コラム

働くほど
健康になる仕事がいい

「東京にいたころはジムに通っていたんです。月1万円払ってムキムキになって、朝から晩までパソコンを触る。これ何してんだ?って(笑)。もうちょっと生産性のある体の使い方をしたいなと思ったんですよね」

林業を志したきっかけについて、信本(しのもと)力哉さんはこう話します。

頭や指先ばかり使っていないで、もっと体を動かしたい。汗をかいて働きたい。

新しい一歩を踏み出すきっかけは、そんなシンプルな気持ちでもいいのかもしれません。

面積の8割ほどを山林が占め、古湯(ふるゆ)・熊の川という2つの温泉地を抱える佐賀市富士町。1984年から続く「古湯映画祭」は、ござに寝転びながら映画を鑑賞できる、まったりとした雰囲気が人気です。

このまちの地域おこし協力隊として活動後、2023年に独立して林業を営む信本さん。木工やドローンを使った害虫防除など、林業以外にもいくつかの仕事を組み合わせて暮らしています。

飄々と、たくましく生きる信本さんのご自宅で話を聞きました。

日本仕事百貨では、佐賀が今力を入れている地域おこし協力隊を特集しています。詳しくは特集のTOPページもあわせてご覧ください。

石畳が続く古湯温泉街の入り口付近にある、少し変わった形の家。

信本さんは協力隊の2年目にここを購入し、コツコツとDIY。自宅兼工房として活用している。

「もともと大工さんの家で、作業場がついていたので、そこを木工ができる工房に変えています。住居部分も、2階の和室をぶち抜いて吹き抜けにしたり、天井も妻と一緒に張ったり。壁の漆喰も塗りました」

工房から住居部分へは、土間でつながっている。なかに入ると外観とは打って変わって、すっきりとしたシンプルな空間が広がる。

木製のランプシェードは、信本さん作。

「前の仕事を辞める前に、木工の体験教室に行ったんです。1回やってみて、自分でできそうだなと思って」

「必要な機械は最低限買って、足りないものは近くの大工さんに譲ってもらったり、ネットで中古を探したり。休みの日とか仕事が終わってから、ずっと練習練習って感じで、ほぼ独学ですね」

木工作品は、林業で伐った木の余りを活用してつくっている。マルシェなどのイベントでの販売が主で、注文は基本的に受けていないそう。

「材料は絶対に買わないと決めています。仕事してるなかで生まれる材料があるなら、それを全部使ったほうが無駄もないですよね。端材も薪ストーブで焚いて、極力捨てないようにしています」

理想の仕事と暮らしを、自分の手でつくってきた信本さん。

出身は佐賀市の蓮池町。同じ市内でも山間の富士町に対して、平野が広がるまちで生まれ育った。

大学を卒業した後は、家具産地として有名な福岡・大川の総合家具商社に就職する。

福岡の本社で商品の企画・開発を担当。その後、自社オリジナルの革ソファーブランドで東京に出店するにあたって、店長に。仙台や兵庫などに店舗展開するなかでエリアマネージャーも務めた。

「地元に帰りたい気持ちがすごく強かったんで、東京に行って2年ぐらいしたら戻るもんだと思ってたんですよ。でも、どうやら呼び戻されそうにもないし、社内結婚もして。妻は東京での生活が長くて、気に入ってもいました。このまま東京に住むんだろうなって、なんとなく思っていたんです」

「でも、30歳を機に、やっぱりこのままでいいのかな?って考えはじめて。1年ぐらいかけて、移住を検討しました。そのなかで、うまく言えないんですけど、林業をやりたいと思って」

なぜ林業だったんでしょう。家具の材料にもなるから、なんとなくつながりもありそうですけど。

「当時はそういう考えはなかったですね。働いていたら勝手に健康になる仕事がいいなと思ったんです。ずっと運動部で、体を動かすのは好き。暑くて汗ダラダラになるのも嫌じゃない。いろいろと考えて、最後に残ったのが林業でした」

外で体を動かす仕事といえば、農業も思い浮かびます。農業を選ばなかったのはどうして?

「最初は両方やる道もあるんじゃないかと思ったんです。秋冬は木を伐って、春夏は野菜を育てる。半林半農のスタイルに自然となっていくのかなって」

「ただ、協力隊期間中にちょっとかじらせてもらって、農業は合わないって結論に至りました。苗を植えてきれいな野菜をつくるのは、自分には向いてない(笑)。協力隊として試す時間が持てたのは、すごくよかったです」

信本さんが応募した2020年当時、佐賀市の地域おこし協力隊は「フリーミッション」の形をとっていた。勤務地のみが決まっていて、仕事内容は隊員自身の希望を最大限に活かすという採用方式だ。

当初から林業に絞って仕事を探していた信本さんにとっては、自分のやりたいことを追求できるフリーミッション形式が合っていたという。

とはいえ、はじめて暮らす土地で、林業という特殊な仕事の糸口をつかむのはかなりむずかしそう。どんなふうに仕事を得ていったのだろう?

「着任して3〜4ヶ月経ったころ、佐賀市の森林整備課の方がつないでくれたんです。『信本くん、林業に興味あるらしいね。地元にひとりで林業やってるおじさんがいるけど、ちょっと会ってみる?』って。そのときに会ったのが、のちの師匠でした」

会社に所属して林業に携わる道もあったものの、信本さんの望む林業のスタイルは別にあった。

それは「自伐型林業」というもの。かつての木こりのように、自分で現場をとってきて施業する。自営業の形で林業に関わりたかった。

信本さんの師匠は、まさにこの自伐型林業のスタイルで、数十年にわたって富士町で林業を続けてきたベテラン。

出会った翌日から一緒に山に入り、あらゆることを学んだ。

「植林のしかたにはじまり、草刈機やチェーンソーの扱いを覚えて、重機に乗って。経営面でも学ぶことは多かったです」

自伐型林業にもいろんなスタイルがあるなかで、信本さんの場合は対個人の営業がメイン。山主に直接「木を伐らせてくれませんか?」と聞くところから仕事がはじまることが多い。

収入のパターンもさまざま。伐採した木を市場に卸し、その売り上げの数%を山主に還元することもあれば、間伐に対して出る補助金の一部を山主に渡す場合もある。

山主と相談しながら、ケースバイケースで仕事を進めていく。

立ち入った話ですが、林業で生計は成り立つものなんでしょうか?

「なんとか生きてます。雨や雪の日は作業ができない仕事なので、ほかにもいろんな仕事を組み合わせながら、ですね」

7月末からお盆前にかけては、ドローンを使った害虫防除の仕事。また、災害時には林業の技術を活かして、土砂を除けたり、倒木を処理したり。

2023年に豪雨で大きな被害を受けた地域ということもあり、平常時から一般の人も重機を扱えるように、重機の乗り方を教える講習会も定期的にひらいている。

もちろん、木工もそうした収入源のひとつ。天候や自然環境に左右されやすいうえに、組織に属さない自伐型の林業となると、いろんな生業を組み合わせてバランスをとることは必須なのかもしれない。

話を聞いていて、思ったことがある。信本さんは必ずしも協力隊にならなくても、自分で林業をはじめていたんじゃないか?

協力隊を経たから今につながっている、と思うことはありますか。

「振り返れば、協力隊になったから出会った人ばかりですね。師匠も、ドローンの仕事をしている農業法人の人たちも。林業関係者以外でもいろんな人と出会えて、そこから仕事につながりますし。出会いですかね、協力隊のいい部分としては」

いろんな人との出会いを経て今がある、という信本さん。一方で、人とのつながりは摩擦や迷いを生むことも。

そんなときこそ、自分のやるべきことに集中することを心がけてきた。

「直接言われたことはないですけど、『税金使って、なんで自分の好きな仕事の修行してるんだ』って思う人もいるかもしれない。でもぼくは、プロフェッショナルなことができるようになって、その力で地域に貢献していく流れが自然だと思っていて」

「任期中に恩返しできるとは思っていないんです。3年後に自立できたときが“協力”のスタートというか。そう思っていたから、ぶれずにやれたのかなと」

自治会の草刈りや清掃など、地域のことにみんなで関わる場面は少なからず出てくる。地域の一員として暮らしていくなかで、それは必要なこと。

ただ地域おこし協力隊は、ネーミングもあってか、その延長線上でいろんなことを頼まれやすい。地域のためにとなんでも引き受けてしまって、疲弊する協力隊も少なくない。

「ぼくは、『協力隊を利用してやろう』っていう感じの人が向いていると思うんです。自分はこれをやるべきだって思うことを貫いて、それを通じて地域に影響を与えられる人。地域のためって思いすぎるとむずかしくなるので」

協力隊を卒業して2年半。林業を軸とした生活スタイルは、着実に形になってきた。

はじめは移住に乗り気でなかった奥さんも、もとの仕事をリモートで続けながら、今ではここでの暮らしを楽しんでいるという。

「暮らしとしては今の感じで十分。仕事で言うと、若い人にもうちょっと林業のおもしろさを知ってもらいたい。ただ、林業だけをやっていても広がらないんですよ」

木工も、林業を広げるツールのひとつ。マルシェに出店するときも「シノモト林業」という屋号をそのまま使っているそう。

「器を見せながら、これも製材の過程で捨てられている材料なんですよとか、わざわざ買わなくても佐賀の山にはいっぱい資源があるんですよって伝えられる。そこから、林業に興味あります、修行させてください! みたいな若い子が増えたらおもしろいですよね」

 

働くほど健康になる仕事がしたいと、林業の世界に足を踏み入れた信本さん。

山に入り、木を伐る。端材まで余すことなく使い切り、それが暮らしの糧や、創作の喜びも生み出してくれる。

「休日も、特にこれといってすることがなくても充実している」と話していたのが印象的でした。仕事と暮らしがうまくつながっているのだろうな。

11月26日(水)には、信本さんをゲストに迎えたしごとバーを開催します。木工作品もいくつか持っていけるかも、とのこと。山で働く魅力やおもしろさを存分に語ってもらいます。(※10月上旬にイベント参加者募集開始を予定しています)

今年度、佐賀では約40名の地域おこし協力隊を募集する予定です。募集の背景や詳しい募集内容については、下記ページもあわせてご覧ください。

🔗 佐賀県地域おこし協力隊Webサイト(外部サイトへ移動します)

(2025/07/31 取材 中川晃輔)