日本仕事百貨を運営するシゴトヒトは昨年から、「いいチームを探求し、つなげて、広めていく」をミッションに掲げ、さまざまな事業に取り組んでいます。
「自分の仕事をしている」と感じられる組織って、どんなものだろう。
この1年、さまざまな探究を進めてきました。
そして2024年10月。まずは自分たち自身が理想を体現できるよう、組織の形を一新。
一番大きなことは、自分の給料を自分で決めることができるようになったこと。
そのほかにも、売上目標は部署のメンバー全員で話し合って決める。
新しい人事制度も、年次や経験に関係なく、集った有志のメンバーが主体となって設計するなど、取り組み方をがらりと変えてきました。
代表のナカムラケンタがシゴトヒトを立ち上げてから17年目。もともと数人だったところから、スタッフの数は16人になりました。
全員で話し合って決めるのは難しい。けれど、トップダウンではなく、できるだけフラットな形で物事を決めたい。一人ひとりが納得感を持って働ける状態をかなえたい。
そんな組織になるにはどうすればいいだろう? 経営層とスタッフ、2つの視点から話を聞き、この数年の試行錯誤を振り返ります。
あわせて、同じく「自分の仕事をする人が増えている」組織づくりに取り組んできた株式会社名優のみなさんにも話を聞きます。
きっかけは、代表交代のタイミング。創業から30年、組織のあり方を見直したいと相談をいただき、ファシリテーターとしてわたしたちも関わらせてもらっています。
なぜこのタイミングでコミュニケーションに投資することを決めたのか。それによってどんな変化が起きているのか。1年目の取り組みを対談形式で振り返ります。
いいチームってなんだろう?
そう考えたことのある人なら、きっとうなずける話もあるはず。昨年を振り返りながら、新しい1年について考えるきっかけになればうれしいです。
私たちシゴトヒトは、2022年秋から3、4ヶ月に一回、「合宿」と呼ぶ社内研修の機会を設けています。
ふだんのオフィスを離れ、泊まり込みで山の中へ。
「これからどんな組織になりたい?」という話をしたり、身体を使ったコミュニケーションをとってみたり。オフィスにいるだけでは聞けなかった本音のような言葉もこぼれます。
合宿全体のファシリテーションをサポートしてくれているのは、西村佳哲さん。
著書「自分の仕事をつくる」は、代表のナカムラが仕事百貨を立ち上げるきっかけにもなった一冊です。
西村さんは自身のことを「親戚のおじさん」と呼びます。創業からシゴトヒトのことをよく知っていて、少し遠いところから「こんな話をしてみたらどうだろう?」と問いを投げ込んでくれる。
はじめての合宿から2年が経った2024年秋。それぞれ、どんなことを感じているのでしょうか。
まずはナカムラと西村さんのお話から。聞き手は、編集者の阿部です。
ナカムラケンタ:
1979年東京生まれ。「日本仕事百貨」「リトルトーキョー」を運営する株式会社シゴトヒト代表。
西村佳哲(にしむら・よしあき) :
1964年東京生まれ。プランニング・ディレクター。リビングワールド代表。働き方研究家。つくる・書く・教える、大きく3つの領域で働く。
ケンタ:
合宿を始めようとなったのは、2年半前だったかな。そのくらいに西村さんにご相談をしたんですよね。そのときはいわゆる社外取締役をお願いしたんです。
相談の経緯を話すと… 僕自身が変化を感じ始めたのは、5年前。スタッフの人数も増えて、もはやすべてのことを把握するのはむずかしいと感じていて。
たとえば、人事評価をするときに、よく知っているメンバーと、ちょっと離れた距離感の人をフェアには評価できない、という感覚がある。
それまでは、半期に一度の僕との評価面談で給料を決める仕組みでした。それを、スタッフ自身が給料を決めるような制度にしようと。ちょうどこの10月から徐々に始まっているんですけど。
西村:
5年前にもやったんだ?
ケンタ:
はい。それはね、猛反対にあって、頓挫したんです(笑)。
振り返ってみると、説明不足なところもあって。ただ僕としてはみんなの待遇がよくなる、たとえば給料が上がる可能性があるから提案しているわけですよ。
でも、大きな変化だし、なんだか不安。明確に反対とまでは言わないけれど、変化に対してネガティブな雰囲気があって。
当時は全員で話し合って全員で決める方式。誰ひとり取り残さない、という雰囲気があったんですよね。
西村:
みなさん、共感性が高いからね。そのときはそれで終わっちゃうの?
ケンタ:
当時はね、もうコミュニケーションにクタクタになって…、一旦閉じました(笑)。
これは大変だなと。一番孤独を感じましたね。みんなのために考えたのに、みたいな。ただ業績もいいし、そんなに難しいんだったら保留にしようと。
西村:
結局、発端の「一人ひとりのことを把握しきれない」という課題は解決しきれないけども、自分が頑張るしかないと腹を決めたわけだ。
ケンタ:
ですね。押してダメなら引いて、みたいな。一人ひとりと1on1の時間を持ったり、「みんなに任せた!」と会社から離れてみたり…。極端だな、振り返ると(笑)。
それがコロナの前くらいですかね。そのころから、自分たちのことを自己決定していくような組織や概念っていうのが社会全体で増えていく感じがあって。ただそのときは漠然としていた。どう進めていこうか、西村さんに相談したんですよね。
西村:
あのときは… 前のめりだったよね(笑)。シゴトヒトとしてビジョンやミッション、指針となるものを固めたばかりで。それらをチームと個人のアクションプランに落として、人事評価制度も変えて… どーんといきたい! みたいな。
で、俺が、いやいやケンタさん… それ、ついてこれない人結構いるんじゃないの?という話をしたんだよね。
頭ではわかるけれど、身体がついていかないって状態。会社組織の"身体"にあたる関係性をまずつくらないといけない。いまはコミュニケーションでしょ、っていうことで合宿を提案した。
ケンタ:
思い出してきました。それで、合宿をファシリテーションしてもらうことになったと。とても良かったです。これからも横にいていただきたいなと思っています。
ここ数年ほど、求人させていただいている組織のファシリテーションの仕事が増えていて。何度も求人募集させていただく企業のなかには、退職する方が多いこともある。求人する前に、組織の課題を改善しないといけなくて。
そんな企業に伺うと、社長は社長で切実な思いはあるけれど、現場とのギャップに気づけていないことも多いんですよね。客観的な立場で関わるからこそ、「自分も同じ失敗をしていたな…」と感じる。
西村:
それ、すごくいい機会だね。
ケンタ:
そうなんです! すごく勉強になる。外からだと気づけるんだけど、当事者だと気づけないというか。遠視だったんですよね。いつも夢みたいなことばっかり考えているタイプなので、足元に注意が向かないというか。
西村:
遠くが見えるのはすごい能力だから、大事だよね。加えて、まわりにいる仲間たちのこともよく見れるようになったら、自由度が上がるわけだよね。
ケンタ:
ですね。そういうことがわかりました。
ケンタ:
合宿を始めた2年半前に戻ると、最初の1年は、とくに辛かったですね。
この2年半を3つに分けると、最初の期間が一番つらかった。みんなのギャップが顕在化して、針のむしろみたいな…(笑)。
西村:
「ビジョンやミッション以前に、このままの状態で働き続けられる未来が見えません」とか、いろいろ言われてたよね。よく耐えたと思うよ。あの場でよくふて腐れなかったなと。
ケンタ:
あー、ふて腐れはしなかったですね。
西村:
ケンタさんの人柄だよね。「なんでこんなこと言われなくちゃいけないんだ」って、壁をつくってしまうこともあるから。
ケンタ:
たしかに。第一期は、互いに腹を割るというか。今思うと土を耕すような時間だったんだなと思います。
西村:
そうだね。ただしばらくは、合宿では話せても、日常業務に戻るとそれほど話せない、みたいなことが続いたよね。
そこから3ヶ月に1回、集まる時間を持って。「話したいことがあるのに話せない」ってところから、ちょっとずつ「話せる」ようになっていった印象がある。
話せているようでも、腹を割って話すのは怖い。「なんでも話して大丈夫」と思えるには時間がかかる。これはもう回数だよね。コミュニケーションは質より量、という言葉もある。
ケンタ:
この前、2024年10月の合宿はどうでしたか?
西村:
ブログにも書いたんだけど、「なんて素敵なの」って思いながら見てたんだよね。初回の合宿から比べると、もうなんか涙が出る感じ。
ケンタ:
前回の合宿では、部署ごとに分かれて、3年後に目指す姿やこの1年の目標、事業計画を立てましたね。発表の時間を設けて、それぞれフィードバックもして。
西村:
どんどん話して、思うことを表現する。ホワイトボードの前には自然に誰かが立つし。
あの前に自分から立つって、急にはできないよ。やっぱり慣れるというか、心と身体、両方が馴染まないとできない。
発表したことについても、みんなが自由に意見を言い合い、質問が生まれる流れが自然にできていた。それって、自治の基本的な力だなと思う。
ケンタ:
そうですね。2年半前は、ルールさえ整備できれば、あとは自動的に進むって思ってましたね。
ルールでできることも多いけれど、それぞれがちゃんと発言するとかは、心と身体が動かないと、回っていかない。
西村さんが背中を押してくれている感じがしますね。そこからちゃんと自分たちでも動き始めるというか。そういう感覚はあったかもしれない。
だから、西村さんがいなかったら、今はないなと思います。どんなに自己理解できたとしても、こんなに短い期間ではできなかったんじゃないかな。
ケンタ:
組織の内部だけで客観視しつつ、ファシリテーションしていくのって難儀だと思います。
これから人手不足が進むなかで、選ばれる組織にならなくてはいけない。そのためには、一人ひとりが納得感を持って仕事ができるように変わっていかなきゃいけない。組織のファシリテーターみたいな人がもっと必要なんだろうな。
西村:
そうだね。私はシゴトヒトのほかにも何社かサポートさせてもらっているけれど、どこも共通しているのは、代表とスタッフのみなさんが私を信頼してくれている感じがするんだよね。そうでなかったらできないことをしている。
ビジネスコンサルタントの人たちって、すごいなと思う。個人的な信頼はあらかじめないところに剥き身で入っていって、機能しなくちゃいけない。そのためにもいろんなツールで武装なさっていることが多いと思う。
その点、最近シゴトヒト自身が組織のファシリテーションの仕事に取り組んでいるのは、これまでの求人支援の延長線上にあるから自然だよね。
求人以外にも可能性を広げていく。それは別の言い方をすると、クライアントと「一緒に成長する」ことだと思うんだ。
その流れで思いつきを口にすると、今後はスタッフがクライアントさんに出向、みたいなこともあるかもしれないよね。そこで得たものを社内にまた持ち帰って。いまもそうだと思うけれど、どんどん活動領域が広がっていくんじゃないかな。
ケンタ:
たしかに。これまでやってきた編集に加えてファシリテーションの能力があれば、必要とされると思う。
出向もそうだし、後継者になる人も出てくるんじゃないかな。客観的にいいところも課題もわかっているなかで、想いを引き継げるのは自分しかいない、みたいな。そういう人材輩出企業を目指していくのは面白いなと思います。
西村:
シゴトヒトはいま"編集"を再定義しているところなのかもしれないね。
クライアントワークもそうだし、リトルトーキョーっていう場でも実践している。それをメンバーたちが自分の言葉で語るようになってくると、次の段階に進むんじゃないかな。
あとは、ケンタさんのほかに、一緒に経営を考える人が育つといいね。
百貨はケンタさんが始めた取り組みだし、ケンタさんにとって自分の子みたいなところはあるかもしれないけれども、「手離れつつあるな」とも感じている。
この前、穂高養生園っていうところにね、3週間ぐらい滞在したの。代表の福田俊作さんは78歳なんだけど、経営は若手に任せて、彼は"クリエイティブな用務員"をやってんだよね。頼まれたら、「わかったわかった」って、まな板つくったり、石運んでステップつくったりしていて。
すべての代表がクリエイティブ用務員になるのがいいってことじゃないんだけど、そういうあり方は最高だなと。自分の身体が動くところまで、かかわり方を変えてやる、みたいな。
経営とかの舵取りは任せられそうな人に任せて、本人は新事業やったっていいわけだ。そんなふうに自由に動けるようになるには、次の経営層がちゃんと育つ必要があって。
せっかくみんなの力と命を重ね続けてきてる場所なんだから、船として長く航海を続けられるほうががいいよね。そうなるといいなと思っています。
ケンタ:
僕もそう思っていて。
仕事百貨を始めて10年くらいは、いろいろなご縁をいただいたけれど、余力もなくて、一人ひとりと満足にコミュニケーションもとれなかった。走り続けながら、ポロポロとこぼれ落ちていく感じだったんですよね。
好ましくないなとは思っていたけれど、変えられなかった。そこが少しずつ変わってきた感じがある。
ひとりで持ってるんじゃなくて、一緒に持ってもらってる。むしろ僕はもうお神輿は担いでいなくて、みんなに担いでもらっているのをうしろから見守ってるような感じ。
自分の給料を自分で決められたり、チームごとに裁量があったり。そういったことから始めて、これからは会社の新しい形を試してみたいなと思ってます。まず自分たちシゴトヒトを実験台に。
西村:
お! ドキドキ(笑)。
ケンタ:
会社は誰のものかって考えたときに、従業員もいれば、クライアント、地域の人もいるだろうし、僕らにとっては読者の存在も大きいと思っていて。もっとつながっていける形を考えているところです。
この前、リトルトーキョーで24時間イベントをやったんですけど、たくさんの人が来てくれたんですね。昔からの常連さんも、はじめて来ましたって人も、昔いたスタッフも。境界がどんどん広がっている感じがしていて。
株主のためだけじゃなく、公的な会社というか、あり方というのがこれから増えると思うんですよ。組合型の株式会社も増えてますし。いろいろな形を試してみたいですよね。それがとっても楽しみです。
後半、スタッフ編はこちらから。
株式会社シゴトヒトでは新しいメンバーを募集しています。ご興味があえば、こちらもあわせてご覧ください。
「森が広がってゆくように 『自分の仕事』を みんなのものに」
2024/11/12取材
聞き手・編集 阿部夏海
撮影 荻谷有花、稲本琢仙、阿部夏海
イラスト 後藤響子
デザイン 荻谷有花