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町、学校、高校生
みんなをつなげて
育むやかげ学

小学生のころ、職業体験で町の写真館へ行きました。

ひらがな混じりで書いた名札を身につけて、はじめてカメラを構える。フィルターをのぞいて、写真館のおじさんがフレームに収まるよう、首を動かす。ぎこちなく、上手にできない。

実際に、お客さんの撮影を見学することに。「いい笑顔」「こっち向いて!」元気よく声をかけ、流れるようにテキパキと撮影が進む。お客さんの帰り際には、深く深くお辞儀をして見送る。

働くおじさん、かっこいい。素直にそう思いました。

身近で働く大人の、仕事に向き合う姿。職業体験は、のちの人生に大きく影響を与えることもあるかもしれません。

舞台は、岡山・矢掛町(やかげちょう)。

町内にある矢掛高校にて、2009年に町と連携した体験的学習プログラム「やかげ学」ができました。

参加生徒は、町の歴史や文化を教わったあと、週に1回、町内の小学校や福祉施設など、さまざまな事業所に分かれて実習を行います。約1年間の取り組みのあと、最後にその成果を発表。

今回は、やかげ学をコーディネートする地域おこし協力隊を募集します。

参加生徒のサポートや、高校の先生、受け入れ先の事業所とのコミュニケーションなど。多くの人と関わりながら、やかげ学をよりよくしていきます。

高校生が、自分なりに課題を見つけ、解決方法を考えて、大人からフィードバックをもらう。自立的な姿勢で臨む、噛み応えのあるプログラムにアップデートしていきたい。

地域×教育に興味がある人は、ぜひ読み進めてみてください。

 

岡山駅から伯備(はくび)線に乗り、倉敷を過ぎた少し先の清音駅へ。井原線の一両のワンマン列車に乗り換えて山間を走り、矢掛駅に着いた。

江戸時代には宿場町として栄えた矢掛町。何百人もの大名行列に、まち全体でおもてなしをしていたそう。

車を少し走らせると、築200年を超える古民家を改築した宿や、看板にオムライスのイラストが描かれているカフェなど。新しいお店もできているようだ。

まず向かったのは、矢掛町役場。

役場内には、矢掛高校を支援するための集まりがあるんだそう。そこで特任参事をされている、妹尾さんが迎えてくれた。

「もともとやかげ学は、町のことを知り、実習を通して自己の成長を感じる。その先で、矢掛町への愛が醸成されるように。そんな想いで、矢掛高校ではじまったカリキュラムです」

役場や福祉施設など、矢掛町で働く人たちを講師として招き、地域の人がどんな思いで町をつくってきたのかを学ぶ。

2年生の二学期からは、実習がはじまる。毎週木曜日の午後、施設ごとの班に分かれ2時間ほどの実習へ。

受け入れ先は14施設ある。

図書館では本を配下し、カウンターで接客。高齢者施設では利用者と一緒に体操をする。保育園では園児のお昼寝を見守り、小学校では授業の補助。

実習は、3年生の夏まで続く。その年の12月には、実習の締めくくりとして学んできたことを文化センターで発表する。

実際に保育園へ実習に行った生徒が、大人になって保育士として戻ってきたり、町のイベントやボランティアに参加する高校生が増えたり。若い世代が、町とつながる取り組みとなっている。

15年目を迎えるやかげ学。このタイミングでコーディネーターを募集するのは、どんな理由があるのでしょう?

「15年間、同じ場所で、同じ内容を繰り返している実習先もあり、型にはまっているような状態で。本来の目的である、高校生の自立した姿勢が育つようなプログラムにしていきたいんです」

今回募集する地域おこし協力隊は、参加生徒、送り出す側の学校、受け入れ先の事業所の3つをつなぐハブのような役割を担う。

任せたいことは主に二つ。

ひとつは、参加生徒が主体的に活動するヒントを得るため、受け入れ先の現状と課題を聞き出すこと。

「受け入れ側のみなさんも、受け入れ始めた当初から状況も変わっている。今はこうしたいという要望も、どこまで伝えればいいのかを迷われていて」

保育園や高齢者施設のように、状況によって高校生の判断だけでは任せられない現場もある。受け入れ先にはどんな課題があって、どこまで任せられるのかを聞き取り、高校生の活動へ落とし込んでほしい。

その際も、聞き取った課題を生徒にそのまま伝えるのではない。

「なぜ参加してるんだろう?」「どうすれば受け入れ先の役に立てるだろう?」と、参加生徒が自問自答できるよう、生徒に問いかけてみて、考えを言葉にするきっかけをつくってほしい。

もうひとつが、生徒とのコミュニケーションを通じた客観的な評価。

いまの評価方法は、活動を振り返るためのシートに生徒が書き込んで、受け入れ先と教員がそれぞれコメントを返すかたち。

受け入れ先はひとつではないから、一律で評価基準を設けることができない。さらに、受け入れ先も通常業務があるなかで、毎回丁寧に評価してあげられないこともある。

たとえば、やかげ学を通して生徒がどう成長しているのかを示せるような評価指針を考えてみたり、実習のあとに1on1のような場を設け、フィードバックをしたり。

よりよくするためにできることがあれば、どんどんかたちにする姿勢が大事だと思う。

 

去年からは、役場も実習先の一つに加わったのだそう。受け入れを担当している赤澤さんが、つづけてくれる。

「役場内に設置された町活性化推進室というのがあって。秘書広報業務を基本に,まちが元気になるためのことを考えていく場所なんです。そこに、やかげ学実習生という係をつくって、各課からの依頼案件を解決してもらう内容にしています」

「大事にしているのは、できるだけ生徒たちが自ら考えて実践してみること。僕らは相談役として、そばにいるだけです」

「この前、生徒さんにつくっていただきました」と見せてくれたのが、不法投棄の啓発看板。

「今どきの生徒は、パソコンでデザインができるんですよ。実際、町に掲示されていますよ」

「町の困りごとへの解決方法は、正解がないものもある。そのため、役場の人間だけが考えなくてもいいわけです。高校生なりの視点やスキルが加わって、うまくいくことがある」

町に掲示されることで、参加生徒の実績にもなるし、町と高校生が手を組んで、課題解決に取り組む、まちおこしの側面もある。

ほかにも、線路への落とし物を防止するための啓発方法を考えたり、町内のものづくりの工場と一緒にマスキングテープをつくったり。意欲的に参加する高校生は増えてきているそう。

これだけ近くで、子どもたちの成長を見ることができるのは、大きなやりがいになると思う。

 

今回コーディネーターとして来てくれる人は、高校を拠点にしつつ、実習先に行くため外に出る時間も多くなると思う。

高校側はどんな雰囲気なのだろう。役場から歩いて10分ほどの矢掛高校へ。

廊下を歩くと、生徒が「おはようございます!」と元気に挨拶してくれる。

やかげ学を担当している、吉岡先生が迎えてくれた。野球部の顧問も担当されていて、日焼けとポロシャツがとてもお似合いだ。

やかげ高校一筋、14年。やかげ学に関わり始めたのは、9年ほど前から。

「僕は教員一筋で、就職活動も、企業さんから内定もらったことも、きちんとした履歴書も書いたこともない。『社会は厳しいぞ』といったところで、何の説得力もないんですよね」

「だから、キャリア教育の一環として、やかげ学の存在は不可欠なんです。受け入れ先のみなさまには本当に感謝しかなくて。町全体で、応援されていることを実感しますね」

これから入る人は、吉岡先生と、もうひとりの先輩コーディネーターと一緒に進めていくことになる。その方は、やかげ学の広報や、生徒の進路指導がメイン。身近な相談に乗ってくれると思う。

まずはやかげ学の歴史と現状などをふたりに教えてもらってから、各事業所を回ったり、生徒とコミュニケーションをとったりしていくことになると思う。

「僕らは教員として、生徒の普段の様子を知っている。受け入れ先の課題を聞き出したうえで、生徒ごとの適性をみることはできるので、一緒に考えながら、進めていきましょう」

吉岡先生は、どんな人に来てほしいですか。

「生徒の活動を、となりで黙って見るのが大事で。もしかしたら失敗するかもしれないけど、見守る。失敗体験も生徒にとって必要なこともある。そういった塩梅がうまくできる方が理想かな。難しいんですけどね…本当に」

「何より大事なのは、生徒のことを好きになれる人。素直で、いい子ばかりなので。自分の子どもみたいな目線で見てあげて、適切なアプローチをしてあげられたら最高ですね」

活動についてだけでなく、進路や部活、家族のことなど。高校生を取り巻くさまざまなテーマについて生徒と話すことも大切かもしれない。

「生徒たちが、次は今日よりうまくできるように、自分たちの成長の成果が見えるように。そのために、コーディネーターの方が生徒にひと声かけてあげるだけでも、安心感は全然違うと思います」

 

最後に向かったのは、受け入れ先のひとつである図書館。迎えてくれたのは、館長の森さんだ。

図書館での実習は、本の貸し出しや相談ごとなど、利用者さんへの対応がメイン。それ以外にも、新しい本の登録や、イベントの手伝いなどもある。

やかげ学立ち上げ当初から受け入れをしているため、カリキュラムが充実している。

「ブックカバーといって、本が痛まないようにビニールコートを貼る作業があるんです。唯一、失敗したらやり直すことができないので、生徒さんたちは、その仕事が一番緊張するみたいですね(笑)」

「借り手として利用していたときとは、カウンターの中はまったくの別世界ですから。実際にやってみてわかることがたくさんあるんです。それに立ち会えるのは、とても楽しいですよ」

図書館では受け入れ時のカリキュラムを充実させているけれど、ほかの事業所だとそうとは限らない。

さまざまな受け入れ先を見るなかで、どの事業所でも充実した内容になるようサポートすることができたら、やかげ学全体の向上につながるはず。

「昔は言われたことをこなすのが楽しいと感じる子が多かったけれど、最近は、自分でも何かやってみたいと思う子が増えている気がしています。ただ、そのための実習内容をこちらで用意するのも限界があって」

最近参加した生徒が、自ら企画したというブースを見せてくれた。小学生におすすめの本を選書し、自作の看板を掲示している。

「利用者が、本棚の前で立ち止まって選んでいる姿もありました。私たちが気づかない、高校生ならではの視点は素晴らしいものがありますね。だからこそ、日々の気づきを表現できるような環境を整えてあげたい」

「町も学校も、そして生徒も。のびのびと育つ姿が見れるのは、とてもやりがいがあると思います。一緒に、やかげ学をよりよくしていきたいですね」

 

ここには、15年やかげ学をつづけてきた豊かな土壌があります。

子どもたちが、地元愛を持ちながら、外の世界でも自立して生きていく力を身につけてほしい。

矢掛町で、その未来をともにつくってみませんか?

(2024/09/18 取材 田辺宏太)

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