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使い込むほど、自分のものになっていく感覚。
素材の個性や経年変化も味わいになる、唯一無二の魅力が革製品にはあります。
バッグと革小物のブランド「VASCO」を展開するアンカーミルズ株式会社。
天然皮革を材料に、自社で企画・製造・販売する商品は、新品でありながらヴィンテージのような風合い。唯一無二の雰囲気は、多くのファンから愛されてきました。
今回募集するのは、主に製造を担うスタッフ。将来的にはショップでの接客や生産管理、マネジメントにも仕事の範囲が広がっていく可能性もあります。
お店やブランドづくりを経営視点から考えることもできるので、将来的に独立したい人も学べることの多い環境だと思います。
再開発が進む中野駅の北口。広い公園を囲むように、区役所や警察署、商業施設や大学が立ち並んでいる。
歩いて10分ほどで、静かな住宅街に佇む、VASCOの直営店兼工房に到着。
ふらっと立ち寄るというよりは、わざわざ目掛けて訪れるお店なんだろうな。
出迎えてくれたのは、代表の並木さん。お店の奥にあるカウンターを挟んでお話を聞く。冷静で穏やかな雰囲気のなかに、情熱を感じられる方。
「若いころ、旅人になるか仕事をするか迷ってたんですよ。一回くらいバックパッカーやろうかな、みたいな。縁があって働くことにして、だったら仕事であちこち行けたらいいなと思って、バイヤーを目指すことにしました」
もともと好きだった古着の販売や買い付けを経験するなかで、ヴィンテージの革製品を扱うむずかしさを知る。
劣化が激しかったり、カビが生えていたり、昔のデザインだと現代のサイズ感と合わなかったり。
「かっこいいんだけど使えない、というものが多い。だったら、それに似せたヴィンテージ加工を施したものをつくろうと思ったのが最初のきっかけです」
2009年に立ち上げたVASCOは、航海士ヴァスコ・ダ・ガマの名に由来している。
コンセプトは「旅の道具」。
「旅って、あれもこれも持っていくのではなく、『これさえあれば』というものだけで完結させるのが僕の感覚。淘汰されるなかで、残るものをつくっていきたいという想いで、ずっと使える定番品を販売しています」
商品の企画やデザインは、すべて並木さんが担当。少しずつアップデートはするものの、基本的なラインナップは、年やシーズンによって変わることはない。
「このショルダーバッグは、ずっと人気の定番商品です。かつてアメリカの郵便配達員が使っていたメールバッグをベースに、現代でも使いやすいようにアレンジして。10年以上前につくったものだから、変えたい部分はいくつもあるんですけどね」
天然の皮は経年変化しやすいため、化学薬品で品質を一定にするつくり方もあるものの、VASCOではそのままの風合いを生かしている。
素材の傷やムラもそのまま使うから材料のロスも少なくなり、商品価格も手頃で利益率も高い。
「うちの加工はすべて手作業なので、大手の量産システムには組み込めません。差別化できるから、今は国内に競合もいないし、価格競争に巻き込まれない。スタッフの給料にも還元することができています」
今でこそ順調なものの、10年ほど前はまったく利益が出ない時期もあったという。
「もともとは職人の感覚的な部分が大きくて、キリがいいところまでやろうと作業していたら、残業が必要以上に増えてしまうこともあった。コストがかさんで、やればやるほど赤字だったし、スタッフも疲弊してしまいました」
そこで導入したのが、材料の原価や商品価格、出荷数など、緻密に計算式を組み込んだ自作のフォーマット。
作業ごとに目安の作業時間を設定し、その時間で完了。目標個数を出荷した場合のコストと利益が、瞬時にわかるようになっている。
「この数をつくれば利益が出る、というラインが明確にわかることで、効率的な動きができるようになりました。材料の量と、スピードと、品質。そのバランスを保つことを意識して、今のメンバーは働いてくれています」
スタッフはアルバイトも含めて10名ほど。全員が製造に関わりつつ、生産管理や販売などの役割を担う人もいる。
小さい組織なので、並木さんの経営的な視点にも触れることの多い環境。
職人的なものづくりに向き合いたい人よりは、俯瞰的な視点で会社全体を見られる人のほうが合っているかもしれませんね。
「そうですね。うちがやっているのは、技術を使ってどう見せて、どのように売っていくか、ということ。一部に特化するのではなく、経営していくための全体のバランスを大事にしています」
「お客さんのほうをしっかり見ることも大事です。自分たちがいいと思うものだからOK、じゃなくて、お客さんに喜んでもらいたい、満足してもらいたいという気持ちで取り組んでほしい。それは品質にも表れてくると思います」
お客さんが喜ぶものをつくり、ブランドの認知を広げていくことが、会社を育て、自分の給与や待遇がよりよくなることにもつながっていく。
そのサイクルに共感できる人なら、学びながら楽しく働き続けられると思う。
「業界のなかには、つくることに注力したい人も多いと思うけれど、僕はそういう思考はあまりなくて。接客や管理、経営に近いような業務もやりたいと最初から思っていたんです。なので、いろいろ挑戦できる今の環境はありがたいですね」
そう話すのは、製造と生産管理を担う入社3年目の八木澤さん。
「もともとアメカジが好きで、よく行くお店にVASCOのバッグが置いてあったんです。これと同じものを持っていて、お弁当を入れて毎日通勤に使っていました」
前職は税務署の職員。安定はしていたものの、何十年も働くならやりたいことを仕事にしたいと、まったくの異業種から転職してきた。
「生産管理の仕事は、材料の発注や外注への依頼、あとは卸先とのメールのやりとりや商品の発送。製造では裁断を主に担当していて、納期に遅れが出そうなときはほかのポジションをサポートすることもあります」
商品の製造は、下処理後の皮を仕入れるところから。社内で染色し、パーツごとに無駄がないよう裁断していく。
縫製はある程度型が決まっているので、独立した元社員や、提携工場に依頼することが多い。
最後に、ヴィンテージ加工を施して商品が完成する。
「人の手で作業をしているので、イレギュラーで納期がギリギリになることもあって。そういうときに誰がどの作業に入るか考えて、製造が円滑に進むように調整するのも役割ですね」
「急ぐんだけど、品質を落としたら元も子もないので、バランスがむずかしい。最後に出荷できたときは、やりきった達成感があります」
新人スタッフがまず覚える作業のひとつが、パーツの角を落として、滑らかな使用感を出すための「ヘリ落とし」。
こういった比較的難易度の低い作業から始め、目安の時間内で完了できるように訓練していく。
「ポイントで見ると、地味な仕事がほとんどなんですよね。パーツを並べて、まだ形になっていないものを扱っていく。そういうとき、やっぱり好きなことをやっているという気持ちが大事な気がします」
好きなことをやっている。
「発注を受けて、裁断して仕上げて出荷まで。自分が好きなブランドの一連の流れに関われている。それは、転職して本当によかったなと感じることです」
一緒に働く清宮(せいみや)さんも、八木澤さんと同じく、もともとVASCOのファンだった方。今は販売と加工を主に担っている。
もともとはイタリアンのシェフとして働いていた清宮さん。別のレザーブランドを数年経験したのち、半年ほど前に入社した。
「新品ピカピカの革を持つのってちょっと恥ずかしいじゃないですか。VASCOは新品なんだけどヴィンテージに近い雰囲気がすごく使いやすくて。10年以上前から通っていて、バッグもいくつもオーダーしました」
見せてくれたのは、10年以上使っているという私物のトートバッグ。
最初は焦げ茶だった色が、だんだんとオリーブっぽく、艶のある色味になってきたそう。
「料理もそうですけど、自分で手を加えて、なにかが変わっていく様が好きなんです。この仕事もプライベートの延長のような感じがします」
商品のイメージをつくる、最後の加工を主に担当している清宮さん。
縫製が終わったカバンを、ぐしゃぐしゃに揉んでシュリンク加工をしたり、染料で濃淡や焦がしたような風合いを出したり、オイルであえてシミをつけたり。
「正直、入るまではここまで手が込んだ加工をしているとは思っていませんでした。ヴィンテージのバッグや洋服はもともと好きなので、自分の感覚もこの仕事に活かせている気がします」
「長く使ったときのシワを計算して、自然に見えるように手を加えていきます。何も考えずにやっても、お客さんが使いたいと思えるものには仕上がらない。個体によってアレンジが必要なので、全部同じ仕上がりにならないところが、むずかしさであり楽しさですね」
自分がいいと思えるものをつくれたら、それがお客さんにも喜んでもらえるものになる。
もともとお店のファンだからこそ、お客さんのほうを向きながらも、自分の感性を反映して仕事ができる。
店舗に立つ機会も多い清宮さん。お客さんは大学生から60歳くらいまでで、男性がほとんど。
直営店は基本的に受注生産なので、相談に乗りながら、お客さんに合うモデルやカラーを一緒に決めていく。
「仕事用ならカッチリしたモデルをおすすめしますし、カラーも経年変化を加味してアドバイスしています。スタッフの私物もエイジングのサンプルとして置いてあるので、『この色だとこんなふうに変化しますよ』とイメージも伝えやすい。オーダーいただくまでのコミュニケーションの過程はすごく好きですね」
お客さんとの会話をヒントに、ものづくりをすることもある。
「たとえば、カードケースがほしいっていう声が多くあれば、みんなで話し合って、次の展示会で出してみるとか」
「製造の作業だけやっているとお客さんの意見を聞けないので、販売と製造のあいだをつなぐ立場でもあるんですよね」
どんな人が合っている仕事だと思いますか。
「使う人のことを考えて作業できる人かなと思います。ヘリ落としひとつにしても、実際に手に触れるところなので、角が立っていると気になってしまう。お客さんの立場になって、手を抜かずにできる人だといいですね」
物腰は柔らかでも、そのなかにしっかりと想いを持っているみなさん。
近い空気感の人たちが集まってきているのだと思うし、代表の並木さんの考えが社内に浸透していることも印象的でした。
好きなことを仕事にして、お金もしっかり稼いでいく。簡単なことではないけれど、ここではそのサイクルがきちんと回っているように感じました。
VASCOの世界観と会社のあり方に共感できる人なら、ブランドをより大きく育てる一員になっていけると思います。
(2025/02/04取材 増田早紀)