しあわせな転職ってどんなものだろう?
答えは人それぞれで、きっと正解はありません。
コラム「しあわせな転職」では、日本仕事百貨の記事をきっかけに転職した人たちを紹介していきます。将来的には、コラムの一部をまとめた書籍も出版する予定です。
どんな想いで仕事を選んだのか、その後どんなふうに働いて、生きているのか。それぞれの選択を知ることで、自分にとっての「しあわせな転職」を考えるきっかけになればうれしいです。
OSAJI 店舗統括・齊藤悠里さん
2017年に東京・谷中で誕生したスキンケアブランド、「OSAJI」。日本人の肌に合う優しい化粧品とはどんなものだろうと、代表の茂田さんが研究と試作を繰り返して生まれたブランドです。OSAJIがたどり着いたのは、植物由来の成分とケミカル成分をちょうどよく配合してつくる化粧品。多くの人から支持され、今は調香や飲食といった体験型の店舗も合わせて16店舗を構えるようになりました。そんなOSAJIに2018年に入社したのが、齊藤悠里(ゆうり)さんです。
現在はOSAJIの店舗統括として働いています。店舗のレジ設定から新規スタッフの採用、出店している商業施設への営業まで、店舗に関わることを幅広くやっています。化粧品業界も営業もまったくの未経験で入社したので、今こんな仕事をしているのが自分でも驚きですね。
OSAJIに入る前は地元の埼玉で郵便局の配達員をやっていました。今と全然違いますよね。原付で一日80キロくらい田舎道を走って、夏はヘルメットのあごひもの跡がくっきり残るくらい日焼けしたりして。
郵便局には「やりたいことが見つかるまで、とりあえず」と思って入ったんです。大学を中退してアパレルや飲食などいろいろかじってはみたものの、なんか違うなと思ってどれも続かなくて。
そうはいっても、やりたい仕事はなかなか見つからなかったんですね。やりたいことが明確な人なら「この会社」とか「この業種」って目星をつけて仕事を探せると思うんですけど、自分にはそれがなかったので。やりがいを持って働ける仕事がしたい、と探しているうちに見つけたのが日本仕事百貨でした。
掲載されている記事を読んで、「こんな仕事も世の中にあるんだ」って新しい発見がたくさんありましたね。だけど、いざ「自分なら何をする?」って考えると、なかなかイメージできなくて。これだって思う仕事を探し続けて、気づいたら郵便局で5年も働いていました。
あるとき偶然OSAJIの求人を見つけて。その瞬間に、なんかこれかも!ってピンときたんです。化粧品に興味はあっても仕事にするなんて考えたこともなかったし、そもそも化粧品業界って、経験重視で美容学校出身とか限られた人しか入れないと思っていて。
本当に肌に優しいものを届けたいというOSAJIの思い、そして記事に出ていた店長さんの優しそうな表情から、ここなら安心して働けるかもって感じたんです。
「どうしてもたくさん広告を打っていて有名なもの、雑誌に載っているものが売れていく。このままでは、想いも伝わらないし、売れ行きもよくない。自分たちのお店で、自分たちの声を届けていきたいという想いがありました」
『暮らしの「おさじ」に』より
OSAJIのことが気になって、まずは谷中の店舗に足を運んでみました。入りやすい雰囲気にホッとしたのを今でも覚えています。たくさんの商品が並んでいて、同じ商品でもいろんな香りがあるし、何を買おうか迷いに迷って…。相当な時間、お店にいたと思います。たぶん「この客はいつまでいるんだ?」って思われていたんじゃないですかね。
そのうち店員さんが「何かでOSAJIのことを見て、来てくださったんですか?」と声をかけてくれて。「実は日本仕事百貨で知って、気になったので来てみたんです」なんて会話をしながら一緒に商品を選んでもらいました。そのとき買ったのが、今でも使っている「フェイシャルトナー」という化粧水です。
びっくりしたのは使い心地でしたね。今まで使っていた化粧水はサラサラ流れてしまう感じだったんですけれど、これは肌に馴染んで水分を蓄えてくれるようで。香りもすごくいいんですよ。この商品なら心からお客さんに薦められるなって思いましたね。
無事入社できて、最初は吉祥寺の店舗スタッフとして働くことになりました。実際に入ってみたら、大好きな商品に囲まれて、お客さんとお話ができて、楽しいことばかりでした。ちょっと自分でも意外なくらい、毎日夢中になって働いていましたね。
すでにリピーターの方が多くいらっしゃる店舗でしたけど、自分が接客したお客さんが新しくリピーターになってくれたときはすごくうれしかったですね。OSAJIを好きな気持ちをお客さんと共有できたんだなって感じました。
たまに他社の化粧水を試しに使ってみるんですけど、なんだか物足りなくて、結局OSAJIの化粧水をその上から重ねちゃうこともよくあるんです。
ずっと使っていても、やっぱりOSAJIがいいなって思いますね。
そのあと上野店で店長をやっていたときに、コロナ禍ですべての店舗が休業になってしまって。これからどうなるんだろうと戸惑っていたら、代表の茂田から「従業員で物流をやろう」と声がかかりました。おかげさまでECの販売は伸びていたので、そちらの梱包や積み込みを社員総出でやることになったんですよ。
スキンケアブランドの社員が物流?って、不思議に思われるかもしれませんね。実はOSAJIって開発から販売まで基本的に自社でやっているので、あらゆる面で融通が効くんです。コロナ禍で新商品として売り出した手指消毒用のハンドリフレッシャーは、製品化まで約1ヶ月でした。そこまで短期間でつくれるのは化粧品業界ではめずらしいそうで、OSAJIだからできることなんだな、とあらためて感じました。
店舗統括の役職を任されてからは、ひたすら走り続けてきました。こんな仕事ができるなんて思いもしなかったですけど、未経験でもここまでやらせてもらえる環境がありがたいなと感じています。
今は新店舗の開店準備にも関わっています。入社したときから「いつかルミネに出店したい」と妄想していたんですけれど、今年の3月にそれがついに叶ったんですよ。しかもエスカレーターのすぐそばという、お客さまの目に付きやすい最高の立地。ブランドが大きくなっていくと、理想としていたことがどんどん現実になるんだなって思いましたね。
この間、名古屋でポップアップショップをやったときは、想像以上に多くのお客さんが来てくださいました。今はSNSでOSAJIを知ってくださる方も多くて。「ずっと気になっていました」とか「名古屋にも出店してください」とか、ありがたいお声をたくさんいただいてうれしかったです。
OSAJIの商品を待ってくれている人がこんなにもいると思ったら、次の出店は中部かな?九州かな?なんて想像はふくらむ一方ですね。
2022年7月5日 東京・東日本橋 OSAJIオフィスにて
聞き手 ナカムラケンタ
書き手 小河彩菜