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部屋の扉を開けると、雄大なオホーツク海がどこまでも続いて見える。
眺望を引き立てるように、壁も天井も漆喰で真っ白に仕立てた、海とともに暮らす家。

はたまた、古い木造建築を活かし、木枠の窓やすりガラスを使用したり、テーブルや椅子などのインテリアを製作したり。
やわらかな光の差し込む空間に、窓越しに季節の景色を感じながら、薪ストーブのぬくもりに包まれる家。

株式会社やの組は、北海道・北見に拠点を置き、新築住宅をメインにリフォーム、リノベーションを手がける工務店。
大切にしているのは、お客さんに正直に寄り添う姿勢。
決まった型にはまらず、お客さんの暮らしや希望に耳を傾け、毎回まったく違うかたちで施工をする。骨組みや内装だけでなく、それぞれの住宅に合った建具や家具まで自分たちでつくります。
竣工後のリスクや、かかる人件費もできる限り詳細に説明しながら話し合うことで、お客さんの理想とする暮らしを探っていきます。
そうして建てられた住まいだから、暮らす人らしさがにじみ出る。
今回は、そんな住まいを手がける大工と設計・施工管理を募集します。
大工、設計・施工管理の経験があるとうれしいですが、やの組の「真っ直ぐさ」に共感する人を求めています。
東京から飛行機で女満別(めまんべつ)空港へ向かうこと約2時間。
スタッフの方に迎えにきてもらい、車でやの組の事務所に向かう。
北海道の東側に位置する北見市は、道内で1番広い面積を誇る。原生林に囲まれた静かな湖や山あいの温泉地、オホーツク海など豊かな自然に囲まれたまち。
車中から広大な田畑が見え、ときおりネギのような匂いがする。聞くと、北見市は玉ねぎの生産量が全国1位なんだそう。

40分ほどで一軒家の事務所に着いた。
中で迎えてくれたのは、代表の矢野さん。
サッカーや釣り、ウィンタースポーツなど、休日はもっぱらアウトドア派。半袖短パンのラフな格好に、焼けた肌がよく似合う。

北見市出身で、高校を卒業して地元の建築事務所に就職した矢野さん。
やの組を設立したきっかけはなんだったんでしょう?
そう問いかけると、「消去法なんですよ」と飄々と返ってきた。
「地元の建築事務所で働き続けるとなると、休みは月4日ほど。少ない日数のなかで余暇を楽しむか、独立して自分で働きやすいようにしていくか。その2つしか選択肢がないなと」
「当時は26か27歳だったかな。独立して失敗してもまだ若いなって」
そうして13年前に設立したのが「やの組」。
現在は北見市をメインに、道東内で住宅や店舗の新築やリノベーションなど、年間20件ほどの依頼を受注している。
大切にしてきたのは、お客さんに正直に寄り添う姿勢。
以前、カフェを併設した新築住宅を建てたいと依頼があった。
「ただ、お客さんの予算が合わなかったんですね。話し合っていくと、『近くに倉庫がある』って。倉庫をリノベーションすれば、予算内に収まる。じゃあやりましょうって決まりました」

もともと倉庫であり、湿気がこもりやすい構造。窓数を増やして風通しをよくしつつ、冬の冷え込み対策として、壁の断熱を強化。
加えて、水道に井戸水が通るようにしたいという要望にも応えるため、行政へ地盤調査や近隣への情報収集の手配もした。
「周辺が林のようになっていて、窓から見える景色が全部いいんですよ」と、内装の写真を見せてくれる。
窓からは葉の緑が見え、内装は木材がメインであたたかみを感じる。よく見ると水回りのカウンターも一枚の大きな板でできているようだ。

「水回りは、カビが生えやすいので木材はあまり使用しない。別のものにするか、費用をかけて加工するかリスクを細かく説明して何度も話し合いました」
一般的には、リスクを避けて断る場合も多いことも、やの組はお客さんが「本当にやりたい」と思ったことなら可能な限り引き受ける。
とことん向き合うのは、竣工後も同じ。事前に細かく説明しているため、クレームはほとんどなく、「ここをちょっと見てほしい」とアフターフォローの相談もよく受ける。
倉庫をリノベーションしてから、しばらくして「井戸水が使えなくなった」とお客さんから連絡が入った。
「塩水になって生活用水としては使えないと。もちろん事前にそうなる可能性は伝えていて、納得したうえで施工を進めていました。なので話し合って、別の場所に井戸を掘ることにしたんです」
どうしてそこまでするんでしょう?
「建築って、お客さんからするとブラックボックスじゃないですか。見積書を見ても、この柱の木がいくらなのか、大工が1日働いたらいくらかわからない。そこをできるだけ説明する」
「そうすることで、お金に引っかかっているのか、ビジュアルを気にしているのか、お客さんが大切にしてるものが見えやすくなるし、明確にすると竣工後に何か不具合が起こっても、一方的に怒られにくいんです」
どこまでも正直に、丁寧に向き合う。そんな姿勢に惹かれて、新規の依頼は、お客さんの紹介が9割に及ぶという。
「13年間変わらないのは、『その人のためにあるべきもの』をつくること」、と矢野さん。
同じ眼差しで、新しい事業を広げている。
その一つが「Before Vintage Furniture」。
「新品よりも、10年後がいい」をコンセプトに、家具の製作から販売店の運営までを開始。ここで製作された家具が、やの組の手がける住宅に使用されることもある。

現在スタッフは11名。今回募集する建築分野では、大工3名と設計・施工管理1名が働いている。ここに独立したスタッフや、外注の職人さんも入って仕事をしている。
どんな人に来てほしいですか?
「愛嬌のある人。やっちゃった、みたいな(笑)。失敗したときに許してもらえるような人かな」
「身構えて失敗することを怖がるよりも、ちょっとわかんないけどやってみようっていう身軽さがあるといいと思います」
まずはやってみる。家具の製作も、たまたま面接に来た今のスタッフと矢野さんでポンっと始めた事業。ほかにも、やの組で経験を積み、3名ほどのスタッフが独立している。
「俺が持っている個人のアパートを貸りたいと言って、自分でDIYして住んでいる元スタッフもいます。新しく来てくれる人にも、やの組が持っている不動産を賃貸で貸すこともできるし、好きに空間をつくってもらっても大丈夫ですよ」
次は、車で5分ほどのところにある現場へ。
ここで話を聞いたのは、入社して5年目、大工の田中さん。まわりからは下の名前の「あやのさん」と呼ばれている。
慣れない取材で、照れながらも一つひとつ考えながら答えてくれる。
もともと北見市にある別の建築会社で6年間働いていた田中さん。

「前職では、シンプルで同じような家しか建ててこなかったんですね。そこにだんだん退屈さを感じるようになって、転職を考えはじめました。たまたま知り合いに紹介してもらったのがやの組だったんです」
「入社してすぐに、矢野さんや外注の大工さんに教えてもらいながら建具をつくって。ドアのフレームとか、棚の骨組みとか。こんなところまでつくるんだって。やったことなかったけど、できたときはうれしかったですね」
やの組では、できるだけお客さんの要望に寄り添えるように、外注の職人に教えてもらいながら建具や左官など、技術を内製化しているところ。
現場ごとに建具もつくっていくため、扱う機材も素材もさまざま。新しく加わる人は、端材を使って練習したり、田中さんや先輩の大工さんに教えてもらったりしながら技術を磨いていく。
田中さんが最近製作したのは、リビングで使用するキャビネット。

現場の大工作業をしながら、1ヶ月ほどかけて1人で製作から設置までを手がけた。
「基本的に設計も材料も決まった状態でつくっていきます。ただ、設置する場所によってキッチンの動線が悪くなるとか、建てた後に不便だろうなと思うことは施工管理さんを通してお客さんに伝えています」
「現場によって、コンセントの配置にこだわる人もいれば、壁に曲線のデザインを入れたいという要望もある。お客さんと顔を合わせなくとも、なんとなくその人らしさがわかってくるんです」

田中さんは、大工仕事をどうして続けているんでしょう?
「そうですね… 何も考えてないって言ったら変ですよね。でも、やの組で働くおもしろさは、大工仕事以外もやること。住宅の建具も漆喰や左官も塗ることもあるし、アフターフォローで日常のちょっとしたサポートにも入る。いろいろなことに携われるのが楽しいんです」
「なので、ものづくりが好きで、住まいにまつわるものをなんでもつくってみたい人は合っていると思いますよ」
最後に聞いたのは入社して6ヶ月、設計・施工管理の馬場さん。前職では、札幌市の工務店で注文住宅の設計をしていた。
写真は恥ずかしいとのことで、後ろ姿を撮影させてもらう。

やの組を知ったきっかけは、お姉さんがやの組で家を建てたことだった。
「できた家を実際に見に行ったんです。玄関に入った瞬間、気持ちいいなって。住宅街なので、景観がいいわけではないんですけど、部屋の中で過ごしていて、心地よかったのを覚えています」
「前職では住宅の建具は既製品がほとんど。やの組のようなオリジナルのものをつくる会社で働きたいという思いがだんだん強くなっていきました」
施工管理は未経験だったという馬場さん。図面を描くだけでなく、現場の職人の様子を知って設計士として成長したいと、札幌から家族で移住することを決めた。
今は矢野さんと一緒に施主さんのヒアリングをしたり、現場の様子を毎日見に行ったり。施工管理を学んでいる最中。

「たとえば、施主さんから『ドアはここにつけたい』と要望があったとき、一般的な会社だったら期日を決めて、それ以降は変更がむずかしいって説明すると思うんです」
「でもやの組はそうではなくて、出来る限り100パーセントお客さんの要望に応えようとする。そこがやりがいでもあり、スケジュール調整をする施工管理の大変さでもありますね」
施主さんもこだわりを持って依頼してくれているので、実現するために何度も打ち合わせを重ねる。そのため、工期が延びることもよくある。

「お客さんの引越し時期もあるので、責任を持って進めることは当たり前。でもお客さんも、こだわりを形にしていく過程を一緒に楽しんでくれる。なので、延びることにネガティブな反応をされることは少なくて」
「やの組の大工さんも関わっている外注さんたちも、わからなかったらサポートに入ってくれるし、フランクな人ばかり。やの組の考え方に共感している人が集まっているから、お客さんの要望を叶えることに専念できるんです」
どの人も、どの家も違う。
その人にとってのあるべきものは、正直なやりとりのなかで築かれていく。
違っているから、楽しい。つくり手も大きく成長できる場所だと思います。
(2025/09/05 取材 大津恵理子)


