コラム

生き方を変えた1冊の本

これはしごとゼミ「文章で生きるゼミ」に参加されたサイトウワタルさんによる卒業制作コラムになります。

文章で生きるゼミは伝えるよりも伝わることを大切にしながら文章を書いていくためのゼミです。

『生きるように働く』

この本のタイトルを耳にしたときのちょっとした違和感。そうか、生きるように働いてもいいのか。でも、この違和感はなんだろうか。確かに言えることは、自分は生きるように働いていないということ。

本との出会いは、下北沢の本屋B&Bでの出版イベントの告知。

感じた違和感を確かめるべく、イベント参加前に本を購入して、半分くらい読んだところでイベント当日を迎えた。

約10年ぶりの下北沢。再開発真っ只中の駅前を出て、賑やかな喧騒を抜け、ファーストフードのある雑居ビルへ。

ライブハウスのような地下階段を降り本屋の扉を開くと、空気が一転。暖かな灯りとたくさんの本。

緊張しながら、受付を済ませて中に入る。会場を見渡して、後方の席へ。

「お饅頭食べます?福岡からのお土産です」

温かくて優しい声。ケンタさんとの出会いだ。そのまま和やかな雰囲気のなか、本に囲まれながらイベントは進んでいった。そして最後の質問タイム。本と出会ったときに感じた疑問をぶつけてみた。

「仕事とプライベートの区別を意識するときってありますか?」

ケンタさんは答える。

「うーん、特にないなー」

ケンタさんこそ、まさに生きるように働く人であった。でも、自分はいま生きるために働いている。

もちろん、生活をするためにみんな働いている。生きるために働くというのは、お金を稼ぐことが働く一番の目的。そんなニュアンスを感じるのは私だけだろうか。

だからつらい仕事でも我慢する。だって給料をもらうのが一番の目的だから。たとえ職場の雰囲気が悪くて、会社の上司と上手くいかなくても。

結局私は体調を崩してしまい、会社を休むことになった。そのときに出会ったのが、『生きるように働く』だった。

あのときの自分だったからこそ、響くものがあったのだ。

でもどうしたら生きるように働けるのか、そのヒントもこの本には詰まっている。

「生きるように働く人たちは、はじめることができた人たち。失敗してもいいから、一歩ずつ進んでいけばいい」



2か月後、今度は二子玉川の蔦屋書店で開催されたイベントで、ナカムラクニオさんと出会った。どうやら、クニオさんはいろいろな仕事でいそがしく、仕事を手伝ってくれる人を探しているらしい。

イベント終了後、クニオさんの仕事を手伝いたいと勇気を出して言ってみた。突然の申し出に対して、クニオさんは喜んでその場で連絡先を交換してくれた。

このとき、私のなかで何かが動きはじめた気がした。

最近ぼんやりと夢が見えてきた。それは自分の本屋さんを開くということ。1冊の本との出会いがきっかけで、人生が大きく変わる。本の持つ力を本屋さんという場を通じて、多くの人に体験してもらいたい。

でもまだ動きはじめたところばかり。まだまだ自分は土から出たばかりの小さな芽。トライ&エラーをしながら、これから少しずつ枝葉を広げていかなきゃ。

次にやること。それは「また連絡する」って返信があってから、はや3か月。音沙汰のないクニオさんに連絡をすることだ。

(2019/3/13 サイトウワタル)