コラム

人が集まる場所はどうつくる?
それぞれの
学び、気づき、その後

自然と人が集まって交流が生まれたり、集った人たちがその場に愛着を持って活動するようになったり。

そんな場所をつくるには、どうしたらいいのだろう。

2025年7月から2か月間にわたり開催した、しごとゼミ「人が集まる場所のつくりかた〜いいチームをつくる編〜」

場づくりに関心のある30名が集まって、第一線で活躍する講師の知見を学んだり、グループワークを通じてチームづくりを実践したりしながら、コミュニティあり方を考えてきました。

参加者のみなさんはどんな理由で参加し、何を得たのか。

ゼミを企画した日本仕事百貨のスタッフと、参加者3名を清澄白河のリトルトーキョーにお呼びし、当時の様子を振り返ってもらいました。

聞き手は、日本仕事百貨編集者の高井です。

―改めて簡単な自己紹介と、ゼミに参加した理由を教えてください。

長谷川さん:
IT企業でスマートシティに関する取り組みをしています。今に至るまでにも、事業会社や建設コンサルタント、中央官庁などいろんな職場でまちづくりにかかわる仕事をしてきました。

プライベートの活動としても、今年の7月に地元で「まちづくり協議会」を立ち上げて。これまで仕事でまちづくりの手伝いをしてきたけれど、当事者として取り組むには実践が足りないと感じ、ヒントを得たいと参加を決めました。


でも、正直に話すと理由は後付けかな。最初は直感。面白そうだと思ったので、勢いで「えいっ」と飛び込んだ感じです。 

青野さん:
東京・池上駅の近くにあるシェア型スイーツ店「ノミガワスイーツ」というお店の運営や企画、デザイン業務を担当しています。

今年の秋からは、期間限定で新しい場所の活用を任されることになって。人が集まる場づくりについて、体系的に考えてみたいと思っていたタイミングだったので、「まさに私のためのゼミだ!」と思って申し込みました。

石田さん:
今は、北海道の深川市に住んでいて、ゼミにはオンラインで参加しました。3年前に地域おこし協力隊として来て、今は移住支援関係の仕事に関わっています。

来年、地域に完成する予定の複合施設にも関わっているんですけど、行政の方は「いい施設ができると人が集まる」と思っている人が多くて。でも実際は、箱だけではなくてコミュニティをどうつくっていくかが重要なんじゃないかと思って、ゼミに参加することにしました。

はつかさん:
今回のゼミを企画した、日本仕事百貨のはつかです。1年半前に入社して、今はリトルトーキョーの運営やイベントを担当しています。私自身が仕事をするなかで、『場づくりってどうすればいいんだろう』と疑問を持ち企画したのが、このゼミでした。

最初はゼミに人が集まるか心配していたんですけど、実際には30人もの人が参加してくれて。

こうして座談会をしますと声をかけたら、喜んで協力してくれるくらい仲良くなれたことがすごくうれしいなと思っています。

PTAや靴磨き職人
いろんな参加者が集うゼミ

―参加者のみなさんのお仕事も、コミュニティへの関わり方もさまざまなんですね。
 
はつかさん:
本当に、いろんな方が集まってくれました。関わっているコミュニティの種類も規模もさまざまで。たとえば、PTAのメンバーで、組織をどうよくするかを考えたいっていう人もいましたね。

青野さん:
靴磨き職人さんも印象に残っています。今は出張型だけど、ゆくゆくはお店を持ちたくて、そこに人が集まる方法を考えたいって話していて。いろんな視点があるんだなと感じました。

長谷川さん:
いろんな視点という意味では、場づくりにすでに関わっている人と、これから関わろうとしている人の両方がいたのが面白かったですね。いい意味でごった煮というか。

たとえば、自分は仕事でまちづくりに関わっているから、どうしても受け手の気持ちを忘れてしまいがち。職場のメンバーも同じ方向を向いている人ばかりなので、違う視点がなかなか出てこないんです。

でも、ゼミの参加者と話すなかで、「こういう場所は敷居を高く感じて入りづらい」などコメントをもらったりして。受け手の気持ちをリアルに考えようという意識が芽生えました。

―今回のゼミでは最終回でのグループワークに向けて、初回からチームに分かれて自己紹介をする時間があったと聞きました。チームの雰囲気はどうでしたか?

長谷川さん:
最初はお互い探り探りで。そういう雰囲気も面白かったな。

初回の自己紹介のあと、チーム名をつけてくださいというお題をもらって。僕たちは、みんなお酒が好きだったのでBARと、場づくりの「場」をかけて「チーム・場ぁ」と名付けました。

青野さん:
私も長谷川さんと同じチームだったんですけど、たしかに最初は、探り探りでしたよね(笑)。

でも、チームに分かれたことでメンバー内での交流が活発になった。私たちのチームは、Slack(チャットツール)を使っておすすめのイベント情報や場所を紹介しあったり。チームのみんなが、私が運営しているスイーツ店に来てくれたこともありました。そのまま呑みにも行って、それぞれの参加背景とか、これまでの講座について語れたのも刺激になったな。

はつかさん:
私たち運営側は、全チームのSlackが見えるようになっていたんですけど、どこもすごく熱量が高かった。

現地だけじゃなくて、オンライン参加の方々のチームも活発にお話されていましたよね。

石田さん:
講義が終わってから、オンラインのメンバーがそのままトークルームに残って感想を共有できる時間をつくってもらえたのがよかったなと感じていて。

直接会うことはできないけれど、ほかの参加者と話す時間がもてたので、孤独感なくゼミに参加できました。

ゼミだから聞けた
場づくりのリアル

―ゼミではさまざまな場づくりに関わる講師を呼び、全6回の講義を通じて知見を学びました。講義の中で印象に残っている回はありますか?

石田さん:
どれも面白かったけど、共感できるポイントが多かったのは、原宿の複合施設「ハラカド」のコミュニティマネージャーをしている桜木彩佳さんの回でした。

「共感をしながら、誰にもよらず、バランスよく、すべてのパワーの中心を探す」という言葉をおっしゃっていて。それぞれ違うやりたいことや、想いを持った人が集まるなかで、共通点を探していくことが大事という話が、すごく刺さりました。

青野さん:
私も桜木さんのお話を聞いて、言葉にしきれていなかった部分が言語化されて、すとんと落ちた感覚がありました。

ほかに印象に残っているのは、東京都市大学の坂倉杏介教授のお話。私はこれまで手探りで場づくりに関わってきたんですけど、これから関わる場は2年間の期間限定なので、限られた時間で同じことをするのは難しいなと感じていて。

坂倉先生から体系的な知見を聞けたことで、これまでの自分の取り組みをその枠組みに当てはめて考えることができた。クライアントさんに提案する際の自信にもつながりました。

長谷川さん:
個別の回はもちろん、自分は講義全体の流れが面白かったなと思いました。体系化された話もあれば、「やればいいんだ!」という現場感もあって、それが行ったり来たりする感じが心地よくて。

私自身、頭でっかちにならないようにこのゼミに参加したのに、仕事柄、どうしても構造や理論に興味が向いてしまう。でも、現場のノリを大切にしている講師の方の話を聞いて、「そうだった、それを勉強しにきたんだった」と思えた。

たとえば、若者向け就労型お試し移住制度「大人の島留学」を実施している海士町役場の青山達哉さんの回。「大事なのは飲み会だ!」と話していて、何万回飲みに行ったかわからないほどなんだそうです。役所の職員さんだから、仕事の場ではきっとそんなことは話してくれないと思う。腹の中で思っていることを聞けたのは、このゼミだったからなのかなと思いました。

ちなみに、はつかさんたちが講師をしてくれた回でも、リトルトーキョーの場の運営にまつわる事業計画書を見せながら、かなり赤裸々に話してくれましたよね。

はつかさん:
はい、かなりさらけ出しちゃいました (笑)。

ほかの講師の回でも、参加者の方々から収支についてなど、かなり具体的で鋭い質問も飛んでいて。講師のみなさんも綺麗な部分だけじゃなく、大変な部分も隠さず答えていたのが印象的でした。

コミュニティづくりって、想いも大切だけど、継続していくにはそろばんの部分も欠かせない。そういうリアルな部分もお伝えできたのかなと思います。

学びだけじゃない
人脈が広がる場

―講義を聞く以外にも、興味のある講師の人とつながるなど、人脈を広げる機会もあったんでしょうか。

青野さん:
講座後に講師とお話できる時間があったので、後日SNSで「今日はありがとうございました」とメッセージを送らせてもらいました。

お話を聞いて、行ってみたいなと思った場がいくつかあったので、今度伺うときは改めて、ご連絡させてもらおうと思っています。

長谷川さん:
僕も、講師の方々と名刺交換をさせてもらいました。講師の橘実里さんが店主を務める「竹の湯別館」は、自分がまちづくり協議会で関わっている地域と距離的にも近いので、アドバイスをいただいたり、何か一緒にできないかなと思ったり。

講師に限らず、参加者さんにもライターやデザインが得意な方がいたので、まちづくり協議会のメンバーへのインタビュー記事を作ってもらって、何か形に残せないかな、と声をかけさせてもらいました。いろんな人が集まるゼミだったからこそ、人探しの場としてもよかったなと感じています。

はつかさん:
私も、長谷川さんから声をかけていただいて。一緒になにかできるのを楽しみに待ってます!

気づきと実践
ゼミを考える最終回

―最終回には、チームごとにワークに取り組んでもらいました。テーマは、「今回のゼミを自分たちだったらどうつくるか」。ワークはいかがでしたか?

青野さん:
ワークをするにあたって、まずは「今回のゼミを通じて何を伝えたかったんだろう」と考えるところからはじめました。それぞれの講師の知見を書き出して、要素を抽出したんですけど、改めて考えてみると、コミュニティって答えがないものだなと感じて。

答えを得ようというのではなくて、いろんな視点で探求していくことが大事。その気づきを得られたのが今回のゼミだったんじゃないかなと思いました。

あとは、終わらないゼミにしたいなと思って。場づくりをしている限り、きっとまた新しい疑問が生まれるし、学びたいことがでてくる。だから、ずっと続くゼミにしたいなと思いました。

石田さん:
わたしも青野さんと同じことを思いました。もう一つ印象的だったのは、発表のスタイル。発表の仕方は自由と言われていたのですが、同じ発表スタイルのチームが一つもなかったのが面白かったですね。

ラジオ形式もあれば、ウェブページをつくっていたチームがあったり。

長谷川さん:
音楽をかき鳴らしていたところもあったよね。漫才スタイルの人たちもいたなあ。

今回の発表は、表現方法を試す機会としてもよかったと思っていて。人を集めるときに、自分たちの考えをどう表現するかも大事になる。表現方法によって、みんなの反応がどう変わるかを考えるのが面白かったですね。

はつかさん:
最終的にいろんな発表方法が出て来たのは、ゼミを通じてつくり上げてきた空気感があったからこそかなと思っていて。皆さんが楽しそうにしているのを、見れて嬉しかったです。

青野さん:
今回集まった人たちって、日本仕事百貨さんの考え方に共感した人が多かったんじゃないかなと思って。この場がいい場所になったのも、自分の知りたいことだけを聞きに来ている人たちではなくて、他人に意識を向けられる人たちが集まったから。だからこそ、心理的安全性の高い場になったのかなって思います。

ゼミを終えて
それぞれが得た知見とは?

―ゼミを終えて約1ヶ月。ここでの学びは、今のみなさんの生活や仕事にどう影響を与えているのでしょう。

青野さん:
ゼミに参加していなかったら、今関わっている場からの目線でしか物事を考えられなかったと思うけど、いろんな立場の人の気持ちを知ることで視野が広がったと感じています。

きっとこの先、場づくりに関わるなかで、つまずくこともあると思う。けど、そういうときに、ふとここでの学びに立ち戻れるんじゃないかな。

石田さん:
私にとってこのゼミは、本当にプラスでしかなかったというか。結果的に前向きになれたところがすごく大きかったと思います。

私は今まで、問いと答えはセットだと思っていて。答えがないことにすごくモヤモヤしていたんですけど、ゼミを通じて問いを持ちつづけてもいいと思えるようになりました。

最近は忙しくてまだゆっくりゼミでの学びを振り返れていないけれど、今後あらためて講師のみなさんのお話を整理して、取り組んでいけたらいいなと思っています。

長谷川さん:
いろんな人がいるんだなと、改めて思いました。会社やチームは進む方向が決まっているけれど、コミュニティはそうじゃない。少しずつ違う目的を持った人たちの集まりだということを、今回のゼミを通じて強く感じました。

これから、まちづくり協議会を運営していくうえで、チームとコミュニティの両方を兼ね備えた組織にしたいと考えるようになって。全体としては、コミュニティだけど、一つひとつのプロジェクトを進めるうえではチームになっているかたちがいいんじゃないかな。

でも、今集まっている協議会のメンバーは、近い考えの人が多い。もっと多様な人が入ってきたほうが面白いだろうから、今はどうやって人を集めたらいいんだろうってを考えています。

いろんな人が集まり、ゆるやかにつながりながら、一つの集団をつくっていく。

コミュニティと一言でいっても、その規模や、目的、集まる人たちはさまざま。何かの公式に当てはめて、簡単につくれるものではないのだと改めて感じました。

だからこそ、コミュニティづくりは面白い。

2026年7月にも、しごとゼミ「人が集まる場所のつくりかた」を開催する予定です。

いろんなかたちで場づくりに関わる仲間と出会い、自分の視点を広げていく。そんな場に興味があれば、ぜひ一度、ゼミに参加してみてください。

▼過去のしごとゼミの詳細についてはこちら
25年開催「人が集まる場所のつくりかた〜いいチームをつくる編〜」
24年開催「人が集まる場所のつくりかた〜コミュニティービルディング論〜」