コラム

話したい、けど話せない

 

ある日、日本仕事百貨宛にこんなメッセージが届きました。

「働くことに対して、自己と向き合うための機会と場とつながりをつくりたいので、一緒にイベントをしませんか?」

メッセージをくれたのは、東京の大学に通いながら、学生と働く人をつなげるオンラインイベントを開催している上本亜紀さん。

働くことに対するもやもやとした気持ち。

その気持ちを共有する場をつくりたいという上本さんの思いを受け、就活中の大学生や社会人の人たちに、「話したい、けど話せない」気持ちや悩みを募集し、その思いを共有するイベントを開きました。

イベントの様子はこちらの動画でも見ることができます。

今回のコラムは、2020年12月10日に開催したオンラインイベントの内容をまとめたものです。

メッセージをくれた上本亜紀さんと、日本仕事百貨のナカムラケンタ、イベント担当の中野頌子による鼎談形式でご紹介します。

 

 

本当は制作会社でデザイナーとして働きたかったのですが、持病があり虚弱体質のため、日系企業のインハウスとしてほどほどにデザインの仕事をしています。

制作会社に勤める知人のデザイナーと比べると、知人のほうが長時間労働ではあるものの圧倒的に成長速度が高く、活躍もしていて焦りや羨ましさを感じます。 持病で長時間労働等ハードワークが難しいのは分かっているのですが「自分はこんなところで何をのんびりしているのだろう」「無理をしてでも制作会社で腕を磨いておいたほうが、今後業界で生き残れる確率は高いのかな」など、不安や迷いを持ちながら仕事をしています。

独学で技術を磨く方法もあると思いますが、現場でつく力というのはまた違ったものがあるとも思うのです。インハウスで働きながらデザイナーとして納得のいく時間を過ごしたいものです。

ケンタ:この投稿、読んでみてどうでしょう?

上本:デザイナーとして働きたいっていう芯を持って、自分の弱い部分に向き合っている。私はできていないかもと感じているので、すごくかっこいいなと思います。

ケンタ:周りと自分を比べて焦ってしまうことってありますか?

上本:めちゃくちゃありますよ。就活でも、あの子のほうが頑張ってるって思っちゃうと、やっぱり焦りますね。

ケンタ:そうだよね、焦っちゃう気持ちはわかるな。これを読んで僕が思ったのは、足元を見るのがいいんじゃないかなってことなんですよ。

中野:足元を見る?

ケンタ:たとえばSNSって、昔の同級生の活躍とか見えちゃうじゃない。見なくてもいい人と比べちゃうんだよね。自分とは異なるモノサシで比べてしまう。

けれど、就職も、大学を卒業した時点で内定をとってなきゃって思う人もいれば、そうじゃなくていいっていう人もいる。つまり自分と近い価値観の人と出会うことが大切で、SNSってそのためのツールとしても使えると思うんだよね。自分と近いモノサシの人にも出会える。

人それぞれのありかたがあるので、この方も成長が早いことが一番いいことだって考えすぎなくてもいいんじゃないかな。

中野:確かにそうですよね。私の知り合いに、持病で仕事が続けられなくなった人がいるんです。その人は働けない自分と向き合うことに時間はかかったけど、周りの人の支えもあってずっと好きだったギターを続けていて。すごく楽しそうなんですよね。

だから、ひとりで自立して働くことがすべてじゃなくて、支えてくれる人がいて、好きなことを続けることもひとつの生き方なんだなって。一個のモノサシで測るんじゃなくて、それぞれにあった働き方と生き方を見つけれたらいいですよね。

ナカムラ:人と比べすぎていると疲れちゃうから。いきなり遠くを見るんじゃなくて、足元からじっくり見て、歩いていけたらいいですよね。

 

お客様の反応が直接感じられる仕事につきたくて、飲食業界を選択しました。でも、今学生団体の運営などをやっていて、みんなが一緒に何かをする空間や人と人がつながれる空間をもっとつくりたいと思っています。

まだ実際にその会社で働いていないのでわかりませんが、少なくとも1年目はお店に出てバイトの人たちと同じように働きます。それを考えると、そこに何か発見があるのだろうか、時間の無駄にはならないだろうかと、自分の決断に疑問を抱いたり、もっと別の選択もできたのかな?と後ろめたい気持ちが出てきたりします。

今から思いっきり変える勇気がないだけなのか。。。社会人になって自由になる一方で、自分の人生の責任を自分で負うことになるので、少し臆病になっています。

中野:ちょうど、私の友達にも同じように悩んでいる子がいます。その子も就職は決まっているけど、本当にやりたい仕事はちがう。でも、今は諦めていつかできたらいい、って言っていたんですね。

私はその時に、やりたいことを諦めないで!とは言えなくて。やりたいことにチャレンジする生き方もあるけど、食べていくために安定した仕事に就くのも大事じゃないですか。

でも、やっぱりこういう話を聞くと、やりたいことに飛び込んでみる選択をしてもいいんだって、そう思える環境を増やしたいって思うんです。

上本:私も就活をしていると、なんか気持ちがセカセカしてるなって思う時があって。早く決断して親に迷惑かけないようにとか、やりたいこと以外のものが出てきちゃったりする。

中野:上本さんも悩みながら就活をしているんですね。

上本:でも、働いている大人の人と話してみると、すごくゆったりとしているんですよ。やりたいことはその都度変わるから大丈夫だよって言ってくれる人もいて。

なので、焦ってすぐに決断しないで、流れに身を任せるのもいいのかなって。それが実は大事なのかなって最近は思っています。

ナカムラ:臆病になったり、後悔することっていくらでもある。失敗もあとから思い返せば大丈夫って言えるけど、向き合っているそのときはわからない。だからこそ、自分で決断することが大切なんだと思うんです。

たとえば就職も、どの会社で働こうか決めるときって不安になる。親がここにしなさいって言ったところに決めるのは簡単かもしれないけど、それって自分で決めているわけではない。そうすると、だれかのせいにしてしまって、次につながらないことが多い気がします。自分で決断して、自分で責任を負って行動してみる。そうするとどうして失敗したのか、次はどうしたらいいのかって、素直に経験を活かせる気がする。次につながる。

だから、失敗するかもしれないけど最後は自分で選択する。僕もたくさん失敗してきたけど、振り返ってみて悪い失敗はなかったかな。自分でこうだって決めて進んだから、その失敗をよい経験と思って次に進めることができた。忘れちゃっていることもあるけどね。

 

同性の恋人がいることを職場で秘密にしておくのが辛い。みんな休憩時間に家族や恋人の話を当たり前にするのに、自分は差別される可能性がある現実を、理不尽に感じる。夫婦に関する福利制度も利用できない。職場に大切な人の存在を祝福されないことが悲しい。現在転職先を探し中だが、日本仕事百貨のような視点で同性愛者の人生と仕事を考えるメディアがあったらいいのにと思う。

ナカムラ:坂本さんのように考えるメディアは徐々に出てきていますよね。最近、ReBit(リビット)という団体のイベントに参加したんです。リビットはLGBTの問題について取り組んでいる団体で、メディアにも取り上げられることが多くなってます。

LGBTの存在も世間に認知されつつあるのかなと思っていたけど、坂本さんのように理不尽な思いをしている人も、見えないだけで世の中にはたくさんいるんでしょうね。

中野:私は坂本さんがこうやって発信してくれたことが、まず嬉しかったです。でも私たちが想像する以上に、生きづらさを感じている人がいるんだなって。

差別されるかもしれないっていう恐怖や、福利厚生が受けられないという仕組み。まだまだ解決されていない問題があるんだって実感しました。

上本:私は、自分の中で蓋をしてしまっていたと思いました。どこか自分とは遠いところにある問題だと考えていたけど、身近なところにもあるかもしれない。目を背けずに、知って向き合わなくてはいけない時代なんだと、あらためて思いました。

ナカムラ:いろんな違いがあるってことを当たり前に思わないといけないし、知らないと誰かを傷つけてしまうこともあると思うんです。

急になにかを変えられるわけじゃないけれど、まずはいろんな人がいるということを理解して、相手を否定しないこと。それだけでも人の意識って変わっていくと思う。

それを続けていくことで、自分が人を傷つける前に気づけるかもしれないし、逆に傷つけられることも少なくなるかもしれない。自分に返ってくることも、たくさんあるんでしょうね。

 

普段の生活をただ過ごしていたら、聞くことができなかった“声”に出会えた1時間でした。

皆様からの“声”を募集したところ、想像以上にたくさん集まりました。限られた時間のなかでは紹介しきれなかったので、第2回も開催します。

「話したい、けど話せない2」
日時:2021年1月14日(木) 20時〜21時
場所:オンラインにて行います。こちらのページからご参加ください。

新しいメッセージも募集しています。こちらのフォームから、ぜひお聞かせください。

悩んでいることに限らず、感じていること、気づいたこと、誰かに共有したいこと。

手紙を書くようにお送りいただければうれしいです。1つ1つ読み上げていこうと思います。

編集中野頌子