コラム

自分の目で、足で
日本を“見る”
04 写真家としての生き方

日本にある1741の市町村すべてを回り、それぞれの土地で撮った写真と文章をウェブサイトにアップしながら旅をした人がいます。

それが、2018年の当時大学生だったかつお(本名・仁科勝介)さん。

2020年にはすべての市町村への訪問を達成。その後東京で写真家として活動しながら、東京23区内にある駅をすべて歩いて巡り、東京のまち、そして暮らしを写真におさめました。

そして2023年。4月からは、再び日本を巡る旅、具体的には合併前の市町村をすべて回る旅に出ます。その数なんと2266。

なにがかつおさんを旅へと掻き立てているのか。そして写真家として生きていくとは、どういうことなのか。聞かせてもらいました。

全4回。聞き手は、日本仕事百貨の稲本琢仙です。

>かつおさんのプロフィール

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──:自分を写真家だとは思ってない、と言っていましたが、やっぱりぼくらから見ると写真家なわけで。人からそう呼ばれることは受け入れられているんでしょうか。

かつお:そうですね… 結局自分がどうありたいかっていう話だと思うんです。写真家っていう名前がなければ、フリーターみたいなものですから。なんなら無職ですし。

肩肘を張って、自分は写真家じゃないです、って言いたいわけではないんです。あくまで、まだまだそんな立場にはないというか。もっとやらないといけない。単純にそう思っているということですね。

かつお:もう一つ言うと、写真家はお師匠さんのアシスタントについて勉強して、というイメージを持っている人もいると思うんですが、そう考えるとぼくは野良の立場で。よりちゃんと責任を持ってやらないとダメだと思ってます。

やりたいことをやっていったら、結果的に今の場所に流れ着いている、みたいなもんですから。だからそこにしがみつきたいんだったら、やれることをやるしかない。どんな道を進むのかって、因数分解したら結局すごくシンプルだと思っていて。だから将来的に写真じゃなくてもいいかもしれないですよね。いろんな仕事をしてもいい。

ただ、今の自分にとっては写真家というのが自分の生き方になっている。そんな感じです。

──:自分の生き方になっている…。かつおさんのしていることを見ながら、自分もそうなのかもしれない、と思いました。

かつお:どう生きるかって、人によって差があると思うんです。これぞというものが、たまたま早く見つかる人もいれば、すぐには見つからない人もいる。先に見つけたと思った人が、あとから別のことを探してもいいわけで。

本当に自分がしっくりくるところまで、いろんなことをやってみていいんじゃないかなと思いますし、そうやって生きないと後悔してしまう。

自分は偶然にも写真が生き方になっていますけど、この先は木こりになってるかもしれないし、漁師になってるかもしれない。要は、ちゃんと自分の心の波長に合っているかどうか、ですよね。合わないなぁって思っているだけだと、あっという間に死んじゃうんで。

──:なんというか、すごく達観されてますね。

かつお:いやいや(笑)。でも死ぬっていうことは考えの根っこにあると思います。いつか死んでしまうっていうことは、すごく考えますね。ぼくがかっこいいなとか、好きだなって思う人たちは、だいたいみなさん死を意識している気がします。

今この瞬間が、自分にとって一番若い瞬間なんだと思うと怖いですよね。いまの選択が一番若い選択なわけだから。もちろん迷うときもあるんですけど、できるだけ早く選択したいなって思います。ぜんぜん失敗していいし、笑われてもいいんで。

──:かつおさんが選択するときは、どんな軸で選んでいるんですか。

かつお:自分がやりたいのはどっちなのか、っていうのが大前提ですね。二択があって、やりたいほうを選んでもいい環境にあるんだったら、答えは一つしかない。

ゲームだとわかりやすいですけど、リスクを負ったほうが、結果的に大きなものが返ってくる可能性が高かったりするじゃないですか。

リスクのない堅実な選択をしていって、急にラッキーが訪れて大成功になることって、ほとんどない。直感が働いたターニングポイントを攻めていって、その結果を受け入れることが大事だと思うんです。

もちろん現実社会で安定したことを選ぶのがわるいって言いたいわけじゃない。いろいろな選択肢があるなかで、挑戦してでもやりたいことがあって、それに向かっていく気持ちが多少なりともあるんだったら、それを選ぶ。僕はそうするだろうなって思います。

──:リスクがあったとしても、挑戦すると。

かつお:選んだ先で失敗したとしても、それが人生の経験になると思うんです。それに、自分が尊敬している人ほど、当たり前のようにその選択をケロッとやる人が多いような気がしていて。

だって自分がやりたいことなんだもん、っていう。他人が気になっても、それがなにか?って言ったらぐうの音も出ないわけで。だから、いかにそれをシンプルに選択できるか、ですよね。

いざ自分がその立場になると、もちろん難しいのはわかってるんですけど。だから自分もできるだけそうありたいともがく日々ですね。

──:それは… ぼくももがいている日々ですね。選ぶってすごく怖い。

かつお:何事もそうですよね。ぼくはあくまで旅のことで、いよいよ始まるのかって、怖さはあります。いざ自分ごとになると当然怖いわけで。そういう感情っていろんな場面であるんだろうなって思うんですよね。でも、だからこそ行くしかない(笑)。

他人にそういうことをしなさいって言うわけではないし、正解があるわけでもなくて。自分がどうしたいか。心の中の想いと、やろうとしていることが合っているか。そういうことが大事なのかなって、今は考えてます。

だから日本仕事百貨さんみたいに、いろんな仕事の選択肢があることを知れるのはものすごく大事なことだと思います。

あの、『夢をかなえるゾウ』の著者・水野敬也さんの本のなかでも、「求人広告を見ること」って試練がありますからね。確かにそうだよなって思います。最初から自分のやりたいことなんてそんなに見つからないでしょうって思うし。

──:今日、実は「写真家としての生き方とは」みたいなお話を聞こうと思っていたんです。でも実際にはもっと広い話というか。たまたま今の生き方が写真家であるだけだっていうのは、面白い視点だなと思いました。

かつお:どんな形でもいいと思います。好きでやっていったものが結実するのも素晴らしいし、たまたま好きなものが見つかって、そこに進んでいくことも素晴らしい。

自分がハッピーであることが大事。自分が当たり前にハッピーでいられる大人になりたいですもん。こんなにも不幸なんです、じゃなくて、はっはっはって笑っていられるような。それは、個人的にいい大人の証であるような気がします。

──:今日はありがとうございました。どんな旅をされるのか、楽しみにしています。

かつお:そこに行ってなにを感じたのか。ぼくがその記事を見たい(笑)。その上で、いい写真が撮れていたらそれに越したことはないし、自分もワクワクする。だから、しっかりやってくれよ、って思います。淡々とやってほしいですね。

──:まずは怪我にお気をつけて。いい旅になることを願っています。

かつお:はい!ありがとうございました。

神田・すずらん通りにて。

(取材・編集 稲本琢仙)

ちょうどこのコラムが公開された4月の頭ごろ、かつおさんは合併前の旧市町村をすべて巡るという新しい旅に出発します。

旅の様子や写真は、かつおさんのホームページで随時更新されるそうなので、そちらもぜひチェックしてみてください。

あなたのふるさとや、思い出の場所。かつおさんが実際に足を運び、目で見て、写真におさめてきてくれると思います。