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どこかで働くことを決めたとき。仕事内容だけじゃなく、お客さん、仕入れ先などの関わる人や、その地域のことにも目を向けてみる。
そうやって視野を広げることで、コミュニケーションの濃度が変わるように思います。
舞台となるのは、茨城・霞ケ浦。
湖のほとりには「古民家ゲストハウス 江口屋」があります。運営しているのは、株式会社かすみがうらFC。
地域に根付く文化を活かし、かすみがうら市の未来を育てていくことを理念に、株式会社ステッチと筑波銀行、そしてかすみがうら市が共同出資して誕生した第三セクターです。
これまでに、サイクリング事業、レストラン事業、マルシェ事業などを展開してきました。
今回は、地域おこし協力隊として、最大で3年間、「古民家ゲストハウス 江口屋」の運営・マネジメントを担うスタッフを募集します。
新しいものを知ることが好き。いいなと思ったことはつい人に伝えたくなる。そんな人にぴったりの仕事だと思います。
北千住駅から常磐線に揺られること約1時間。土浦のひと駅先にある神立(かんだつ)駅に到着。
古民家のゲストハウス「江口屋」は、駅から車で20分ほど。手前にある蔵は2023年にオープンしたビールの醸造所で、奥にゲストハウスがある。
明治後期に建てられ、もともと酒屋さんだった建物。「江口屋」という名前はその時の屋号なのだそう。空き家になっていた建物をゲストハウスにリノベーションし、2020年にオープンした。
「江口屋の持ち主の方とは以前から知り合いだったんです。歴史ある建物を使わせてもらうからには、受け継ぐ側もきちんとその愛情を引き継いでいきたいと思っていて。それで名前もそのまま使わせてもらうことにしました」
そう話すのは、かすみがうらFC取締役の今野さん。
「茨城県って、今まで農業や工業に力を入れていたんです。けれど人口は減っていく一方で。そこで注目したのが、県外から人に来てもらえるような観光施策。そのひとつが霞ヶ浦のサイクリングロードでした」
「サイクリングロードを整備するタイミングで、かすみがうら市から依頼を受けてお手伝いをするようになって。まずは新しい観光マネジメントの会社をつくろうということで、『かすみがうらFC』ができました」
会社を設立した2016年に、地域の物産品を販売する「かすみマルシェ」をオープン。2020年に「古民家ゲストハウス 江口屋」を、2023年には醸造所を開設した。
「ちょうどコロナ禍でワーケーションが注目され始めたころでした。静かな場所と、湖の景観。都心からも車で1時間で来れる距離なのもあって、だんだんとお客さんに来ていただけるようになりました」
「ここに宿泊される方は、ご家族も多いです。3世代そろって泊まっていただいて、おじいちゃんおばあちゃんは部屋の雰囲気を懐かしんでくれたり、お孫さんは部屋中を走り回ったりして」
建物内の造りはできるだけ当時のままに。囲炉裏や茶の間が残っていて、中庭には釜戸と新しくつくったピザ窯もある。
玄関を出ると、目の前には公園と霞ヶ浦が広がっている。その間をサイクリングロードが真っ直ぐに伸びていて、景色を見ているだけでも心地いい。
「霞ケ浦って朝がよくて。風が落ち着いていて、湖も穏やかなんです」
「朝食はスタッフが中庭の釜でご飯を炊いてお出ししています。この土地は朝ごはんに使う食材がそろっているんです」
近隣地域は卵の生産量が全国で一番なんだそう。県の特産物である納豆をはじめ、地元の人がつくっているわかさぎの佃煮や梅干しなど。
たっぷりの地元食材でつくられた朝ごはん。素朴ながら、贅沢だと思う。
ここで働く人は、宿泊に関すること以外にも、朝食で使われている食材や農家さんのことなども、お客さんに説明できるようになってほしい。
ときには、スタッフがお客さんを案内して、地域にあるお店や農家さんと交流することもあるのだとか。
「ここに着くまでの道中にもお金を落としてもらう。そんなふうにしたくて。ただ人を呼ぶんじゃなくて、来てもらったからにはまちのことを好きになってほしい」
「お客さまの要望に合わせて、旅程のプランを一緒に考えたり、案内したり。新しく入る人自身もここでの暮らしを体験するなかで、地域のコンシェルジュみたいな存在になってもらえるとうれしいです」
まさにそんな働き方をしているのが、江口屋スタッフの横山さん。もともと東京で民泊を経営していて、コロナ禍をきっかけに、3年ほど前に隣のつくば市へ移住してきた。
この日は都合があわず、別日にオンラインで話を聞くことに。
「はじめは、この土地のことも含め右も左もわからなくて。江口屋にいると、地域の方からよく声をかけてもらうんです。それに、ご近所の方だけでなくて、お客さまも『この場所おもしろいよ!』っておすすめしてくれる。あったかいですよね」
「おすすめされた場所は自分でも実際に足を運んで、いいなと思ったらお客さまに紹介して、という繰り返しですね」
江口屋に来るお客さんは、半分は県内から。最近はインバウンドの影響で海外の方も多いという。
「この周辺に限らず、少し遠くへお客さまをお連れすることもあって。先日は、台湾から来たお客さまと果樹狩りを体験しました」
「ほかにも、れんこん掘り体験をしていただいたこともあって。地元の農家さんも気合を入れて教えるために10人くらい集まって、1人に対して、2、3人農家さんがついて、熱心に教えてくださるんです」
ただ場所をお伝えするだけじゃなくて、横山さんも一緒にまちを巡るんですね。
「そうですね。お客さまにどうやったら楽しんでもらえるか考えています。気になる農家さんがいたら、直接ご連絡したりして」
「何度もやりとりしているうちに、顔見知りになるんです。最近は、農家さんが『こんな体験はどう?』って持ちかけてくれることもあります」
うれしそうに話してくれる、横山さん。
「一度来てくれた方が、友人を連れて来てくれることも多くて。『こんな体験してます!』ってあんまり広報していないんですけど、口コミで広まっていてうれしいですね」
地域の人も、はじめて訪れる人も、そして両者をつなぐスタッフも。思い出に残るひとときは、誰かに伝えたくなる。そんな循環が生まれているんだろうな。
江口屋で働いているのは、パートスタッフも含めて5人ほど。
新しく加わる人は、江口屋に加えて今年の7月に完成した新しい一棟貸し宿「水郷園」の運営にも関わってほしい。
また、ビールの醸造のサポートも仕事の一つになる。醸造を担当している人はいるので、興味がある人は一からビールの醸造を学ぶこともできるとのこと。
最初からすべての業務に取り組むことはむずかしいので、まずはこの地域での暮らしと仕事に慣れながら、自分の興味が向くものを見つけていけたらいいと思う。
「ほかの宿と違って、ビールづくりやイベント出店とか、いろんなことを経験できる場所だと思います」
そう話すのは、今年の4月に入社した堀川さん。
もともと大阪出身で、前職はインテリア会社に勤めていた堀川さん。いろんな場所に行ってみたいという思いから、2年ほど海外でワーキングホリデーや語学留学を経験してきた。
さまざまな文化に触れることで、日本の伝統や文化の魅力にあらためて気づき、帰国後、日本を巡ることに。
「海外での生活をしているとき、日本って面白い文化があるんだなって気づいたんです。たとえば、バスや電車の時間がきっちりしているところとか、お辞儀で挨拶することとか。日常のささいな文化が特殊でもっと知りたいと思いました」
「それで、個人事業主として配送の仕事を始めて、全国を巡ることにしました。地元の大阪ではご近所づきあいも少なかったけど、いろんな場所の民宿とか宿泊先では、お茶とか漬物をもらってたわいもない話をすることもあって。それが心地よかったんです」
そんな体験をするうちに、地域に密着した仕事がしたいと感じた。同じタイミングで、日本仕事百貨で求人記事を読んだそう。
「日本ならではの古民家宿も面白いなと思ったし、ビールも好きでよく飲む。地域のことを知って伝えられる場所だなって。やりたいこともタイミングもドンピシャだったんです。すぐに応募して、入社が決まりました」
「いろんなことをやってみたいんです」と堀川さん。入社前から、ビールのイベント出店の手伝いに携わり、今も月に3回ほど、関東近郊へ出店しているという。
ビールづくり、イベント出店、自社で運営する店舗「かすみマルシェ」での物販など。これから加わる人も宿の運営と並行して、自分の興味があるものがあれば、積極的に関わることができる。
地元ではないからこそ、発見したり伝えられたりすることもあるし、自分の興味のある角度から、地域を発信できる働き方だと思う。
「地域のために動いている人がここにはたくさんいるなと感じます」
「この前、茨城県でのビールのイベントに出店したとき、県内のいろんな醸造所から人が集まって交流会がありました。お互いにライバルだけど、地域を盛り上げるためにメニューについて話し合って。それってあまりないことだと思うんです」
全国を巡らなくても、地域の人、訪れる人、同じ志を持った人、いろんな人と関われる。
「地元の方と話していると、『なんもない』ってよく言われるんです。でも、地元のれんこん農家さんとか江口屋でつくったビールとか。イベントで出店するとかすみがうらの商品を買ってくれる人はたくさんいて、なにもないとは思わないんですよね」
「江口屋を拠点に地域の魅力がいろんな人に届いていくんです。自分自身もっと知りたいし、伝えたいと思っています」
移住して約3ヶ月。休日は県内を車でドライブしたり、神社や博物館に行ったり。かすみがうらでの生活も慣れてきたところ。
自分のお気に入りの場所を、宿に来てくれた人に紹介する機会も増えてきた。
「新しい宿と一緒に、朝食で使う食材をつくる畑も始めていて。会社として、どんどんいろんなことが展開していく。新しいことに挑戦できる環境だと思います。同じように盛り上げられる人と働きたいですね」
地元のいいものを知り、伝える。その繰り返しによって、「ありがとう」と伝えたくなる人が増えていく。
この場所には、そんないい循環が生まれているように感じました。
(2023/12/07 2024/01/17 取材、2024/09/03 更新 大津恵理子)