コラム

キノコで都市を耕す

日本仕事百貨のオフィスがある「リトルトーキョー」は、いろいろな生き方・働き方に出会うことのできる5階建てのビル。

3階はシェアスペースになっていて、スペシャリティコーヒーが楽しめる。2階には、全国各地の生産者とつながり、新鮮で旬な食材を活かした料理を提供するレストラン「the Blind Donkey」が入っています。

ビルの1階に降りて角を曲がると、目的地の「KINOKO SOCIAL CLUB(キノコ ソシアル クラブ・KSC)」が。キノコを起点に都市のフードシステムを考えるお店です。

外からはガラス越しに、吊り下げられたしいたけのホダ木が見える。

思わず、「何これ」っと立ち止まってしまう人も。入り口から、ワクワクするような面構え。

店内では、屋台のようなキッチンカウンターが存在感を放っている。

ほかにもキノコ型のスツールに、菌や食にまつわる書籍、KSCのステッカーなど。単純な飲食店というよりは、ライフスタイルショップのようにも感じる。

横には温度調節機能を備えたショーケースが並び、なかではキノコがすくすくと育っている。

この場所を手がけるのが、株式会社モノサス。Web制作やマーケティング、フードビジネスなど、さまざまな事業を行っている会社。

CEOの真鍋太一さんがお店で待っていてくれた。

--真鍋さんのお仕事について教えてください。

広告業界で長く働いていました。次第に、人の商品を売ることよりも、自分たちでつくったものを届けたいという思いが強くなって。2014年に徳島県の神山町に移住をして、「フードハブ・プロジェクト」を立ち上げました。

そこでは「地産地食」をコンセプトに、地域の食材を使ったパンや加工品の製造、食堂や学校給食の運営など。「育て、つくり、食べる、つなぐ」の循環を、地域のなかで生み出せるように取り組んできました。

神山で実践してきた循環型の農業を都市部でも実現できないかと考えて、たどり着いたのが、キノコだったんです。

--どうしてキノコに着目したんですか?

水耕栽培や屋上菜園などで育てる野菜も考えてはみたんですが、味も今ひとつピンとこなくて。

そんなとき、アメリカの知人から、当時山梨県にあるキノコの種菌メーカー「富士種菌」で働いていた猪瀬真佑さんを紹介してもらったんです。原木の提供だけでなく、栽培キットなんかも販売していて。なにより熱意のある方たちで、育てているキノコも美味しい。

偶然、神山もキノコの菌床栽培が盛んな地域でした。

全国でも有数の生産量を誇る「神山しいたけ」があり、設立当初から、菌床を畑で堆肥化して野菜を育てる取り組みもしていた。キノコに関しては、神山じゃなくて都市部で育て方が面白いんじゃないかと思って、KSCをつくったんです。

清澄白河は、コーヒーショップが多いまち。地域のお店から出たコーヒーかすで菌床をつくり、店内でキノコを栽培する。お客さんは育つ様子を眺めながら、料理を楽しむことができる。

キノコの栽培に使用した廃菌床は、区民農園に届けて作物の堆肥にしてもらいます。作物を育てて、食べて、次につなげる。そんな小さな循環を身近に感じられるお店を目指しています。

主なメニューは、ハンバーガーの「ビッグマッシュ」や、「いろいろキノコのフリット」。なかでも、しいたけのポタージュを甘くした「マッシュシェイク」は一押しです。

--お店をはじめてどうですか?

毎週水曜日になると、塾帰りに遊びに来る子がいて。この前は、店内のキノコを収穫して家で食べてくれたんだよね。お店にあるキノコ図鑑を熱心に読んで、この前は「カエンダケ」を公園で見つけたよと、うれしそうに教えてくれました。

これからはキノコを育てる場所を増やして、清澄白河のなかで循環がしっかり根付くようにしたいです。

畑がなくても、都市に住んでいる誰もが生産者になれる。その可能性にも気づいてほしくて、自宅でできるキノコ栽培セットも販売しています。

それに、キノコって生き物なんですよね。じっと見ていると動物のようにも思えてきて、だんだんと愛おしく感じてくるんです。野菜を育てている農家さんもそいうことをよく言うんですが、成長の早いキノコはよりそう感じるんじゃないですかね (笑)。

キノコに関心がある人たちが集まれるコミュニティもはじめました。みんなで栽培状況を共有しながら、新たなつながりを育てていきたいですね。

--最後に、真鍋さんにとっての「自分の仕事」とはなんでしょうか。

人との関わりを持つこと、ひいては社会とのつながりを持つこと。それが自分にとっての自分の仕事かな。

今回の事業も、最初に事業があったわけではなくて。当時富士種菌で働いていた猪瀬さんとの出会いがあって、一緒に面白いことをしようと思って、結果として生まれたもの。

自分たちの事業が社会とどう繋がっているかを考えることは、欠かせないと思うんです。

美味しい料理をつくって終わりではなく、コーヒーかすをいただいている方々にキノコでお返ししたり、収穫したキノコをビルの2階にある「the Blind Donkey」で調理して提供したり。

食べることを通じて、人とのつながりが生まれる。そんな循環の輪がもっと広がっていったらいいなと思っています。

(2025/06/17 取材 櫻井上総)

このコラムでは、わたしたちのオフィスがある東京・清澄白河でさまざまな人に話を聞き、「自分の仕事」のヒントをあつめる企画です。