自分の目で、足で
日本を“見る”
01 最初の旅
日本にある1741の市町村すべてを回り、それぞれの土地で撮った写真と文章をウェブサイトにアップしながら旅をした人がいます。
それが、2018年の当時大学生だったかつお（本名・仁科勝介）さん。
2020年にはすべての市町村への訪問を達成。その後東京で写真家として活動しながら、東京23区内にある駅をすべて歩いて巡り、東京のまち、そして暮らしを写真におさめました。
そして2023年。４月からは、再び日本を巡る旅、具体的には合併前の市町村をすべて回る旅に出ます。その数なんと2266。
なにがかつおさんを旅へと掻き立てているのか。そして写真家として生きていくとは、どういうことなのか。聞かせてもらいました。
全４回。聞き手は、日本仕事百貨の稲本琢仙です。
東京・神田の喫茶店にて。
──：かつおさんが全市町村をまわったのは、大学在学中だったということで。
かつお：そうです。４年生になるときに休学して、旅を始めました。
実は、大学１年生のときにヒッチハイクで九州一周したことが根っこにあって。そのときから、もう一回なにかしたいなって思っていたんです。
当時は世界一周でもワーキングホリデーでも、なんでもよかったんですけど、もう一回日本だなっていう感じがして。日本で何をしたいのかって考えたときに、47都道府県回るのもいいけど、市町村を見てみたいなって思ったんですよね。
──：都道府県ではなく、市町村を。
かつお：そうです。だったら、そのためには何をどうすればできるのかって逆算して考えて、バイクを使ってまわるという方法に行きつきました。
全市町村を巡る、だけ聞くと突飛に思われるかもしれないんですけど、ぼくのなかでは、やりたいことをやるだけじゃん、っていう気持ちなんですよね。
──：やりたいのは、市町村を巡って日本を知る、ということでしょうか。
かつお：そう、知りたいっていうのが根底にあります。自分、日本のことほとんど知らないんだなぁって、九州の旅を通して感じたので、“見たい”っていう単純な願望があったんですね。
47都道府県回りたい、っていう人は割といると思うんですが、気持ちとしてはそれと一緒です。ただ数が多いだけで、やってることはほぼ同じですから。だから特別なことをするっていう感覚ではなくて、普通のことをやってるだけなんです。
──：それで春からいよいよスタートしたと。
かつお：2018年の３月からはじめて、終わったのが2020年の１月です。もう３年前のことになりますね。
──：その後出版された写真集も拝見しました。たしか初日にバイクで全治３ヶ月の怪我をしてしまったんですよね。それで親戚の方のもとで療養して、またスタートしたっていう。
かつお：あれは本当に災難でした。バイクでスリップして足を怪我してしまって。でもその後の旅のことをじっくり考える時間ができて、自分にとっては必要なことだったのかな、とも思います。
もちろん大変でしたけど、いま無事に体があることを思うとありがたいですね。
──：旅のなかで印象に残っていることはありますか。
かつお：そうですね… ものすごく不思議だなって感じたのは、最後の目的地だった屋久島に着いて旅が終わったとき。誰に迎えられるわけでもなく、すごく静かに終わったんですけど(笑)。
その日の夕方に彩雲っていう虹色に光る雲が太陽の両側に２つ出たんですよ。幸運の雲って言われたりするんですけど、それまで見たことがなくて。
その彩雲が出ているのを見たときに、ものすごく鳥肌が立って。体全身で「旅が終わったんだ」って、実感したんです。頭とかじゃなくて、体が「もう旅が終わったんだ」って感じる。あの感覚は忘れられないですね。
──：体で感じるほどの感動があったと。
かつお：終わったんだって実感しましたね。あれは不思議な体験だったし、とくに印象に残っていることのひとつです。
かつお：市町村を巡る旅は終わったんですが、そのあとも心のなかではずっと「次にどうするか」っていうことを考えていました。次は、次は、っていうことで頭がいっぱいだったと思います。
──：それはどうして？
かつお：旅を始める前から思っていたんですが、まわりきることをゴールにして、それで満足したらいけないなって。その次になにができるかを考えて進んでいかないと、成長しないので。
当時は写真集を出版させてもらう話なんてなかったんですけど、自分でなんとかまとめて、自費出版でもいいからやらなきゃいけないなと思っていました。
──：常に次を考えるっていうのは、ずっとそうだったんですか？ 誰かに教わったとか？
かつお：なんでなんでしょうね。それを… 続けていくことを、自分の命ある限りやっていくんだろうなって。そうしないとやっぱり成長しないっていうのが大きいのかなと。
それは写真とか旅に限らず、どんなことにでも当てはまることなんじゃないかな。
【4/3（月）公開】
【4/4（火）公開】