「僕は人見知りで不安になりやすい性格なんですが、そういう人は相手のパーソナルスペースにぐいぐい入っていったり、押し付けがましい態度をとりません。それって、クライアントと信頼関係を築くうえで、とても大切なことなんです」
日光プロセスの営業2課は、丁寧な言葉で相手にあゆみ寄り、心配性で入念な準備をついしてしまう人が活躍しています。

創業から70年以上にわたり、高精度な印刷と製版技術でデザインやブランドの表現を支えてきた会社です。
まちなかや駅で目にする広告、映画の劇中ポスター、アートブック、個展の壁面装飾など、さまざまな製版を手がけています。
今回は、クライアントの翻訳者となって、イメージ通りの印刷物に仕上げていく営業2課の募集です。
営業2課のスタッフは、自らをプリンティングディレクターと呼んでいます。
広告代理店からの依頼がほとんどですが、クリエイターやデザイナーと直接仕事をすることも。単に受注して印刷物を提供するだけでなく、ときには構想の段階から一緒にイメージを膨らませることもあります。
大切なのは、依頼主の脳内イメージをいかに汲み取り、言語化し、現物に落とし込めるか。
「これで本当にいいのだろうか?」「これじゃまだダメじゃないか」と立ち止まって、つい考えてしまう人はぴったりの仕事だと思います。
都営新宿線の菊川駅を降りると、周辺にはコーヒーショップが併設しているミニシアターに、ランチをしながら元力士が土俵で相撲をとる様子が見られる飲食店など、ユニークなお店がある。
駅から3分ほど歩き、大通りから路地に入ると、日光プロセス本社を見つけた。

エレベーターで4階のフリースペースに上がると、代表の原田さんが出迎えてくれた。
「社名のプロセスっていうのは、印刷をするための過程、いわゆる製版のことなんです。印刷物というのは、その過程をどうつくり込むかによって、最終的な品質がまったく変わってくるんですよね。プロセスに価値を見出すことこそが、我々の存在意義です」

日光プロセスは、1953年に原田さんのお祖父さんが大阪で立ち上げた製版会社。
創業時から、複数の工場と連携することで、クライアントのイメージ通りの印刷物へと仕上げてきた。
だからこそ、一般的な紙への印刷だけでなく、Tシャツやカーペット、アクリル、木材、石などに印刷したいという幅広い依頼もくる。
原田さんは、社訓の一つである「良品」について話し始める。
「単にきれいに仕上げることが良品という考えではなく、クライアントがどんなふうに仕上げたいのか汲み取ること。その過程を大切にしていて。だからこそ、高いクオリティの良品を生み出し続けられると思うんです」
日光プロセスの強みである製版過程の価値と、良品へのこだわり。
今回募集する営業2課は、まさにクライアントのイメージを汲み取っていく要。
有名メーカーのポスターやグッズ、販促物、アートブックなどクリエイティブな案件を受けていく。

原田さんはどんな人がプリンティングディレクターに向いていると思いますか?
「一つひとつの依頼に慎重に向き合いながら進められる人がいいですね。自分の主張が前に出過ぎてしまったり、猪突猛進な人より一度立ち止まって、考えらるような」
クライアントとの距離をグイグイ詰めるというより、程よい距離感を保ちながら信頼関係を築ける人が活躍しているという。
「昔に遡るのですが、創業者の祖父は会社でも家庭でも絶対的な存在でした。そんな環境が当たり前だったので、知らず知らずのうちに僕は周囲の大人の顔色をうかがい、気を遣うような行動をとっていたんですよ」
原田さんは大学卒業後、日光プロセスに入社。その2年後に当時、社長を務めていた原田さんのお父さんが急死し、25歳で会社を継ぐことになった。

重い責任と向き合うなかで、原田さんは人の機微に過敏な自分の性格に対する捉え方が変わっていったという。
「適度な距離感を保ちながら相手を思いやることは、人と誠心誠意向き合い、深い信頼関係を築くための才能だと思ったんです」
「僕自身、人見知りなんです。でも、社長という役割があるから、人と会うことを頑張らなきゃいけない。なぜ頑張れるかというと、会社のみんなが一生懸命やってくれているからなんですよね。誰かのために自分の役割を果たすことって、すごく大切なことだと思うんです」
原田さんの隣で話を聞いていた川端さんも、すこし人見知りな様子。
取材が始まる前は「緊張で逃げ出したいです」とポツリと呟いていたものの、関西弁で明るく仕事のおもしろさについて話してくれる。入社して23年目、新しく入る人の上司になる。

「デザイナーさんは、ひとつの色、ひとつの線にものすごい情熱と時間を注ぎ込んでいます」
たとえば、「このビジュアル、もうすこし春らしく見せたい」という漠然としたイメージを伝えられることもある。
「桜や菜の花を加える方法もありますが、実は季節感を左右するのはモチーフだけではありません。私たちは無意識のうちに色から季節や温度、空気感を感じ取っています。春らしさと夏らしさを分けている色の違いを考え、数値では測れない繊細なこだわりを汲み取るのが、プリンティングディレクターの腕の見せどころなんです」
大切なのは、クライアントが頭の中でイメージしていることを、自分の脳内でも同じようにイメージできるかどうか。それを言語化して印刷工場に伝え、印刷物をつくりあげていく。
1週間で納品できるものもあれば、企画・提案から取り組むときは半年間ほど時間をかけてイメージを練り上げていくことも。

たとえば以前、ジュエリーブランドのカタログ制作で、夫婦が過ごしてきた年月を表現したいと依頼を受けた。
「光の影響で、時間とともに変化する紙の性質を活かせないかと思ったんです。何年も経ったあとに隠されたメッセージが、じんわりと浮かび上がる仕掛けができないかと」
そこでオフィスの窓際に5種類ほどの紙を貼り出し、数ヶ月かけて太陽光による焼け具合をじっくり観察。
変化しやすい紙を選んだあとは、インキの耐久性を調べるため、紫外線テストが行える専門の研究機関へ足を運んだ。印刷しても文字が見えない特殊なインクに、何百時間も紫外線を当てて耐久性を検証したという。
「インキの濃度を100%で印刷すると、最初から見えてしまうので薄め加減を調整したり。時間が経ったときにきれいに文字が浮き出る方法を何度も試しましたね」
人より心配性だったり、不安になりやすい性格でも、根底に誰かの役に立ちたいと思っていたり、ものづくりを通して人と関わりたいという気持ちがあることが大切。
だから「これで本当にいいのだろうか?」と立ち止まって、さらに良くしていこうと行動することができた。

案件ごとにつくる製版物も違えば、目指す色も千差万別。
そのため、完璧なマニュアルはなく、仕事は先輩とペアを組んで覚えていく。
「ピンポイントでここを直したいというよりは、全体を見て依頼のイメージと何か違う気がする。だけど、どこをどうしたらいいんかなって、何度も社内で話し合ってますね」
「マニュアルで伝えられない感覚的な仕事だからこそ、職人の弟子入りみたいに、隣で一緒に考えながら身につけていくしかないんです。3〜4年かけてじっくり育てていくので焦らなくて大丈夫ですよ」
川端さんとペアで仕事をしているのが入社3年目の池田さん。実は、取材で何を話そうか夜なべして考えてきたという。手元の紙には、事細かにメモがびっしりと書かれている。
「池田さんはそろそろ合格ライン、クリアしてるから独り立ちしてもええんちゃう?」と川端さんが笑い交じりに振ると、「イヤです!まだまだ独り立ちしたくないです!」と即答。
まるでコントのようなリズムで会話をする2人。

「今でも電話をかける前はすごく緊張するので、『こういう質問をされたらどう答えよう』って、事前に川端さんに相談して、頭の中で何度もロールプレイングしてから電話します。自分が話下手だと分かっているから、準備を欠かさないようにしていますね」
原田さんいわく、社内で一番コミュニケーションが活発な部署だという。

池田さんは芸大を卒業し、飲食店に入社したものの、ものづくりに関わる仕事がしたいと転職を考えるように。
「私は営業という言葉には少し抵抗感があって。日光プロセスに応募したときは違う部署を希望していました」
「でも入社後の研修で社内の部署を見て回ったときに、雰囲気がすごく自分に合っているなと感じて、一緒に働きたいと思ったんです。実際、働き始めてからも世間でイメージされるような『売ってこい!』という営業ではなく、プリンティングディレクターとしての側面を強く感じました」

池田さんが印象的な仕事として教えてくれたのは、大手飲料メーカーからの依頼。体験型イベントに向けて、街中のビルの壁から道端の小さな溝まで、数十種類もの特殊な印刷物を製版する案件を担当した。
屋外に設置する印刷物の依頼は、社内でほとんど前例がなく、どんな紙なら何日ぐらい雨風に耐えられるのか、壁に貼っても跡が残らないかなど、手探り状態だったという。
テスト段階ではクライアントを本社に招き、会社の駐車場の壁に紙を貼り出してチェック。デザイナーにも屋外で見え方を確認してもらい、ひとつずつ不安を丁寧に解消していった。
「イベントが始まると、課のメンバーと一緒にポスターを探しにいきました。自分が関わった仕事がいろいろな人に見ていただけるって、やっぱりうれしいですね」
取材が終わって数日後、とある駅の構内で日光プロセスが携わった巨大な広告ポスターを目にしました。
印刷物のどこにも「日光プロセス」の名前は刻まれませんが、自分たちの仕事が多くの人の目にふれるって、きっと大きなやりがいになると思います。
大切なのは、誰かの役に立ちたい、ものづくりを通して人と関わりたいという気持ちを行動に移せること。
心の奥にそんな気持ちがあるなら、ここはきっと、あなたの居場所になるはずです。
(2026/07/23取材 小菅綾香)


