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興味関心が深まって、自分の仕事をつくるのは素敵なこと。
いつか自分でお店を出す。そう夢を見ている人が、力試しができそうな場所を紹介します。
舞台は、兵庫・丹波篠山。
市の中心部から少し北、緑豊かな里山のエリアで運営されているカフェ「ぷかぷかコミューン」で働く店長候補とスタッフを募集します。
カフェと地元食材の物販スペースを兼ね備えたこの施設は、隣接する「草山温泉 やまもりの湯」やBBQ場、キャンプ場と一体となっています。
「虫博士」のスタッフが飲食メニュー開発に励みながら、子どもたちと虫採りワークショップを企画するなど、個々の興味やスキルを十二分に活かせる環境やきっかけが豊富にあります。
あわせて、施設全体を統括する施設長も募集します。
新大阪駅からJR福知山線に乗り換える。尼崎や宝塚を通りすぎ、およそ1時間で篠山口駅に到着。
そこからバスで25分、草山温泉バス停の目の前にあるのが「湯あみ里山公園ぷかぷかコミューン」。
となりのキャンプ場からは家族の笑い声。里山の自然に包まれ、おだやかな時間が流れている。
この場所を経営している大谷晃平さんに話を聞く。
晃平さんは、ふだんは企業のアドバイザーやコンサルタントとしての肩書きを持つ。丹波篠山のイノベーターズスクールでも講師を務めるなど、地域内外のさまざまな人との関わりのある方。
「もともと、僕の曽祖父が草山温泉に湯治に通っていて。地域の方が閉業するタイミングで大谷家が継業して運営をつづけてきたんです」
4代目として晃平さんが温泉施設を託されたあと、2019年にキャンプ場をオープン。温泉との相乗効果で、年間3万人ほどの人が訪れる観光地へと成長した。
「もっと多くの人に丹波篠山の魅力を味わってほしい」と、施設全体のリニューアルに着手。2022年に湯あみ里山公園 ぷかぷかコミューンを完成させた。
敷地の中央にあるのは、UFOのようなかたちの建物。
1階に地元の特産品を扱う直売所やカフェがあり、2階はカフェの飲食スペースで、360°山々の風景を一望できるデッキになっている。屋根には土が敷かれ、自然に草花が育つようなつくりに。
敷地内にはビオトープもあり、季節をまるごと感じられる空間だ。
ぷかぷかコミューンの経営の根幹にあるのが、地域、自然とのつながりを重視すること。
「数年前、施設近くの自然や川が汚れていることに危機感を覚えたんです。でも、みんなが遊べば遊ぶほど、川底の苔が落ちて綺麗になることに気がついて」
「人がたくさん訪れれば、地域の自然を守ることにつながる。環境を元気にしていく場としても目指しています」
訪れる人々が自然と触れ合うことで、自然環境を再生して、次世代に引き継ぐ場となる。
企業のアドバイザーやコンサルタントなどの肩書きを持つ晃平さん。話を聞いていると、ビジネス的なイメージとは反対に、自然への深い愛情のようなものを感じる。
「僕、『野遊びプランナー』と名乗ることもあって」
晃平さんは植物や野草が好きで、キャンプ場でネイチャーガイドとして自然学習の場を提供するなど、自然と人をつなぐ体験づくりをしているそう。
そのひとつが、月に1回開催される「きききクラブ」。
竹の過剰繁茂問題を子どもたちの自然学習の機会に変え、自然と子どもが輝く活動を、地域企業と連携して行っている。
名前は、子どもの「ききき」という笑い声と、「木」を三つ組み合わせて「森」となることから。参加費を取らず、子どもと自然のための純粋なコミュニティづくりを目指している。
「自然を借りて商売する以上、自然を傷つけることなく持ちつ持たれつの関係を築きたいんです」
施設の売り上げの一部も、竹林伐採などの自然還元活動に充て、地域環境の保全に貢献している。
「ぷかぷかコミューンは、カフェを経営すること自体が目的ではなくて。根っこには、自然や地域とのつながりを表現したいという想いがあるんです」
今回の募集は、施設のリブランディングを見据えたもの。
「退職するカフェ店長の後任として加わってほしくて。今あるメニューも、新しく加わる方の得意に合わせて柔軟に変えていきたいんです。地域の食材を大いに活かしたメニューが増えれば、施設がもっと良くなると思っています」
キッチンには業務用のオーブンや大型のリーチイン冷蔵庫などが揃い、パンやスイーツ、加工品づくりに最適な環境。晃平さんに相談すれば、必要な設備を整えてくれるので、どんな料理にも挑戦できる。
さらに晃平さんは丹波篠山や周辺地域の飲食店や加工会社、農家さんなどとつながりを持っている。「こういう商品をつくりたい」というアイデアに対して、具体的な支援を提供してくれるはず。
今いるスタッフと協働しながら、自分のつくりたいもの、届けたいものを表現する絶好の機会だと思う。
「ここで経験を積んで、将来的に独立することになっても、全力で応援したい。むしろ、ウェルカムです。自分の力を試したい人にとってはすごくいい場所になると思うんですよね。ここは、独立前の練習場だと思います」
次に話を聞いた塩見さんは、ぷかぷかコミューンの自由な環境を最大限に活かし、アイデアを形にしてきたスタッフ。
今年の6月、結婚を機に淡路島に移住するため、退職を予定している。
京都出身の塩見さんは、専門学校卒業して地元のスーパー銭湯で働いた後、放浪癖と旅への憧れから日本各地を旅することに。
「30歳手前で、そろそろ落ち着こうかって思って。キャンプ好きだったから、いろんな施設を調べていたらこの施設を見つけて。6年前から働きはじめました」
最初は隣接する温泉施設で働いたあと、ぷかぷかコミューンが開業するタイミングでカフェに移ってきた。
カフェの営業日は金・土・日・月で、社員2人とアルバイト含む4人で運営。塩見さんは朝の7時半頃から仕込みに入り、接客や施設管理をこなしている。
木曜日は仕込みの日で、パティシエ経験のあるスタッフが、マフィンやカヌレを仕込むためにサポートにきてくれるそう。
カフェの利用客のほとんどは、30~40代のファミリー層。塩見さんは、地域の特性を生かしながら、子どもが安心して食べられるメニューを開発していたそう。
「目の前の畑でさつまいもや大根を栽培しているので、地元の野菜と組み合わせて、ワンプレートランチを提供したり、丹波篠山の特産である栗を素材に、大判焼きをつくったりしましたね」
とくに、塩見さんの代表作のひとつが「ガトー・ナンテ」。
ラム酒を染み込ませたリッチなシフォンケーキで、地元農家の卵と丹波栗のペーストを活用。ふわっとした食感と、ほのかなラム酒の香りが、子どもから大人まで楽しめる商品に。
「明確なマニュアルがない環境で、お客さまの反応を見ながらメニューを考える。自由にやらせてもらえるし、お客さんが喜んでくれるのを見ると、とてもやりがいを感じますね」
地元農家さんとのつながりを活かし、素材の調達から調理、値付け、商品化まで一貫して手がける。自分の「好き」やアイデアをダイレクトに表現でき、地域のストーリーを商品に込められるのは、大きな魅力だと思う。
新しく加わる人も、丹波大納言小豆や黒枝豆、栗などのふんだんな地域食材を活かしながら、自分なりのお店をつくっていってほしい。
「自主性持って挑戦したい人にぴったりの環境だと思います。新メニューやイベントのアイデア出してくれると、とてもありがたいですね。お客さんを喜ばせながら、自分も楽しめる仕事ですよ」
「退職後には、淡路島で飲食業の独立を検討しています。ここでいろんなこと試せたから、次に進む自信がついたんですよ」
「これから入る方の仕事については、虫博士である彼がサポートしてくれますよ」と、塩見さんが指をさす先。畑近くで土いじりをしているのが、和久井さんだ。
塩見さんの退職に伴い、カフェのメインスタッフになる方。
近づくと、堆肥の切り返しをしていた手を止めて、なにやら草の表面を這う小さな虫に気づいたよう。
「これが、ナナホシテントウです。畑の害虫を食べてくれる、めっちゃいいやつ。天に向かって飛ぶところから、その名がついたといわれているんですよ」
近くのショウリョウバッタの幼虫やおたまじゃくしも、すぐに見つける。魅力を伝えるのが上手で、目をキラキラさせながら説明してくれる姿に、思わずこちらもうれしくなる。
「物心ついたころから自然や生物が大好きで。今も、自宅でカブトムシやクワガタを200~300匹飼育しています」
神奈川県出身で、自然環境を学ぶため、新潟の日本自然環境専門学校に進学。卒業後、ぷかぷかコミューンで働くことに。
「自然に興味はあるけど、どうやって遊べばいいかわからない人に、自然への入り口を提供したくて。このキャンプ場は、ガチ勢じゃなくてライトなファミリー層が多いから、ピッタリだなと思って応募しました」
和久井さんの主な業務は、直売所の運営と飲食の補佐。
塩見さんのアイデアに刺激を受け、イノシシのハンバーガーやバターホイル焼きを試作するなど、新商品開発に挑戦したことも。
通常の業務にとどまらず、自分の好きを活かしてぷかぷかコミューンの運営を盛り上げている。
たとえば、「ライトトラップ」と呼ばれる昆虫採集をキャンプ場利用者向けのワークショップとして実施したり、池の生き物調査ツアーを企画したり。
「この辺の自然は、都会じゃ味わえない発見がある。子どもたちが『初めてクワガタ捕まえた!』って興奮している姿を見ると、とてもうれしいんです」
新しく加わる人も、たとえば里山の野草を使ったハーブティーやサラダをつくってみたり、野草やハーブ摘み体験を開催したり。和久井さんと一緒に、何か企画できたらおもしろそうだ。
「施設の近くに、すでに閉鎖した美術館があって。いつか、その場所を活用して自然環境ミュージアムをつくる構想をしているんです。ほかにも、自分で山を持って、生き物や昆虫にまつわるイベントを主催したいですね」
「自分なりにやりたい、形にしたいと思うものを持っている人が来てくれたらうれしいです。僕にできることは、なんでもサポートしたいです」
取材のあと、晃平さんはこんなことを話していました。
「僕たちの事業自体、履歴書に書いても箔はつかない。ただ面接で、働いてきた内容は、自信を持って話すことができる。自分が1からつくった経験は今後の人生の中でも、すごく良いキャリアになるんじゃないかな」
地域にとっても、自分たちにとっても、いい活動を行う。それを胸張って言えるような働き方ができると思います。
(2025/05/15 取材 田辺宏太)