「大切にしたいことばたち」。3回目は新卒1年目の中川と社会人になり8年がたつ中嶋で、2015年に出会ったことばをご紹介します。
周りにいる大人たちが、知らん顔して背中を押してくれるような。精一杯ここではじめようと思いました
LICHT LICHT Kamiyama /金澤光記さん 「自分で決める」より
金澤さんは徳島県神山で半年を過ごし、立ち止まりながら考える神山塾というプロジェクトに参加。その後神山でオーダーメイドの革靴屋さんをはじめました。
中嶋:この言葉を聞いたときに、はっとしたんだよね。
中川:どういうことですか?
中嶋:金澤さんは神山に残ってお店をはじめるかどうか、迷った時期があったそう。決心させたのは、周りの大人が言ったなにげない一言だったんだって。
中川:求人記事では神山塾を運営している祁答院(けどういん)さんや、西村佳哲さんの言葉が紹介されていましたね。
ー「違うなって思ったらやめちゃえばいい」(祁答院さん)
ー「靴屋は採寸や納品、修理となんども足を運ぶ場所だから、人の流れをつくることができておもしろいよね」(西村さん)
中嶋:うん。これって、言った本人はアドバイスをしようと思って発した言葉じゃなかったと思うんだよね。けれど、その一言が金澤さんの人生を変えたんだなって。
中川:ああ、なるほど。
中嶋:そう思ったら、自分は大丈夫かなって心配になって。私が発する一言や態度、目線が誰かの大きなきっかけになっている可能性があると思ったんだよね。
中川:それはあるかもしれません。
中嶋:いいことも、わるいことも。きっかけにとどまらず、相手の性格や考え方の一部になっていくこともあるかもしれないって。
中川:でもそこまで考えていたら、大変ですよね。
中嶋:そうだよね。無理しても続かない。今はせめて、悪い循環を生むきっかけにはならないようにしようと思うようになかったかな。
中川:悪い循環、ですか。
中嶋:たとえば自分がイライラしていて態度に出す。それって、相手を恐縮させたり、同じようにイライラさせたりする。その瞬間にとどまらず、相手の要素になっていくような感じがして。だから、それを自分から発するのはなるべくしないようにって。
中川:周りを変えようとするわけじゃなくて、まず自分が悪い循環の発端にならないようにする。
中嶋: うん、そういう意識はあると思う。きっかけを得た後にどうするかは、結局その人次第なんだけれど。
上から目線の押しつけではなくて、ぼくらは下からの目線で社会のあり方を提案していきたい。そうすれば、弱者や負け組としてこぼれ落ちてしまう人も自然と少なくなっていくと思うんです
真島ビルサービス/眞島宏和さん 「清掃の哲学」より
真島ビルサービスはビルの清掃を行っている会社です。清掃業は地味で給料もあまりよくない、大変な仕事というイメージを持っている人も少なくないかもしれません。
中川:「周りからそう思われている立場だからこそできることがある」という考え方が、すごく力強いし、かっこいいと思って。
中嶋:具体的にどんなことをしているの?
中川:たとえば、ユニフォームをオリジナルでつくっているそうです。「制服が変われば周囲の見る目も変わり、清掃員自身の意識や振る舞いもより洗練されてくる」。そうおっしゃっていました。
中嶋:お互いの心に、少し変化が起きるということかな。
中川:そうですね。きちんとした制服を身につけると誇らしい気持ちが湧いてきて、通りがかりの人にも挨拶したくなる。すると周りも存在をより意識するようになるので、清掃員さん自身の仕事への向き合い方も変わっていく。そんな循環が広がれば、社会も少しずつ変えていけるというふうに感じました。
中嶋:さっきの神山の話に通じるものがあるね。
中川:今までそういう視点で考えたことがなかったんです。
中嶋:詳しく教えてほしいな。
中川:自分の立場や働きを、社会の中で位置づけたり。ちょっと引いた視点から、自分のできることを考えることとか。
中嶋:今まではそうじゃなかったんだね。
中川:就職先を考えていたときも、「自分がなにをしたいか」ばかり考えていました。自分の仕事が働きかける先というか、どんな役割になるのかをほとんど考えていなかった。真島ビルサービスの方々は、それをすごく意識しているのが印象的だったんです。
中嶋:それは編集の仕事に当てはめることもできそうだね。
中川:たしかに、「想像する」という面で共通していると思います。取材や編集をするとき、どんな仕事なのかを想像することはもちろんなんですけど、その記事を読んだ人はどう思うかとか、その先のこととか。
中嶋:むずかしいよね。自分じゃない人のことを想像するって。
中川:限界がありますよね。なので最近は、まず素直に聞くことを心がけていて。
中嶋:聞くこころ構えから変えているんだ。
中川:当たり前のようで、今までぜんぜんできていなかったんだと感じることが多くありました。つい先走ってしまったり、自分の視点でしか見ることができていなかったり。聞けていることが少ないと、そこから想像できる幅もぎゅっと狭まることに気づいたんです。今年の大きなテーマとして、「素直に聞く」ことを忘れずにいたいですね。
中嶋:なんだかほぐれた1年だったんだね。私も素直さを忘れずに、働いていきたいな。
取材を通して話を伺うたびに、感じること、考えることがあります。2016年も、たくさんの仕事や働き方を素直に紹介していこうと思います。