コラム

自分の目で、足で
日本を“見る”
02 野球少年が東京に行くまで

日本にある1741の市町村すべてを回り、それぞれの土地で撮った写真と文章をウェブサイトにアップしながら旅をした人がいます。

それが、2018年の当時大学生だったかつお(本名・仁科勝介)さん。

2020年にはすべての市町村への訪問を達成。その後東京で写真家として活動しながら、東京23区内にある駅をすべて歩いて巡り、東京のまち、そして暮らしを写真におさめました。

そして2023年。4月からは、再び日本を巡る旅、具体的には合併前の市町村をすべて回る旅に出ます。その数なんと2266。

なにがかつおさんを旅へと掻き立てているのか。そして写真家として生きていくとは、どういうことなのか。聞かせてもらいました。

全4回。聞き手は、日本仕事百貨の稲本琢仙です。

>かつおさんのプロフィール


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喫茶店を出て、写真を撮りながら一緒に神田のまちを歩く。

──:旅に出るまでのかつおさんは、どんなふうに過ごしてきたんですか。

かつお:小学校はソフトボール部、中学校は軟式の野球部に入ってました。いわゆる野球少年だったんですよ。中学校まではひたすら外で体を動かすタイプの人間でしたね。

野球に関しては、中学校で一旦満足したというか。ここまででいいなって思うところがあったので、高校で写真部と天文部に入りました。

──:どうしてそのふたつを?

かつお:野球をやめてから、写真に興味が湧いたんですよね。あとは天文部っておもろそうやなっていうくらいの軽いノリでした。

家族が写真好きだったとかでもなくて。中学3年生くらいからはじめて、なにもわからないまま、とりあえずパシャパシャ撮って。

その頃のカメラはなんだったかな… たぶんNikonのD3100かな。一眼レフのなかでは比較的安いカメラで。当時の写真は見るに耐えないと思います(笑)。

──:その頃の写真も見てみたいですね…。高校の写真部はどうでしたか?

かつお:毎日活動するわけでもなくて、数ヶ月に一回どこかに撮りに行きましょう、みたいな。あとは高校の文化祭で展示をしたり。部員はコアメンバーが10人くらい。掛け持ちしても良かったので、ふわっと参加している人が多かったですね。

撮っていたものもバラバラで。景色なり友達なり、なんでも。みなさんがいまスマホで撮っている感覚と同じだと思います。

──:なるほど… そこから大学に進学して。どんな大学生活でしたか?

かつお:超普通ですよ。ぼちぼち大学の授業に出て、ぼちぼちサークル活動をして、ぼちぼちバイトをして。

大学がちょっと田舎っぽいところにあったので、みんな田舎だって言ってましたね。ぼくはなんとも思わなかったですけど。

入っていたのは、写真部と茶道部。野球観戦サークルも最初入っていたかな。あと大学祭実行委員みたいなこともしていました。ただ興味あることをやっていた大学生活でしたね。

──:写真部と野球観戦のイメージはつきますが、茶道も経験されていたんですね。

かつお:正座が強くないのできつかったです(笑)。でもお茶の心がすごく好きで。好きな言葉は「喫茶去(きっさこ)」ですね。「まあ難しいことは置いといて、お茶でもお飲みなさいよ」って意味なんですけど。

その落ち着いた心持ちがすごくいいなって。お茶のお稽古を続けていくことで、なにか技術を伸ばすというよりは、継続することで気づくことだったり、自分の変化につながる発見をしたりっていうのが大きかった気がしています。

あとは、「日日是好日(にちにちこれこうじつ)」も好きですね。「毎日毎日が素晴らしい」って、たしかにそうだよなって思ったりして。心の持ちようの原点が、お茶にある気がして面白いです。

──:写真以外の経験も、今に活きているということなんですね。

かつお:それはあると思います。といっても、写真部もほかのサークルも、どれも関わり度合いは違っていましたね。あとぼくは、どの部活やサークルでも部長とかはやっていなくて。全部ヒラ。

要職にはついていないぶん、自由にやってました。避けていたわけではないんですけど、自由にやりたいなっていうのが強かったんですよね。

漫画の「ONE PIECE」わかります? イメージはそこに出てくるガープ中将みたいな感じですね(笑)。海軍のなかで強いのに、階級にこだわらない。ぼくはあれほど強くはないんですけど。

──:卒業後は地元の写真館に勤められて、写真集の出版に合わせて上京して。

かつお:書籍の出版と、ほぼ日(ほぼ日刊イトイ新聞)さんにお誘いいただいて、東京で展示をさせてもらったので、そのタイミングで一度東京に出たいと。どうやって食べていくのかなんて考えていなかったし、いざとなればバイトしようと決めて行きました。

──:写真家として食べていこうとは思っていたんですか。

かつお:いや、写真家としてやっていけるかどうかは、今でもぜんぜんわからないです。そんな簡単なものじゃないし、まだまだぼくなんか全然及ばない。そういう世界だと思うので。

──:それでも、写真の仕事で食べていけるくらいにはなったと。

かつお:かろうじて、ですね。

──:そういえば、東京駅の近くで大きな展示をされていたの、見にいきました。

かつお:ありがとうございます。あれは企業さんからのお誘いですね。全都道府県の写真を、すごく大きく展示していただいて。

かつお:あとは、やっぱりいろいろ失敗もしたなと思っていて。反省することもいっぱいです。ただ、東京に来て良かったこともいっぱいあります。たとえば、かっこいいなって思う人の生き方を直に感じることができたり。それは直接会うに限らず、ウェブでもなんでも。

自分が目指したい生き方のヒントをもらった、みたいな感じです。これはたぶん東京で過ごして得ることができたものだと思います。

──:目指したい生き方… もうちょっと具体的に言うと、どういうことでしょう。

かつお:なにを大事にして生きるのか、っていうことですよね。お金って答える人もいるかもしれないですけど、ぼくは人と人の関わりあいを大事にする生き方が好きだし、そっちに行きたいなって。

そう思えたからこそ、自分はまだまだそれができてなかったなって。反省することばかりです。

続きは4/3(月)公開です