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全部ちがうからおもしろい
広葉樹のまちづくりを
わたしたちがする意味

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近年、ウッドショックや円安をきっかけに輸入木材の価格が高騰し、国産材の価値が見直されてきています。

日本の林業で生まれた木材を、日本で使う。当たり前のようで今までできていなかったことが、現実になってきました。

日本に多いのが、スギやヒノキなど、針葉樹の人工林の林業。

一方で、ナラやクヌギなどの広葉樹は種類が多く、長さや太さ、曲がり方などがそれぞれ異なるため、建築などの木材としては利用しづらく、木材チップにされることが多かったそう。

ただ、最近は国産材の需要が高まってきたことにより、広葉樹も木材として利用しようという動きも高まってきました。

岐阜・飛騨古川。

ここでは、豊富な広葉樹を使った林業がおこなわれており、川上である伐採の現場から、木材を実際に使う川下へスムーズに材が行き渡るよう、さまざまな工夫がなされています。

今回は、ここで広葉樹の森林木材産業に関わる人を募集します。とくに関わってもらいたいのが、製材などを担う川中の役割。川上と川下をつなぐ、大切なポジションです。

雇用元になるのは、現在地域おこし協力隊として活動している人が新たに立ち上げる会社「株式会社やまかわ製材舎」。主に製材所での作業や、木材の乾燥などに取り組みます。

富山や高山にも近く、歴史的な建物や伝統的なお祭りもある飛騨古川。豊かな自然に囲まれながら、暮らしの面でも気持ちよく過ごせる環境です。

 

飛騨古川へは、電車だと名古屋から特急でおよそ2時間半。富山からは1時間半ほどで到着する。

駅の近くに市役所や図書館があり、まちの中心機能がぐっと集まっている感じ。すこし歩くと、昔ながらの白壁の建物が建ち並ぶ通りや、水の音が心地いい水路がまちを巡っている。

今回の舞台となる製材所は、駅から車で10分足らずの場所にある。

敷地内にはたくさんの広葉樹の丸太や製材した板が積んであり、建物の奥には製材用の大きな機械が見える。

「最近の木材情勢で、国産広葉樹の価値が見直されてきて。輸入木材が高騰しているなかで、国産の広葉樹を使おうという動きが出てきているんです」

「飛騨市は約94%が森林で、そのうち68%が広葉樹林なんですよ。高山や飛騨は家具づくりが盛んなので、家具用に使われることもあるし、建築の内装に使われることも出てきました」

そう話してくれたのが、飛騨市役所の農林部林業振興課の砂田さん。

飛騨市では昔から広葉樹の林業がおこなわれており、最近では「広葉樹のまちづくり」というコンセプトの事業に取り組んでいる。

具体的には、第三セクターを立ち上げ、家具に不向きな小径材の活用に取り組んだり、ものづくりカフェを運営したり。

さらには、2020年に森林組合や製材事業者、家具製造事業者、行政が加わった「飛騨市広葉樹活用推進コンソーシアム」を設立。

それまで木材チップ用にしていた広葉樹も山からおろしてきて、材木を集めた流通の拠点、中間土場をつくった。

中間土場ができたことで、「原木の見える化」が進み、広葉樹の材木を必要とする人に届きやすくなったという。

材木と、それを必要とする人をうまくマッチングさせる役割を担っているのが、飛騨市の地域おこし協力隊。広葉樹活用コンシェルジュという名前で、川上と川下をマッチングさせている。

「取り組みを進めていくなかで、以前より大量の広葉樹の木材を出すようになったんです。ただ、逆にそれが問題になってしまって」

問題、というと?

「広葉樹がたくさん出ることで、市内に一つしかない広葉樹の製材所がキャパオーバーになってしまったんです」

「ただ最近になって、もともと建築会社が使っていた製材所を使わせてもらえることになって。機械を再稼働させたのが昨年の7月。製材所が復活したというのも、広葉樹のまちづくりの成果のひとつだと思ってます」

この製材所を実際に運営するのが、先ほどの話にも出てきた広葉樹活用コンシェルジュとして活動する地域おこし協力隊の方。4月には会社を立ち上げ、本格的に製材業を始めていく予定だ。

今回はこの広葉樹活用の事業に加わってくれる人を募集したい。

機械の扱い方や知識は、教わることができるので大丈夫。日本の林業に疑問を持っている人や、森林の使い方に興味がある人だと合っていると思う。

 

ひと段落したところで、タイミングよく製材所へ来てくれたのが、西野製材所の代表、西野さん。

飛騨古川で唯一の、広葉樹の製材所を営んでいる方。

機械の使い方や広葉樹の扱い方など、さまざまなことに詳しいので、新しく入る人にとっては先生のような存在になる。

「まあちょっと動かしてるところを見てもらいましょうか」と、挨拶もそこそこに機械を動かす準備をはじめる西野さん。キビキビと動いて、スムーズな手つきで準備する。

丸太を機械にセットして、厚さを設定。設定が終わると、ガー!っという音とともに丸太が乗った台車が動き、巨大な帯鋸へ。

ギュイーンという大きな音を立てながら、丸太がスパッと切れていく。機械の仕組みは単純だけれど、近くで見るとすごく迫力がある。

切られた板はコンベアで運ばれ、後方で待機している人が受け取り、サイズを測る。

作業が一旦終わったところで、あらためて西野さんに話を聞く。

ありがとうございました。とても迫力がありました。

「古い機械だけどまだ動くからね。ちょっと力仕事があるのは大変だけど」

西野さんは、西野製材所の3代目。約40年、主に広葉樹の製材に携わっている。

「製材所も以前は飛騨市内だけで15くらいあった。どんどんなくなってしまったのは、やはり国内の木材の需要が減っていったことが大きいんだと思います」

「広葉樹は大量生産には向いていないけれど、一本一本が太さや曲がり方、節の位置がまったくちがう。それが家具の職人さんとかには重宝される。それでなんとか生き残っていますね」

今後は、西野さんの製材所だけでは扱いきれない広葉樹を、復活させた製材所で処理していきたい。

木材の売り先は増えつつある。家具のほか、北陸では漆器にも使われている。加えて愛知や岐阜はものづくりが盛んなエリアでもある。

西野さんは、どんな人に来てもらいたいですか。

「普通の人でいいんじゃない? あとは、んー…。机上の計算ではうまくいかないものなんですよ。1+1=2じゃない。相手が自然だし、広葉樹は樹種がおなじだとしても、おなじ形や節のものは一つもないから」

「おなじものがないということを楽しめる人がいいですね。この木なんやろなって興味を持つだけでもおもしろいですよ」

 

西野さんの話を、となりで頷きながら聞いていたのが、地域おこし協力隊の及川さん。

広葉樹活用コンシェルジュを担当しており、新しく来る人は、及川さんが立ち上げる会社に所属することになる。

協力隊の前は、別の地域で林業の仕事に携わっていた及川さん。スギやヒノキなどの針葉樹を扱う大規模な製材工場で働いていた。

「スギが9割、ヒノキが1、2割くらいの製材工場で。新工場の立ち上げにも関わって、そこでは生産管理を担当していました。5年ほど働いて、飛騨に来たのが2020年になります」

飛騨に移住したきっかけは、大学時代から民俗学に興味があったことから。森林と人との関係性や、それぞれの民族が営む文化に関心があった。

「ぜんぶおなじよりは、個別最適のほうがおもしろいなと。効率的だけど硬直化している針葉樹の産業にいるよりは、広葉樹のほうがやりがいがあるんじゃないかと思ったんですよね」

「広葉樹の産業は特定の地域でしか発展していなくて、まだまだ新しい規格や流通をつくる余地がある。飛騨だったら、自分がそこに関われるなと思いました」

飛騨の土地風土だからこそ、広葉樹の林業を生業とする人たちがいて、脈々とその技術や知識が受け継がれている。

飛騨に来て、製材所まで運営できるようになったのは、本当に偶然だった、と及川さん。

「広葉樹の価値が上がってきたことも、たまたま使われなくなった製材所を貸してもらえることも、そしてぼくがここに来たことも。偶然なんだけど、必然性があるような気がしていて」

「広葉樹の取り組みが、少しずつでも前進していることが、喜びでありモチベーションでもあるんです。いろんな幸運をちょっとずつ積み重ねながら、気持ちよく仕事ができている。それが一番だなと思ってます」

おおまかな仕事内容としては、まずは及川さんと共に西野さんから製材の機械の使い方を教えてもらうところから。

その後は、木材の乾燥にも取り組んでいきたい、と及川さん。

木材は基本、伐採後に乾燥という工程をはさまないと、材として使うことができない。広葉樹の場合は自然乾燥で1年ほどの時間が必要だった。

それを短縮するために考えられたのが、広葉樹用の人工乾燥機。1ヶ月ほどで乾燥させることができる。

「広葉樹用の乾燥機の試験研究を今おこなっていて、実運用に向けてテスト中なんです。それが順調にまわるようになったら、乾燥機を増やしていきたいと思っています」

「仕組みとしては、薪を燃やして温水であたためる方式です。今は定期的に様子を見ているくらいですが、乾燥機が増えたらその管理の仕事が出てくると思います」

一般的に、針葉樹用の乾燥機は広葉樹には高温すぎるため、割れてしまったりすることがあるそう。そのため、広葉樹に合わせた温度と湿度管理ができる乾燥機と乾燥技術が必要になる。

また、木を伐採している川上の職人さんや、広葉樹を必要としている川下の家具職人さんなど、広葉樹に関わる多くの人と出会う仕事。あいだをつないでいくなかで、広葉樹を活用する新しいアイデアや仕事が生まれるかもしれない。

「飛騨は住み心地もめちゃくちゃいいですよ。田舎なんですけど、生活機能全般は揃っているので、不便はなくて。ぼくの家は歩いて5分のところにスーパーがあるし、郵便局は10分。市役所と図書館も近い」

「富山まで1時間で出れるので、大きい買い物も心配はないですね。あとはお祭り。年3回あるんですが、地元の人の熱量がすごいです」

及川さんは、どんな人に来てもらいたいですか。

「ぼくはじっくり計画を立てるというよりも、走りながら考えるタイプなので(笑)。計画的だったり、走って落としているものを拾ってくれたりする、自分とちがうタイプの人が来てくれたらいいなと思いますね」

「広葉樹は一本一本の特徴がまったく異なるので、すべての作業を機械化できない素材だと思っていて。だからこそ人がやる意味がある。あたらしいことにチャレンジできる機会なので、一緒に走ってくれる人が来てくれたらうれしいなと思います」

 

日本の林業のなかでも、まだまだ伸び代がある広葉樹の林業。

飛騨で動き出したこの事業で、今後の木材事情がさらに変わっていくかもしれません。

その一助となり、ともに走りたいという人は、ぜひ及川さんたちと会ってみてほしいです。この場所、この人となら、なにかができる。

そう感じさせられる力がある場所だと思いました。

(2024/2/14 取材 稲本琢仙)

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