株式会社誠勝
本社:東京都新宿区
従業員数:45人
事業内容:デジタルアーカイブの構築、デジタルアーカイブの利活用による人文科学系人材向けの教育事業
「奈良は最重要拠点ですね」
そう話すのは、株式会社誠勝(せいしょう)の山本社長。
奈良市にサテライトオフィスをかまえた経緯をこう話す。
「関西圏からの問い合わせはあるものの、なかなか契約につながりませんでした。アーカイブ化する資料の運搬に不安を覚え、近場の企業に依頼することが多いからです」
関西のいくつかの都市を検討するなかで、奈良市の「明後日、東京まで面談と打ち合わせにうかがいます」というレスポンスの早さに気持ちを動かされる。
2021年にサテライトオフィスを開設。のちに取締役となる寳德(ほうとく)さんを採用する。
そして「デジタルアーカイブ×教育」という新規事業が生まれる。
アーカイブと教育の関係について、山本さんはこう話す。
「数学の公式、理科の定理、歴史…教育の本質は、アーカイブにあります。教科書はまさにアーカイブの集積ですから」
誠勝では、デジタルアーカイブを利活用する取り組みが不可欠だと考えていた。
「デジタルアーカイブの維持管理には費用がかかります。たとえば東日本大震災以降には多くの震災アーカイブが構築されましたが、すでに閉鎖されたものも珍しくないんです」
オフィス
オフィスを決める上では、採用を大きく意識した。近鉄奈良駅からも、JR奈良駅からもアクセスのよい三条通にあるオフィスで、20人ほどが働く。
「物件は、奈良市が紹介してくれたうちの一つ。デザインは自分で行いました。天井を抜いたままにすることで、空間に高さを生み出しました」
誠勝のオフィスには、当時で約1,300万円したアート専門スキャナーが設置されている。関西では第一号とのこと。購入にあたっては、500万円の奈良市サテライトオフィス等設置推進補助金を活用したそう。
周辺環境
人材募集の観点からも奈良に注目している。背景には、待遇面で勝る大企業との競争などに直面する東京本社の採用もある。
「奈良の可能性は、人にあります。優秀な人材がたくさんいるものの、外に流出しています。『奈良で働きたい』人たちにリーチするブランディングが欠かせません」
文化の保存・継承に興味を持ち、人文科学系の専門性を強みとする学生が多い奈良。図書館や博物館への就職は狭き門。誠勝のインターンシップには毎年多くの学生が参加する。
2025年には新卒の2名が奈良へ入社予定。今後も奈良での人材採用を強化していきたい。
「奈良の地の利を生かし、デジタルを通じた人と文化の投資循環にかかる事業を発展させていきたいですね」
むすびとして、誠勝という社名の由来をたずねる。
「株式会社誠勝の名前は、インドマグロをはじめて日本に持ち込んだ船の一隻である誠勝丸に由来します。誠勝丸という船はすでになくなってしまいましたが、インドマグロは高級マグロとしてわたしたちの食文化に根づいていますよね」
「100年後の世の中には、わたしたちはいないでしょう。それでも、デジタルアーカイブの制作・利活用をつうじて、その時代を生きる人たちが、次世代に文化を残していく環境をつくりたいんです」
(2024/11/14 取材 大越はじめ)