさん増えていました。
はじめにお伝えしておくと、給与の高い仕事ではありません。だけど、ここには他者や地域と関わるなかで自分に出会っていく時間があるような。
琵琶湖の西で、約45,000人が暮らす滋賀県高島市。
高齢化率が37%と滋賀県内でもっとも高いまちで、福祉にかかわる人たちがゆるやかにまちづくりをはじめました。2023年には拠点となる「TAKASHIMA BASE」が動き出します。
ここ高島で、福祉と地域のハイブリッドで働く仲間を募集します。
せなかの福祉は、西村さんが営むグループホーム「Beスマイル新旭(しんあさひ)」で暮らす人を支える仕事です。
おなかの地域は、一般社団法人ぼくみんとともにTAKASHIMA BASEから、新たな仕事づくりに取り組んでいきます。
せなかとおなかはつながっていて、そのバランスは10:0だったり、9:1だったり、7:3だったり、5:5だったり。選考を進めるなかで、話し合っていきましょう。職歴や経験は問いません。副業で、自分の仕事を育てていくこともできます。
琵琶湖沿いを走るJR湖西線。新快速が京都駅を出発すると、45分でJR新旭駅に到着。西村さんが迎えてくれた。
そこから徒歩1分。案内されたのは、どこか秘密基地のような場所。
「ここがTAKASHIMA BASEです。築50年の民家を改修して、高島に縁のある人たちがいっしょに運営している“地域のおなか”なんです」
おなかのはじまりを聞いた。
2007年にBeスマイルを立ち上げた西村さんは、高島の新旭と安曇川(あどがわ)という2つのまちでグループホームを運営している。
2019年から、市内の福祉法人とともに集まり、まちぐるみの採用に取り組みはじめる。その活動のなかで「採用」に限らない課題を感じるようになった。
それは、働きはじめた人が働き続けたくなる学びの場だったり、仕事終わりや休日を過ごしたくなる場所であったり。仕事の時間だけではなく、暮らす時間もふくめ、このまちに生きることがみずみずしくなるような高島づくりが必要、と感じた。
だけど、何から手をつけたらよいのかわからない。はじめの一歩は右足、それとも左足だろうか?
そこで出会った一般社団法人ぼくみんの代表・今津さんに「西村さん、福祉をひらいていきましょう」と声をかけられる。
これまでの活動を振り返ると「新卒」「採用」「一法人」という枠のなかで動いていることに気づいた。
「新卒採用も、マッチングイベントも、進路相談も、まちづくりも、人事研修も、生活支援も。みんなごちゃまぜにしたい。『福祉』の枠から飛び出して、高島で働くひとや、このまちに生まれ育ったみんなで話し合っていけたら」
仲間とともに、2022年12月に立ち上げた非日常の場が「未来のジャム」。月に一度のペースで集うなか、2023年2月にTAKASHIMA BASEが生まれた。
この場所には、いろいろな人が集う。
学校帰りのおしゃべりや、学校の宿題に取り組む場に。かと思えば、地域の人がカセットコンロ片手に現れ、4kgの唐揚げをつくりはじめる。揚げたては、中高生の胃袋へ。「ぼくもいっすか」と、仕事終わりの社会人がワンコインをカンパし、まぜこぜの会話がはじまっていく。
インタビューの場もそう。「召し上がれ」と唐揚げを届けてくれる人がいたかと思えば、そのまま西村さんの話をいっしょに聞きはじめる。まるで「あなたの困りごとは半分くらいわたしの困りごとでもあって、実はまちの困りごとでもあるんじゃない?」とでも言いたげに。
はじめての状況だったけれど、不思議と落ち着く感じがした。お互いのことを尊重しつつも、それぞれの輪郭がちょっとあいまいになる感じ…伝わるだろうか?
あらためて西村さんに聞いてみる。一体ここはどういう場なんですか?
「ぼくは『ひらかれた対話と創造の場』って呼んでいるんです。誰でも来れて、一人でいても、誰かと過ごしてもいいところ。今は毎週木曜日をオープンデーとして、地域の人にひらいています。よりよい場にしていけたらな」
今回募集する仲間には、この場の運営に携わりながら、仕事をつくっていってほしいという。
なんだか楽しそうではあるけれど、地域のフリースペースのような場で、一体どんなふうに仕事をつくっていくのだろう?収益は上がっていくのかな?
つぎつぎ問いを西村さんへ。
「一つは、ここからまちに仕組みをつくることです」
たとえば福祉法人をはじめ、地域の企業が抱える人材不足への取り組み。子どもから学生、社会人や引きこもりの人や障がいのある人、高齢者までが肩書きを脱いで集まれる地域ケア拠点。
「高島になにかしたい」「だけどなにしたらいいの?」高島に縁のある人がそれぞれに持っていた思いから動き出したこの場は、すでに行政との連携も生まれつつあるという。
中長期的な視点をもつ一方で、より身近な仕事もつくれそう。
「“食”と“本”というテーマをずっとあたためていて。家食文化が豊かな高島で、いろいろな人が飲食店営業をできたらと思い、キッチンを整備しているところです。2025年2月にはブックフェアも控えています」
なるほど、TAKASHIMA BASEをシェアキッチンとして活用し、一日店長として売上げを立てる方法もあるし、学習塾をひらくのもよいかもしれない。
「あらかじめ用意された完成図があるわけじゃなくて。今ここにいる人たちと対話を重ねながら、できごとを生みだしていけたらな。 いつだって真ん中には 『人』がいて、 集まった人の関わり合いからはじまるんです」
この場をともに運営するぼくみんが企画運営を進め、すでに動き出しているプロジェクトもある。
3年目を迎える「未来のジャム」に加えて、今年から「高島デザイン会議」という企画が立ち上がる。また、日本財団の助成を受けた「ふくしデザインゼミLOCAL」という事業もはじまる。
高島の人がゆるやかにつながりつつ、市外からも人がやってきてはここで混じりあう。半分閉じていて、半分ひらいているこの場所が玄関口となって、高島に休学中の学生がしばらく滞在するかもしれない。やがて働き暮らす人だって現れるかもしれない。
「まあそんなに力まないで。あなたがやってみたいことに取り組んでもらえたら。『一人ではなかなか大変』なことも、TAKASHIMA BASEの仲間と動いていくのはどうですか」
そのせなかを支える福祉とは。
TAKASHIMA BASEから歩いて15分ほどの住宅街にグループホーム「Beスマイル 新旭」はある。
9人が暮らす大きな平家。そのまわりを囲む塀はなく、ひらかれた窓からテレビの音まじりに、テンポよく歩き回る職員さんの足音が聞こえてくる。その足音は家のそれのようで、職員さんのひらけている空気が伝わってくる。
なかに入る。立派な梁が見守るリビングでは、高齢者のみなさんがおしぼりをたたんでいたり、職員のみなさんが夕飯の支度でとうもろこしを切っていたり、ますますの家感。
慣れた手つきでiPadに利用者さんの血圧や心拍数を記録しているのは、山本さん。ブライダルの仕事を経て、週1からここで働きはじめた。
職員さんの声かけがやさしい。目の前の人と関わりながら、自分や親の将来を考えるようになった。利用者さんはどんな気持ちで声をかけてくれるのだろう?カウンセラーの勉強もしてみたい。
働きながら感じる「おもしろい」が続いたこともあり、だんだんと福祉の割合を増やし、2年ほどかけて正社員になった。
「ここは利用者さんたちの家でもあります。わたしたちは家族ではないけれど、一番近くにいる存在。『家なんだからせかせかするのをやめようよ。我が家で接しようよ』という感じです」
西村さんが小さくつぶやいた。
「食事介助、生活介助、夜勤のときは見回りもあります。どれも仕事なんですけど、感覚としては家にいるのと変わらないかな。ふだんみなさんが家でしていることをできたら大丈夫」
家でしていること、ですか?
「調理が好きな人はケーキをつくるとか、音楽が好きな人はギター弾くとか。福祉って、その時間をいっしょに生きることだと、ぼくは思います」
コロナ禍にせなかの価値を見直すことがあった。
人と人が思うように会えないなか、オンラインでの仕事が増えていく。デジタルの世界が広がっていく一方で、人とふれあう仕事も必要になるのでは?
「人って、他者や地域と関わるなかで自分に出会っていくんですよね。『あなたって、ここがすてきだね』と他者に言われることで、自分になっていく」
「豊かに、幸せになるために必要なのは、資格や専門性ばかりじゃないと思う。一人ひとりのいいところを発見しあえる場所もあったらいい。それが福祉じゃないかな」
西村さんのキャリアも偶然の連続だった。2005年に、高島でグループホームを経営する会社へ転職。しばらくして、事業が終了することとなった。
目の前の利用者さんや職員さんの日常を続けたくて、2007年にBeスマイルを立ち上げた。
「高齢者介護って、ある意味人生の最期を見ているわけですよ。いろいろな方がいます。不動産をいくつも持っていても家族がいいひんかったり、お金持ちじゃなくても娘さんが毎週来てくれたり。『何がしあわせ?』って日々思います」
「誰かの編集したイメージをメディア越しに眺めるんじゃなくて。目の前にただある現実を、自分自身が受け取れる。そんな手触りがここにはあるのかな」
福祉がせなかを支えてくれるから、おなかは地域を向くことができる。
どんな人がいて、誰と出会うのか。目の前の人と出会い、 話し、 読み、 食べ、 揺れながら、手を動かしながら、TAKASHIMA BASEで未来がはじまろうとしてる。
滋賀高島で、ともに働く仲間を探しています。8/9、22にはTAKASHIMA BASEでイベントがあります。西村さんもいるので、興味をもったら一度訪れてみてください。
そのとき目の前に広がる風景から、自分の生き方が描けるかもしれません。
(2024/7/11 取材 大越はじめ)