コラム

コミュニティは
オフィスに必要?

町家を引き受け、改修し、魅力を感じる人とつなぐ。そうして、あらたな町家の価値を生み出す株式会社スペースドットラボ。解体予定だった築100年の町家5棟を改修して、現代の町家暮らしを体験できる宿「紀寺の家」を2011年にはじめました。また、町家暮らしを日常にしたい人のための賃貸事業も展開しています。

代表の藤岡俊平さんは、2023年に実家の隣りにある旧南都銀行・紀寺支店をリノベーション。シェアリングコミュニティスペース「bird bird」をはじめました。企業がはばたくには、コミュニティとのつながりが大切? bird birdで、話を聞きます。

 

ニュートラルとコミュニティ

―― 藤岡さんが奈良に帰ったのは、2009年でしたね。

スペースドットラボ 藤岡さん
そう。東京で建築設計の仕事をしたのち、奈良での活動をはじめました。「コミュニティ」は、それからずっと考えつづけていることの一つかもしれません。

会員、常連、サークルメンバー…コミュニティを表す言葉はいろいろあるけれど、そこには居場所をもつ安心感と同時に、所属が足かせになる可能性もふくんでいると思います。

奈良に帰ってくると「どこかへ所属したほうがいいのかな」という空気をなんとなく感じました。だけど、一つのコミュニティにしばられることなく、ニュートラルな自分自身として奈良に居つづけることが大切だという気がしたんです。

それからぼくは、デザインや建築、それから公共やまちづくりの文脈に関わっていきます。自分が会いたい人を訪ね、つながり、あたらしい価値を生み出していく。15年間生活するなかでつながった人たちと、出会いなおせる場をつくりたかったんです。

bird birdをつくった理由は、奈良を離れない人として、まちに恩返しがしたかったから。人は集まることで、あたらしい“何か”を生んでいきます。人と人がつながることで、まちはじわじわ上がっていきます。

まちにはいろいろな関わりが必要ですよね。建築家も、着付師も、お酒をつくる人も、料理人も、デザイナーも、メタバースをつくる人も、会社で働く人も、公務員の人も、今は力をたくわえている人も。職種や所属をこえて、クリエイティブな人が集える場をつくりたかったんです。

bird birdは、クリエイティブという色をもちつつ、奈良の人と人がつながる場所でありたい。bird birdの捉える「クリエイティブ」は、広義だと思います。働きかたは多様で、会社に勤めている人も、会社を経営している人も、自分でなにかを立ち上げた人もいる。肩書に関係なく、それぞれの場所で価値をつくろうとしている人が集う印象です。

―― 名前が印象的でした。“birds”ではなく“bird bird”。そこには、何が込められているんでしょう?

スペースドットラボ 藤岡さん
とまり木をつくりたかったんです。鳥たちは、その日その日の天候などにあわせて、いろいろな木にとまりますよね。

たとえばサテライトオフィスを考える人が、まずはここにオフィスをかまえる。そして、いろいろな人と知り合うなかで、飛び立つ準備をする。

ここは、いつかは巣立っていくための場所でもあります。

この15年間で、奈良にはとまり木が増えましたね。2020年オープンのBONCHI、2024年オープンの博多小料理くみ子… 奈良にはいくつもとまり木があって、その一つとしてbird birdがある。場が多様になって、生き方も多様になって。

サテライトオフィス開設をきっかけにコミュニティともつながり、あたらしい仕事が生まれていくといいなあ。じっさい、ここでの出会いから仕事も生まれているので。

そうそう、日本仕事百貨では「かこむ仕事百貨」をしているでしょう。あれは焚き火を囲みながら企業の人と話す、というコンセプトだったけれど、ああして何かを囲むのはとてもいいなと思った。

今回のサテライトオフィスプロジェクトをつうじて、bird birdでも何かできたらいいな。…そうだ、サテライトオフィスを検討する企業さん向けに、奈良でツアーをひらくのはどうかな。物件をめぐって、夜はbird birdでごはんを囲む。奈良のクリエイターも集まって。

 


(2024/11/1 編集 大越はじめ 撮影 奥田しゅんじ、つぼみ)