前回のNui.に引き続き、今回もゲストハウスを訪ねます。ナカムラケンタのお気に入りの場所でもあり、ゲストハウスの草分け的存在でもある「月光荘」。築50年余りの木造家屋を手づくりで改装し、自然に囲まれた格好のロケーションに佇む沖縄・那覇にあるゲストハウスです。
今回は、そんな月光荘沖縄の代表を務める、“船長”ことトモレッド(有馬智明)さんにお話を伺いました。
ケンタ 「月光荘」はいま全部で3ヶ所でしたっけ?
トモ いまは京都と沖縄で2ヶ所になったのかな。
ケンタ いつ頃はじめられたんですか?
トモ 京都の月光荘をやっている「雨柊(あめしゅう)」って人がいて。その人がもともとはじめてんの。1999年にね。
ケンタ そうなんですね。
トモ 僕が2001年に沖縄に移って。それで、この古い家を直して、いまある「旅人酒場 つきのわ」みたいな「コトブキ」ってバーをつくったのが2002年。2005年に、京都に月光荘をつくるってなったときに、自分が沖縄で、京都に雨柊が行くってなって。いまは、いちおう経営者が2人いる形になってる。
ケンタ 共同経営者みたいな。
トモ うんうん。彼は自分より10こ上の先輩なので、いろいろ教わりながらやっている感じだね。僕が沖縄に来た頃は、いまほど沖縄ブームってのもなかったし、民宿はあったけどゲストハウスはぜんぜんなくて。当時は、夜になるとよく飲み屋に集まってたみたい。そこで話をしているときに、飲んだ後に家に帰すんじゃなくて、飲んでそのまま泊まったらいいやんってなって。たぶんその発想からはじまったんだと思うよ。
ケンタ そういう感じなんですか。じゃあ飲み屋が最初だったんですか?
トモ 雨柊が以前、(沖縄県の)浦添市にあった「バスーラ」という飲み屋をやっていて、そういう流れで月光荘をつくるときに、飲み屋ありきで考えていたんだと思う。海外でバックパッカーが流行っているから、バックパッカー向けにみたいなものではない。当時からそういう人もちらほら来てたけど。
ケンタ 流行っているからとかではなくて。あったらいいな、と考えた。
トモ だろうね。宿にも飲み屋があって、飲む人が泊まったらいいってとこからだと思う。
ケンタ 必要があって機能をどんどん追加していったみたいな。求められてることをプラスしたイメージなんですかね?
トモ なのかなぁ。
ケンタ トモさんが関わるようになったのはどういった経緯なんですか?
トモ 当時22歳か。今帰仁にある「夢有民(むうみん)牧場」で働いてて。で、月光荘をつくるってなって、工事に入ることになったの。当時の月光荘はもう超ボロボロでさ、ほんとすごかったよ。10年分のホコリもたまってて。マンガみたいに床が抜けちゃうんじゃないかってほど。
ケンタ (以前の写真を見せてもらい)これはすごい!
トモ 一回全部壊して空っぽにして、もう一回はじめからはめ直す作業で。ダメなものは全部順番に取っていって。
ケンタ 柱も張り替えてるんですね。
トモ 柱も全部取るわけにいかないから、一個取って一個入れて。その都度確認して、一からつくっていった。
ケンタ 基礎もやってるんですね。面白いなぁ。これが、はじまりかぁ。
トモ うんうん。(写真の自分を指差して)これが俺。
ケンタ あはは(笑)、全然違う。
トモ (写真の人を指差して)雨柊ってのがこの人。
ケンタ 2人でスタートしていったんですね。
トモ 10年前くらいまでは一緒だったね。
ケンタ いまおいくつなんですか?
トモ いま36歳。あ、23歳。
ケンタ あははは(笑)。ちなみに、トモさんがみんなに「船長」って呼ばれてるのは何でなんですか?
トモ 「宿のオーナー」とか「ゲストハウスのオーナー」とかって紹介になってしまうとつくられたイメージがあるじゃない? お客さんと飲んでて普通に話をしていて、そういうときに誰かが「この人は月光荘のオーナーだよ」って言うと、急に顔色が変わってしゃべりづらくなったり変わっちゃったりするから。
ケンタ なるほど(笑)。
トモ 実際僕は、そんなたいしたことは全然やっていないから。継続するために、宿を修理したり、みんなのことを考えてバランスとったりしてはいるけど、現場はスタッフのみんながやってくれているわけだから。
ケンタ 「オーナー」とはニュアンスが違う、と。
トモ 僕は、なんとなくナビゲーションするというか舵を取るというか、もしこんな感じの船があったら、船をどこに浮かべて、どこに行くみたいな、舵を取るのは自分の役割なんじゃねぇかなと思うんだけど。もちろん、船の中にコックがいたり、クルーがいたりしてはじめて維持できているというか。それで、なんとなくしっくりくるのが「船長」かなって。
ケンタ たしかに、ほどよいですね。
トモ いちおうやっているのは、ゲストハウスと飲み屋じゃない? でもその言葉だけじゃ括られたくないニュアンスがあるというか。それをベースに集まってはいるとは思うんだけど。もっといろんなことが含まれてるんじゃないかと。沖縄に来て「どうする?」ってときにさ、ホテルに泊まるのは、ありきたりじゃない。でも、飲み屋に行って、誰かと出会って何かが生まれたら、それは面白いよなって。
ケンタ たしかに。そういうイメージをするのがトモさんは得意そうですよね。ここにこういう風なものがあったら、誰かが利用してくれたり集まったり。そんな風景が見えているような。
トモ うんうん。好き好き。好きですね。
ケンタ 月光荘もバーがあることの重要性もすごくあるでしょうし。やっぱりそういうの好きだったり、得意だったりするんですかね?
トモ 好きだよね。内装も自分でやっているんだけど、木工技術はたぶん後なんだと思うんだよね。最初は丸ノコ使うのもちょっと怖いとか、クギを打とうとしても打てないぐらいで。でもどんどんつくっていればねぇ、上手くなることはなりますよね。誰かの店行ったときにも、内装が気になっていったり。
ケンタ うんうん、広がりますよね。
トモ こうやってるんだぁって。詳しい人と飲んだりするとそういう風な話題で盛り上がって、疑問も芽生えてきたりして。結局興味があったらどんどん自分からおのずと動いて、自然と身になってくると思うんだよね。
ケンタ 実際やってみるとね。
トモ 結局まぁ自分の店だからさ、壊れてると自分が困るし。例えば、プロで誰かの店をつくるってなったら、たぶん自分のモチベーションじゃあさ、ちょっと甘いというか素人の延長ではあるからね。自分の家だったらさ、それでもしダメってなったら、また自分でつくればいいからね。
ケンタ クレーム言う人いないですからね。
トモ そうそうクレーム言う人いない(笑)。そりゃあね、泊まりに来てくれた人に「見栄え悪いんだけど」って言われたら「ごめんごめん」って素人ながらに直すけど。でも本当に危ないところは、もちろんちゃんとプロに聞くよ。でも、自分でできることは自分でやったらいいと思うし。