求人 NEW

里山の旅館から生まれる
懐かしくて新しい
衣・食・住

世の中は日々、新しい情報に溢れていてせわしない。

そんななかでふと、古くから残るものや文化、生活の知恵に触れると安心する。人として変わらないものを感じられるし、温故知新という言葉があるように、そこに新たな意味や価値を見出すこともできる。

日本文化を色濃く残しながら、つねに新たな人を迎え入れてきた“旅館”という場には、これからを豊かに生きていくためのヒントが息づいているのかもしれません。

熊本・南小国の山中に位置する黒川温泉

30の旅館が軒を連ねる温泉街には、国内外から年間およそ100万人が訪れます。

その一角で、3軒の旅館をいとなむ有限会社富士屋。今回は、この会社が新たにはじめるプロジェクトに携わる人を募集します。

旅館にまつわる衣・食・住を起点に、黒川温泉の名物となるような商品を開発したり、日本文化を表現した店舗をつくったり。

旅館で味わえる豊かさを、日々のライフスタイルに取り入れてもらえるような商品や空間の企画・提案を行なっていきます。

地域おこし協力隊制度を活用するため、任期は3年間。任期中から3年後の進路選びまで、まちづくり公社SMO南小国のコーディネーターがしっかりと伴走します。

“地域産品を使った商品開発”をミッションとする協力隊の募集は、ありふれているかもしれません。今回の募集がおもしろいのは、旅館や日本文化を軸としているところ。未経験でも、アイデアと行動力のある人なら大歓迎です。

 

熊本県の北東部、大分との県境に位置する南小国町は、人口4000人弱のちいさなまち。

主な産業は林業と農業、そして観光業。町内に5つある温泉地のなかで、今回の舞台となる黒川温泉には年間100万人が訪れる。

山奥にひっそりと佇む温泉街を有名にしたのは、「黒川温泉一(いち)旅館」というコンセプト。

バラバラだった案内看板のデザインを統一したり、黒川のすべての露天風呂に入れる「入湯手形」をつくったり。地域全体をひとつの旅館と見立て、力を合わせることで人気を集めてきた。

そのうちの一軒「お宿 のし湯」へ。木々に囲まれた門をくぐると、今回のプロジェクトの発起人である穴井さんが迎えてくれた。

「ここはもともと、ゲートボール場だったんです。木を植えたり、露天風呂を掘ったり。現社長である父の頭のなかを表した宿になっています」

穴井さんの祖父母が古い旅館を購入し、1974年に富士屋を開業。そこには露天風呂がつくれなかったため、お父さんがゲートボール場を開拓してのし湯をつくった。

もう一軒の宿「inn NOSHIYU」と合わせて3軒で23室という、黒川温泉のなかでもちいさな規模の旅館。

そんな環境で育った穴井さんは、大学卒業後に熊本市内の老舗シティホテルで働いたあと、結婚を機に黒川へ。10年以上にわたって旅館運営に携わってきた。

今回の商品開発プロジェクトを立ち上げるきっかけは、なんだったのだろう?

「チェックイン時にお出ししているきな粉団子が好評で。お客さまから『これは販売していないんですか?』と聞かれることが多かったんです」

そこでまずは、団子にも使っている南小国町産の黒豆きな粉の販売をはじめた。一般的なきな粉よりもいいお値段ではあるものの、旅のお土産に買って帰る人も少なくないという。

「黒川温泉といえばこれ!と言えるお土産って、まだなくて。せっかく喜んでいただけているものがあるなら、商品化することで旅館や地域のPRにもなるんじゃないかと思いました」

きな粉団子は、あくまでアイデアのひとつ。今回募集する人と一緒に幅を広げていきたい。

テーマは旅館の衣食住。

たとえば「衣」なら、夏場の制服に取り入れている久留米絣のワンピース。肌触りのいい布を活かして、部屋着やスリッパなどの衣類を提案できるかもしれない。

「住」は、旅館の空間やそこで流れる時間。そのまま日常に持ち帰ることはできなくとも、気持ちがゆるむお香だったり、生活のなかでも使える道具だったり。暮らしをちょっと豊かにしてくれるものを、旅館の営みのなかからおすそ分けするように提供したい。

「日本文化を取り入れた店舗づくりも考えています。黒川温泉を訪れるお客さまが一番多い福岡に出店するとか、飛び越えて海外進出とか。いろんな選択肢があっていいと思っていて」

“旅館の衣食住”という軸はありながら、何をつくってどう届けるかは自由。

「立ち上げるからには、ちょっとよくなったね、で終わりたくない。どんどん発展させていきたいんです」

すでに挙がっている案に縛られなくてもいい。自由な発想を持って、この新しいチャレンジを楽しめる人に来てもらいたい。

もうひとつ、今回のプロジェクトの背景には「旅館で働くスタッフに挑戦の機会をつくりたい」という想いもある。

きっかけは、2022年に新卒で4名採用したこと。コロナ禍の経営危機も経たことで、労働時間の長さや待遇など、旅館業の当たり前を一つひとつ見直すきっかけになった。

ただ、働きやすいだけでは、働き続けたい職場にはならない。いい人が採用できても、「新しいことに挑戦したい」「夢を叶えたい」などの理由から、その背中を見送る機会が続いた。

「うちの社長が、これだけはずっと言うんですけど、『自分は舞台づくりをしているんだ』って。わたしがこれからつくりたいのも、まさに舞台なんですよね。『これに挑戦したい』っていう人がいたら、『やってみようか』って言える舞台をつくりたい」

まずは穴井さんや今回募集する人を中心に、小さなチームで動き出してみる。

商品やお店が形になり、舞台が整えば、旅館で働く人たちのふとしたアイデアや、お客さんと接するなかで感じたことも、そこで表現できるようになっていく。

災害や社会情勢によって、観光業は大きく左右されやすい。新たな事業を立ち上げることは、従業員の雇用を守り、旅館を存続させていくための生存戦略にもつながっている。

 

そんなプロジェクトを一緒に進めていく人がもうひとり。ふじ屋とのし湯の統括支配人を務める田原さんだ。

以前はアパレルブランドで4店舗の責任者をしていたそう。心機一転、温泉地で働こうとのし湯へ。

「面接したら、社長がめちゃめちゃおもしろい人で。ここで働きたいと思ったんです」

フロントや調理場で経験を積み、2年前から統括支配人に。穴井さんもひとつの転機と話していた、2022年のこと。

「従業員さんとの関わり方も、そのあたりから大きく変わりました」

どんな変化が?

「もともとは指示を出して動いてもらう、トップダウンのマネジメントをしていたんです。前職のアパレルも同じで。ただ、それだと続かないんですよ。思い切って任せるようにしてから、内発的な取り組みが生まれはじめました」

たとえばドリンクメニュー。ふじ屋ものし湯も、以前から料理の評価は高かったものの、それに合う飲みものを提供できていなかった。

そこで、熊本県内すべての酒蔵から日本酒を取り寄せて、みんなで試飲。3ヶ月かけて現在のドリンクメニューをつくった。

「お米づくりからしている酒蔵さんがあって、スタッフさんが『田植えや稲刈りの体験をしたい』と。休日に行くと趣味になってしまうので、仕事として行ってもらいました」

そうやって背中を押していると、今度は「館内で提供するコーヒーを変えたい」という声があがった。豆の配合を変えるところから挑戦して、もうすぐ新しいブレンドが完成するそう。

「一番心がけているのは、その子がはじめて提案したものは絶対に否定しないこと。まず一回やってみることです。内発的なパワーって、すごいんですよね」

「今回募集する人も、新しいものを自分たちで1からつくりあげたいという気持ちさえあればいいと思っています。そういう想いがある人なら、どんどん前に進んでいける。技術や知識はかえって邪魔になることもあるので、なくても大丈夫です」

つくり手のもとを訪ねたい。商品企画の研修を受けたい。

プロジェクトを進めるなかでそんなふうに思うことがあれば、気軽に田原さんに相談してみるといいと思う。きっと背中を押してくれるはず。

それに田原さん自身、つくるのが好きな人でもある。もともと服飾のデザイナーになりたかったそうで、この日は自らデザインした久留米絣のシャツを見せてくれた。

このチームであれこれ意見を交わしながら商品や場をつくっていく過程は、きっとおもしろい。

「衣食住っていうテーマはすごくいいですよね。生きるうえで一番幸せなことじゃないですか。ずっと着たいような服、食べた瞬間に幸せになるようなもの、日本文化が詰まった空間…。いろんなことが考えられます」

「ただ、これまでのアイデアは穴井や自分の考えであって、一緒にやっていくなかで絶対に崩れます。それでいいんです。なんかできないかな?って常に考えて、自分からどんどんアイデアを出してくれるような人がいいですね」

これから入る人は、穴井さん田原さんと動くことが多くなる。

おふたりとも柔軟だし、気さくな方々。けれども、身近であるがゆえに伝えにくいことや、仕事だけでなく生活面での困りごとも出てくるかもしれない。

 

そんな協力隊に伴走していくのが、まちづくり公社SMO南小国のみなさん。3名のコーディネーターが面的に協力隊の活動を支える形をとっている。

話を聞いたのは、コーディネーターのひとりである堀越さん。

「いわゆる行政型の協力隊は役場の仕事に従事することもありますが、南小国町で近年主に採用してきたのは起業型の協力隊です。わたしたちコーディネーターは、協力隊が成果を出すことに専念できるようサポートする役割を担っています」

大事にしているのは、月に2回の「整理ミーティング」と「推進ミーティング」。

前半の整理MTGは、何気ない雑談から悩みごとまで、コーディネーターと協力隊だけで話す会。後半の推進MTGでは、穴井さんや田原さんも交えて事業推進について話す、というふうに目的を分けている。

年間の活動計画をもとに、協力隊のお尻を叩くのもコーディネーターの役割。さらに言えば、3年の任期が終わったあとのことまで一緒に考える。外部講師を招いて、協力隊の事業の壁打ちをする合宿のような機会も設けているそうだ。

堀越さんは、どんな人に来てもらいたいですか。

「必要なものは、行動力に尽きると思います。まちの外からやってきて、人となりが伝わっていない状態からのスタート。そうなったときに見せられるのって、やっぱり最初は行動の数でしかないのかなと」

「たとえ失敗しても、その後の軌道修正はいくらでも可能ですし、わたしたちも全力でサポートします。とにかくアクションしてほしいですね」

サポート体制も手厚いし、年間100万人が訪れる観光地というポテンシャルがある。新しいことに挑戦しやすい環境は、すでに整っているように感じました。

温泉に浸かっているうちに、アイデアが浮かんでくることもありそうです。時間があれば、まず黒川温泉を訪ねてみてください。

(2024/8/27 取材 中川晃輔)

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