日本の伝統文化のひとつに「香道」というものがあります。
米粒ほどの小さな香木(こうぼく)と呼ばれる木を焚いて、立ちのぼる香りを鑑賞する。
おもしろいのは、香りをかぐことを「聞く」と表現するところ。
静寂のなかで、香りにただ意識を傾ける。それは、自分自身と深く向き合う時間でもあります。

創業450年の歴史をもつ香の老舗から、2018年に誕生したブランドが、KITOWA(キトワ)。
ヒノキ、クスノキ、ヒバといった和木をベースに、パフュームやバスエッセンスなどのフレグランス製品を展開しています。
着実にファンを増やしつづけ、中東をはじめとした海外展開も視野にいれているところ。
今回募集するのは、このブランドの商品開発担当。
デザイナーとタッグを組み、これまでにない日本の香りをかたちにしていきます。
華やかに聞こえるかもしれませんが、一つひとつの製品が出来上がるまでには、地道な業務の積み重ねがあってこそ。
伝統を受け継ぎ、日本の香りを世界へ届けていく。その道のりを、楽しみながら歩める人を待っています。
東京・銀座。
地下鉄の改札を抜けて地上へ上がると、中央通りは、歩道からあふれんばかりの人でにぎわっている。
老舗の百貨店や、海外の高級ブランド店が軒を連ねる一角に、KITOWAのショールームがある。

エレベーターで2階へと上がり、ショールームに入る。
お香などと並び、ガラスケースの中には、ひときわ存在感を放つ香木が、収められている。
「これは伽羅(きゃら)と呼ばれる香木です。これだけで、数億円の価値があるんですよ」
そう教えてくれたのは、株式会社KITOWA代表の保科さん。

保科さんは、もともと母体である香の老舗に勤めていたひとり。KITOWAは社内の新規事業プロジェクトとして立ち上がり、現在は子会社として運営されている。
その背景にあったのは、日本の香りを取り巻く環境への違和感。
「百貨店やセレクトショップに並ぶ香水を想像してみてください。海外のハイブランドや、西洋由来の香りが多いですよね」
「日本には、西洋に劣らない独自の香りの歴史がある。それなのに、日本を代表するフレグランスブランドは存在していなかった。ないのなら、自分たちでつくるしかない。まだ誰も歩んだことのない道を開拓しようとしたのが、KITOWAの始まりです」
主役となるのは、フローラル調などではなく、ヒノキ、クスノキ、ヒバといった日本の和木。
老舗として長年培ってきた香りの技術を掛け合わせながら、香水、ディフューザー、バスエッセンスなど、さまざまな製品を展開してきた。

パッケージにあしらわれたロゴマークも、象徴的。
漢字の「木」とも読めるし、横にたおせば、ブランドの頭文字である「K」にも見える。
「日本の伝統を大切にしながらも、国籍や性別を問わない普遍さを持つ。そんなブランドを目指しています」
少しずつ認知を広げてきて、最近では有名アーティストとのコラボレーションが話題になるなど、新しい層への広がりも見せている。
「ようやく、こうして取材を受けても恥ずかしくないくらいに成長できた、というのが本音です」
ブランドを象徴するのが、「EAU ÉCLOSION(オー・エクロジオン)」。
一般的な香水とは異なり、アルコールを使用しない水性であることが大きな特徴。

実は水性香水は、業界ではとても珍しい。
開発当時は、調香師からも「香水はアルコールベースが常識」「水性は香りが弱くて売れない」などと反対されたそう。
「けれど、水性だからこその良さもあって。アルコール特有のツンとした刺激がなく、肌にやさしいし、香りもやわらかい。それは繊細な和木の香りと、とても相性がいい」
さらに海外展開を見据えたときにも、アルコールが含まれないため危険物扱いにならず、輸送のハードルを下げられるというメリットもある。
「もちろん、製品化するための調整はとてつもなく大変でした。それでも、必ず受け入れられるという確信があったんです」
今では、水性香水はブランドを代表するアイテムに成長。最近の香水市場でも、アルコールフリーの香水がトレンドになりつつあるとのこと。
結果的に、KITOWAはその先駆けになった。
「ビジネスである以上、市場の動向を見ることは大切です。けれど、マーケットに迎合しすぎれば、どこにでもあるものになってしまう」
「前例がないからこそ、やる意味がある。既存の常識に対して自分たちで『問い』を見つけ、答えを探しに行く姿勢が、僕ららしさですね」
創業時からのパートナーが、尼野さん。
これまでの企画開発のすべてを、保科さんと二人三脚で担ってきた。

そのバトンを受け継ぐのが、今回募集する商品開発の担当者。最初は二人のサポートを受けながら、少しずつ仕事を自分のものにしていってほしい。
ひとつの商品の企画から発売までにかかる期間は、およそ1年。
「こういう商品があったらいいよね」というアイデアが固まれば、その後は、地道に作業を積み重ねていく。
たとえば、イメージ通りの香りを出すための、調香師や香料会社との調整、ボトルやポンプに加え、リボンや箱といった包装資材の選定、そして中身の充填や品質検査を依頼するパートナー工場との連携など。
また、時間が経っても品質が変わらないかを確認するため、すべての商品は発売前に何十回と検証を繰り返す。
加えて、化粧品としての法的な届出や、海外輸出のための書類作成、パッケージの成分表示のチェックなど、細かな事務作業も山のようにある。

アイデアには感性が求められるけれど、それを形にする工程は、論理的かつ緻密に進めていく必要がある。
生産管理のような仕事に携わった経験がある人なら、そのスキルを存分に活かせるはず。
もちろん、品質を担保する一方で、それを手にとりたくなるようなデザインに仕立てることも、重要な仕事。
そこでパートナーになってくれるのが、KITOWAのロゴをはじめ、すべてのプロダクト、グラフィックデザインを手がけているスワミヤさん。
スウェーデン「IKEA」本社で商品デザインをしたり、スペシャリティコーヒー専門店「丸山珈琲」のロゴをデザインしたり。
世界を横断して活躍するデザイナーだ。

「KITOWAには、日本の伝統的な香り文化を背景に持ちながら、新しい時代をつくろうという気概があります。決して、守りに入っていない。いい意味で、アバンギャルドなんです」
だからこそ、ときには常識を超えるようなデザインに挑戦することもある。
たとえば、と見せてくれたのは、有田焼のディフューザー。
デザインのモチーフにしたのは、日本の建築資材である「角材」。
切り出された木材のように、シャープな四角いフォルムをしている。

「焼き物で、ここまで歪みのない四角形をつくるのは、とても難しいことなんです。でも難しいからといって、無難なものをつくっても、それはブランドらしさにはならない」
スワミヤさんのデザイナーとしての視点はもっともだけれど、それを具現化し、量産していくのは簡単ではない。
今回加わる人は、製造現場との間に入り、どうすれば実現できるか、職人さんなどと粘り強く調整を重ねていく。
コストや強度、製造工程の都合で壁にぶつかるときも、デザインの美しさを守りながら、実現できるよう代替案を探し出すことが求められる。
「正直なところ、全くの未経験からだと覚えることが多くて少し大変かもしれません。もし印刷や資材に詳しい方なら、話が早くて助かりますし、逆に私が知識を教えてもらいたいくらいです(笑)」
「ただ、最初からすべて完璧である必要はありません。私もできる限りサポートしますし、一緒に模索しながら進められれば、と考えています」
新しいことに次々と取り組むベンチャーのような環境でありながら、バックボーンには老舗の歴史と、盤石な経営基盤がある。
安心して大きな挑戦ができる環境は、このブランドの強みだと思う。
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「立ち上げの手探りの時期を越えて、世界へ打って出ようというフェーズにあります。このタイミングで参画できる人が、うらやましいくらいです」
「中身も、デザインも、すべての面で、常識の一歩先を目指す。そんなものづくりの楽しさを共有できたらうれしいですね」
KITOWAが今、成長戦略の柱として注力しているのが、中東エリア。
その最前線に立っているのが、今年9月に入社した川上さん。KITOWAにとって初めての正社員でもある。

川上さんは、前職でセレクトショップのライフスタイル雑貨のディレクションを担当。そのときに、KITOWAを扱っていたという。
「前職でやりたいことをやりきったタイミングで、今度は外からではなく、中の人として『ブランドを世界へ連れて行きたい』と思い、入社を決めました」
「実は最初、アジア圏への展開を相談するつもりで保科さんに会ったんです。そうしたら『いや、うちが狙うのは中東だ』と言われまして(笑)。エリアこそ違いましたが、世界へ出たいという熱量は同じでした。あれよあれよと入社が決まり、その翌日にはバーレーンへ出張していましたね」
来年からは、実際にバーレーンへ駐在予定だという。市場調査に始まり、法律や規制の確認、さらには現地の法人設立も目指している。
「中東には、宗教的な儀式や日常生活の中で、香木を焚く習慣が根付いている。日本の『木の香り』を理解し、評価してくれる土壌があると考えました」
まだ足を踏み入れていない土地で、ゼロからビジネスの土台をつくりあげる。まさに、開拓者のような役割。

川上さんが、中東の現場で、香りのアイデアや製品化するうえでの課題を見つけてくれば、一緒に解決策を考えることもあるはず。
同じ志をもつ仲間として、日々支え合えると良さそうだ。
「保科さんたちが手探りで回してきた業務が多いからこそ、毎日仕事の内容が変わる。大変だけれど、そこが面白くて。『自分は何ができるんだろう?』と、自問自答しながら成長している感覚がある」
「KITOWAは世界に通用すると、心から信じています。このブランドの未来を信じて、一緒に進んでくれる人と出会えることを楽しみにしています」

ゴールを信じているから、道なき道も楽しめる。
ここで挑戦を重ねた先には、新しい日本の香りの文化がつづいているはずです。
未来をともに描く、5人目の仲間を待っています。
(2025/11/07 取材 田辺宏太)


