小松市と聞いて、ぱっとわかる人はどれほどいるだろう。
石川県小松市。金沢から電車で10分、車でも30分ほどと近い距離にあるまち。
巨大な黄色い重機で有名な小松製作所の創業地として知っている人もいるかもしれない。
空港もあるし、北陸新幹線が延伸したことで地上でのアクセスもよくなった。
そんな小松市。これから面白くなりそうなのだ。
先陣を切っているのが、小松DMC。2024年につくられたまちづくり会社で、城下町と港町にある古民家2棟を宿にする計画が進行中。
さらにはガストロノミーツアーなど、小松市に眠るコンテンツを発掘し、発信する準備をしているところ。
今回は、宿の支配人として入り、まちづくりにも加わる人を募集します。
新しい環境に飛び込んでみたい。人と話すのが好き。そんな人に活躍してほしいです。
小松へは、東京から北陸新幹線で3時間ほど。はくたかに乗れば、乗り換えなしで行くことができる、飛行機では1時間。
小松駅は2024年にできたばかりで、モダンな雰囲気。鉱石のギャラリーやコワーキングスペースなどもある。
東口を出たところには、巨大なコマツの建機が展示されている。
最初に向かったのは、車で10分ほどの場所にある小松市役所。
迎えてくれたのが、古民家活用などを手がける会社・NOTEの石﨑さん。2024年にまちづくり会社として設立した小松DMCの代表でもある。
物腰柔らかな口調で、わかりやすく話を進めてくれる方。
石﨑さんとお会いするのは3回目。
以前取材したときは、地元である小松でまちづくり事業をするためにNOTEで学んでいる、と話してくれた。
当時話していたことが現実になっていますね。
「そうなんですよ。ようやく地元で事業を形にするところまで持っていくことができました」
事業のきっかけは、小松のポテンシャルにあらためて目をつけたことから。
空港が近くにあり、新幹線の駅も完成。台湾や上海などからの国際線もあり、インバウンドの誘客も狙える。
ただ、多くの観光客は小松を通り過ぎ、観光地として有名な金沢に行ってしまう、というのが大きな課題だった。
歴史を見ると、海側に北前船の寄港地があり、駅前は城下町の中心。昔ながらの町家通りが残っていて、九谷焼などのものづくりや歌舞伎の文化が根付いている。
たとえば歌舞伎だと、義経と弁慶が出てくる有名な勧進帳の「安宅の関」の舞台も小松。祭りの際には曳山がまちを練り歩き、子ども歌舞伎が披露される。
「小松にも面白いコンテンツはたくさんある。それを体験してもらうためにも、まずは拠点となる宿を2棟建てます。一つは駅から少し歩いたところにある昔の街道沿い。町家を改修して宿にします」
「もう一つは、海側に北前船の船主の元お屋敷があって、そこを宿にする予定です。11月から着工していて、2025年の夏にオープンする計画ですね」
町家の宿は、一階がオープンカフェになり、二階が宿泊エリアになる。
オープンカフェにするのは、宿泊者だけでなく、地元の人や観光客が入り混じる空間をつくりたいという目的なのだそう。
「小松市とNOTEとJR西日本で、小松の地域活性化に向けた連携協定を結んでいるんです」
「それに伴って、空港や駅前のエリアを、それぞれどう活性化するか計画を描いていて。とくに町家エリアはまち並みを残していきたいということで、市と協力して事業を進めています」
まちづくり会社である小松DMCとしては、まずはNOTEの知見を活用して宿をつくり、まちづくりの拠点にする。
そして同時に別事業として、観光庁の補助金を得て、ガストロノミーツーリズムの計画も進行中だ。
「地域産品を使ったメニュー開発と、食と器をテーマにしたツアーを企画していて。小松には有名なシェフが営むオーベルジュがあるんですよ。そこと九谷焼の作家さんとのコラボで、ひとつのコンテンツをつくり、小松全体を体験してもらう、それをインバウンド富裕層向けに販売する」
「2泊3日で大体50万から60万ぐらいの価格を想定しています。シェフがつくった料理を、その料理のためにつくった器で食べてもらう。そして器の作家さんの話も聞ける。そういった小松ならではのガストロノミーツーリズムを、次年度以降、商品化していきたいと思ってます」
海側のお屋敷の宿は、インバウンド向けに高単価にする予定。近くの料亭から食事を出してもらい、宿での滞在を楽しんでもらう。
「それぞれ3室ずつで6室。稼働は30%くらいを予定しています。もちろんそれ以上のお客さんが来るぶんには来てほしいんですけど(笑)。地域の方にも活躍してもらって、雇用も生めたらいいなと」
宿を一つの拠点に、まちの資源を活用した事業をつくっていく。ホテル業ではなく、まちづくり業をしていきたい、と石﨑さんは話す。
「駅前のアーケード街に、飲食店がすごく揃っているんですよ。チェーン店じゃなく、個人店のお寿司屋さんとか日本料理屋さんとか。バーも3、4軒あって」
町家の宿はカジュアルに朝食のみにして、夜は地域に出て食べてもらう想定。
「もちろん初見だと入りにくいと思うので、そこは僕たちスタッフが間に入ります。地域の人間がハブになることで、お店の方も受け入れてくれるので」
「地域には本当に多様な方がおられて。この前スナックに行ったとき、ずっと洋楽を歌ってるおじいちゃんがいたんですよ。聞いたら、ルイジアナにいたと。なんでいたんです? って聞いても教えてくれないんですよね」
不思議な方ですね。
「そしたら店員さんがそっと、小松製作所の人だからって。つまり海外駐在していたわけですよ。たぶんそういう人、すごく多いんです。ほかにも航空自衛隊基地や村田製作所もあるので。リタイア世代も面白い人が多い」
「小松ならではのディープな体験もしてほしいですよね」
すでに3棟目4棟目と宿を増やしていく計画もある。
今回募集する人には、今後増えていく宿にも関わってもらう予定だ。
「今は市も積極的に動いてくれているので。景観を守りつつにぎわいをつくっていく」
「まちを少しずつ、手触り感を持って変えていけるフェーズなので、本当に面白いと思いますよ。事業者もまちの人も前向きに動いてくれつつある。このあたりの話は、たぶん佐藤さんにも想いがあるんじゃないかな」
「そうですね」と話を継いでくれたのが、ともに話を聞いていた小松市役所の佐藤さん。
民間登用で市役所に勤めている方で、石﨑さんと共に今回のプロジェクトを進めている。
もともとは不動産畑で働いていたそう。小松が地元だったこともあり、市役所の民間登用に応募した。
「不動産の世界にいたので、空き家をどうにかしたいと思って。マンションとかになってしまうのはもったいない。それでNOTEさんの事業に賛同して、石﨑さんと一緒に事業を進めてきました」
現在は行政の立場から事業に関わっているため、石﨑さんとともに官民あわせていろんな相談がしやすい環境。
たとえば、移住の際の補助金や空き家など住まいについての相談もできるし、ぜひ気軽に聞いてほしいとのこと。
「小松の人は地元意識もあるんですが、そもそも小松製作所とか航空自衛隊があって、毎年3000人から4000人ぐらいの人が転勤で入れ替わっているんですよ。だから受け入れ慣れている面はあると思います」
「あとはみんな小松のことが好きなので(笑)。『小松が好きで、小松をよくしたいんです。私こんなことできるんです』って言えると、すごく仲良くなれます。自分から一歩踏み込んでみることが大事なんじゃないかな」
行政の人ながら、民間の柔軟性も持ち合わせている佐藤さん。仕事にとどまらずいろんな相談ができると思う。
「小松はものづくりのまちだから、『何できんの?』って言う人が多いんですよ。俺らはこういうもんつくってるけど、おたくは何できるの? って」
「そこで自己紹介をちゃんとできるのがコツかな。人間10年でも働いたらできることっていろいろあるので」
場所を移動して駅のカフェへ。
待ってくれていたのは、株式会社水星の荒木さん。
水星はホテル開発やプロデュースを主な事業としている会社。今回の宿の事業では、水星がコンセプトづくりやデザイン、オペレーション構築などで協力している。
金沢にあるホテル「香林居」の運営に携わり、小松の事業者とも関わりを持っていることから、今回の事業にも参加することになった。
「宿がまちづくりの拠点になる、というところがミッションだと思っていて。まず短期的にはちゃんと集客できる宿にする。中長期では、小松エリアを『旅したいまち』にする、という考え方が必要だと思っています」
「歌舞伎とか九谷焼とか、いろいろなコンテンツがあるけれど、小松の魅力に気づいている人ってまだまだ少ない。僕らも今回のプロジェクトで初めて小松に来て。『金沢もいいけど、これからは小松っすよね』みたいな感じをつくっていきたい」
旅好きこそ、金沢じゃなく小松へ。
そんな雰囲気をつくることができたら、北陸のなかでも魅力ある観光地になることができる。
「金沢と絡めた比喩で言うと、広島と尾道、京都と奥京都、長崎と五島列島、みたいな。そんなふうに、金沢と小松、と認識されていけば勝機があると思うんです」
荒木さんたちが考えたコンセプトキーワードが、「クリエイション」と「デイズ」。
金沢のアートやモダンとは異なる、日常のなかにある創作性。
自分で使うお皿をつくる、料理を工夫する、小さなビジネスを始めるなど。手に届くクリエイティブがあるのが小松なんじゃないか。そしてそれが日常にあるのが魅力なのではないか。
「ガストロノミーツアーのシェフが言ってたんですが、とくに縁もない小松に来たのは、小松らしさ、みたいなものがなかったからだって」
小松らしさがない?
「たとえば京都だと京都らしい雰囲気とかがあるじゃないですか。小松にはまだそれがなくて、これからつくっていける。そして誰しもが創作できる面白さがある」
「クリエイターの方が意外とたくさんいるのも、そういった創作性を自由に発揮できる土壌があるからだと思うんです。これはまちづくりでも同じなんじゃないかな」
新しく入る人も、宿やまちづくりの文脈を一から自分たちでつくっていけるということに、やりがいや面白さを感じられる人だといい。
宿のオペレーションについては、初心者でもサポートしてもらえる体制もある。客室が少ないぶん、チェックインを顔認証にして自動化するなど、簡素化できる要素は多そうだ。
代わりに、夜のご飯の案内や、宿のコンセプトを自分の言葉でお客さんに伝えることができるか。その「伝える力」は求められるかもしれない。
最後に、NOTEの石﨑さん。
「僕の本音で言うと、地域に馴染めるかっていうのが一番重要だと思っていて。高い稼働率を目指しているわけではないので、そのぶん地域に溶け込んで、小松を好きになってほしい。そのサポートはしっかりしたいと思ってます」
「宿の顔になってほしいですよね。あの建物見たらあの人が浮かぶ、みたいな。それができたら、宿もまちづくりも安泰なんじゃないかな」
(2024/11/21 取材 稲本琢仙)