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1日で読める本は、1日で書き上げられるわけではないし、2時間の映画も、2時間ではつくれない。
当たり前のことだけど、あらためて意識してみると、ひとつの完成物はたくさんの時間とさまざまな人の手によって成り立っていることに気づきます。
では、1枚の服ができるまでにどれほどのパーツが必要で、どんな手仕事が隠れているんだろう?
岡山県の最南端に位置する、児島。デニムのまちとして知る人は多いかもしれません。
そこで長年にわたりカジュアルシャツの製造を手掛けてきたのが、株式会社ワイヤード。アパレルブランドのOEMだけでなく、オリジナルブランドも手がけています。
今回募集するのは、ここで縫製の仕事を担う人です。あわせて、オリジナルブランドの運営・広報をするスタッフも募集します。
知識や経験があれば嬉しいけれど、必須ではありません。一から技術を習得した先輩もいます。「経験者でなくても働ける状態をつくる」ことも、ワイヤードがいま意識的に取り組んでいることのひとつです。
ライフステージが変わっても続けていくことができる縫製の仕事。ひとりで黙々と、仕事に向き合える環境でもある。けれど、必ずしも割がいいとは言えない面もあるんだそう。
縫製の仕事を残していきたい。そして、より健全な働き方にしていく。その使命を持った会社をぜひ知ってほしいです。
岡山駅から高松に向かう在来線が瀬戸大橋に差しかかる手前に、児島駅はある。ホームにある自動販売機や、階段にも、デニム柄。
駅のそばには「ジーンズストリート」があって、デニムショップや、藍染め体験の看板が並んでいる。
駅から車で10分ほど離れたワイヤードのオフィスは、工場も兼ねた4階建てになっている。
入口で代表の明石さんが迎えてくれた。
「寒かったですよね…。遠いところから、ありがとうございます。社内の福利厚生で、1日ひとつドリンクが無料なんですよ。よかったらどうぞ」と、お茶をご馳走してもらう。
おだやかな話し方で、緊張もほぐれる。
さっそく、2階にある作業場を見せてもらうことに。
ドアを開けてすぐの机には、シャツの仕様書がまとまっている。奥に続く作業場は、アイロンやミシン、大きな裁断機が並ぶ。
裁断された布にアイロンで折り目をつける人、ポケットや袖などの細かなパーツを縫製している人。
少ない人数だけれど、みなさん慣れた手つきでスピード感がある。
「シャツは、衿や袖、前立て、ボタンにポケットなど。ディテールによって違うものの、基本の型はおよそ10のパーツに分かれています。ワイヤードの生産ラインは5人の分業制になっているんです」
学生服の縫製業を営む両親のもとで育った明石さん。工賃が低いため経営が厳しく、自転車操業のような状態だったそう。
「両親が苦しそうに仕事をしている姿を見ていたので、その仕事を引き継ぐのはいやだなって、子どもながらに思っていました」
「ただ、長男だから跡を継ぐほかなくて。大学を卒業後、銀行に3年勤めてから、親の会社に就職することにしました」
ただ、これまでのような苦しい経営からは脱したい。
そんな想いで、学生服からカジュアルシャツへと経営転換し2001年に、ワイヤードを設立。作業にかかるコストの見直しや、アパレルメーカーへの営業に力を入れ、徐々にOEMの仕事を増やしていった。
さらに、下請けだけでなく、企画の段階から考えられるよう、オリジナルブランドをつくることに。それが、「SEUVAS(ソウバス)」。
素材は、服づくりには不向きとされているキャンバス生地がメイン。
キャンバスとは日本語で帆布のこと。名前の通り『船の帆』として使用する素材のため、強度があり通気性に優れていることが特長だ。
「厚手の素材で扱うのはむずかしい。けれど丈夫で長持ちする素材なので服に応用できたらいいなと考えて。僕らが昔から培ってきた縫製技術を詰め込んで、挑戦することにしました」
環境への負荷を最大限減らせるよう、生産過程で捨てられてしまう生地を活用。さらにコーヒーやお茶などの天然染料で製品染めをしている。
主な卸先は海外で、取引先のショップは20を超える。
「売り上げの8割は、OEM。OEMを減らすことなく、SEUVASをより広めていくことで、5年後には半分半分に持っていきたい」
「デザインやECサイトでの販売なども、いまは外部にお願いしていて。いつかは内製化して、自社でブランドを育てる仕組みをつくろうとしています」
OEMとオリジナルブランドの両軸でものづくりを続けてきたワイヤード。順調に見えるものの、課題も抱えている。
「スタッフはものすごく難しいことをやっている。その技術は、日本の宝といっていいはずで。でも今は、求められる技術の割に単価水準が低く、見合ったお給料を渡せていないんです」
さらに、人数が少ないなかで稼働しているため、休みも十分に取りにくい。創業当初からスタッフは減っていて、入ってもすぐに辞めてしまうこともある。
「服を選ぶときに、ブランドや生地の良さを意識することはあっても、それをつくる工場のことまで知る機会はほとんどありませんよね」
「一枚の服は、多くの人たちの努力によってつくられている。それをきれいごとではなく、消費者や卸先などに現実の課題としてもっと知ってほしい。これは、産業全体の問題でもあると思っていて」
生産体制を広げつつ、縫製という仕事の価値を高めていきたい。
その想いから、現在ワイヤードでは、外部のコンサルタントとともに、会社の体制を改善しているところ。
昨年と比べ年間休日を7日間増やしたり、給料のベースアップをしたり、効果も現れている。いまは、人事制度の見直しに取り組んでいる最中。
これらの取り組みを通して明石さんが目指しているのが、B Corpの取得だ。B Corpとは、アメリカの団体が定めた環境基準のひとつ。日本では認知度を少しずつ上げていて、現地ではパタゴニアなど多くの企業が取得している。
さらにB Corpに加えて、アパレル業界に特化したオーガニック認証、GOTSの取得に向けても動いているそう。
賃上げを含めた労働環境の改善を継続できるように、海外ブランドへの訴求力を高めて売上を伸ばす取り組みも進めている。
「労働環境が改善すれば、スタッフ一人ひとりの働きやすさにつながることはもちろん、縫製業界全体の価値を高めることになるはず」
「労働に見合ったお給料やお休みをもらえることで、『この仕事をやりたい』と胸を張って言える環境にしていきたいです」
ワイヤードの社員数は15名。縫製の現場には6名のメンバーが在籍している。
明石さんの隣で話を聞いていた、藤原さんと久田さんも縫製を担当している方。
「マスクしているのが制服みたいなもんだから」と藤原さん。「そうですそうです!」と右隣の久田さんが反応する。
あたらしく入る人は、主に二人から仕事のやり方を学んでいくことになる。
藤原さんは、入社して8年目。前職での経験も含めるとこの道20年の大ベテラン。一通りの作業はなんでもこなせる、頼れる先輩だ。
「ハローワークでワイヤードを知って。見学に来たときに、明るい工場だなと思ったんです。縫製工場って、どこも暗い作業場が多い。ワイヤードは明るいぶん、広々と見えて。とりあえずやってみようと入社して、あっという間に8年目です」
「毎日、たくさんの服をつくっていますよ。量産、量産です」
はじめて縫製の仕事をする人は、アイロンやミシンの扱い、仕様書やパターンの見方から覚えていく。
作業を集中的に学んでいけば、およそ半年から1年で、シンプルな1枚のシャツを縫えるようになる。
生産ラインには各工程を担当するスタッフがひとりずつしかいない状況。誰かが休んだときでも、円滑にカバーできる状態をつくっていきたい。
一緒に話を聞いた久田(ひさだ)さんも、地元出身の方。
島根の大学に進んだあと、別の仕事に就いたものの、8年ほど前に地元へと戻ってきて、ワイヤードに入社した。
「ミシンを縫っとるおばあちゃんの姿を見て育ったので。その影響か、高校生のころから簡単なものづくりをすることがあったんです」
「自分は仕事で、数字に追われるのが苦手なほうなんです。目の前の作業に集中してコツコツ進めていくのが性に合っているので、続けられていますね」
極めがいのある奥が深い仕事。とことん追求する働き方をしたい人は向いていると思う。
「何時間も同じ姿勢で作業することがあるので、慣れるまでがきついかな。自由に動けないし、地味で細かい作業を一人で進めていくので、頑張れるポイントを自分でつくるのがいいと思います」
「たとえば、今日一日のなかで絶対に終わらせる個数を決めて、逆算して作業を進める。ちょうど最後の一個をつくり終わった瞬間に、終業のチャイムが鳴ることがあって。ブザービートみたいで気持ちよくて、癖になるんです」
どんな人と一緒に働きたいですか?
ふたたび藤原さんが答えてくれる。
「自立している人、がいいですね。今いるメンバーは、ひとりでいることが苦じゃない人たちばかり。自分のテリトリーを大切にするというか。1週間お互いに口を聞かなくても、なんともないですもん!」
「もちろん、だからといって拒絶するわけではありません。わからないことがあれば、とにかく何でも聞いてほしい。そして、教えられたことを素直に受け取って、トライアンドエラーを繰り返す。覚えることもたくさんあるし、大変な思いもするはずです」
キリッと緊張感が宿る藤原さんの言葉。けれど、守破離という言葉があるように、自分の仕事が手につくというのは、基本となる作業を繰り返し、長く時間をかけた先のこと。
「そうそう、最後にこれだけは見ていってもらいたくて」と藤原さん。
作業台に戻り、ミシン台へ。縫う前の生地を重ね、トンカチで叩いて縫いやすいように薄くしていく。
さらに、その後は重ねた部分を指先で抑えながら、ひと針ずつ針を進めていく。
たしかな技術と集中力がないと、怪我をしてしまう危険な作業。こうした手作業が積み重なって、1枚の服ができあがっていく。
「きれいなことだけを伝えたくない。ミシンやハサミを扱う危険な仕事だし、身につける技術は1日や1ヶ月でできるものではない。人によっては、1年でもむずかしいくらいです」
「シビアなところはシビアになって。覚悟を持った人に、ぜひきてほしいですね」
1枚の服ができるまで。
その背景に、技術を極めて、その道で長く働く職人さんたちの姿を知りました。
新しい工場のあり方を目指す取り組みもはじまったばかり。
手に職をつけて、腰を据えて働きたい。その挑戦の一歩を踏み出すのは、今かもしれません。
(2025/02/06 取材 田辺宏太)