コラム

すきまでつながる

これはしごとゼミ「文章で生きるゼミ」に参加された、家入千栄さんによる卒業制作コラムになります。

いつも練習を終えて部室を出るころには夕暮れ。

「なあ、アイス食べへんー?」

さっきまで楽器を吹いていた仲間と、アイスの自動販売機の横でたむろする。話は尽きない。

帰りはバス。ローファーでステップを駆け上がり、乗り込む。

一番後ろの席に横並びにみんなで座るのがお気に入り。

記憶に残る会話や景色は、何気ない瞬間にある。

大学3年生のMさんは現在、オンラインでの授業を受けながら週一回のゼミのときだけ大学に通っています。

1年生の時は大学で直接授業を受けていましたが、新型コロナウイルスの影響で2年生からはすべてオンラインとなり、大学に行くことがほとんどなくなりました。

「直接人と話すのとオンラインで話すのは全然違いますね」

オンライン授業では、録画をした授業の映像を見る。

そのため、画面上で他の人の意見を見ることはできても、直接会ったときのように話したり意見を交わしたりすることはできない。

「同じ授業でもオンラインと大学では空気感が違う。一年生の時に大学に通えていたありがたさに気づきました」

直接見える人の顔、耳に入る声や、その場の温度。

オンラインだけでは感じることのできないものがある。

行き帰りの時間や休憩時間もなくなってしまった。

「週一回のゼミでは直接会って話すことがあるんですけど、深い話にならないというか…どこか表面上のつきあいになってしまっている気がして。」

「『つながり』が感じにくいんです」

オンラインでいつでもつながれるようになった今。

24時間、365日つながっていても、顔を見て話したい。

そう思ってしまう。

「たまに友達と遊ぶときには、それまでにあった出来事とか、今自分が考えていることとかを、おいしいご飯を食べながら話し込めたりするじゃないですか」

「毎日メッセージのやり取りをするのではなく、そういう『つながり』をもっていたいんやなって思いました」

直接会って一緒に過ごすことで、言葉にならないものも共有できる。

そのときに感じたことや見たものが『つながり』を感じさせてくれる。

目の前にいる人と想いが交わり、通じ合う。

大事なのは、ずっとつながり続けられることではないのかもしれない。

年末、友達とLINEで近況を報告しあっているうちに、遊ぶことになった。

1年生の時に、同じ英語の授業で隣の席に座っていて仲良くなった友達。

「その子とは、3年生になった今でもつながっていて、毎日LINEをするとかではないんですけど、最近どうしてるの~とか話せる関係で」

「一緒に海遊館にいって、そこで夕日を見ながらアイスを食べました。そのときに『つながり』を感じましたね」

夕暮れの景色、一緒に食べたアイスの味、隣にいる人の表情。

不思議と通じ合えた気持ちになる瞬間。

「オンラインとオフラインの違いが何か考えているときに、高校での部活終わりなどの何気ない時間を思い出していました」

思い出すのは日常のすきまのような時間。

(聞き手・書き手:家入千栄さん、話し手:Mさん)

文章で生きるゼミは、伝えるよりも伝わることを大切にしながら文章を書いていくためのゼミです。オンラインで開催しているので、どこからでも受講することができます。

次回は、8月末からオンラインで開催します。申し込みは2022年7月31日(日)まで。興味のある方は、こちらから詳細をご覧ください。