コラム

流れに身を任せて

これはしごとゼミ「文章で生きるゼミ」に参加された稲本琢仙さんによる卒業制作コラムになります。

文章で生きるゼミは伝えるよりも伝わることを大切にしながら文章を書いていくためのゼミです。

早朝の京都駅。

早くから開いているカフェを見つけ、構内が見渡せるテーブル席に向かい合って座る。連休ということもあり、駅は早くも人で賑わいつつあった。

今回お話を聞くのは、堀田英宏さん。林野庁の職員として働いており、現在は北海道の置戸町にある網走中部森林管理署に配属されている。

休みを利用して奈良と京都に行ったとのことで、まさに北の大地に帰る直前というタイミング。バックパッカーのようなバカでかいリュックと、平等院で買ったというお堂がプリントされたトートバッグを持つ姿が、なんだかちぐはぐでおもしろい。

彼と出会ったのは、2011年の4月。大学で同じ学部になったのがきっかけだった。

大学時代からゆっくりとしたやわらかい口調で話す印象だったが、働きはじめてからさらに磨きがかかっているように感じる。

お互いの近況報告も弾み、次第に仕事の話に。公務員と聞くと、どうしてもお堅い職業のイメージがあり、まっすぐとした人生を歩んできているような印象を持っていた。

率直にそのことを伝えると、意外にも彼は少し困ったように笑って、「そういうわけでもないんだよね」と言う。

「仕事については自分の中でもふらふらしてる部分があって…。元々は鉄道が好きで、鉄道関係の仕事をしたいなと小さいころから思っていて。あと観光が好きだったから旅行会社に行きたいと思ったり、それこそ自然保護みたいな仕事にも興味があったり」

「あとは日本史も好きだったんだよね。自慢じゃないけど、センター試験でも満点取ったくらい。今なんかも、昨日行った三十三間堂の写真をパソコンのデスクトップにしてるんだけどさ(笑)。でも大学では結局日本史じゃなくて地理学を専攻したんだよね」

そこまでの日本史好きとは知らなかったこともあり、少し驚いた。どうして日本史ではなく地理学を選んだのだろうか。

「日本史を専門にしようとなんとなく思ってたんだけど、そこで武田君っていう人に出会いまして。彼は地理学系を専門にしている講座に進もうと決めてたんだけど、『この大学には、地理学のすばらしい講座があるんだよ!ぜひ君も入らないかい?』って言われてさ」

「元々地理学も好きではあったから、じゃあ入ろうかなと。武田君とはその後、長い付き合いになっていくんだけど(笑)」

「人との出会いでふらっと変わっちゃうから、わかんないよね人生」と、笑いながらコーヒーをすする。

そのまま林野庁を目指すようになったのかと思いきや、そういうわけでもなかったという。

「就職するんだったら公共交通機関系に入りたいっていう夢はどうしてもあって。鉄道会社とかを片っ端から受けたんだけど、だいたい鉄道会社って大企業だからさ、バシバシ落ちちゃうんだよね(笑)」

「それでもう一個考えてたのが、今の公務員。登山が好きなのもあって、卒業論文では登山道の管理についてやったんだけど、その中で林野庁っていうのが登山道の管理に関してはカギを握ってるっていうのを知ってさ。ただ、第一志望は環境省だったんだよね。そりゃあやっぱ、国立公園とか持ってるのは環境省だから」

そして公務員試験には合格。その後環境省を受けるも採用されず、最終的には林野庁で内定をもらって現在に至るという。

「だから、かなりふらふらしながら林野庁になだれ込んだ感じなのよ。それで行ってみて驚いたのが、事務系と技術系の区分っていうのがほとんどなかったこと。事務系で採用されたんだけど、実際の仕事はそれと関係なくやってるんだよね」

「今の仕事も、森の中にガシガシ入って、どういう風に間伐してあげたらこの森林は育っていくのかっていうのを描いたり、間伐した木材がちゃんと丸太にされてるかチェックしに現場を巡ったり。山登るのも好きだから、それはすごい楽しくて。仕事か遊びかわかんないような(笑)。色分けしないでやらせてくれるのは、いい職場だなというか、恵まれてるなと思って」

「もちろん課題は山ほどあるんだけどね」と、言いながら笑う彼。

一番の希望通りに進んできたわけではないけど、今の仕事としっかり向き合い、そして楽しんでいるように感じる。

「結局ふらふらふらふら、あっち行ったりこっち行ったりしてさ。千鳥足でなんとか林野庁にすっころんで行ったんだよね。でもやりたいことって、その場面場面で変わってくるパターンもあると思っていて。心に決めたことをずっと続けてやってきてる人もいるんだろうけど、そういう人って一握りだと思うんだよね」

「だからなんというかな、あんまり決め打ちしないで、流れに身を任せてじゃないけど…。最初から先入観をもたないでやってみる。ちょっと付き合ってみて、いいとこ見つけてあげるっていうかさ。そっちのほうが、人生を生きてく上で楽しいのかなって、最近は思ってたりするかな」

(2018/9/24 稲本琢仙)