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北海道・上士幌町(かみしほろちょう)。
大空と平野がどこまでも広がるまちです。
農業が非常にさかんで、食糧自給率はなんと3000%。ふるさと納税でも15年以上にわたって高い人気を集めています。
町では「ヒト・モノMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)」と名づけ、2017年から自動運転バスやドローン配送などデジタル技術を活用し、持続可能なモビリティサービスやまちづくりに取り組んでいます。町内の事業者や首都圏のIT企業と連携し、数多くの実証実験をおこなってきました。
MaaSプロジェクトを取りまとめる梶さんはこう話します。
「上士幌は、実証実験やあたらしい技術の導入で満足するフェーズではなくて。住民サービスに落とし込んで、町に根付かせる段階に来ているんです」
今回は、プロジェクト推進を担う地域おこし協力隊を募集します。
羽田から1時間半。とかち帯広空港で飛行機をおりて、車で上士幌へ向かう。
どこまでも広がる畑、遠くに見える山脈。
青空の下、まっすぐ伸びる道を進むのは気持ちがいい。
およそ1時間で、上士幌の中心地に着いた。
道の駅に寄ると、地元産の牛乳やパン、野菜、牛肉などおいしそうな食べものがたくさん並んでいる。
すぐ近所には、無印良品の家が設計に携わった宿泊施設「にっぽうの家」や、昔ながらの商店。家々と施設がコンパクトにまとまっていて暮らしやすそう。
住宅街を通って待ち合わせ場所のシェアオフィスに向かうと、建物の前のバス停には…。
自動運転バスのりば?
バスマップを見ると、どうやら町の中心地を走っているみたい。
「今はまだドライバーが乗っているんですが、いよいよ秋には完全無人で運行する予定です。町唯一の交通事業者であるタクシー会社さんが遠隔オペレーターをして、将来的には一人で複数台動かせるようにしたいと思っています」
教えてくれたのは、役場のデジタル推進課長、梶さん。
人や車が行きかう市街地を、完全無人で走る自動運転バスは、国内ではほぼ事例がないそう。
「新しいことをやっているとよく言っていただくんですが、それ自体は目的ではなくて。我々の町は課題がすごく明確で、解決のために最新技術もフル活用しようという順番なんです」
画面に表示されたのは、上士幌町の地図。
面積は、東京23区よりも広い700平方キロメートルだそう。
「上士幌には5千人が住んでいて、そのうち8割の人口が市街地に集中しています。その周りに農村地域が広がっていて、1軒1軒、広大な敷地をもつ農家さんたち900人が暮らしています」
「そして山間部にある温泉街のぬかびら地区に100人。三股(みつまた)に2世帯が暮らしています。これらのエリアは、市街地から23km先、50km先にあるんです」
そんなに遠いんだ。車で30分、1時間はかかるし、冬は雪で危険が増えますね。
「はい。市街地の4千人をのぞいた1千人は、ほぼ “ポツンと一軒家” です。今はバスや物流サービスもありますが、企業さんは完全に赤字。このままではどうしたって、料金の大幅アップや、サービスの縮小、廃止は避けられない」
「けれど、どんなに遠くても、人が少なくても、我々はバスを走らせることや荷物を届けることを諦めるわけにはいかないんです。我々のような町こそ、技術や今あるリソースを使い倒して解決策をつくっていかないといけないと強く思っています」
上士幌町は、2017年から本格的にモビリティ分野での施策を重ねている。
社会実装されているサービスのひとつが、ドローンを活用した空陸ハイブリッド輸送。
町全体の荷物2000個を分析したところ、荷物の8割が市街地の半径1.5km圏内に集中していたそう。
「農村部への荷物は全体のおよそ2割にとどまりました。一方で、1つの荷物のためにトラックが5km、10km走るような状況に、ドライバーの配送時間の8割が充てられていることがわかって」
「市街地は今までどおり軽バンで効率的に運べばいい。非効率になりがちな農村部への配送をドローンに任せることで、トラック配送を効率化できるよね、ということで実証実験をはじめたんです」
実証実験と課題の洗い出し、改善や国へのフィードバックを繰り返すこと2年。昨年12月、本格的にサービスがスタートした。
現在ドローン配送の飛行ルートは50ルートが開通していて、将来的には100ルートを目指しているそう。
「農村部への新聞や小型荷物をドローンで運んでいます。十勝の新聞は夕刊なんですが、今まで農村部は人手不足などから翌朝に配送されていたんです。即日配送がむずかしいので、町内スーパーの折り込みチラシなどもほぼ入っていませんでした」
「それがドローンでその日のうちに届けられるようになり、折り込みチラシも入るようになって。お年寄りも『お悔やみ欄はすぐに読みたいから助かる』と喜んでくれています」
2023年12月にはドローンのレベル3.5飛行が解禁され、リモートパイロットが遠隔地からドローンを操作できるようになり、オペレーション体制も大きく変わった。
同じく町内で運行している自動運転バスも、タクシーやバスの運転に必要な二種運転免許は不要で、遠隔監視で運行が管理できるそう。
将来的には、町に住んでいなくても、一人で数台のドローンやバスを動かしていきたい。そうなれば、配送員や乗務員不足を解決する光になるかもしれない。
「市街地の4千人をふくめた全員に、『窓をあけたらドローンで荷物が届きます』なんてことをやりたいわけじゃないですし、今後もやりません。今あるサービスが適切であれば無理な置き換えはしなくてもいいんです」
「我々がやりたいのは、今後そこなわれてしまうかもしれない移動や物流を、今あるリソースを効率的に使いたおして、持続可能にすること。コストを下げても、決して安全性や満足度は下げないことです」
今回は、モビリティ分野でのプロジェクト推進を担う人を募集したい。
首都圏のIT企業やコンサルタント、町内の交通事業者など、連携企業と実験や施策の内容を詰めることもあるし、町民に施策を説明したり、実験への協力をお願いしたりすることもある。
数多くの実証実験を重ねてきた上士幌がめざすのは、「机上の空論ではなく、住民サービスに落とし込むこと」と、梶さんはいう。
「おもしろいですよ。町のおじいちゃんおばあちゃんから『もっと使いやすくならないの?』と率直な反応ももらいます。人手やコスト削減のために最新技術の導入は必須ですが、やみくもに新しいことをやるんじゃなくて。何をするにしても、このサービスで生まれるメリットは何だろうってシビアに考えています」
「デジタル技術に詳しい必要はまったくないと思っています。僕もそうです(笑)。それよりも、今後日本全体、とくに地方が必ず向き合う社会課題の解決を、持続可能なサービスを使ってなし遂げるんだ、というビジョンに共感してくれることを重視したいですね」
企業でも都市部でもない、地方の行政で取り組む “ヒト・モノMaaS” 。
幸いなことに、町の交通事業者との協力関係もつくれている。それに5千人という町の人口は、しっかり制度設計すれば黒字化できる規模だと連携企業からも興味を持たれているそう。
任期は3年間。まずは実装を目指しているサービスのコストを、現状よりも下げていいきたい。
実験ではなく、実装。ハードルは高いほどおもしろい仕事だと思う。
続いて話を聞いたのは、3月まで地域おこし協力隊として、プロジェクト推進を担当していた外山(とやま)さん。
札幌近郊で生活していた外山さんは、就労支援の仕事をしていた。採用サイトで上士幌町からスカウトメールをもらうまで、十勝地方を訪れたことや、デジタル関連の仕事に興味を持ったことはなかったそう。
「技術に詳しい人がほしいんじゃなくて、おじいちゃんおばあちゃんに使い方を教えたり、声や感想をひろったりできる人を探していると聞いて。それならできるかなと思って、オンライン面談をお願いしました」
「上士幌の人たちはこのシェアオフィスから参加していたんですが、窓から見える景色がすごくきれいだったんです。興味をもって来てみたら、やっぱり景色はすごいし、町の雰囲気も斬新だし、きれいなアパートも用意してもらっていて。ここならいいかもって思いました」
着任後は、町のコミュニティバスのデマンド化を中心に担当する。
町では、町内の交通事業者に委託して、農村部と市街地をむすぶ定時運行の無料福祉バスを運行していた。
ただ、外山さんが来たときには利用者が少なく、空の状態で走ることも多かったそう。
町は対応策として、予約があった時にだけ運行する事前予約制のオンデマンド運行へと切り替えることに。また、予約を受け付けるための人員負担を軽減するため、タブレットを活用したオンライン予約の仕組みづくりにもチャレンジした。
「80代後半とか、90代のおじいちゃんおばあちゃんにタブレットを貸与して、簡単な画面操作で予約できるようにして。その説明を私が担当したんですが、分かりやすいように紙に使い方を印刷していったんです」
そこで「すごく衝撃だった」というできごとがあった。
「タブレットを持ってもらって、『じゃあ紙を見ながらここをピッて押してください』と言ったら、紙を指で押していたんです。そもそもタブレットなんて馴染みがなくて、こわくて押せない。ああ、デジタル化といってもわたしが想像する以上にハードルが高いんだ、そこからのスタートなんだって」
「予約画面もかなりシンプルなものしたつもりだったんですけど、まだまだわかりにくいと感じて。途中から、みなさんのお宅やサークル活動に訪問させてもらって、お茶とお菓子をいただきながら『こうやってみてください』とお伝えしていきました」
外山さんの地道な広報活動や、画面操作の継続的な改善の成果で、ぽつぽつと乗車予約は増えていく。
並行して、「誰が、いつ、どこから乗ったか」といったデータを蓄積して、定期的にバスルートを変更、最適化していった。
「今は定時運行をやめて、30分前までに予約があれば走る運用にしていて。自分が行きたいときに行けるから利用回数は上がったんですけど、運行距離数は減ったので、そのぶん財源カットができています」
MaaSプロジェクトというと華やかに見えるけれど、実際は企業と役場、町の人の調整など、地道な作業のほうがずっと多い。
実証実験をやってみて、「実装しないほうがいい」と決断することもあるし、町の人から目からうろこのアイデアをもらうこともある。
「何でもかんでもデジタルで解決する必要はなくて。結局サービスになるかならないかって、町民の方がほしいと思うか思わないかだと思います」
「ここは90歳でも現役で運転するような車社会です。それでも住民の方が、バスやドローンのほうが便利だな、安全でいいなと思えるようになったらすごくいいですよね」
任期満了を目前に、今後の進路を考えたという外山さん。悩んだすえに、「自分のやってきたことが住民サービスとして形になるまでは」と、町に残る決断をした。今は民間企業に籍を移し、町内の移動や物流データなどを蓄積するOSの開発チームで働いている。
「町の人の当たり前になるまではまだまだやるべきことがあります。考えてやってみて、町の方に感想を聞いて、改善して。その繰り返しですね」
人手不足に、2024年物流問題。どこの町も向き合うことになる課題に対して、この町は柔軟な姿勢と広い視野、ねばり強さで取り組んできました。
10月には、MaaS事業を詳しく知ることができる町内ワーケーションプログラムも開催されます。
人の移動と物流の未来は、この町から始まる予感がします。一筋縄ではいかないからこそ、おもしろいはずです。
(2024/07/22取材 遠藤真利奈)