世界仕事百貨

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ミラノにいたとき、ちょうど仕事でこちらにいらしていたプロジェクトデザイナーの古田秘馬さんのご紹介で、みどりさんという女性に出会った。

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みどりさんはアメリカ留学を経てイタリアに拠点を移し、コンサルティングやコーディネートの仕事をされている方。

そのみどりさんに、「小さくても自分ではじめている人、知りませんか?」と聞いてみた。

するとみどりさんは、ミラノに「ギャラリーを持たないギャラリスト」として活動する女性がいる、と教えてくれた。

ギャラリストは、アーティストの展覧会を開き、作品の売買を行う仕事。通常は自前のスペースを持ち、そこを拠点にすることが多いそうだ。

ギャラリーを持たないということは、ゼロから場を生み出すような仕事なのかもしれない。

さっそく、みどりさんに教えてもらった番号に電話をかけてみると、時間をつくってくれると言うので、会いに行くことにした。

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ミラノの街は、初心者にはとても親切だと思う。

ドゥオーモと呼ばれるミラノ大聖堂を中心に道は放射状に伸び、それぞれのストリートの角の建物には、その通りの名前が印されている。

重厚な石畳は少し足に響くけれど、東京よりずいぶん歩きやすいように感じた。

わたしの到着を待ち、わざわざ外に様子を見にきてくれた彼女に、無事に会うことができた。

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彼女の名前は、フィアメッタ・キャバルア(Fiammetta Cavaller)さん。

ギャラリストとして、主に若いアーティストの展覧会をいくつも実現させているのだそうだ。

フィアメッタさんはオフィスを持っていないので、お父さんの経営する会社の一角を借りて仕事をすることが多いそうだ。

ふだんよく作業をしているという会議室で話を伺う。

「ごめんなさい。わたし、英語を忘れてしまったので、うまく話せるか心配です。今、ポルトガル語を勉強しているから、頭の中がそれでいっぱいで…」とフィアメッタさん。

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それにしても、ポルトガル語を勉強しているなんてめずらしい。イタリアではメジャーな選択肢なんですか?

「いえ、そんなことないと思います。ポルトガル語は、ブラジルの公用語なんですね。あまり知られていませんが、ブラジルってアートの先進国なんです。いずれブラジルにも拠点を持ちたいなと思っていて、そのためにポルトガル語を勉強しているんです」

「イタリアとブラジルを往復しながら仕事をしたいんです。もしかしたら、わたしはこれから、いつも飛行機の中にいるような生活になるかも」

笑いながらそう話すけれど、自分のしたい場所でしたい仕事をする、という働き方は、誰にでもできるわけじゃないと思う。

「自分で仕事をつくりました」と言うフィアメッタさんに、「どうやって?」と尋ねてみる。

フィアメッタさんは、とくに考え込んだりもせず、1本のまっすぐな道を辿るように、これまでを振りかえってくれた。

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「わたしは今、31歳なのですが、10年前の22歳のとき、コモという街のギャラリーでギャラリストの仕事をはじめました。そしてその後、ミラノに拠点を移し、自分のギャラリーをオープンしました」

友達の紹介で足を踏み入れたアートの世界。最初は、難解で変な世界だなぁ、と思っていたけれど、アートフェアに何度も足を運ぶうちに、だんだんのめり込んでいったそう。

この仕事をずっと続けたい、と思うようになった。

ところが、そんな矢先、いちど仕事を辞めざるをえなくなってしまう。

「妊娠したんです。わたしはひとりで、結婚はしてませんでした。でも、産みたいと思ったし、1年間は子育てに専念したいと思いました。だから、ギャラリーを閉じる決意をしました」

そして1年後。仕事を再開しようと思ったけれど、シングルマザーのフィアメッタさんに合う働き方は、なかなか見つからなかった。

「息子はわたしを必要としているし、わたしは息子に多くの時間を割きたい。そのなかでできる方法を見つける必要があったんです」

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そこでフィアメッタさんは、ギャラリーを持たずにギャラリストとして活動する道を選んだ。

なにかアートを用いたアクションを起こしたいと考えている企業に対して、アーティスト、展示方法、関連イベント、スペースなどあらゆることを提案し、それを実現させる仕事。

これなら場所も時間も拘束されないし、仕事を自分でコントロールできると思った。

「でも、いざはじめてみると、現実は厳しかったんです。200社にメールを送っても、返信はたった5通程度。最初は収入も得られないまま働いていました」

企業は、そもそもアートに興味がなかったり、興味があったとしても、集客力のある有名なアーティストが良いと言う。

でも、フィアメッタさんが紹介したいのは、まだ日の目を見ていないけれど鋭い感性を持つ、若手のアーティストたち。

「イタリアでは、若いアーティストはなかなか自分たちの作品を見せるチャンスがないんです。だから、多くの人に見てもらえる機会をつくりたいんです」

理解してくれるクライアントを探すのは、とても難しかった。それでも少しずつチャンスを掴み、企画をかたちにしていく。

フィアメッタさんがパソコンを開いて、過去に開催した展覧会の様子を見せてくれた。

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「これは、1年前の展示です。クライアントは、イタリアでは比較的新しい、若い銀行でした。限られた予算のなか、小さなスペースでもかまわないから人々の会話が生まれるような展示をしたい、というのが彼らの要望でした」

「わたしは、あるイタリア出身のアーティストを紹介することにしました。彼は今30歳で、ロンドンに暮らしています。彼は、美術学校でアートを学んだあと、『アートで人を癒せるのか』というテーマを持ち、紛争中のイスラエルで2年間、病院で傷ついた子どもたちをケアする仕事をしていました」

フィアメッタさんは、小さな展示会場に、彼がイスラエルの道端で出会った人々を描いたという1000枚のドローイングを貼りめぐらせた。

訪れた人が中に入ると、見渡す限り、顔、顔、顔。

もし、そこでなにか惹かれる表情に出会ったら、それを壁から外して自由に持ち帰ることができる。そして、その代わりに空白になった場所にメッセージを残してもらう。

最終日には顔がすべて持ち去られ、メッセージで埋め尽くされる。

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説明の最後にこの展覧会のタイトルを聞いて、とても納得した。

『I WANT TO TELL YOU』だそうだ。

「わたしは、アートというよりも、アートが生み出す会話やコミュニケーションが好きなんです」

「アートは、メッセージを届けるもっとも良い方法だと思います。言語が違っても、イマジネーションは共有できる。イマジネーションって普遍的なものですよね。アートを通してなら、世界はひとつの国だ、とも言えてしまうと思うんです」

場所にとらわれないフィアメッタさんの働き方は、アートを仕事にするのにすごく適しているのかもしれない。

それに、この働き方なら、子どもと過ごす時間もじゅうぶんとれる。

それがなにより嬉しいかもしれません、とフィアメッタさん。

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最後に、何かはじめたいと思っている人に向けてメッセージをもらった。


「人生は1日の積み重ねでできているから、どんな1日を過ごすかは大事ですよね。そして仕事は、1日のうちもっとも時間を使うもの。だから、好きなことを仕事にできたらとても幸せですよね」

「日本でどんなふうに仕事をつくれるのかは、わたしには分かりません。でも、世界にはあらゆる機会があります。あなたはできる、あなたは自分の人生を生きられる、ということを伝えたいです」

2015.7.6

 

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< Profile >

話し手 フィアメッタ・キャバルア (Fiammetta Cavaller)

ミラノとローマ育ち。イタリアとブラジルを拠点に活動するギャラリスト。フィアメッタさんの仕事や過去の展覧会の写真は、ウェブサイト(イタリア語・ポルトガル語)Facebookページからご覧ください。

聞き手 笠原 名々子 (Nanako Kasahara)

1989年東京生まれ。2012年から日本仕事百貨のエディターになる。このコラムでは半年間海外を旅するなかで出会った仕事を紹介しています。Facebook

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