コラム

ちゃんと言葉にする。
【社長編】

同じ会社で働く人との信頼関係を、どう深める?大阪の広告代理店a-worksの野山大彰さんがつまずきから見出した働き方の話を聞きました。

「自分は、どうありたい?」

ある日、社長からそんなふうに聞かれたらどうだろう。

思わず「え、どういう意味ですか?」と聞き返してしまいそう。状況や、相手との関係性によっては、答えを取り繕ってしまう人もいるかもしれない。

職場の仲間となんでも本音で話すということは、簡単ではないし時間がかかる。だけど、お互いの信頼関係を、本当にたしかなものにするためには、欠かせないプロセス。

今回紹介するのは、この「どうありたい?」の問いかけをひとつの手がかりに、働き方を少しずつ変えてきた会社。

思っていることを、ちゃんと言葉にする。一緒に働く人との関係や、自分の価値観を見直すきっかけになる話だと思うので、ぜひ読んでみてください。

a-works株式会社は、大阪市中心部のビルの7階にある。

代表の野山大彰(ひろあき)さんに直接お会いするのは、この日がはじめて。忙しいスケジュールの合間とは思えないほど、穏やかな雰囲気で迎えてくれた。

ー 今日はよろしくお願いします。

はい!よろしくお願いします。

ー みなさんのお仕事は、「アフィリエイト」を専門にした広告代理店という認識でいるのですが、その分野のこと、あまり詳しくなくて…。

そのことなんですが、僕たちはそんなにアフィリエイト広告にこだわりがあるわけじゃないんですよ。

今は主に化粧品などの通販会社をクライアントとして、Webで物を売るお手伝いをしているんですが、ちゃんとそのブランドの考えを伝えていくには、広告だけじゃなくてほかのソリューションも必要だと思っていて。たとえば企業の人事や採用のコンサルティングとか。

これからどんどんチャレンジしたいので、仕事の内容は変わっていくかもしれない。実は今、採用も考えてはいるんですが、仕事の内容というよりは、考え方がマッチする人と出会いたいなと思っていて。

ー 考え方、ですか。

今のスタッフはほぼ全員、広告業界未経験なんです。選考基準として、前職で何をしていたかとかはあまり重視しません。

この人は能力が高いから一緒に仕事をしたいって言っていると、信頼は生まれませんよね。

ー 信頼…。その通りだと思います。ですが今、直感的に「野山さん、過去に何かあったのかな」と思ってしまいました(笑)。

ー まずは、野山さんとa-worksのこれまでのことを、教えてもらえますか。

はい。最初は、好きなことをして楽しく生きていけたら、ぶっちゃけ何の仕事でもいいと思っていました。高専を出て大手の電機メーカーで3年働いたあと、便利屋みたいなことをはじめて。

飲食店のメニューづくり、バイク買取の広告、学習塾のコンタクトフォームづくりなど、自分がWebでできることを組み合わせていろいろやりました。

そのうち、いろんな商品を比較しながら紹介するサイトが、わりとうまくいきまして。商品が売れたぶんだけマージンを得る、そのビジネスモデルがアフィリエイトなんですが、「Webでものが売れるの?」って興味を持った人から、少しずつ広告の仕事を受けるようになりました。

だんだん業績も伸びてきて、そのことをいろんな人にしゃべっているうちに、無名だった僕らが、ビジネスカンファレンスで賞をもらうこともありました。経済的にもゆたかになって、いろんな人との接点が増えると、チャレンジできる仕事の可能性が広がる。

強いライバル企業も多いなかで、今の僕らに必要な意思決定とはなんだろう。そう考えて「規模拡大」を目指した時期もありました。

そうしたら、トラブルが増えてきたんです。頑張ったぶんだけもっと楽しくなるはずだと思っていたのに、雰囲気もギスギスして、今までタバコを吸わなかった人がヘビースモーカーになって。

ー 組織の雰囲気が荒んだ時期があったんですね。

いや、もう組織ともいえない状況だった。ただ人が集まっているだけ。何のために仕事しているのかわからなくなって。「やっぱり、みんながゆたかになる仕事をしよう」って考え直したんです。

ー みんながゆたかになる仕事?

僕たち自身ハッピーな仕事ができてないのに、クライアントに対していい成果を提供できるわけがない。そのバランスを見直すために、まずは何でも屋さんをやめたんです。自分たちの考え方に合わない案件は受けない、営業もしない、頭も下げない。それでもいいって言ってくれる相手に絞って仕事をすることにしました。

そのスタンスが尖っていたし、市場も伸びていたので、業績はさらに上がりました。スタッフも増えたころ「会社が大きくなったら、ちゃんと階層をつくらないと」ってアドバイスを受けて。言われるまま、そういうマネジメントをしていたら、またすごくギスギスしてきました。

ー ふたたび…。

そう。社内のコミュニケーションが、「あなたの役割はこれ、自分はこれさえやればいい、これはできたのか」ばっかりで。みんなが兵隊みたいになっていました。

それがちょうどGoogleやYahoo!、FaceBookのようなプラットフォーマーのルール変更が相次いだ2018年ごろで、売り上げも落ちていた時期だったんです。

みんなが不安な気持ちのなか、業績を回復しようとしても、コミュニケーションも上手くいかない悪循環に陥って。いったい何のために仕事しているのかなって、また考えるようになりました。

やっぱり、信頼がないと何も進まない。コミュニケーションをしていても頭の上に「?」が浮かんでしまって、問題を解決できない。だから、信頼構築を大切にする企業文化をつくろうと思いました。

そのためにはまず、相手の情報が必要なんですよ。

ー 相手の情報?

誰が何を考えていて、どういう価値観で生きていて、っていうこと。

それをみんなで把握して、尊重する。お互いに、この人たちは話を聞いてくれるんだっていう認識を持てるように、制度を変えていこうと思ったんです。たとえば今は、半年に一度は僕が1 on 1の面談をして、みんなの「目的」を聞くようにしています。

ー 目標ではなく、目的ですか。

そう。僕たちにとってビジネスの定義は、「関わってくれるみんなの目的を果たすための手段」なんです。目標っていうのは、そこにいたるプロセスのことと捉えています。それは自分で管理しなさいっていうスタンス。

だから、「どうありたいの?」「どうしたいの?」っていう質問を、めちゃくちゃしています。

自分の人生「どうありたいの?」っていうこともそうだし、普段から仕事でトラブルがあって、メンバーが僕のところに「どうしましょう?」って言いに来るときも、「どうしたいの?」って聞くんです。「ビジネスマンとしてどう対応したいの」って。

ー スタッフそれぞれがどうしたいのかをとても大事にされているんですね。「どうありたいか」って、かなり漠然とした問いですが、みなさんの回答はどんな感じなんですか?

「自分で価値をつくれる30歳を迎えたいです」って言う子もいるし、「自分でテニスコートをつくりたい」って言っている子もいます。

あとは自分がどういうふうに生きてきたかっていう「年表」をつくって、みんなに発表するとか。そういう「トラストビルディング」をしていくために、3ヶ月に一回は日帰り合宿をし、週に1回はチームで近況を話して、月に一度は全社で納会をやっていますね。

ー コミュニケーションにかなり時間をかけているんですね。忙しいときなど、業務の手を止めるのが難しいことはないですか?

え、業務の手が止まることはダメなんですか?

ー ええっと…。

業務が多少遅れても誰も死なないじゃないですか。納期に追われているって、そのスケジュールは、誰が決めたの?っていう話なんですよ。

今のa-worksは、みんなの能力や個性を生かして、人生の意義を高めるためにある会社なので、「どうありたいか」を考える時間は大切にしたい。その文化を前提に、ちゃんと利益が出るビジネスモデルにしていけばいいんです。

そのためにも「余力を管理する」ことがすごく大切です。

僕たちは、働き方もみんなで話し合って決めたい。今の仕組みのここが窮屈だとか、おかしいんじゃないかとか。そういう気づきも、余力がないと生まれないと思うんですよね。

僕は余力があったら、外に出ろ、人と話せって、よく言っています。一番ダメなのは、余力があるならもっと仕事を詰め込まないと、っていう考えだと思います。

ー 余力を意識するほうが生産性は高まるのかもしれませんね。ただ「空いた時間に仕事を詰め込まず」にいられるかどうかは、人事評価の仕組みにもよる気がします。

それでいうと今は、アウトプットしか評価しません。粗利がいくらかとかはどうでもいい。

要するに、「何を考えて、何をしたのか」が、期待以上だった人が評価される。たとえば、こういう工夫をしたことによって余力が生まれて、次の仕事にチャレンジできるようになりました、みたいなことですね。

これからは、具体的にどうやったら給料が上がるかとか、年収の定義、残業の定義とか。いろんな情報を、社内だけじゃなく社外にもフル公開していこうと思っているんです。

クライアントにも社員にも、嘘や隠し事をしたくない。だからオフィスを移転するときも、ガラス面を多くしました。

ー あらためて、仕事内容の話を聞いてもいいですか。

これは、いち消費者としての個人的な意見なのですが、普段目にする「アフィリエイト広告」のなかには、正直あまり好ましくないと感じるものもあるというか…。

まあ、怪しい業界だと思っている人は多いと思います。実際、誇大広告でお客さんを放り込んだらいくら、っていう商売をしている人たちもいるので。

ただ、煽ってノリで買わせるという仕組みでは、消費者が「リピーター」になることはない。僕たちはそういうことは一切やりません。ちゃんとその商品のことを理解して、納得して買ってもらいたい。

僕たちが意識していることのひとつは、同じ消費者目線でコンテンツをつくるということ。たとえば化粧水だったら、敏感肌で悩んでいていろんな化粧品を試してきた人とか、専門的なブログを書いている人に、情報発信をしてもらうんです。

コンテンツは、あくまで個人の使用感をもとに感想を書いてもらうので、必ずしも褒め言葉が並ぶとは限りません。

ー そういう正直さは、結果として信頼感につながりますよね。

僕らは化粧品などの案件が多いですが、その業界のスペシャリストではないので、商品のスペックがどうかっていうことはあまり意識していなくて。大切なのは、その商品をつくっている経営者の信念に共感できることです。

その人たちの考えや価値観を、もっと広めたい。そういうときに、ソリューションがアフィリエイトしかないっていうのはすごくもったいない。いろんな期待に応えたいなって思います。

ー 最後に、野山さん自身のこれからのことも教えてください。

僕は自分にはあまり興味がないんです。人と一緒に、いいよねって共感できる瞬間を大切にしていきたい。信頼を欲しているというよりは、信頼がある組織じゃないと成り立たなくない?って。今はそんなふうに思っています。


信頼を前提に、働いていくことを決めたa-works。一緒に働く人の目にはどう映っているんだろう。「働く人編」に続きます。

(2020/10/14 取材 高橋佑香子)
※撮影時にはマスクを外していただいております。

野山さんをゲストに迎え、2020/11/19に開催したしごとバーの様子はこのページからご覧いただけます。記事では伝えられなかった部分も深掘りしつつ、さらにお話を伺います。


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