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まちに薬剤師がいる理由

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「薬剤師にできることはなんでもしよう」

大阪市平野区にあるみかさ薬局は、1980年の創業以来、「まちの薬局」として地域の健康を支えてきました。

今回は、ここで働く薬剤師と事務スタッフを募集します。事務スタッフは未経験も歓迎です。

患者さんのほうを向いて仕事をしたいと思うあなたに、伝えたい仕事です。

 

大阪市平野区は人口19万人と、市内ではもっとも人口の多い区。みかさ薬局はその中心部、地下鉄平野駅の近くにある。

天王寺までは10分、梅田までも25分と、なかなか便利な場所。

この日は在宅医療を受けている患者さんを訪問するとのことで、同行させてもらうことに。

昼下がり、待ち合わせの長原地域へ。

「お待たせしました! 患者さん、もしかするとまだ家に帰ってないかもしれんくて」

スクーターに乗って現れたのは、淑子さん。「いはるかなぁ」と電話をかけながらマンションへ向かう。

インターホンを鳴らすと、「はーい」と患者さんの声。

患者さん、家のなかでゆっくりしていたみたい。「みかさ薬局ですー!」と、明るく挨拶をして家の中へ。

壁にはお薬カレンダーと、定期的に訪れるというヘルパーさんの当番表、連絡先が書かれた紙が貼ってある。

在宅医療では、医師をはじめ訪問看護師、ケアマネージャーやヘルパーなど、さまざまな職種の人たちが患者さんのもとを訪れ、連携して生活を支えている。

薬剤師の役割は、医師から指示を受け処方した薬を患者さんのもとに届け、服薬の指導をすること。患者さんの体調や服薬状況によっては、医師に薬を変える提案をしたり、服用時に必要なサポートをヘルパーさんに伝えたりと、いろいろな人と協力していく必要がある。

「調子、どうですか?」と声をかけながら淑子さん、持ってきた薬を手際よくカレンダーの中へ。薬は服用するタイミングにあわせて個別の袋に分けられている。

「とくに変わらへんよ」と、男性。パーキンソン病を患っていて、歩行が不自由なため、お薬はヘルパーさんがカレンダーから取り出して服用を手助けしているそう。

「塗り薬は自分で塗ってはるんですか?」「おう」「すごいですね。それに今日、調子よさそう」

残薬を調べたり、薬を整理したりしながら、会話が続く。問診というよりおしゃべりのような感じ。「また来ますね」と、20分ほどして訪問は終了。

部屋を出て、駐車場で淑子さん。

「患者さんね、こないだ手術しはったところで。訪問中、一度も倒れへんかったでしょ。以前は訪問の間だけでも5〜6回前のめりに倒れてしまってたんです」

「自分では『とくに変わらへんよ』って言わはったけど、ずいぶんと変わらはってる。調子よくなったね、と伝えてたのはそういうことなんです」

在宅訪問はだいたい2週間に1回のペース。いまは140人ほどの患者さんを5人の薬剤師で手分けして訪問している。

「在宅、おもしろいですね。病院や外来やと、どうやって飲んでるのか全然わかんないんですよ。家に行ってみると、お宝のように残薬が出てくることもあって(笑)」

「どんな工夫をしたら、安心して、安全に飲んでもらえるか考えるのが在宅かなって。枕元に置くのがいいのか、リハビリを兼ねて少し離れた場所に収納するのがいいのか。工夫していい方法を見つけられたときはうれしいですね」

 

またあとで、とその場で別れ、薬局へ。

淑子さんと夫の英夫さんが迎えてくれた。

みかさ薬局の創業は、地下鉄谷町線が開通した1980年。ふたりがまだ20代のころ。

「最初は22時までやってたんですよ。別にしんどいとかもなく。その時間まで開いてる薬局ってなかったから、開いててよかったって言ってくれる人も多くて」

当時は市販薬の取り扱いがメイン。いわゆる処方せんを取り扱うようになったのは、1990年ごろ。国が医薬分業をうたいはじめたころだった。

それまでは院内処方といって、病院を受診すればその場で薬をもらえるのが当たり前。患者さんからの反発もあった。

「国としては医療費を抑えたい、けど患者さんからしたら手間がかかる。『なんでわざわざ来なあかんねん!』って、相当怒られました。やから、なんかのついででかまいません、あなたの薬はうちでちゃんと出せるようにするので、いつでも来てくださいねって一生懸命お願いして」

処方せんは断らない。

当たり前のことのようだけど、薬局からすると、いつ出るかわからない薬を在庫として抱えることはリスクになる。「ほかの薬局さんに行ってください」と断られることも、めずらしくない。

どんな処方せんにも応える。その方針を貫いて、取り扱いのある薬剤はおよそ2,500種類。日常的な薬から、抗がん剤、鎮静のための麻薬まで。病院の目の前にあるわけではない面対応の薬局で、これほど取り扱いがあるのはめずらしい。

「合言葉じゃないけど、ふたりのなかで “薬剤師のできることはなんでもやってみよう” 、と決めていて。お金はかかるけど、薬を揃えることならできるじゃないですか」

患者さんのほうを向いて、仕事をする。そんな姿勢を続けて、いつのまにか、わざわざ訪れる患者さんが増えていった。

「『ほかのところでお願いしてたんですけど、ここで頼めますか』とか、ご家族を連れてきてくれたりとか。患者さんから選んで来てくれてはるのは非常にうれしいし、いちばんの自慢ですね」

そんなふたりが在宅に力を入れ始めたのも、自然な流れだった。

多様な薬が揃っていることも、在宅を推し進める後押しとなった。訪問看護師さんやケアマネさんを通じて、依頼は増え続けている状況だという。

 

息子の洋平さんは、そんなふたりの姿を見て帰ってくることを決めた。

「昔は薬剤師の仕事に魅力を感じてなかったんです」

大学は工学部に進学、卒業後は製薬会社でMRとして10年ほど働いていた。

「医者と話すのはMRで慣れていましたし、在宅の需要は今後右肩上がりに増えていく。在宅、いいんじゃないかって」

薬学部に入り直して、病院で3年ほど勤め、みかさ薬局へ。帰ってきてからは無菌調剤にも対応できるように改装し、より幅広い症例に対応できるようになった。

在宅業務では、15名ほどの医師と付き合いがある。連絡はLINEで、患者さんごとに関わる医療チームでグループをつくっているという。

「ふつうは電話だと思うんですけど、LINEだと医師と直接コミュニケーションがとれるし、かえって早い。『こんな状態やねんけど、何がいいと思う?』って医師から相談もらったり、僕らから処方の提案をすることも多いです」

「自分の提案で患者さんがどう変わったか。自分の目で確かめられるのは、絶対的な面白さですね。勉強する励みになります」

在宅業務は基本的に24時間対応。急な発作があったからお薬を届けてほしい、という依頼が夜間に舞い込むこともある。

外来も受けて、処方の提案もして、24時間対応。そこまで動けるのはどうしてなんだろう?

「病院のソーシャルワーカーさんにも言われます、そこまでやってるとこないよ! って。でも、医師に全部背負わすのも、かわいそうじゃないですか。薬液の濃度とか計算ってめっちゃ時間かかるんです。こっちから案を出したほうが、医師にとってよかったりする」

「…そうでなくても医療の最終責任は、医師が負ってしまうので。同業種の医師や看護師がある意味身を削っているなかで、なんで僕らだけ許されんねんって気持ちはある。自分のところで問題解決できるんやったら、どうにかしたいっていうのはありますね」

規模に対して取り組んでいる個人在宅の件数は多い。今も近くのエリアの患者さんは一気に回るなど工夫はしているけれど、まだまだ改善できる余地はある、と洋平さん。

「たとえば事務の方に運転していただくだけでも負担は減りますよ。できるかどうかは別として、薬歴を入れるのにchat GPT使ってみようとか、在宅は自動運転機能搭載の車を使おうとか、先進的に考えられる人がいるとおもしろいなと思いますね」

「一人やとなんとも解決できへんなって思うことは、すごくいっぱいあります」

医師や患者とも、全員と気が合うわけではない。うまくいかずに悩むこともあるけど、そんなときこそみかさ薬局や他職種のスタッフを頼ってほしい。

「患者のところへ行ってるのは僕らだけじゃない。看護師さんとかヘルパーさんとかに、どうやってる? と聞くのもいいと思うし、最終手段はうまくやれる人の訪問時に一緒に行く(笑)」

「薬剤の知識は、帰ってきてから相談するでいいと思うんです。ひとりで解決しようとしなくていい。チーム意識をもって働ける人だといいなと思います」

 

みかさ薬局では5人の薬剤師が働いている。若手の山﨑さんにも話を聞いてみる。

兵庫県出身、以前は門前の薬局で働いていて、2年前に転職した。

「門前だと、何年もやってるうちに処方のパターンや先生の癖も見えてくるんですね。在宅に関わることも少なくて。もうちょっと新しいことを学びたいという気持ちと、在宅でできることってもっとあるんちゃうかなという思いがあって転職しました」

「LINEの話もそうですけど、医師やケアマネさんと気軽に話せる環境ができているのはすごいと思いますね。前からみかさ薬局がつくってきた基盤が根づいている感じがして。どの方も優しくて、話を聞いてもらいやすい感覚はあります」

在宅に医療チームの連携は欠かせない。在宅訪問を開始するときは、必ず初回に医師と同行するようにしている。

「最初は先生見たらめっちゃドキドキしてました(笑)」と、山﨑さん。半年ほどは洋平さんや淑子さんの訪問に同行し、次第に自分ひとりでも訪問するようになっていった。

「食事取れてますか? とか、お通じのこととか。訪問時は、飲んでる薬で副作用が起きていないか、世間話も交えつつ伺うことが多いです。たわいもない話をしているだけやのにありがとうと言ってもらえることもあって、それはうれしいですね」

「ケアマネさんとかに情報をうまく連携できると、ちゃんと仕事できてるのかもって思います」

認知症の患者さんだと、日々訴えが変わったり、ものの場所を忘れてしまうこともある。

「気づいたことは連絡ノートに書くようにしていて。それを見ると辻褄があうことも多いんです」

みなさんいっぱい書いていて、私はまだまだですけどね、と山﨑さん。

山﨑さんは、どんな人と働きたいですか?

「与えられた仕事だけやろう、というタイプの人は合わないかもしれません。手が空いたらほかの人をフォローできるような人だといいと思います」

「塚正先生たちは、わが道を行くというか。マイペースだなと感じることもあるけれど、気兼ねなく話せる雰囲気ですね。仕事内容は日々勉強になりますし。いまは全国的な薬不足で調整が大変なので、どうしたら効率よくできるか一緒に考えられる人だとうれしいです」

 

機械的にできる仕事ではないから、一人ひとりの判断が異なるときもあると思います。

でも、「薬剤師にできることをやる」「目の前の患者さんに向き合う」その矢印はきっとどんなときでも変わらない。

薬局にできることってなんだろう。日々、自分に問うていく仕事だと思います。

(2024/6/29 取材 阿部夏海)

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