求人 NEW

年に一度の
出会いを重ねる
文化を継ぐ人たち

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

遠い昔、お伊勢参りが一生に一度の大イベントだった時代。

お伊勢参りに行けない人のために、諸国を行脚し、伊勢神宮のお札を配りながら、神楽や芸を披露していた人たちがいます。

それが、大神楽師と呼ばれる人々。

三重から出発し、主に西日本を1年かけて旅してまわっている神職の人たちです。

伊勢大神楽 大神楽師という文化を後世に残していくため。新しい組織の形を考え、実行しているのが、山本勘太夫社中(やまもとかんだゆうしゃちゅう)。

江戸時代から続く歴史ある家元で、国の重要無形民俗文化財にも指定されています。2022年には、大神楽師の後継者育成・文化財保護を助力する団体として「一般社団法人 伊勢大神楽講社」を立ち上げました。

今回は、大神楽師として一般社団法人伊勢大神楽講社の一員になる人を募集します。

現在所属している大神楽師は12名。経験は問いません。

必要なのは、歴史ある文化を残していきたいという気持ち。そして、檀家さんや仲間とのつながりを大切にできる心だと思います。

 

伊勢大神楽の人たちは、1年をかけて三重から滋賀、大阪、兵庫、岡山、鳥取、京都、福井と、西日本を中心にさまざまな地域を巡っている。

取材に伺った1月は、滋賀の大津市の近くを巡っているとき。朝の7時ごろ、指定された場所に向かうと、笛と太鼓の音が聞こえてきた。音のなるほうへ行ってみる。

ちょうど獅子舞が舞っている最中だ。

以前取材したときは、岡山の山間部を巡っていた。

自然が多い風景を獅子舞が歩く姿は似合っていたけれど、建物が並ぶ住宅街に獅子がいるのは、なんだか不思議な感じ。

このまま、午前中の檀家まわりに同行させてもらう。

まわる家と順路は予め決まっていて、毎年同じ日に同じ地域を訪れる。

「伊勢の大神楽です!」と玄関先で挨拶をして、家の中に入り、祝詞を唱えてお祓い。その後は家の前で獅子が神楽を舞う。

今回伺った山本勘太夫社中は、一般社団法人伊勢大神楽講社の主になっている社中。獅子に1人、笛が1人、太鼓が1人と、だいたい3人ほどが一組になって、手分けして家を訪問していく。

神楽の舞が終わると、伊勢神宮のお札を渡して、獅子が檀家さんのあたまをがぶりと噛む。こうすることで、1年間、無病息災でいられると言われている。

朝の7時過ぎから始めて、お昼には100件ほどをまわり終えた。通常は午前午後あわせて200件ほどまわることが多いという。

檀家さんによっては、お金を渡してくれる人や、お米などの食べ物をくれる人、あったかい缶コーヒーを配ってくれる人など、さまざま。

どの人も毎年来る神楽を楽しみにしているようで、とくに年配の方とは「今年もよろしくお願いします」「来年もまた元気にね」と語り合っているのが印象的だった。

一方で、家が空き家になっていたり、去年までいたおばあちゃんが亡くなっていたりと、変化もある。檀家数自体も、昔と比べると減ってきているのが現実だ。

午前中で檀家まわりを終えると、持ってきたお弁当でお昼を済ませ、近くの建部大社へ。

この日は節分。節分の日には、毎年この神社で大神楽師が芸を披露する総舞(そうまい)が開かれる。

今年はちょうど土曜日だったのもあって、子ども連れの家族もたくさん。人で溢れている。

ステージは、筵(むしろ)の上。幕は自分たちで手際よく立てていく。

準備がひと段落して、総舞が始まるまでの時間に、親方の山本勘太夫さんに話を聞く。

「午前中はありがとうございました。2月3日の節分の日は、毎年この神社で総舞を披露すると決まっているんですよ」

三重出身の親方。代々、大神楽師としての伝統を受け継いできた。

2年前に取材したときから、メンバーが増えていますね。

「そうなんです。前の記事のおかげで、2人増えました。入って1年ちょっとくらいですが、骨があるいい子たちですよ」

新しい顔が入ったことで、雰囲気もより明るくなったような気がする。いいご縁につながったようでよかったです。

「若い子が増えたのと、組織の形を整えたのがここ数年での変化ですね」

「以前は個人事業主の集まりだったんですが、最近、非営利型の一般社団法人を立ち上げて。法人にしたことで、所属する従業員も会社員と同じような待遇を受けることができるようになりました」

人口が減っている今、優秀な人を確保するのはむずかしくなりつつある。

そのなかで、どうしたら神楽の世界に入ってくれる人が増えるか。伝統芸能の面白さを伝えるだけでなく、労働環境も整えたいと思い、法人化に踏み切った。

時代の変化に負けず、変わらずに在る。一方で、変わらないだけでは文化を残していくことができない。

「ちゃんと将来のことを考えている人ほど、ある程度で見切りをつけちゃうんですよね。でも、大神楽の世界ってそれだけじゃなくて」

それだけじゃない?

「どっかで頭を空っぽにして修行することで、芸や作法を突き詰めて、人が手を合わせてくれる存在になることができる。それを目指せるかどうかが大事で」

「極端に言うと、普通の自分をなくしていく作業、ですよね。普通の社会に帰ろうとする冷静な自分を、一度捨てることが大切なんです」

単純に舞や芸を覚えるだけで、大神楽師になれるわけではない。

神楽の世界に向き合い、没頭して、その世界に浸る。そうした姿勢や考え方を突き詰めることで、次第に大神楽師としての雰囲気を纏っていく。

「この世界に身体を委ねて、檀家さんを見て、ともに生活する先輩方を見る。そのなかで学び、技を盗む。今まで生きてきた自分を一回ないことにして、まずすべてを受け入れる。そうすることで新しい人間に入れ替わる」

「その作業って、普通の人生のなかで経験することがないんです。なので人生を変えてみようって思う人がいいですね。それが幸せだったら続くだろうし、合わなければ社会に戻るのもひとつだし。一度身を委ねてみてほしいなって思います」

すると不意に、親方が近くに見える家を指差しながら話してくれた。

「昔、学生時代にあの辺りの家をまわったときがあって。80歳くらいのおばあさんが、大学生の僕に手を合わせてくれたんです」

「そのときに、未熟なままではだめだって心から感じました。本気で神楽に取り組まないといけないなって。飛び込んできてもらえたら、得るものは必ずあると思います」

 

話がひと段落したところで、総舞の時間が近づいてきた。

まだ開演まで時間があるのに、神社を訪れた人たちが続々と集まってきている。今年は偶然にも節分が土曜日だったので、人が多い。おじいさんおばあさんから子どもたちまで、たのしみに待っている。

伊勢大神楽では、八舞八曲の十六演目が伝承されている。

8つの獅子神楽と、8つの芸。「道化師」という役の人が観客を笑わせながら、漫才のような掛け合いも挟んで進行していく。

1年分のお祓いをする神来舞(しぐるま)や、3本の棒をお手玉のように器用に放り投げる綾取の曲。数本の剣を手玉に取り、上下四方八方の邪気を払う剣三番叟(つるぎさんばそう)など。演目も目が離せない。

2年前は親方が演じていた演目も、若い人が担当するように。練習を重ねて、この舞台に立っているんだろうな。

子どもからお年寄りまで。笑顔で拍手をしながらたのしんでいる。

演目のトリを飾るのが、魁曲(らんぎょく)。振袖姿の花魁に扮した獅子が、伊勢音頭にあわせて花魁道中を披露する。

およそ90分の総舞が終わったら、挨拶をして撤収作業。

その間にも、獅子舞に頭をかんでもらいたいという人の列が。人がいなくなるまで、丁寧に対応しているのが印象的だった。

 

落ち着いたところで、1年半前に入門した山本笙(しょう)さんに話を聞く。

「だんだんと慣れてきましたね。ただ、どの役をすべきかすぐ判断するとか、道順を覚えるとか。もっと自分の頭で考えて、先輩についていかないといけないなと思ってます」

日本仕事百貨の記事もきっかけとなり、加わった笙さん。以前は靴のメーカーで働いていた。

「普通に大学を出て就職して。2年半くらい小売の仕事をしていました。神楽には個人的に興味があって」

興味というと?

「なんていうか… たとえば学校でいうと、主要5科目よりは書道とか音楽の成績がいい、みたいな。伝統的なものや文化的なものに興味があったんですよね」

「それで転職するときにいろいろ探してたら、日本仕事百貨の記事に行き着いたんです」

地元のお祭りでも獅子舞や太鼓があり、親しみがあったという笙さん。

「最初にいいなと思ったのが、天狗の猿田彦が出てくる、『扇の舞』っていう演目で。天狗かっこいい!って(笑)。多分今しかできないことだし、できたらすごく楽しいだろうなって思いました。」

記事や動画で調べた上で入ることを決めたので、実際に入ってからギャップを感じることは少なかった。

ただ、滋賀では所有している一軒家、岡山では旅館から借りている家など、行く先々でメンバーとの共同生活になるため、その点は慣れるまで時間が必要だったという。

檀家まわりでは、まずは取り組みやすい太鼓から。そこから獅子舞の尻尾の動きを覚えたり、笛や舞を覚えたり。毎日練習と実践を繰り返していくことで、一通りの役割ができるようになっていく。

今日1日まわらせてもらい、あらためて感じるのは、体力と精神力を使う仕事だということ。

ほぼ1日中歩きまわるのに加えて、総舞があると、人前で芸を披露する機会も重なる。これがほぼ毎日続いていくのだから、簡単なことではない。

それでも、続けていける原動力はなんなのだろう。

「もちろん、芸を覚えてそれを披露する機会があることはモチベーションになっています。獅子舞も、動きが一通りできたらいいわけじゃない。突き詰めていったら、動き方とか足の運び方とか。まだまだなところがある」

「もっともっと根詰めていくことで、この人の舞はすごいって思ってもらえるようになると思うんです。そこに到達したいし、この世界に入った以上、やるしかないので。新しい人も、自分の目標を見つけて進んでいくのがいいと思います」

そしてもう一つ、これは人によりますが… と話してくれたのが、文化保全のことについて。

「ぼくみたいな普通の人が、芸を覚えて、神楽師になる。それ自体が文化保全になっているのは、大きなやりがいでもありますね」

毎年檀家さんをまわって、お祓いをして、芸を披露する。それをたのしみにしている人がたくさんいる。

長い年月をかけてつくり上げられてきた人と人のつながりは、簡単になくしていいものではない。檀家さんのためにも続けていかなければいけない、という想いが、1年まわりきった笙さんのなかにも生まれている。

「この仕事で一番大事なのは、人と人のつながりなので。それを大切にできる人がいいですね。技術を残すだけじゃなく、檀家さんとのつながりや、集団生活をする仲間同士のつながり。そういった人との関わりを大事にできる人だといいなって思います」

 

伊勢大神楽の人たちは、この文章を書いている今も、どこかで神楽を舞い、檀家さんと話しています。

年に一回の出会いを、尊いものにする。そして脈々と受け継がれてきた伝統文化のなかに自分を浸す。

少しでも興味がある人は、まず見に行って、親方と話してみてほしいです。これまで知らなかった世界だとしても、そこに自分らしい生き方が眠っているかもしれません。

(2024/2/3 取材 稲本琢仙)

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