※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。
今いる私は、自分でいろいろなものを選んできたからここに立っている。なにからはじめればいいか、どこへ行ったらいいか、本当にこの道でいいのか。迷うこともある。
今そんな時間を過ごしているのなら、あせらずに神山で立ち止まってみるのもいいかもしれません。

周りを山で囲まれるこの場所には、アーティストやクリエイター、サテライトオフィスで働く人など、世界中から移住者が集まってきています。カフェやコワーキングスペース、日本仕事百貨でも紹介した宿泊施設WEEKなど、新しい灯りがともりつつある場所。
人が移住するきっかけの1つに、半年間この地域で暮らしながら、自分を見つめる時間をつくる「神山塾」があります。今回は久しぶりに開催する神山塾の7期生の募集をします。
具体的には神山で活動をしている株式会社リレイションのスタッフとして、5ヶ月間給与をもらいながら働くことになります。
地域で働くことに関心のある人、自分でなにかをはじめようと考えている人にはとてもいい機会だと思います。
日本仕事百貨で何度も紹介している場所だけれど、私自身が神山に行くのは初めて。どんな場所なのか想像を巡らせつつ、空港から1時間ほどで神山に到着。
山間を流れる川に沿って暮らしがある、空気がすこやかな場所だ。
まずは神山塾について、リレイションの代表である祁答院(けどういん)さんにお話を伺う。

代々大切にしてきた田んぼを耕すこと。食べられる山菜とそうでないものの見分け方。狩猟をするということ。
ここにはたくさんの暮らしと知恵があった。
「受け継ぎたいものがたくさんあるんです。今は100人のスタッフを集めて百姓会社をできないかと考えているところです」
アーティスト・イン・レジデンスや移住者の受け入れなど、神山で行われているプロジェクトの中心にいるNPO法人グリーンバレーとともに祁答院さんがはじめたのが、神山塾。
今まで77人が卒業し、その半数は今も徳島で暮らしている。神山で就職をしたり、起業をする人も出てきた。
「終わった後は神山に残ってもいいし、地元に戻ってもいい。5ヶ月間、いい意味で立ち止まる。目標は与えるので、意味合いは自分で持てばいいんです」
意味合い、ですか。
「日中はうちの会社が神山で展開しているプロジェクトに参加してもらいます。将来起業をしたい、と思ってきている人には一見関係ない仕事に見えるかもしれない。けれど自分で事業をするということは、地域やまわりの人と関わらずにはできないことです。この時間をどんな肥やしにするのかは自分次第です」

話を聞いているとグリーンバレーの理事長、大南さんがふらっと現れた。
神山プロジェクトに関わる人が行ったり来たり、相談をするのに声をかけてくる。
地域の中で働くということは、狭い社会の中で働くことでもある。大南さんとのやりとりを見ながら、そんなことを考えた。
大南さんに神山塾の募集で訪れていることを伝える。
「頭の中で考えるんやなしに、行動に移す人が集まってきてるのが神山やな。試してみる場所としては最適やと思うよね」

塾生がまず訪れる場所があると聞いて、青木さんに連れて行ってもらう。青木さんは神山塾の卒業生で、今はリレイションのスタッフとして働いている。

話をしているうちに車は山をぐんぐん上がっていき、辿り着いたのは神山スキーランド。
貫禄を感じる施設の中で待っていてくれたのは洋代(ひろよ)さん。塾生のお母さんのような存在だ。

1ヶ月はここで共同生活をすることになる。その後は希望すれば残ることもできるし、他の民家にお世話になる人もいる。
「とっても寒いときにくるからな。あったかくしてきたらいいよ」
青木さんと町のなかを回っていると、卒業後も神山に残り仕事をしている人に会うことができた。
田舎暮らしに興味があったという伊藤さん。「いっくん」と呼ばれ、今はグリーンバレーのスタッフとして神山で働いている。

「神山塾でなにをしていたかはもう覚えてないですね(笑)。それ以外の時間で農作物を収穫する手伝いをさせてもらったり、神山で働いている人たちに飲みに連れて行ってもらったり。こんな生き方があるんだなって思いました」
神山ではIT企業など12もの会社がサテライトオフィスを設置し、都会にある本社とやりとりをしながら働いている。最近はコワーキングスペースもできて、いろいろな仕事、働き方を実践している人に出会うことができる。
「みんな自由な感じがして、かっこいいんです。具体的な方法はまだ思いついていませんが、いつか独立したいと自然と考えるようになっていました」
神先(かんざき)さんは神山塾3期生。卒業生と結婚し、先日お子さんも生まれたそう。
神山では食に関わることを中心に活動している。今日は週2回担当しているというcafé ELEVENへ。
ちょうどランチが終わったころにお邪魔した。
「今日すごい寝坊したんです。髭そってくればよかったな」

「『目の前の1つのことをしっかりクリアしていくことで、それが次第に大きくなって、大きいことができるようになる』っていう言葉があって。半年間お金をもらいながら好きなことができて、応援してくれる環境がある。人生をかけて挑戦しようと思って、ここに来ました」
半年後のことを考えると、尻込みしてしまう気もする。けれど不安はなかったという。
「自己開示みたいな授業があったり、塾生同士でけっこう深い話をするんです。その中で本来の自分を思い出していくというか。なにが自分にとって大切なのか、自分の本質に気がつきました」

神山にきてすぐに、イベントに屋台を出店した。小さな事業をはじめたことで、商売の仕組みを実感することができた。
迷ったけれど、せっかく縁ができた場所なので卒業後も残ることにした。独立して生活していくのは簡単ではないと実感することもあるそうだ。
「全部自分で決めてるんです。自分で決めれば後悔しないし、誰のせいにもできない。好きなことができるけれど、責任も持たないといけない。自分の選択で人生ができていくっていうのは、ここで感じるようになりました」
「今は神山から恩を受けまくってうまくいってるんですよね。もっと外にも出て、神山に還元できるようにしていきたいです」
この後にお会いしたのも、前回の神山塾生募集の記事で紹介をした2人。
まずはオーダーメイドの革靴屋さん「LICHT LICHT Kamiyama」へ、金澤さんを訪ねた。

「田舎っていうよりは、クリエイティブな人たちが集まる場所に入っていったら自分はどうなるんだろうって。それを試したくてきたんです。コテンパンに打ちのめされるかと思っていたけれど、神山にいる人はすごく優しかったですね」
ふと見に来た物件が気に入って、神山でお店を構えることにした。けれど迷うこともあった。
「神山でやる意味とか、僕なんかが神山ではじめちゃっていいのかなって。それを正直に祁答院さんに話したら、違うなって思ったらやめちゃえばいいと言ってくれて」
「それと神山にも拠点を持つ西村佳哲さんが、靴屋は採寸や納品、修理となんども足を運ぶ場所だから、人の流れをつくることができておもしろいよねって。周りにいる大人たちが、知らん顔して背中を押してくれるような。精一杯ここではじめようと思いました」
オープン初日から思わぬほどの人が訪れた。注文は春までいっぱいだそう。
「半年って人生の中で考えたらとても短い時間だし、そこで得られるものがあるかもしれないなら来てみればいいのにって思います。ぼく、虫ダメだったですけど、大丈夫になったし(笑)」
去年はカフェで朝食の提供をしていた五味さん。なんとこの8月、金澤さんのお店の隣に惣菜屋「5・3・5」をオープンした。
「もともとお店はやってみたかったけれど、前の仕事で料理から離れてあきらめていて。神山にきて、本来自分がやりたかったことを思い出したというか。復活しました」

「失敗したらそのときに考えればいいって、みんなが応援してくれる空気があるんですよ。やってみたらできるんじゃないかなって思ったら、案外できちゃいましたね(笑)」
卒業生や町の人たちが立ち寄って惣菜を買いつつ、話し込んでいく人がちらほら。お惣菜ももちろんだけれど、五味さんに会える場所なんだな。
ここで自分の道を進みはじめた卒業生たちの姿は、すっかり“神山の人”になっているように感じた。

ここで紹介した人たちのほとんどが、今、同じように日本仕事百貨の記事を読みました。
それぞれに悩みながらも、自分で決めて神山にやってきたんだと思います。
その先のことも、神山でならばすこやかな決め方ができるんじゃないかな。出会った人たちの笑顔を見ていて、そんなふうに思いました。
(2015/10/15 中嶋希実)
※募集締切が10月27日21:00となりました