保育園の入り口にカフェがあったら、どんな出会いが生まれるだろう。
文化人類学者やミュージシャンの視点から保育を見たら、どんな発見があるだろう。
いろんな大人と子どもが交わり、影響し合うことで、予想外で面白い出来事が生まれていく。そんな未来を目指しているのが社会福祉法人東香会。
町田や渋谷など6ヶ所で保育施設を運営するほか、「子どもとともにある社会」を目指したイベントの企画などさまざまな取り組みをしています。
今回は、プロジェクトマネージャーを募集します。
イベントなどの企画立案や進行管理、各保育園で働くスタッフとのコミュニケーションなどが主な仕事。
保育の経験や知識は問いません。まずは、東香会の目指す世界を知ってほしいです。
町田駅からバスに乗り15分ほど。
バス停からしばらく歩くと、東香会が運営する「しぜんの国保育園 small village」が見えてきた。
元気な声がするほうに向かってみると、緑豊かな園庭が。
外で遊んでいた子どもたちが、「おねえさん、なにしてるのー?」と次々に声をかけてくれる。
おはなしを聞きに来たんだよー、と返事をして保育園の入り口へ。
迎えてくれたのは、東香会理事長の齋藤紘良(こうりょう)さん。
実家がお寺で副住職。ミュージシャンとしても活動している面白い経歴の持ち主の方。
「天気もいいので、外にでもいきますか?」と先ほど見ていた園庭に出て、煉瓦や土でできた山の頂上に登る。
子どもたちに向かって、颯爽と手を振る紘良さん。
園庭には羊や豚の小屋があったり、小さな池があったり。
建物の下のスペースには砂場が広がっている。
変わったところに砂場があるんですね。
「もともとは別の場所に砂場をつくっていたんです。けど、子どもたちが建物の下の土の部分を掘って遊ぶのが好きで。だったらこっちを砂場にしちゃおうと思ってつくり替えました」
少し奥まった場所にある砂場は、本物の採掘場みたいでワクワクする。
「保育園の中だけじゃなくて、社会の問題なども子どもと一緒に考えて乗り越えていけるといいなと思っています。それぞれの視点が交わることで、考え方が広がるし、予期せぬことが起きていくと思うんです」
何事も効率化され、管理されている社会。でも、本来生きることはもっと複雑で、予想外なことの連続のはず。そういう社会のほうが面白いし、生命として自然だと思う、と紘良さん。
東香会で目指しているのは、そんな「子どもとともにある社会」をつくること。
その考えを広めていくため、新しく入る人と一緒に、イベントや企画にさらに力を入れていきたい。
具体的には、どんなことをしているんでしょう。
「たとえば、渋谷で運営している渋谷東しぜんの国こども園の1階にカフェをつくりました。外部と隔離するのではなく、カフェという開けた場所をつくることで、園に通う子どもや親と買い物をしに来た人たちが交わる中間的な領域が生まれると思ったんです」
実際、カフェに通っていた人が保育に興味を持って就職したり、子どもたち向けのワークショップを開催したり。保育に関わる大人が増えるきっかけにもなっている。
ほかにも、園を会場にしてさまざまなイベントを企画。人類学者をゲストに招いて「保育と人類学」についての対談や、フットボール選手と一緒に身体感覚とコミュニケーションについて考えるなど。
普段は保育に関わらない人を巻き込んで、社会全体で保育に関心を持つ人を増やす取り組みをしている。
とはいえ、まだまだ試行錯誤の最中。
新しく入る人は、これらのイベントの集客の方法や、どうしたら「子どもとともにある社会」を広めていけるかを考えながら、イベントの企画や運営をしていくことになる。
「基本になるアイディアや方向性は持っているんですが、実際の企画や運営は新しく来る人に任せたいと思っていて。そういうことを楽しんでくれる人が来てくれるといいなと思います」
続いて話を聞いたのは、一般企業でも正社員として働きながら東香会の業務執行理事でもある安永さん。
「紘良さんとの出会いは、10年くらい前。ライブハウスでの対バンです(笑)」
「それからしばらくして、渋谷にこども園をつくるために協力してほしいと相談を受けて。保育の外からの影響も取り入れてつくりあげる園って、すごく面白いし、それが本来はそれがあるべき姿なんじゃないかと思ったんです」
渋谷のカフェ事業や、対外的なイベントの企画など、東香会の公益事業を中心にプロジェクトに関わってきた。新しく入る人も、安永さんと一緒に働く機会が多くなると思う。
「新しく入る人とは、上司と部下としてではなく、共創をしていきたいと思っています。新しい取り組みもどんどんやっていきたいし、とらわれる前例もないので、アイディアを出し合いながら共に考えてかたちにしていきたいです」
東香会が目指していることや、なにを大切にしたいかなど。企画を進めていく上で迷ったときにも一緒に考えることができるから安心だと思う。
「このあいだは、渋谷にある園に一般の人をお招きして、園の給食をワインと一緒に楽しんでもらいました」
え、意外な組み合わせですね。
「いつも給食で出しているメニューって、意外にワインにも合うんじゃないかと職員たちと盛り上がったんです。そういう発見と実験を通じて、給食の捉え方も変わってくると思っていて」
「給食って子どもの栄養のことばかりが思い浮かびがちだけど、食べる楽しさとか、季節を感じるとか。別の要素や価値もあるのかも、って考えるきっかけになると思うんです」
「生活で見逃している発見に大人も気付けるようになると、結果的に社会がより豊かになっていくんじゃないかと思っていて。気づいたことを試せる環境と仲間がいて、それを地域の人々や広く世の中に投げかけられるのが、私たちがやっていることの面白さだと思っています」
もうひとつ、新しく入る人に期待されている役割が、保育現場ではたらくスタッフとのコミュニケーション。
現場の保育者の個性や強みを活かす場を考えたり、各施設同士の横のつながりをつくる仕組みづくりを考えたりしてほしい。
「保育者の人たちも、もっと自分の趣味や強みを活かせる場があっていいと思うんです。たとえば、音楽が趣味の人は演奏をする場がここにはあるし、ビールが好きだったら保護者と一緒に楽しむ会を開いたっていい」
それぞれの個性を活かしながら、それをどう保育につなげるかを一緒に考えていく。
まずは6つの保育施設を巡って保育者さんの話を聞いてもいいし、声を聞く場をつくってもいい。保育者さんにとって身近な存在になりながら、それぞれのアイディアや考えを拾ってプロデュースできたらいい。
「この人のそばにいたら楽しそうなことが起こりそうとか、思いついたことは気軽に相談できそうと思ってもらえる存在になってくれたらいいですよね」
東香会らしさを知るためにも、現場で働いている保育者さんの声もぜひ聞いてみてください、と保育者さん2人を紹介してもらう。
まずお話を聞いたのは、4歳児のクラスを担当している葵さん。
地元で幼稚園教諭を経験したのち、5年前に東香会に転職した。
「子どもと保育者という関係じゃなくて、私自身もわたしのままでいられる。『あなたとわたし』として接することができるのが東香会らしさだなと感じています」
そのひとつが、毎日ある対話の時間。子どもと大人が一緒になって自分の気持ちや、他者との関係、やりたいことについて語り合う時間。
このあいだは、まち歩きであったことについて話した。
「子どもたちとまち歩きをしていたときに、男の子2人が突然しゃがみ込んで動かなくなったんです。『何してるの?』って聞いても全然答えてくれなくて。ほかのみんなは暑いと言うし、私もお腹が空いたから早く帰りたいって気持ちになってしまった」
「園内に戻り、対話の時間で、そのときのことについてみんなで話したんです。そしたら、動かなかった男の子たちからポロポロ本音がでてきて。小さなカマキリがいて、それを見てたって話してくれました」
その後も話が膨らんで、次のまち歩きは虫がいっぱい見られる森に行くことになった。
「本音で話せるところが面白いなと思っていて。日々過ごしていると、どうしてもモヤっとしちゃうときもあるけれど、それを伝え合って、次につなげていけるのが私は好きです」
「普通だったら、待ってあげようかってなりがちだけど、葵さん自身もつまんないって本心を言っちゃう。そういう関係性を大切にしているところが、すごくいいなと思うんです」
そう話してくれたのは、隣で話を聞いていた華子さん。
5年前に新卒で東香会に入り、今は乳児のクラスを担当している。
「自分の好きをとことん突き詰められる環境です。私は恐竜が大好きなので、子どもたちと一緒にリアルなフィギュアを見ながら恐竜をつくったり、部屋を恐竜だらけにしたりしてました(笑)」
「私の熱が子どもにも伝わって、恐竜に興味を持ってくれたりして。そういうふうに子どもも大人も関係なく影響し合っているのが面白いなって思うんです」
音楽好きな保育者の希望で、音楽フェス「フジロック」の配信を子どもたちと一緒に鑑賞したことも。子どもたちも普段とは異なる音楽を楽しんでいたんだそう。
最近では、子どもたちとの日常や気づきを、イベントを通じて外部の人向けに話す機会もあった。
「保育を語るときって、基本は同業者が多いんです。保育とは関係ない人に聞いてもらう機会って本当になくて。今回そういう機会をもらって、聞いた人が『こんなに面白いんですね』って言ってくれたり、保育にちょっと興味を持ってくれたりしたのがすごくうれしかったです」
「保育ってまだまだ閉じた業界だと思うんです。そうじゃなくて、もっとたくさんの人に保育の可能性を知ってもらえたらうれしいです」
取材後、子どもたちと遊んでいると、廊下で座って窓の外を見ている子どもがひとり。
何を見てるの?と聞くと、「くも。きょうはあめかな、はれかな、くもりかなあってみてかんがえてるの」
言われてみれば、天気はスマホで検索するばかり。空を見て天気を考えることもなかったなあ。
保育の現場には日々、いろんな気づきや、発見が溢れている。
子どもたちの視点やここでの取り組みが保育園の外にも知られていったら。
社会はきっと、もっと面白いものになる。そんな未来を一緒につくりたい人を待っています。
(2024/09/24 取材 高井瞳)