駅は、ホテルのエントランス。
改札を出て歩きはじめると、ふっと潮のにおいが混じってくる。
フロントは商店街の一角にあって、待合室とギャラリーは、大正時代から残されてきた建物。窓の外では、港へ戻る漁船のエンジン音や、魚市場の気配が遠くに聞こえる。
夜になったら、銭湯へ行き、スパやサウナであたたまる。
点在する場所がつながって、まち全体がホテルになる。そんなプロジェクトが、いま動き出しています。

舞台は、高知県須崎市。
年間100種類以上の魚が水揚げされる、県内有数の港町です。マスコットキャラクターの「しんじょうくん」で知っている人もいるかもしれません。
このまちに、 2027年の春にかけてオープンするのが「縁日商店街ホテル」。
廃業した旅館、銭湯、レコード店の3拠点をアップデートし、ドミトリーやラグジュアリーホテル、サウナスパを備えた温浴施設に生まれ変わります。
今回は、それぞれの施設で立ち上げから運営に携わるスタッフ、ホテルに併設するレストランのシェフを募集します。
3つの施設を横断しながら、ホテルとまちの両方をつくる地域の語り部のような存在になってほしい。
働く場所であると同時に、ここが自分にとっての第二の故郷になるかもしれません。
プロジェクトには、地域伴走のプロフェッショナルである「株式会社さとゆめ」も加わります。
まずは、どんなまちなのか感じてみてください。
須崎市は、高知県のほぼ中央、土佐湾に面した場所にある。
高知駅からは電車で1時間。手前には林業が盛んな佐川町、先には四万十町があり自然に囲まれている。
須崎駅へ到着して港のほうへ歩くと、だんだん磯の香りが漂ってくる。10分ほどで到着したのが「須崎魚市場」。

須崎の海は、浅瀬や岩礁に海流が入り込み、エサとなる小魚や海藻が育ちやすい環境なんだそう。カツオをはじめブリ、タイ、カンパチなど年間100種類以上の魚が獲れる県内有数の港町だ。
時刻は朝の9時半。市場に続々と魚が揚げられていく。
一般開放されている競りの様子を見学させてもらうことに。
競り人の威勢のいい声が場内に鳴り響く。

「縁日商店街ホテル」のきっかけは、2021年に高知信用金庫100周年を記念してはじまった「須崎市海のまちプロジェクト」。
魚はたくさん獲れる一方、商店街の飲食店が減少し、空き店舗が増加。そんな状況に危機感を感じた高知信用金庫と須崎市が、「海のまち」としてのリブランディングに取り組みはじめた。
ほかにも、須崎駅の駅舎を建て替えや、おいしい魚が食べられる「須﨑サカナ本舗」や地域の憩いのカフェ「須﨑大漁堂」のオープン。海のまちマルシェを企画・開催するなど、まちに変化をつくってきた。
そこに2023年に参加したのが、全国の地域活性化に伴走している株式会社さとゆめ。
代表の嶋田さんにオンラインで話を聞くことに。

「海のまちプロジェクトで観光客は順調に増えています。日帰りではなく、もっと長く滞在してもらえたら、にぎわいや雇用も生まれるし、須崎の魅力がさらに伝わる。それで宿泊という受け皿が必要だと、さとゆめにお声がけいただきました」
山梨県小菅村の「NIPPONIA 小菅 源流の村」や、東京のJR青梅線沿線を舞台にした「沿線まるごとホテル」など。これまでさとゆめは、地域全体をひとつの宿に見立てる観光プロジェクトをいくつも手がけてきた。
「須崎市では、プロジェクトのメンバーとじっくり話したり、実際に何度も足を運んだりして。商店街をまるごとホテルに見立てるのはどうか、と。もともとあった建物の記憶をできるだけ残すのが面白いと思ったんです」
商店街には個人商店だけでなく、大正時代から残されている商家を活かしたギャラリースペースなど。大切に残されてきた建物も多い。

今回の商店街まるごとホテルでは、昔ながらの銭湯を、風合いはそのままスパとサウナに、レコード店は長期滞在できるカジュアルホテルに。歴史ある旅館は、ラグジュアリーホテルにアップデート。
この3拠点を軸にしながら、駅をホテルのエントランスに見立てたり、須﨑大漁堂をフロントに見立て、須﨑サカナ本舗をレストランのように使ったり、まち全体をひとつのホテルとして連動させていく。
今回募集するのは、宿泊部門、スパ部門の運営スタッフ。立ち上げに一から関わり、オペレーションを考えたり、地域の人と連携したりする役割。オープン後は運営の中心となっていく。
嶋田さんやさとゆめの担当者、地域の人たちとともに、一からホテルをかたちにしていく。
「ホテルマンやマネージャーとしての経験は求めていなくて。一から仕組みをつくると言っても、すべてを一人で丸投げすることはありません。これまでさとゆめがほかの地域で培ってきた宿泊運営のノウハウをベースに、一緒に須崎らしいおもてなしのかたちを考えていってほしい」
商店街がまるごとホテルだから、運営はそれぞれ縦割りではなくて、別の施設を手伝ったり、連携したり横断的に関わっていくことになる。
「どんな人が来ても、須崎の魅力を体験できるホテルを目指しています。だからこそ、地域の魅力を伝える、語り部のような役割になってほしい」
フロントに見立てた須﨑大漁堂で鍵を渡し、宿へ向かう道中で地元のおすすめのお店を教える。銭湯の様子を見に行って、レコード店を改装した宿でゲストと話す。
まちを歩き、人と関わることそのものが、ホテルのサービスになっていく。

「地域の人と手を取り合って、どうすればここに訪れる方に喜んでもらえるかを一緒に悩めることが大切なんです」
嶋田さんは須崎市のどんなところが魅力だと感じていますか?
「須崎に通えば通うほど、まちの魅力に気づかされますね。歩けばすぐ海に着いて、堤防の上でコーヒーを飲みながら、夕暮れどきにオレンジ色に染まっていくのを眺める。幻想的で好きなんです。そういうまちの日常も観光資源になると思っています」
たとえば、鳴無(おとなし)神社で行われる「志那弥(しなね)大祭」。船でお神輿を運ぶこの祭りは、海のまちらしい躍動感を感じられる行事なんだとか。

そういった行事や競り市場の見学を宿泊とセットにしたり、気軽に楽しめる魚釣り体験を組み込んだり。
旅館に泊まる時間そのものが、須崎の暮らしや文化に触れる体験になる。そんな体験を一から企画していってほしい。
「地域づくりをやってきた立場から見ても、ほかの地域なら20年かかるようなことが、数年で形になっていく。まちが目に見えてダイナミックに変わっていくのを、現場で実感しています」
魚市場を離れ5分ほど歩くと、縁日商店街に到着する。ここが、今回の「縁日商店街ホテル」の中心地。
とれたての魚を食べられるという、「須﨑のサカナ本舗」へ。カツオやカンパチ、水揚げしたときしか提供できない、新子やどろめ、希少なウツボなど。さまざまな魚介類が、新鮮なままいただける。

ここで話を聞いたのは、月原さん。愛媛出身で、東京で修行を重ねてきた料理人。
1年前に須崎へ移住し、現在はサカナ本舗のメニュー監修や営業に携わっており、新しくできる旅館では料理のプロデュサーのような立場で関わる。

「僕自身プロデュース業は初めてで、新しく参加してくれる方とも議論して、一緒につくりあげていきたいですね」
以前は愛媛の松山市内のホテルで料理長をしていて、独立して自分のお店を出そうと準備していた月原さん。そのタイミングで、さとゆめの嶋田さんと知り合い、海まちプロジェクトの話を聞いた。
「同じ四国だし、いつかは料理で地域に関われたらと思っていたんです。実際に案内してもらって、魚を食べたり競り市場を見たり、漁師さんから直接話を聞くうちに、食材の良さと生産者さんとの距離の近さに惹かれて、チャレンジしようと移住してきました」
今は、日々漁師さんとコミュニケーションをとりながら、メニューを一つひとつ開発しているところ。

「漁師さんから美味しい調理法を聞くこともあって。たとえばカンパチはお刺身で提供することが多かったんですが、鍋でしゃぶしゃぶしていただくと美味しいって。それで去年お客さまにお出ししたら好評でしたね」
お店の中には、地域でつくられた調味料や、工芸品なども置いてある。新しいホテルや銭湯でもそういった地域とのつながりをつくっていけると楽しそう。

地元が同じ四国とはいえ縁もゆかりもない土地。不安はなかったんでしょうか。
「愛媛に家族を置いて移住してきたのもあって、不安はありましたね。でも、実際に住んでみたら、まちの人がとにかくあったかくて。競り市場に顔を出して仕入れさせてもらったり、同い年の漁師さんと家族ぐるみの付き合いになったり」
「今は愛媛から帰ってきたら皆におかえりって言っていただけるので、第二の故郷みたいです」
「これ、ご近所の方がつくってくれたんです」と、お手製のうちわを見せてくれる。

すごい愛され力。意識していることってあるんでしょうか。
「車は必須だけどあえて歩くこともあって。たとえば、買い物に行くついでの散歩で山を見ると、紅葉がはじまっていることに気づく。これは料理の盛り付けに活かせるなとか」
「あとは、いつも開いているお店が閉まっていると大丈夫かなって。数日後にまた行って、声かけてみたり。そこからまた仲良くなったりするんです。歩いているだけで気づくこと、生かされることが多いですね」
自然とそういうことができたり、楽しめる人があっているんだろうな。
「プロジェクト、イベントとか、たくさんのご縁がつながっていくのをすごく感じる。それがあっての今だなって思います。新しい人が来てくれたら僕もつないでいきたいですね」
地元の人はどんな人なんだろう。
先ほど、魚市場で競り人をしていたのが笹岡さん。12年前に須崎市にある漁業組合に入社。サカナ本舗に魚を卸していて、新しい旅館の料理で使う魚も卸してくれるそう。

漁師という仕事そのものの価値を高めたいと考え、漁業のブランディングにも力を入れている。
「須崎は、チャレンジしやすいまちだと思います。首都圏でビジネスを始めるより、ずっとハードルが低い。行政もちゃんと支援してくれるんですよね」
一方で、まちが少しずつ寂しくなっている実感もあるという。
「須崎で生まれ育って、一度は県外に出て、戻ってきたからこそ見える風景がある。注目される取り組みが出てくる一方で、昔からの美味しい料理屋が後継者不足で閉店するとか。だからこそ、漁業と観光は協力しながら、ちゃんと盛り上げていきたいですね」
行政や高知信用金庫が一緒に大きなイベントをつくることも増えた。そうした場に積極的に参加すれば、地域の人とはすぐにつながりができそう。
「考え方は、みんなそれぞれ。でも須崎は、地元同士のコミュニティに入ると、距離が縮まるのがすごく早い。ビジネスだけの付き合いじゃなくて、人生ごと関わっていく感じですね」
まちの勢いに負けないくらい、須崎の人たちは率先して案内してくれたり、説明してくれたり。
自分自身がまちに溶け込んでいくようで、楽しいひとときでした。
そうやって、暮らすように働ける場所だと思います。
(2025/12/05 取材 大津恵理子)


