コラム

オフィスに
何が求められている?

近鉄奈良駅から徒歩5分の場所に位置する奈良市の創業支援施設「BONCHI」。コワーキングスペース、オープンスペース、会議室、カフェ、ショップが一体となった場です。運営するのは一般社団法人TOMOSU。2020年の立ち上げ以来、場の年輪はどんどん厚みを増しています。

2024年3月にはコワーキングスペースを増床。コワーキング会員数もじわじわ増え、100人を超えました。リモートワークやバーチャルオフィスも台頭するなか、今、オフィスに何が求められているのか? TOMOSU代表の中島さんに話を聞きました。

 

みんな、オフィスをどう使っている? 

―― 会員のみなさんは、どのようにオフィスを活用していますか?

TOMOSU 中島さん
BONCHIへ毎日通う人もいますし、最も多いのは週1、2回利用する人です。「いつもの場所でパソコンを広げたものの、なんだか集中できないな」っていう日は、誰しもありませんか?そこで働く場所を変えてみる。あるいは、ともに過ごす人を変えてみる。そうして自分を切り替える場として利用いただいているのかなと。

仕事の合間に、ふらりとやってくる人もいます。みんなの顔を見て、ちょっと雑談して、帰っていく。そういうのもうれしいですね。一人ひとりに聞いたわけではありませんが、自分の居場所として感じてもらえているのかな。

学生のコワーキング会員さんもいて。はじまりはBONCHIで開催したワークショップに参加してくれたこと。ドロップイン利用を経て、会員になりました。だんだんと自分のやりたいことが見えてきて、最近は忙しく駆け回っているみたいです。BONCHIで作業する機会は減りつつ、BONCHIが企画するイベントで会うことが増えています。

 

みんな、オフィスに何を求めている?

―― BONCHIというオフィスが、住所登記や作業環境の提供という「物理的役割」だけでなく、「心理的役割」も担っている印象を受けました。

TOMOSU 中島さん
BONCHIは、「やってみたい」を灯すオフィス。人との出会いや、本やモノに触れることから新しい気づきが生まれて、一人ひとりが動き出せたら。

そして、年々「コト」が起きやすくなっています。BONCHIの内外には、いろいろなプロがいます。相談が増えていくなかで、「あの人にお願いしたら、きっといいものができる。お互いにいい出会いにもつながるんじゃないか」と、人の顔が浮かびやすくなりました。

ー運営で意識していることはありますか?

必要以上に“お客さま”扱いはしない。サービスの提供者と受益者である以上、対等とまではいわないけれど、なるべくフラットな関係でありたいんです。

そのシンボルがおやつかな。

コワーキングの会員さんが届けてくれるんです。「よかったらみなさんでどうぞ」って。それがいちばんうれしいなあ。コワーキングのサービスとしてお菓子を提供することは簡単ですけど、会員さんとともにこの場をつくっている感じがする。

 

 

関西2府4県のなかの奈良

―― BONCHIを通じて、奈良のまちをどう見ていますか?

TOMOSU 中島さん
女性の存在が大きいまちです。今は専業主婦をしている人のなかにも、ほんとうに優秀な方が多い。あとは、その人と企業が生かし合えるような雇用をつくれるかどうか。

住環境がいいんでしょうね。35万人というそれなりの規模感で生活に不便なく、自然や文化へのアクセスもしやすい。だから移住人口も増える。実際、クリエイティブな仕事をしてる人には適したまちだと思います。ただ、新しい刺激が多いところではないかな。

ー奈良を関西のベースキャンプにして、京阪神の仕事もしていけるといいですね。ほどよく刺激を受けつつ、かえる場所がある。個人的には、奈良はコラボが生まれやすいまちという印象があります。

奈良がおもしろい地域でありつづけること。そのおもしろさをつくる一つの拠点としてBONCHIがある。そんなイメージなんです。だからコワーキングスペースも地域共栄できるのが理想。

2024年10月に開催した「奈良ワーケーションWEEK 2024」では、奈良市内にあるbird bird、YAMATO BASEと連携させてもらいました。こちらの写真は、bird birdでの様子。日本各地から集まった40人の参加者たちは、それぞれのスペースでも過ごしました。

 

奈良にくることで伸びそうな企業は?

―― どんな企業がサテライトオフィスをかまえると、伸びそうですか?

TOMOSU 中島さん
スタートアップの会社が足りてないな、と感じています。スタートアップの中でも、奈良の特性を生かせるような事業はあると思うのです。たとえば、人文知とIT・AIをかけ算した事業。奈良で活動している事業所とも、お互いを刺激し合えそう。事業所も、奈良市も、きっと全員で応援してくれます。…そうそう、東京とは応援のされ方が全然違うと思いますよ。事業的な親和性が高い会社だったら、本社移転だって全然ありだと思います。

ー大企業進出の可能性も考えられますか?

あったらおもしろいのは、新規事業開発ですね。従業員の方のワークライフバランスも考え、3年間だけ奈良に出向してみる。まずはコワーキングからはじめてもいいと思うんです。

実際、ある自動車メーカーの新規事業開発の人が「BONCHI BAR+」というイベントに合わせて、奈良に出張で来てくれています。新規需要を模索するなかで、BONCHIのコミュニティとつながりました。

仕事が生まれていき、奈良の企業さんとも連携できるような新規事業が生まれるといいな。

 


(2024/11/18 編集 大越はじめ 撮影 奥田しゅんじ)