これはしごとゼミ「文章で生きるゼミ」に参加された、伊藤紗英さんによる卒業制作コラムになります。

世界で何が起きているのかを伝える、ジャーナリスト。子育ての面白おかしい日常を切り取る、エッセイスト。企業の魅力を広く発信する、PRライター。
文章で生きる。その生き方は様々だ。

今回取材した小河アヤナさんは、インタビューライター。
9年間つづけた小学校の教員を、昨年4月に退職。心からやりたいことを見つめ直し、この生き方を選んだ。
転機となったのは、中村洋太さんのライターコンサル。駆け出しライター向けの養成講座だ。
「元々、自分の話をするより、人の話を聞くほうが面白かったんです」
「中村さんから『インタビューは結構世に求められているから、好きだったら良いと思いますよ』ってアドバイスをいただいて。ちょっとやってみようかな、と」
まずは1本、本格的なインタビュー記事に挑戦してみることに。
取材相手として声をかけたのは、ベトナムでコスメブランドを立ち上げた和田良子さん。5年ほど前、彼女のお店を旅行で訪れ、知り合って以来、「生き方が面白い」と気になっていた。
取材中、慕っていたスタッフに売上金を盗まれてしまったという話を聞いた。あっけらかんと話す姿が印象的だった。
「お金を盗んだおばちゃん、アメリカに逃げちゃったみたいで。でも良子さんは、お金よりも、もっと色んなものをあげたかったのに、と笑ってました」
「私だったら無理だぞ、と思うことも、ご本人はまっすぐ進むしかなかったっておっしゃって。失敗談を平然と笑いながら語れるところに、強さをもらえる。物事の裏側を、本人の言葉で聞けるのが面白いんです」
そして彼女は、人の話を“書く”ことについて、こう語る。
「その人の一部分ですけれど、物語づくりに間接的に携わらせてもらってるのが、楽しいんだと思います。お話を聞くことも楽しいけれど、さらに誰かに伝わったら、取材を受けてくれた方もうれしいかな、読んだ人も面白いかなって」
「話を聞いて、自分のフィルターを通して発信しなおしていくっていうか」
自分のフィルターを通す。それは、伝わるよう、言葉を選び抜くこと。
「小学校で種のまきかたを教えるとき、『土を優しくかぶせてね』と言っても、ぎゅーっと押しつけてしまう子がいて。でも、種を自分、土を布団に例えて、『優しく布団をかけられたほうがうれしいよね』と伝えると、想像を膨らませてくれる」
「教員としての経験は、言葉を変えて伝える訓練になっていたと思うんです」
その過去が、今につながっている。
「良子さんの記事の読者から、『伝わりました、その人のことが』って言ってもらえて。書いてるときは想像できなかったけど、私でもできるのかって、うれしかった」
話を聞き、自分のフィルターを通して、物語が伝わる。
そのすべてが面白い。
だから、文章で生きていく。
(聞き手・書き手:伊藤紗英、話し手:小河アヤナ)

文章で生きるゼミは、伝えるよりも伝わることを大切にしながら文章を書いていくためのゼミです。オンラインで開催しているので、どこからでも受講することができます。
次回は、8月末からオンラインで開催します。申し込みは2022年7月31日(日)まで。興味のある方は、こちらから詳細をご覧ください。