ジェネロ株式会社
本社:東京都大田区
従業員数:20名
事業内容:企業のDX(デジタルトランス)化を支援。『Drupal(ドルーパル)』を中心にオープンソースを活用。DX事業開発・設計構築・運用を行う。
全社員がフルリモートで働くジェネロ株式会社。DX化の支援をつうじて「日本の働きかた」をアップデートしようとしています。
本社が東京にあり、開発拠点をインドにかまえるなかで、フルリモートはきわめて自然な選択でした。とはいえ、オンライン上では盛んにコミュニケーションが交わされています。
オフィスさながらのやりとりを見せてもらい、ふと疑問が浮かんできました。
「わたしたちは、どうしてオフィスに出社するんだろう?」
満員電車に揺られる通勤時間を、我が子と過ごす時間にできたら。リモートワークを導入することで、ケアを必要とする親元に行けたら。そうして、社員一人ひとりの“私”が満たされることから、仕事のクリエイティビティだって生まれるかもしれない。
奈良から取材に向かったこの日、代表の竹内さんは新丸ビル10階にあるイノベーションプレイス「EGG」で迎えてくれた。
東京駅を眼下に望みながら話を聞いた。
「本社は大田区にありますが、来客時はここで集まることが多いですね。日本各地からも集まりやすいし、海外からのお客さんにも喜んでもらえますし」
打ち合わせを終えると、いっしょにランチを食べることも多いそう。
「直接顔を合わせることって、大切だと思うんですね」
「フルリモートで働くジェネロですが、リアルなオフィスで集まったり、飲みに行けたらいいなとも思います。現在の社員は20人ほどです。今後働く人が増えていくなかで、オンラインとリアルをどう組み合わせるのか。まさに模索しているところです」
ジェネロは、どうして奈良にサテライトオフィスをかまえることに?
「理由は大きく二つ。一つ目は、自然災害です。そのリスクを考えると、東京以外に拠点をかまえたいと思ったんです」
「もう一つの理由が、採用です」
事業拡大の兆しはあるけれど、年々厳しさを増していく東京での採用。待遇面で優れる大企業に求職者が集まりやすい傾向もある。
10年後はどうなるのか?これからの採用を見据えたとき、竹内さんは地方分散型の組織を描いた。
「インドの開発拠点にくわえ、日本各地にも複数の拠点をかまえたい。たとえば、東京は営業・コンサルティング、奈良はマーケティング・カスタマーサービスといったように」
地方分散型の組織の第一歩目が、奈良市のサテライトオフィスだった。
きっかけは、一人の社員にあった。当時、東京に暮らしていた奈良出身の萬田(まんだ)さんから「地元で働きたい」という声があがった。
代表の竹内さんは「場所にとらわれることなく、ジェネロで働き続けてほしい」と思った。
萬田さん一人からはじまるミニマルなサテライトオフィス。
選んだのは、三条通に面したコワーキングスペース「YAMATO BASE」。2023年11月の開設時は、萬田さんが一人センター長として着任した。
開設から1年を迎え、奈良を中心とする関西エリアでは6人が働くようになった。その一人が写真手前の深川さん。転職する前は、大阪にある会社へ毎日通勤をしていた。
「オンラインでのコミュニケーションには、スムーズに移行できましたね。案外成り立ってます。オンライン上で日々顔を重ねるなかで、おのずと雑談も生まれます。おしゃべりしながら『こういう人なんや』とわかる感じかな」
写真奥の辻村さんが、こう続ける。
「オンラインでもコミュニケーションが生まれやすいのは、風通しのよい社風がベースにあるから。ミーティングではざっくばらんに意見を出し合い、よいアイデアを形にしていきます」
オンラインで困ることはない一方、「オフィスで一緒に仕事をしたほうがはかどるのかな?」とも思うそう。毎日通勤しなくてもよいけれど、週に一度集まってみてはどうだろう。開設1年を迎えた奈良オフィスは、オンラインとオフィスのいい塩梅を模索している。
奈良での採用については、ハローワークも積極的に活用している。「マザー就職説明会」などのイベントから雇用につながるケースも出てきた。
くわえて、地域人材育成の試みもはじめている。
ふたたび竹内さん。
「海外企業との仕事が多いわたしたちは、日本では導入事例の少ない業務管理ツールJira(ジラ)に着目しました。仕事の方法論から顧客対応までを学べるDXセミナーを無料開催しています」
「Jiraはけっこう難しいんですけどね。習得できたら、その方と仕事をつくっていくことができます。ジェネロが受託する海外のDX案件を、奈良で行う体制構築も考えられます」
奈良に暮らしながら、在宅でグローバルな仕事に取り組む。そういう人が現れていくことで「奈良の働く」もじわじわとアップデートされていきそう。
「可能性はいろいろあります。ゆくゆくは、大企業と奈良の中小企業による共同プロジェクトも考えられるかもしれません。だけど大企業と中小企業の“あいだ”には、仕事の進め方から合意形成のプロセスに至るまで、いろいろな企業文化の違いがあります」
大企業と中小企業の“あいだ”、海外と地方の“あいだ”、そしてオンラインとオフィスの“あいだ”。いろいろな“あいだ”から、新しい価値を生み出そうとしているジェネロ。
竹内さんは、これからのオフィスの価値についても思いを巡らせる。
「キーワードは“コラボレーション”だと思います。都心部では“コラボレーション×オフィス”として、コワーキングスペースが定着しています。では、地方における“コラボレーション×オフィス”とは?」
今までと違うオフィスの役割。奈良で生まれるかもしれません。
(2024/10/28、11/13、12/7 取材 大越はじめ)