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金継ぎ職人や、建築家、ゲーム制作チームなど。個性豊かなクリエイターが集まったら、どんなアイデアが生まれるだろう。
地域の課題をクリエイターと市民が一緒に考え、解決案を生み出していく。
そんな新しい取り組みに挑戦している施設があります。2024年に埼玉県川越市にオープンした川越市文化創造インキュベーション施設、愛称「コエトコ」。
実践的な取り組みはクリエイター自身の成長にもつながる。まちを豊かにしながら、人も育てる。そんな良い循環を生み出す拠点を目指しています。
オープンから1年。たくさんのゼミやイベントを開催してきた一方で、まだまだ施設の目的が浸透していないのが現状。
今回は、一緒にコエトコを育ててくれるメンバーを募集します。
まずは、サブコーディネーター。クリエイターや地域の人との日々のコミュニケーションや、川越を盛り上げるための企画などを担当します。あわせて、窓口業務や請求書発行、報告書の作成などを担う事務スタッフも募集します。
経験は問いません。企画やまちづくりのキャリアに挑戦したい人にとって、たくさんの実践が積める場所だと思います。
池袋駅から東武東上線に乗り30分で川越へ。
かつては江戸時代の城下町として栄えた川越市。蔵造りのまち並みが今も残り、たくさんの観光客で賑わう。
老舗のうなぎ屋さんや、特産品のサツマイモを使ったお饅頭屋さん。おいしい匂いにつられないように商店街を進んでいくと、コエトコを見つけた。
この施設は、明治時代末期に栄えた旧川越織物市場などを復原したもの。
入り口を抜けて奥に進むと、東西それぞれに1棟ずつ、長屋が向かい合うかたちで建っている。それぞれの部屋は、クリエイターのオフィス。
まずは川越市から運営支援の委託を受けている株式会社iop都市文化創造研究所の代表永田さんに話を聞く。
「コエトコは、クリエイターのインキュベーション施設としてオープンしました。ただ、通常イメージするインキュベーションとは少し違うんです」
「ビジネスに関する情報提供などを通じて、事業を支援するのが一般的。でもコエトコでは、地域課題解決プロジェクトの実践の場を提供することで、リサーチ能力や企画力などのスキルを身につけてもらいたいと思っているんです」
コエトコでは、定期的に「川越クリエイティブゼミ」を開催。入居クリエイターや公募で集まった一般市民が参加し、行政や地域の人から持ち込まれた課題をテーマに、アクションプランを考えていく。
一つのゼミのプログラムは、2ヶ月で計5回ほど。参加者はグループに分かれ、課題のリサーチや、グループワーク、発表などを行う。
大事なのは、ただアイデアを出して終わりにするのではなく、実践する場所を用意すること、と永田さん。
その一つの受け皿として、コエトコの中庭を使って「ぴか市」というマルシェ的なイベントを定期的に開催。ゼミで出たアイデアや考案した商品などを試す場所として活用できるようにしている。
永田さんがこの活動を提案する背景には、これまでの経験がある。
iop都市文化創造研究所では、2012年から神戸のデザイン・クリエイティブセンター神戸(通称KIITO)という施設を運営。同じようにクリエイターが地域の課題解決をするゼミを実施してきた。
「KIITOでは、高齢者の孤立や、防災の問題などさまざまな課題をテーマに40回以上のゼミを実施してきました。そのなかで、いろんな案がうまれて実践されてきたんです。ここでの取り組みがきっかけで全国に広まった取り組みもあるんですよ」
たとえば、街区公園とよばれる小規模な公園の活用について。利用者が少ないこの公園を地域の人の交流の場として活用したいという行政の課題を受けて、ゼミを開催した。
「提案の一つに、ピザ窯を設置するというものがあって。試しに、仮設のピザ窯を設置してワークショップを企画したら、普段は誰も来ない公園に100人も人が集まったんです。そこから、ピザ部という地域の活動も生まれてピザイベントが開催されるようになりました」
「地域の課題って、置き去りにされているものが多いと思うんです。課題に取り組んでいる人たちだけで考えると視野も狭まるしブレイクスルーするのは難しい。地域の人たちに寄り添いながら、課題を一緒に考えられるパートナーでありたいと考えています」
クリエイターにとっても、リアルな地域の課題に触れてそれを実際に解決していくプロセスを経験することは、自分たちの仕事にも活きる。
「まちを豊かにしながら、クリエイターも育つ。川越でも、そんな一石二鳥にも三鳥にもなるような取り組みにしていきたいんです」
KIITOの立ち上げ、運営などさまざまなまちづくりの実績を積んできた永田さん。これまで培ってきたノウハウや知識から学べる部分も多いのではないだろうか。
「まちづくりの仕事は、わかりやすい正解があるものではないから、難しさもあると思います。でも、ゼミを通じて参加者が成長したり、まちが変わっていったり。そういう喜びがすごく多い」
「社会課題を解決したいとか、地域を豊かにしたいって思いがある人にとっては、その実感がもてる仕事だと思う。経験がなくてもいいから、一緒に汗をかける人が来てくれるとうれしいですね」
実際にコエトコではどんな取り組みが行われているんだろう。
iopから運営メンバーとして派遣されているチーフコーディネーターの佐藤さんからも話を聞く。
「ついこの間、2回目のクリエイティブゼミが終わったところで。川越の商店街の課題をもとに、『子どもが商店街をもっと楽しめるようにする』というテーマで考えてもらいました」
コエトコに入居するクリエイターや商店街の関係者など計13人が参加。そこで出たアイデアの一つを、実際に商店街のイベントで実践した。
それが、『まちなかたんけんビンゴ』というゲーム。お店の看板の一部など、商店街で特徴的な風景を撮影。写真と同じ場所を子どもたちが探して、該当のお店の人からシールをもらえるというもの。
「子どもたちがビンゴシートを持ってまちを駆け回っていたり、八百屋のおばちゃんが子どもにヒントをあげて楽しそうにしていたり。そういう様子を見ていると、いい時間にできたなと思いました」
「提案するアイデアも、1回で終わりではなくまちの人たちが自ら長く続けていけないと意味がないと思っていて。商店街も高齢化していて力がいることや手間がかかることをするのは難しい。ゼミではそういう現状も伝えながら企画を考えてもらうようにしました」
ゼミの課題設定を考えたり、商店街の人とコミュニケーションをとりながら実践の場所を用意したり。ゼミを実りあるものにしていくのが運営の仕事。
クリエイティブゼミのほかにも、クリエイターによるトークショーや、マルシェなど年間70件ほどのイベントを開催。
新しく入る人もさまざまなイベントの企画に携わりながら、実践を通して腕を磨いていくことができると思う。
取り組みが形になりつつある一方で、課題も残る。
「いろいろなイベントをしているけれど、結局コエトコがなんのための施設なのかが、まだ地域の人たちやクリエイターにもちゃんと理解してもらえてないんです」
地域の課題を持ち込めば、その解決策を提案してくれる場所。そんな認識をもっと広げていきたい。
「コエトコを活用してもらうためにも、僕たちが提供できる価値を整理して発信していかないといけないと思っていて。そのためにも新しく入る人に力を貸してもらいたいと思っています」
たとえば、入居クリエイターそれぞれの持つスキルや興味をまとめて市民に向けて発信してもいいかもしれない。
ほかにも、クリエイターの興味関心をもとに、地域課題のゼミを企画するなど取り組めることはたくさんありそう。
「自分もこの1年間いっぱい失敗してきたので、失敗はいくらでもしていい。まずはとにかく自分で動いて、試しながら挑戦してもらえたら嬉しいし、そのための場や機会を提供していきたいです」
コエトコでの仕事は、この場所を管理する市役所の職員や、入居者のクリエイター、地域の方などいろんな人と一緒に仕事をすることになる。
コミュニケーション量も多いし、大変な部分もあると思うけれど、自分たちで場を持ってたくさんの企画を経験できるチャンスも多いはず。
「この場所をきっかけに、企画職やまちづくりのキャリアに進んでいきたいと思っているような人がいたら、ぜひ一緒に働きたいなと思います」
コエトコには、どんなクリエイターがいるんだろう。
インディーゲームを製作している株式会社アトリエミミナのスタッフの下薗さんに話を聞く。
「入居して一番最初にあだ名で呼ぶようになったのが佐藤さん。今はあっきーって呼んでいます。今日はあっきーと一緒に働くいい人を見つけるためにも、頑張って話そうかな(笑)」
現在、下薗さんの会社で企画しているのは、ゲームイベント「ぶらり川越 GAME DIGG」。
インディーゲームやボードゲームを製作している個人や会社が全国から集まり、50種類以上のゲームを展示。コエトコと商店街内にある別の施設の2箇所が会場となっていて、参加者が自由にゲームを楽しむことができる。
「2つの会場を移動することで、まちを歩くきっかけにもなる。全国のゲームクリエイターに対して地域の魅力を伝え、川越にゲーム産業を根づかせられたらいいなと思っています」
イベントを企画する上で、コエトコに入居している魅力も感じ始めている。
「商店街の人にイベントのポスターを貼ってもらうお願いをするときも、あっきーが手伝ってくれて。自分一人だと地域の人との付き合いもないし、なかなかお願いするのが難しいけど、こうやって間に入ってくれることでとてもスムーズにできました」
ほかにも、イベントに必要な什器の業者を紹介してもらったり。コエトコのイベントで知り合ったデザイナーにグッズをデザインしてもらったり。コエトコでの人脈が活きている。
今回のゲームイベントのように、クリエイター発信で地域をよりよくする企画が生まれていくために。コエトコはどんなことができるといいでしょう。
「もっと気軽にコミュニケーションが取れるといいなと思います。あっきーとは普段、たまに見かけてちょっと話をするくらい。お互いの考えていることとか、地域でどんな人とつながっているかを知れたら、新しいアイデアも生まれると思う」
「あとは、もっと人が来る施設にしたいですね。たとえば、オフィスの前に看板を置くとか。私たちも本当は、自分たちがつくっているゲームをアピールしたいです。そのほうがお客さんも何をしているかがわかるし、賑やかになるなと思います」
下薗さんの提案に、隣で話を聞いていた佐藤さんも頷く。
「賑わいは大切だよね。たとえば、看板を統一すれば外観も保ちながら、賑わいも宣伝できるかも。一度、川越市の人に相談してみようかな」
まずは、一つひとつ積み重ねていくところから。
この施設を育てていくことが、自分自身の成長にもつながる。
そんな実感を持てる環境だと思います。
(2025/03/21 取材 高井瞳)