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都会の会社でバリバリと働く時間。地方で自然に囲まれながら働く時間。
1日の時間は誰しも平等だけれど、時間の流れや仕事とプライベートのバランスは、住む環境によって異なるように思います。
だからこそ、いま地方への移住を決断する人もいる。今回は、そのきっかけになる仕事と暮らしを実践している人たちを紹介します。
長野・蓼科(たてしな)。
八ヶ岳の麓で、蓼科山や白樺湖など、豊かな自然に囲まれた場所です。別荘も多く、キャンプ場なども豊富にあります。
募集するのは、蓼科湖の目の前にあるキャンプ場兼宿泊施設「タイニーガーデン蓼科」の宿泊運営スタッフとキッチンスタッフ。どちらも経験は問いません。
地方で働くための主体性。そして長野の自然のなかで、自分のたのしみを見つける力が必要な仕事だと思います。
新宿から特急あずさに乗って約2時間。茅野(ちの)駅に到着する。
タイニーガーデンがある蓼科湖畔までは、駅から車で30分ほど。遠くに八ヶ岳が見える風景のなかを、ゆっくりと登っていく。
蓼科湖が左に見えてきて、タイニーガーデンに到着。
中は木のあたたかみを感じる空間。タイニーガーデン限定のグッズなども販売している。
「本館ロッジにはカフェレストランと客室7室、温泉があります。あとはテントサイトとキャビン、そして企業研修用のワークステーションと、アウトドアブランド『EKAL』のショップも近くにあります」
そう話してくれたのが、タイニーガーデン支配人の粟野さん。5年前の立ち上げからタイニーガーデンに関わっている方。
もともとは東京の表参道にあるアーバンリサーチのお店で働いていたそう。
都会の真ん中で仕事をするよりも、田舎で泥臭くシンプルな生活をしてみたい思いから退職。三重で少し働いたあと、長野へ移住した。
「最初は茅野市の地域おこし協力隊になって活動していたんですけど、1年くらい経ったとき、アーバンリサーチのときの上司に呼ばれて、このすぐ隣にあったキャンプ場に来たんです」
「それで今のタイニーガーデンがあるところを指さして、『あそこでキャンプの事業を始めるから、立ち上げに入ってくれないか』って。いやで会社を辞めたわけではなかったし、アパレルショップじゃないアーバンリサーチというのも面白そうだなと。それで『わかりました』って、立ち上げの準備をして、2019年の9月にオープンしました」
どうしてアパレル会社のアーバンリサーチがキャンプ事業を始めたのか。
きっかけは、2011年に「URBAN RESEARCH DOORS」というブランドの10周年イベント「タイニーガーデンフェスティバル」を、群馬の嬬恋にあるキャンプ場を貸し切って開催したこと。
「小さい庭で、売り手と買い手、そしてメーカーの三者が、お互いの垣根を越えて自然のなかでゆっくり楽しむ」というコンセプトで、音楽アーティストを呼んだり、メーカーや飲食店、地元の生産者に出店してもらったり。タイニーガーデン蓼科のオープン後は、会場を蓼科に移し、いまでも毎年行われるイベントになった。
「続けていくうちに、リピーターの方も増えてきて。年に一回じゃなく、通年でお客さんをお迎えできる場所をつくろうっていう話が出て、タイニーガーデン蓼科が生まれたんです」
今年で立ち上げから5年目。粟野さんは責任者として、ソフト面の構築に奔走してきた。
タイニーガーデン蓼科のコンセプトは「日常と非日常を行き来する」。
カフェやショップでは都会と変わらないサービスを意識しながら、一歩外に出ると圧倒的な非日常が広がっている。
ロッジから蓼科湖や蓼科山を眺めることもできるし、芝生の上にテントを張って過ごしてもいい。キャビンで自然の音を感じながら泊まることもできる。
お客さんごとに適度な距離感で自然を感じられる。それがタイニーガーデンの大きな魅力になっている。
「春は桜、夏はキャンプをして、秋はホテルに泊まって紅葉と温泉を。冬はスキーをしに、とか。キャンプとキャビンとホテル、3タイプあるので、たのしみ方の多様性を受け入れられるっていうのが、ぼくらの施設の特徴だと思っています」
蓼科という地理を活かし、八ヶ岳の玄関口、ひいては自然の玄関口として。まずはタイニーガーデンに訪れてもらい、その先にある自然や地域の魅力を伝えていく。
単純なキャンプ場に収まらない場づくりをしていきたい、と粟野さん。
「ここは湖もあるし、ロープウェイも近い。山登りでもハイキングコースからがっつり登るところまで、いろんなコースがあるのが特徴で」
「その自然の間口の広さみたいなのは、ぼくらと似ている気がしていて。キャンプ場というよりは、『滞在型の自然体験施設』というふうに自分たちを位置付けられたらいいなと思っています」
5年目を迎えたところ。粟野さんは、これからのタイニーガーデンをどんな人と一緒につくっていきたいですか。
「一番は、この土地や自然が好きな人。ぼくらは自然のなかでのライフスタイルを実践しながら、そこで得たものをお客さまに提案することを大切にしていて。自然と共にある暮らしをまずは実践してほしい」
「このあと話す鈴木も、アウトドアが大好きなわけじゃないけれど、地域の魅力を発信していくことに興味を持っていて。地域の案内人になることは、みんなに求めていきたいなと思っています」
施設としてはキャンプ場の樹木管理で伐採した木々の利活用やコンポストなど、自然の循環も意識していきたいと考えている。そういった取り組みにも興味があると、よりやりがいをもって働けるはず。
「移住して地域のいろんな人たちと交流を図りたいっていう人にはすごくおすすめな環境だと思います。この辺りは移住者も多いので、移住してひとりぼっちで寂しい感じにはなりにくいんじゃないかな」
移住してくるからこそ、地域の良さにも気づきやすい。
フロントスタッフの鈴木さんは、1年前に入社し、東京から移住してきた。
こちらも明るくなるような笑顔で話してくれる方だ。
「普段はフロントでチェックインなどを担当しながら、SNS発信とかの広報もしています。入社して1年、移住しても1年。ダブル一年記念ですね(笑)」
以前はさまざまな地域の活性化に取り組む、コンサルティングの仕事をしていた鈴木さん。
仕事自体はたのしかったけれど、いろいろな地域を訪れるなかで心境の変化があったという。
「地域ではあくまでサポート側で。その経験を積むうちに、自分に合った地域で、自分自身が当事者として関わりたいと思ったんです。その一つが長野で、ここで暮らしてみたいって思ったんですよね」
「登山とかのアウトドアもやってみたくて。ここなら仕事もプライベートも充実させることができそうだなと思いました」
移住したいという思いが一番にあり、そのあとで自分に合う仕事を探したという鈴木さん。蓼科は、出身の関東とアクセスが良いのも後押しになった。
「冬の厳しさが自分のなかでは1年間のトピックでは上位で。雪も近隣に比べたら少ないほうですけど、自分は本当に苦労しました。寒さのレベルが違い過ぎて。景色は綺麗なんですけどね」
フロントスタッフの仕事は多岐にわたる。チェックイン・チェックアウトの対応や施設内外の清掃、レストランでのサービスなどに加え、イベントを企画・実施することも。
シフト制で、たとえば早番だと、6時45分から16時までが勤務時間になる。
フロントでは、お客さんと関わる機会も多いし、日によってタスクも違うので、臨機応変に動くことが求められる。
「お客さんと話すことが多いので、どこから来たとか、あそこの山に登りにいくとか。できるだけいろんな話をすることを心がけています。おすすめの場所を話すこともよくあって」
「ここがいいですよって話した場所を実際に訪れてくれて、自然っていいなって感じてもらう。そういうきっかけを与え得る仕事ができるのは、わたしにとっては大きなやりがいですね」
最後に話を聞いたのは、キッチンスタッフの山田さん。朝昼夜と、すべての調理に携わっている。
「わたし、ここの人たちの誰よりもアーバンリサーチ歴が長いんですよ。8年目になるのかな。もともとは大阪の本社で働いていて、3年前にこっちに移住しました」
「異動は自分の希望ですね。タイニーガーデンができたときから興味があって。いろいろ考えて、やっぱり長野に行きたいなと、面談のときに話をして決まったっていう感じです」
バリバリのアウトドア派だという山田さん。異動前も、週末はほとんど大阪におらず、夏は山登り、冬はスノボに出かける生活だった。
「自分で畑をしたり、友達の農園を手伝ったり。長野に来て知り合った友達からのつながりも多いです。この秋で3年になりますけど、人生が変わりましたね」
「休みには山登りによく行きます。鈴木さんとは逆で、わたしは冬も平気なんですよね。-15度とかになるんですけど、まあ寒いのはしゃーないじゃないですか(笑)。わたしは順応するのが早いので参考にならないと思うんですけど」
いまはキッチンを担当している山田さん。当初は家庭料理レベルだったけれど、以前働いていた人が残してくれたレシピがあるので、それをもとにつくっているそう。
「レシピを参考に、季節によって旬のものや、夏は高原野菜を使って料理しています。メイン料理は信州産のサーモンと福味鶏のグリル焼きで、どちらかを選んでもらうかたちですね」
「基本無添加で、出汁も野菜の端材を煮込んでいます。いろんな野菜のエキスが抽出されてすごく旨みがあるんですよ。そのおかげかご飯はお客さまにとても好評で。『この野菜はなんですか?』って聞いてくださるのもうれしいし、『おいしかった』って感想をくれる方が多いのはやりがいになりますね」
シフトは早番か遅番の2パターン。8時間勤務のなかで、アルバイトスタッフにも入ってもらいながらまわしている。山田さんは11時からの遅番に入ることが多いそう。
「だいたい20時くらいまで働いて、温泉に入って帰る。福利厚生なんで、そこは大事です(笑)」
キッチンスタッフとして働く人は、まず基本的なレシピを覚えて調理するところから。一通りできるようになれば、自分で考案した料理を出せるチャンスもある。
「毎日のなかでたのしみを見つけられる人だといいと思います。都会みたいになんでもあるわけではないので。山登りも好きだし、釣りとか畑も好き、みたいな。いくつか自分のたのしみを持てる人だと、暮らしも充実しますよ」
「わたしはそれがすごくうまくできたんですよね。野菜をつくるとか、集落の人たちと関わるとか、そこから広がって陶芸をするとか。そうやって開拓していけたらいいんじゃないかな」
今回話を聞いた3人、それぞれが自分の意思で移住し、ここでの暮らしを開拓してたのしんでいるのが印象的でした。
まずは蓼科を訪れて、この場所の空気や人にふれて。
肌に合うと感じたら、ここがあなたの居場所になるかもしれません。
(2024/6/28 取材 稲本琢仙)