コラム

会話が増えると課題も増える
いいチームってなんだろう?
名優の場合02

いいチームってなんだろう?

日本仕事百貨を運営するシゴトヒトでは「いいチームを探求し、つなげて、広めていく」をミッションに掲げ、さまざまな事業に取り組んでいます。

自社での取り組みの紹介や、ゲストに組織づくりの経験を聞くこのコラム。

今回は、千葉県八千代市にある医療機器メーカー・株式会社名優での取り組みを紹介します。

トップダウンの経営から、メンバーが能動的に動くチームを目指して。代替わりにあわせて、コミュニケーションのあり方をがらりと変えようとしています。

取り組みがはじまり、約一年が経過した2024年秋。メンバーのみなさんは、この変化をどう受け止め、どんなことを感じているのでしょうか。

後編では異なる部署の3名に話を聞きました。聞き手はシゴトヒトの長島です。

(左から順に)
野口葉月(のぐち・はづき)さん:
入社7年目。営業部 営業サポート課の係長を務める。
江澤一正(えざわ・かずまさ)さん:
入社して16年目。営業部で部長を務める。
飯野寛子(いいの・ひろこ)さん:
入社7年目。社長室で広報などを担当。

前編では、代表・山根優一さんに話を聞いています。まだという方は、こちらからご覧ください。

 

 

「野口さんはどう思うの?」

―― 新体制へ変わるにあたって、代表の優一さんからは「『自分の仕事をしている』と言える人が溢れているチームを目指したい。でも、誰も置き去りにはしない」という想いを聞きました。

最初に取り組むことになったのが、まずは安心して思っていることを話せるような環境づくり。1年を振り返って、みなさんはどう感じていますか?

野口:
コミュニケーションの量は、意識して増やしましたね。

これまでは決定事項が降りてくることが多かったんです。それが、「野口さんはどう思うの?」と、優一さんに聞かれることが増えて。

戸惑いもありつつ、最近は自分で考えるためにも、わからないことは質問するようになってきました。

前よりも「私が会社をつくるんだ」と思えているのかもしれない。かっこいいことを言ってますよね(笑)。

飯野:
最近だと、パートさんの呼びかけで、荷受け作業をみんなで行ったことが印象に残っています。

これまで荷受け作業はパートさんが中心だったんですが、全社会議のときに、ある人が「身体的にも大変だから手伝ってもらえるとうれしい」と発言してくれて。

荷受け作業をみんなでやったのは、はじめてじゃないですか?

江澤:
これまでもそういうことはあったけれど、ちょっとした助けがほしいときに声をあげることはあまりなかったかもしれないね。

みんな良い人たちなので、声をかければきっと手を貸してくれる。これをきっかけに声をあげやすくなっていけば良いですよね。

野口:
そうですね。… ただ、わたしも荷受けの話はすごく前向きに捉えているのですが、一方で課題を感じたエピソードでもあって。

 

思うことをすべて伝えるのは正しい?

野口:
わたしは会社の窓口となる部署にいるので、お客さまから急な依頼をいただくことも多いですし、どうしても時間をつくるのがむずかしいこともあります。なので、声がけの際に必要な人数まで言ってもらえるとありがたいなと感じていて。

そうすれば都合のつく人から協力できるし、手伝えない人も気を遣わずに自分の仕事ができますよね。

でも、そのときはあまりうまく伝わらなかったんです…。手伝いたくない、という印象で受け取ってしまった人もいるかもしれません。

―― どうしてうまく伝わらなかったんでしょう。

野口:
伝え方もよくなかったのかもしれません。受け取り手への配慮なども含めて、まだまだ未熟だなと思いました。

伝えることに失敗する経験が重なると、「思っていても言わない」ということが増えてしまうんじゃないか、と感じました。

江澤:
1対1で話せる関係であれば、ズレがあってもすり合わせやすいよね。こういう意図で話したんです、ってすぐフォローもできる。

今回の荷受け手伝いの呼びかけは、たしか優一さんが全社向けの一斉メールで呼びかけてくれたのかな。

立場や役割の異なる人たちに同じテキストで伝えても、捉え方は人それぞれになってしまう。

言いたいことを全員に同じように伝えるというよりは、関係性やタイミングによって伝え方を工夫することが必要かもしれないですね。

飯野:
きっとほかの企業さんでも、どこかの部署の人が「協力してほしい」って言ったときには、どう手伝えばいいのかをみんなで話して考えているんじゃないかな。

それぞれに事情や考えもあるだろうし、最初は誤解が生じたり、損をしたように感じてしまったりすることもあると思う。

丁寧にコミュニケーションを重ねていくことで、スムーズになっていくといいですね。

 

脱・社長がすべて決める方式

―― この一年、はたらくなかで感じた変化はありますか?

飯野:
わたしは、広報や営業資料の制作を担当しています。

ほかの部署からの依頼を受けてつくることがほとんどですが、最近は営業チームだけでなく、野口さんからの依頼が増えてきたように感じているんですね。

野口さんはお客さまからの電話を受けているし、営業チームとも連携する立場なので、情報をたくさん持っている。

集積した情報をもとに、「こんな資料があるといいかも」って言ってもらえるのはすごくありがたくて。野口さん自身、心境の変化があったんじゃないかな。

野口:
そうかもしれないですね。

これまでは営業のサポートをするのがわたしの役割だ、と思っていたような気がします。でも最近は、会社として権限委譲をしていきたいという話もよく出ていて。

社長がすべて決めるんじゃなく、メンバー自身が考えて決めることも増やしていきたいと。わたし自身、自分が決断してもいいだろうと思えることが増えてきました。

江澤:
みんな、どんどん手を挙げられるようになっていけばいいなと思いますね。

もちろん何かをすることには責任も伴います。でも、失敗したからといってすべての責任を取らせるとか、そういうことは名優にはないんです。

手を挙げられるような雰囲気にしていきたいし、手を挙げた人のことを支えてくれる人が出てくれば、チーム感がもっと増していくんじゃないかな。

野口:
そうですね。実はこの前、「営業したいです!」と申し出て、旭川まで行かせてもらったことがあって。

営業サポートという職種ではあるけれど、お客さまのためになることなら力になりたい。そんな気持ちで電話口でも対応していて、チャンスだと思って手を挙げさせてもらったんです。

―― すごいですね。

野口:
営業担当のスタッフと密に連携していたので、無事に訪問を終えることができました。

営業先の方からも、「いま使っているものの意味をあらためて感じられたし、自分が毎日取り組んでいる作業に深い意義があると理解できました」と感想をいただいて。

勇気のいるチャレンジだったけど、だからこそ会える人がいて、見える景色がある。

新しいことへの挑戦は、諦めたくないなって思いました。

 

変化する怖さ、そしておもしろさ

―― 15年と長く勤めている江澤さんにとって、この一年の変化は大きなできごとだったと思っていて。ご自身はどう捉えていますか?

江澤:
そうですね。会社として目指すものが一緒であったとしても、その方法論は人によってまったく異なる。わたしとしては、ちがう会社で働くようなものだと感じています。

自分自身、それなりに変化についていけるとは思うんだけど、適応に苦労する人もいるんじゃないかな。

互いに支え合いながら変わっていく必要があると思いますね。

でも、目指すべきものはみんな一緒なので。お客さまのためになることをする。

それに向かってそれぞれがやるべきことをやっていけば、おのずと必要なコミュニケーションもわかってくる気がします。

―― 江澤さんはこれからの名優がどういうチームになっていくといいと思いますか?

江澤:
まずはそれぞれの役割を全うすることが基本ですね。でも、何かをやってみたいときに実現できるような余白があることも大事だと思っています。

そうやって取り組んでいった先に、具体的な理想像が見えてくるんじゃないかな。

―― 飯野さん、野口さんはいかがでしょう?

飯野:
豊かな公園のように、水鳥もいればシジュウカラもいたり、犬も散歩していたり。それぞれがのびのびといられる環境だといいなと思います。

仕事内容的に、わたしは1羽で生活する水鳥なので(笑)。群れで生活しているシジュウカラさんのことはわからない。

それぞれの部署で居心地のいい環境をつくっていくのがいいんじゃないかな。

―― そうですね。

一方で、会社って部署が連携して成り立っているという側面もある。自分自身の居心地のよさを叶えるためには、部署外に向けて伝えることも必要ですよね。

飯野:
そうですね。

たとえばわたしの場合、作業は1人で行いますが、その元となる情報は部署外の人から得ているんです。

なので部署外の人との連携は必須ですし、どんどんコメントを求めます。

そうするうちに、自分の仮説の間違いや思い込みに気づくことがあったりして、とても面白いです。

野口:
わたしは、今は意見を言いづらいと感じている人が「自分も言ってみよう」と思ったり、発言したあとに「言ってよかった」と思ったりできるようになればいいなと思います。

言いたくても言えないことがある人の意見も拾える会社になりたいですね。

―― ほかの企業さんとお話していても、言いたくても言えないことがある、という課題を抱えているところは多くて。

どうすれば意見を拾えるんだろう、とよく考えています。野口さんはどのように考えていますか?

野口:
1対1のコミュニケーションを増やすことかな。

大人数に対して言うことはむずかしくても、1対1であれば言えることもある。ほかの人が代弁できるかもしれません。

―― 時間がかかることでもあります。

野口:
そうですね。これまではスピード重視、必要最低限のコミュニケーションで業務を進める会社だったので、抵抗感のある人もいるんじゃないかな。

わたし自身も、この方法が正しいことなのかわからない、というのが正直なところです。

でもわたしは、あなたの意見も大切だよって発信し続けたいし、みんなの意見を聞きたいなと思っています。

 

あとがき

名優ではたらく人たちとお話しするなかで、いつも感じていることがあります。

一つは、会社やそこで働く人たちのことを尊敬しているということ。

もう一つは、お客さまによりよい価値を届けたいという想いです。

社内のコミュニケーションを増やしていくと、たくさんの難しさに直面します。

立場や役割は異なるし、プライベートの状況や体調も人それぞれ。この人とはどうしても合わないということだってあります。

とくに最初は、うまく伝わらず誤解が生じて、悩みや課題もたくさん出てくるもの。

名優のみなさんもまさに、新しい課題に直面して、考えたり、悩んだりしている最中でした。

うまくいかないときは、ひとまず目的に立ち返ってみるといいかもしれません。

どうしてコミュニケーションを増やそうとしているのかを考える。そして、自分の悩みや課題に感じていることを伝えてみる。そこからまた新しいコミュニケーションが始まります。

名優のみなさんの中には、「お客さまにより良い価値を届けたい」という根がしっかりと張られている。だからこそ、課題と直面しても、きっといい方向へ向かっていけるんじゃないかと思っています。

 

みなさんのチームで大切にしたいことはなんですか?

まずは見つけるところから、わたしたちがお力になれることもあるかもしれません。

よかったら、リトルトーキョーに遊びにきてください。コーヒーでも飲みながらお話ししましょう。


過去にも名優のみなさんをご紹介しています。
よろしければ、あわせてご覧ください。
「目の前のあなたとともに その気持ちが 未来の医療をつくる」
「いい道具から 医療を変える」

2024/11/19取材
聞き手・編集 長島遼大
撮影 長島遼大、阿部夏海
イラスト 後藤響子
デザイン 荻谷有花

 

「いいチームってなんだろう?」では、日本仕事百貨やリトルトーキョーを運営する、わたしたちシゴトヒトが取り組む組織づくりについてもご紹介しています。あわせてぜひ、ご覧ください。