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「やっぱり、まちに自分の作品が残ることがこの仕事の魅力だと思うんです。自分がつくったものが、まちにどんどん増えていくのは面白いですよ」
そう話すのは、新潟県三条市で大工をしている齊藤巧さん。
地元の若者が始めたハンバーガー屋さんや、移住者による本屋さん。地域の人が集まるカフェなど。外を歩けば、齊藤さんが手がけた店舗がいたるところに。まちに溢れる空き家を改装し、新しいチャレンジの場所として命を吹き込んできました。
ものづくりが、まちづくりにつながっている。取材を通じて、そんな確かな手応えを感じました。
今回は、齊藤さんたちが中心となって2年前に立ち上げた「燕三条空き家活用プロジェクト」で、地域おこし協力隊として働くスタッフを募集します。
空き家のDIYなど手を動かす仕事を中心に、空き家を活用したイベント企画などに関わることも。
未経験でも大丈夫。齊藤さんのもとで、建築や設計をゼロから学び、任期の3年を過ぎたあとは、そのまま働き続けることもできます。
手を動かして、まちをつくる。ものづくりが好きで、地域のために働きたいと思っている人に、知ってほしい仕事です。
新潟県・三条。
お隣の燕市とともに「燕三条」と呼ばれるこの地域は、金属製品や刃物、アウトドア用品などを中心とした「ものづくりのまち」として世界からも注目されている。
東京からは新幹線で2時間ほど。
商店街の一角にあるのが、燕三条空き家活用プロジェクトの活動場所である、複合交流拠点「三-Me.(ミー)」だ。
大きな3階建ての建物は、もともとは空き家だったそう。
日差しが差し込む大きなガラス張りの入口を開けると、中はたくさんの人で賑わっている。
手前には、空き家に残された食器や家具を販売するスペースも。レトロな雰囲気の小物が並んでいて可愛らしい。
1階は、本や地元をテーマにしたアニメのグッズ、手作りのお菓子なども販売。さらに、地元の企業や移住促進団体が活動するシェアテナントになっていて、2階は移住体験ができるゲストハウス。3階は移住者の居住スペースになっている。
この場所をきっかけに移住した人が、空き家に住んだり、空き家を使って新しいビジネスを始めたり。移住と空き家問題の両方にアプローチできるいい循環が生まれているんだそう。
中の様子を見ていると、燕三条空き家活用プロジェクトの代表、齊藤巧さんが声をかけてくれた。
日当たりのいい窓際のテーブル席に座り、まずは簡単な自己紹介から。
「自分は音楽が好きで。フジロックは皆勤賞です。1997年からずっと客として通っていたんですけど、好き過ぎてもっと深く関わりたいなと思って。今は、会場内の装飾チームとして参加しています」
音楽以外にも、被災地の復興支援団体で活動したり、三条市の伝統行事である凧揚げの役員をしていたりと、さまざまなことに意欲的に取り組んでいる。
中学生のころから実家の工務店を手伝っていたという齊藤さん。大学で上京し、卒業後に新潟県内のメーカーで営業職として働いたのちに、家業を継いだ。
「ほかの仕事を経験してみて、やっぱり大工の仕事が好きだなって」
「手を動かすことで、ものができていくのが楽しいし、やればやるだけ、必ずゴールに近づくっていうのがいいんですよね」
20年間、大工として地元で仕事を続けるなかで、空き家はとても身近な存在だった。
「新築を建てるのはまとまった資金がないと難しいけど、空き家なら、比較的安く使える。新しくお店を始めたいけど資金がない人の相談を受けて、空き店舗を探して、改装する仕事をずっとやっていたんです」
とはいえ、個人では収集できる情報や手がけられる物件数にも限りがある。限界を感じていたころ、三条市としても本格的に空き家問題に取り組むように。
県内外から空き家やブランディングのプロが集まり、2022年には「燕三条空き家活用プロジェクト」を設立。空き家の掘り起こしや空き家を活用したイベント企画などを手掛けてきた。
「おかげさまで空き家の情報も順調に集まっていて。今後は、空き家のDIYにも力を入れていきたい。そのためにも新しくスタッフを募集することにしました」
新しく入る人は、齊藤さんのもとで建築のいろはを学びながら、まずは空き家の改装工事の技術を学んでいく。
「いまはお客さんから依頼を受けてのDIYが中心。でも、ゆくゆくは自分たちで空き家を借りて、空間のコンセプトやデザインから企画をすることもやっていきたいんです」
「せっかくなので、自分が手がけた店舗を見てみますか?」と、商店街に連れて行ってもらうことに。
まず訪れたのは、徒歩3分ほどのところにあるハンバーガー屋さん「TREE」。
「ここはもともと、米問屋だった場所なんです。ずっと空き家だったんですけど、地元の若い子たちからお店を始めたいって相談を受けて、改修しました」
たくさんの木材を重ねた、温かみのある壁の装飾が印象的。
「相談してくれた本人たちと一緒にDIYしたんですよ。新築の物件だとプロが一気につくってしまうけれど、空き家は一般の人の関わりしろが大きいのが面白いところで」
「お客さんと一緒に壁を塗ることもあるんです。自分で手を動かすことで場への愛着を持ってもらうこともできるし、僕自身、お客さんが楽しそうにしているのを見るのが好きなんですよね」
どんな店にしたいかを話し合ったり、一緒に内装を手がけたり。黙々と手を動かすだけではなく、人とのコミュニケーションが好きな人が向いているんだろうな。
ほかにも移住者が始めた本屋さんや、地域の人が始めたカフェなど。これまでに齊藤さんが改装した空き家は50件以上にのぼる。
「この仕事って、まちづくりでもあると思っていて。空き家に手を加えることで、いろんな面白い店ができるし、挑戦したい人の後押しもできる。そんな積み重ねが、まちの賑わいにつながればいいなと思っています」
続いて話を聞いたのは、空き家を活用したイベントの企画を中心に担当している平野さん。
東京の大学に通いながら地域おこし協力隊として働いて2年目になる。
「空き家って、なんとなくネガティブな印象があると思うんです。でも、実際はいろんな挑戦ができる楽しい場所なんだってことを知ってもらいたくて。そのためにいろんな企画を考えています」
最近手がけたのは、家具屋さんのショールームだった場所を活用した「空き家de商店街」というイベント。
60メートルもある細長い店舗の形を活かして、商店街のように15店舗が並ぶマルシェを開催。捨てるはずだった家具をリメイクして販売し、売上を子ども食堂に寄付した。
「すごくたくさんの人が来てくれて。みんなが楽しんでいる様子を見て、家主の人が『もう一度、ここをお店として使ってみようかな』って言ってくれたんです。その言葉がすごくうれしくて」
実際に空き家に足を運んでもらうことで、空き家を身近に感じてもらったり、活用方法をイメージしてもらったり。地道な積み重ねが、空き家活用につながっているんだな。
燕三条空き家活用プロジェクトの事業は、空き家を活用したイベント企画と、空き家バンクへの登録、空き家のDIYの大きく3つ。新しく入る人は、空き家のDIYを中心に、イベント企画なども手伝うことになる。
「代表の巧さんたちは、やりたいっていうことに対して、否定せずに、いいじゃんって背中を押してくれて。どうすれば形にできるかを一緒に考えてくれるんです」
「新しく入る人も、やりたいことがあれば、それを形にできるチャンスはたくさんあると思います」
平野さん自身も、経験や知識を積み重ねながら、やりたい企画を形にしてきた。
「地域おこし協力隊の任期は来年度で終わるんですけど、ここに残り続けたいなと思っていて。三条ってすごく面白いまちだし、まだまだやりたいことがたくさんあるので。今後は、空き家を使って学生が活躍できる場づくりにも力を入れていきたいです」
「三条の面白さについては、ぜひこの方に聞いてください」と紹介されたのは、三浦さん。
三-Me. でオフィスを借りている移住促進の会社で働いている方。三浦さん自身も、2年前に茨城から移り住んだそう。
「2年で20キロ太りました。三条には、昔ながらの安くて量がめちゃくちゃ多くておいしい飲食店がたくさんで(笑)」
「あと、広い家に住めるのも田舎ならではですね。自分が住んでるのはもともと空き家だった家で、築97年、間取りが6SLDK。蔵が2個ついてなんと月4万5000円です」
東京では考えられない広さと安さ。羨ましいです。
「蔵はシアタールームにしたいなと計画中なんです」
新しく入る人も、空き家を借りて自分でDIYをしながら住まいをつくったり、まちなかのアパートを借りたり。自分の目指す生活スタイルにあわせて、いろんな選択ができる。
「やっぱりこのまちの一番の魅力は、いろんな面白い人がいるっていうこと。地域としても中小企業がすごく多いので、社長がめちゃめちゃいる。石を投げれば社長にあたる。日本一社長が多いまちって言われているんです」
日本一社長が多いまち、ですか。
「30代や40代の若い社長も多くて、地域を盛り上げようと、みんなすごく活動的なんです。躍動感があるというか。面白い取り組みがどんどん生まれているのは、ほかにはない魅力だと思います」
たとえば、まちのPRのために、地元の企業が中心となってつくったトレーディングカード。地元企業や団体を擬人化していて、販売から6年でなんと200社のキャラクターが誕生。国内最大の漫画の祭典「コミケ」でも販売している。
ほかにも、工場を開放してものづくりの見学ができる「工場の祭典」など、面白い取り組みが次々に生まれている。
「歴史的にも、江戸時代から職人や商人が行き来する地域で。だから、面白いものがあれば歓迎してくれる。移住者に対してもフラットに接してくれるので、活躍している移住者もすごく多い。チャレンジしやすい地域だと思います」
この2年間で三条市へ移住した人は98人。いろんな人を受け入れる土壌があるまちだから、新しく来る人も安心して地域に入っていけると思う。
最後に、印象的だった平野さんの言葉を紹介します。
「空き家って、全国的にも大変な問題。でも、本当は逆というか。自分たちの力で、自分たちのやりたいことを実現できる場だと思うんです」
手を加えれば、お店にも、宿にも、交流拠点にもなる。新しいものをつくるよりハードルが低く、チャレンジしやすい場とも捉えられる。
三条市内の空き家の数は、約4500軒。
それだけの空き家が、いろんな人たちの挑戦に変わったら、まちはどんな景色になるだろう。
自分がつくった作品が、だれかの挑戦を後押しして、まちを豊かにする。手を動かすたのしさと、やりがいの両方を感じられる仕事だと思います。
(2024/11/06 取材 高井瞳 )