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名古屋駅から高速バスに乗り、北上すること90分ほど。
山の中を進んでいくと、パッと視界が開けて郡上八幡のまちが広がる。
手前を流れるのが長良川。まちの中心部を流れる支流はとくに澄んでいて、底まで見えるほど。
毎年夏にまちを盛り上げる郡上おどりは、400年以上も続く伝統行事。
7月の半ばから9月上旬にかけて30夜以上続き、お盆期間には4日連続で夜通し踊り明かす。
今回の舞台は、そんな清流と踊りのまち、岐阜県・郡上八幡。
一般社団法人郡上八幡まちづくり会議の「チームまちや」メンバーとして、空き家の再生を通じたまちの課題解決を目指します。
具体的には物件の管理運営、設計、イベントの企画・運営など幅広く担当。専門的な知識や経験がない方も歓迎です。
古民家再生を基本としながら、枠にはまらない「まちづくり」にチャレンジしたい人はぜひ読んでください。
郡上八幡ICで高速を降りて、まちの中心部へ。
お祭り気分になるアーチが出迎えてくれた。
昔ながらの町家が並び、酒屋、みそ蔵などの伝統的なお店もあれば、カフェやラーメン店などの最近できたお店も。地元の人と観光客が入り混じっていて、落ち着いた雰囲気を感じる。
すこし歩くと、大きな町家を発見。
清流を活かしたブルワリーや、デザインスタジオなど、さまざまなお店や事務所が入っているようだ。
チームまちやの事務所もこの町家にあるということで、入り口の奥へと進む。
「ここはその昔、お城に薬を届ける漢方医が住んどったらしいですよ」
教えてくれたのは、郡上八幡まちづくり会議で事務局長の武藤さん。
「チームまちやは、まちづくり会議のなかでも空き家に特化した対策を進めるチームになります」
郡上八幡では、2000年に200件ほどだった空き家が、13年後には150件以上増加。効果的な対策ができていない状況を打開しようと、2015年に発足した。
必要な改修費用は行政などが支援。チームまちやが空き家の所有者から建物を借り受けて、水回りや老朽したところを改修、住める状態にしたうえで新しい入居者に貸し出している。
10年間で手がけた空き家の改修は46件。そのうちの3分の2は住居で、残りは、住居兼工房や店舗などの用途として使われている。
「空き家を扱おうという工務店や不動産も増えたし、空き家に入居する移住者も増えていて。いまでは、空き家が増える件数は昔の10分の1ほど。僕らのやってきた事業が一定の成果を出したんかな、と思っています」
今年の3月にプロジェクトは10年目を迎え、行政からの資金補助もなくなった。今後は自分たちで稼いでいく必要があるものの、制約もなくなったため、独自の事業展開が出来るようになった、と武藤さん。
たとえば、新たに進めているのがシェアハウスとしての活用。
物件を探している人は、5人家族や単身者などさまざま。それに対して、現状は空き家の一棟貸しのみ。大半がファミリー層向けの間取りになっている。
単身の人にとっては、今の間取りでは広すぎる。シェアハウスにすることができれば、一人あたりの家賃も抑えることができるし、友だちもできやすい。
また、夏場の郡上おどりの時期は、大勢の観光客がまちを訪れるため、町内でも人手が必要。たとえば、シェアハウスの一室を月単位で貸すことができれば、働き手のニーズに応えることができる。
すでに、お試し町家として貸し出している物件や、入居者を募集している複合施設など、一棟貸しではない新たなスキームで5件ほどが走っている。
「イベントも含めていろんなことをやっているけど、空き家というハードを起点にして発展させている。だから空き家に対する興味はベースにあって、空き家を変えていくことでまちが変わる様子を見たいとか、楽しめる人だといいと思います」
チームまちやメンバーの枡田さんも、建築への興味があって入社した方。
入社して3年半、今年の8月末で地元の奈良に戻るため、新しく入る人は枡田さんの後任として入ることになる。
「奈良に町家がかたまって残ってる好きなエリアがあって。ただ、どんどん取り壊されている状況を知って。どうにかそのまちを残していきたいと思い、大学を卒業したあとは、リフォームもしているハウスメーカーに入りました」
建築は未経験だったため、まずは営業として入り、古民家再生案件を中心に5年ほど働く。
より専門的に建築のことを学びたい、具体的に空き家の再生に関わっていきたいと考えていたときに、チームまちやの求人を見つけた。
「空き家の再生に関わることを1から10まで全部やる、と書いてあって。設計を含めて挑戦できるのはいいなって思いました。興味を持ったので、エントリー前に八幡に来てみたんですね」
「各地にある古民家が残るエリアは、観光客向けのお店ばかりが入っているところも多い。でも八幡は住民のほうも見て商売している感じがしました。地元の常連さんがいる店も多く、あんまり観光地っぽくない感じもいい。そう思って移り住むことにしたんです」
入ってみていかがでした?
「本当に全部やるんだなって」
「わたしが入った時点でも40件弱ぐらいの管理物件があったので、修繕の依頼を受けて対応したり、移住相談や空き家の所有者さんへのヒアリングをしたり。毎年7月ぐらいから11月までは、イベントの準備もありますね」
ほかにも、自分たちで空き家に行って寸法を測るところからやるし、家賃の入金管理やオーナーへ借り受け家賃の支払いなど、お金まわりのことも対応する。
すべてやるのは大変そうだが、一人で担当できるからこそ経験も積めると思う。
それにしても枡田さんは、設計を学んだ経験がないのに、どうして設計の仕事ができるようになったのだろう。
「前職で間取りの配置の仕方などの、基礎知識はあったと思います。ただ、木造住宅の図面作成はほとんど経験がなかったため、お付き合いのある学校の先生から図面をいただいて参考にしていました」
「通り芯の入れ方や、適切な建具の寸法など、いただいた図面を見ながら、ネットや書籍で一つずつ調べて学んで。それでもわからない部分は、工務店さんとの打合せで教えてもらっていました」
また、一軒完成するごとに反省・改善点をシートにまとめて次の物件に活かしていったそう。
自分から吸収していく姿勢は欠かせないけれど、未経験でも挑戦できる仕事だと思う。
「わたしがいつも設計でこだわっているのは、水回り、とくに洗面台。やっぱり既製品をポンって置くのと、一から合うものを考えて組み立てて入れるのとでは、空間がぜんぜん違うものになると思うんですよね」
「家族が入居するとしたら、狭めの洗面ボウルだと子どもが洗うときに水が飛びやすいから、ちょっと大きめのものを用意するとか」
逆に大きすぎてもバランスが悪い。蛇口とボウルの距離や使い勝手がよい位置を探すなど、一つひとつ丁寧に選び抜いていく。
「改修予算も限られているので、全部に手を加えられるわけではないです。でもその枠のなかで、いかにその物件を魅力的にできるか。そこを考えて形にするのは、大変だけどやりがいもあります」
住みやすい空間をつくることができれば、長く住みたいと思う人も増える。今後改修の比重は少なくなるけれど、事業の土台となる大切な仕事だ。
郡上八幡での暮らしについて教えてくれたのは、枡田さんと同期の宮本さん。
「僕の住むエリアの町内会では、まちを保っていくための役がいろいろとあって。体力的にも若い人に回ってきやすいですね」
「今年は神社の役で、月に1〜2回集まりがあります。とにかく八幡は祭りが多いんです。たとえば4月は春祭りといって、市内の3つの神社の神楽やみこしが町中を練り歩く。日が暮れて自分たちの神社に戻ってくるときに、提灯を持って先導するのも役の務めです」
ほかにも、3週間に1回ほどのペースで水路掃除をするなど、地域によっても異なるそうなので、移住する際は事前に枡田さんや宮本さんに話を聞いてみると安心だ。
昔から好奇心旺盛で、ずっと何者かになりたい思いを持ちながら学生生活も過ごしてきたという宮本さん。
大学生のときにはワーキングホリデーに行ったり、旅をしたり。卒業後は、京都の古民家カフェでアルバイトとして働いていた。
「カフェの2階にホテルをつくることになり、スタッフのみんなで天井を抜いて、壁を塗って。古民家特有の大きな梁に驚いたりしているうちに、建築って意外とおもしろいかもと興味をもつようになりました」
そんなタイミングで、チームまちやの求人を見つける。
「当時は何をしたらいいかわからなかったけど、なんでもやらせてもらえるところに行ったら、何か見つかると思ったんですね。それで面接を受けて、働くことになりました」
移住相談に訪れた人や、一緒に工事を進める工務店の方など、関わる人との仲が深まっていく感覚が好きだと話す宮本さん。
「お試し町家で出会ったご夫婦が、退去後に家を買って移住してくれて。今でも一緒にごはんを食べにいくし、イベントの運営を手伝ってくれることもある。偶然出会った人たちとつながっていくのは面白いし、うれしいなって思います」
チームまちやとは別で、本に関する活動や、植物屋さんでアルバイトもはじめた。そうした活動を面白がってくれる地域の人たちとイベントを開くなど、活動の幅も広げている。
「誰でも好きなときに参加し踊れる『郡上おどり」がまちの文化として色濃く残っているからか、このまちには好きなことや、自己表現をしやすい雰囲気がどこか漂っているように感じます」
基本的な仕事は枡田さんと分担して進めつつ、数ヶ月の貸し出しをおこなう「お試し町家」の管理運営や、いまは新しい商業複合施設「多源」の開発に注力している。
多源は、大きな空き家を6区画に割って、さまざまな店舗を募集しているところ。施設名の考案や、店舗サインも検討している。
「入居者さんとは、単純な貸し借りの関係ではなく、一緒に新しい商品や文化をつくっていきたくて。『多源』という名前も、そういう多様な個性が集まり、何かが生まれる源になればと思ってつけました」
「でもよくよく考えてみると、この建物って今後いろいろな人が名前を呼んでいくわけですよね。それってなんだかすごい、影響力のあるようなことをしているのではないかって、最近ふと思ったんです」
郡上八幡を訪れてみて、ずっと昔から流れている時間が残っているような気がした。でも、新しい風も吹いている。
思ったことをそのまま伝えてみると、武藤さんがこんな話をしてくれた。
「昔の人々が努力をして暮らし続けてきた結果、このまちの今につながっている。僕らが中心となって活動できる期間は、長くても50年とか。半世紀も経てば、次の世代の人が主役になっている」
「その途中を受け持っているという感覚を大事にしとらんと、たぶんまちをつくったつもりが、壊しとることにもなりなかねない。その感覚は、大事にしたいんです」
(2025/05/28 取材 杉本丞)