コミュニティをつくるヒト1-3
今回は最終回、秘密の「カンペ」と「いま」という時代のお話です。
中央線、荻窪駅。線路沿いを進んでいった、白山神社と光明院というお寺を結ぶ三角地帯にそのお店はひっそりとあります。古い木造建築の階段を不安半分、期待半分の心持ちで上っていくとたどり着く「6次元」。
――おまかせとはいっても、イベントに参加したときに感じた中村さんの調整ぶりが心地よいなと思うのですが、そのあたりは何か意識されてるんでしょうか。
中村 イベントは終わったあとがいちばん大事だと思っていて、終わったあとの時間を必ず長めにとってるんですよ。
ケンタ 終わったあとは何かされてるんですか?
中村 開放してるんです。最近だったら田口ランディさんが、ここで瞑想の会をやったりとか、古事記のイベントとかやるんですよ、自主企画で。それで終わったあとに終電ぐらいまでみんな延々といるんですよね。ランディさんを囲んでみんなで柿の種とかつまみながら、お金もとってないんですけど。でもそういうのがいちばん面白くて特殊な体験ができるじゃないですか。
ケンタ 確かにそのあと自由にいられるといいんでしょうね。人間自由がないと息苦しいですもんね。ワークショップでも同じですけど、参加者も話す時間があると盛り上がるというか。
中村 基本的にいまはどんどん参加型にしていくのが一番かなと思ってますね。
ケンタ 参加型と受身型のその間があると思うんですよね。全部おまかせで「はいどうぞ」ってやると何も生まれないと思うし。何か想いが感じられないと伝わらないというか。
中村 そのあたりの調整もしています。場の空気を常に見て、トークしてるときは僕全員の顔をチェックしてますからね。この人飽きてるなって思うとちょっと変えたりとか。ずっとテレビの仕事をしていたのでスタジオでそういうのばっかりやってたんですよ。だからこの場所でトークしてても「はいここでCM! はいカット!」とか思わず考えています(笑)。
――そういう感覚が身についてらっしゃるから、参加者も主催者も自然とよい具合で楽しめる空間になっているのかもしれないですね。
中村 分かんないような難しいこと言ったなって思ったときは、僕から質問を投げたりします。放っておくと突っ走っちゃって誰もついていけなくなるじゃないですか。そういう意味では微妙な調整って必要なんですよね。ちょっと補足するだけであとの話が分かって面白くなるので、僕は常にカンペを出してるつもりです(笑)。トークの最中は一言一言に対して全部やってますね。そういうのはけっこう大事だなと思っていて。
ケンタ そういうお茶の間目線が心地いいんですね。
中村 かなりお茶の間ですよここ(笑)。
――それが6次元の強烈な集客力に繋がっているのかもしれないですね。来れば手放しで楽しめる感じがすごくします。
中村 ほんといまだからこういうやり方が成立するけど、10年前だったら難しいですよね。ネットも発達してないし。
ケンタ いまはやりやすいんでしょうね。
中村 これからは個人がコンテンツ化していくから、個人の力をつけていかないとぜんぜんダメでね。個人に対して人がつくわけなので。イベントとかやっても最近面白いなと思うのは、もうネタじゃなくて、人が大事になってるんですよね。この間やった屋久島のイベントなんかは屋久島のガイドさんが東京に来てイベントやるって言っただけで、そのガイドさんに会ったことある人がいっぱい来るわけですよ。メールが毎日毎日来すぎて困っちゃうくらい来るんですよ。無名なガイドさんが一人来るだけでこの熱狂ぶりはなんだろうと(笑)。でも結局いかにその人が愛されてるかってことなんだと思うんですよね。
ケンタ 単にSNSでの繋がりがいっぱいあるとかじゃなくて、質というか。
中村 これからはそういう時代なんだなって。まったく無名でもたとえば500人ファンがいたら食べていけるんじゃないかって思うくらい、自分をコンテンツ化していくことが大事なんじゃないかなって思いますね。極端な話、1万円でメルマガ配信します、って読んでくれる人がたとえば100人いればもうそれだけで食べていけるわけですよね。そういうのが直接発信できる時代になってきたから、個人の力が強い人は面白い時代になってきたんじゃないかなって思いますね。
――これからは個人でもできることが多くなってくる時代になっていくわけですね。
中村 なっていくんじゃないかなぁ。野菜の産直みたいなことで、いろんなことを直売でやっていけるようになっているから。出版社が心配にもなりますけど(笑)、一回廃刊になって自費出版で復刊した『風の旅人』の例はすごくヒントになるなと思いますね。編集長の佐伯さんは、「自分に何もできないから自分にできることしかできない」って言いつつ一人で進化しているからすごいですよね(笑)。リスクもないし、必要な分だけを刷って作ってるっていう形で無駄がまったくないですよね。ただもちろん確実にいい物を作らなきゃいけないし、それが直に評価に繋がるわけですけど。
ケンタ でもすごく健全ですよね。
中村 うん。健全健全。
――個人の力をつけるためにはどんなことをしていったらいいんでしょうか。
中村 やっぱりコミュニケーションですよね。いまは、たとえば雑誌作るにもプロセスをわざと見せないとダメで、「表紙出来ました」ってアップするとそのたびに注文が増えるらしいですよ(笑)。そのプロセスにみんなお金を払うんですよね。
――プロセスを見ることで自分も参加している感じになるんですかね。
中村 前は何々取材しましたっていうのはオフにしてたんだけど、そういうのをどんどんどんどん見せていくことによって完成までが楽しめるっていう。
――6次元にも繋がりますけど、親近感みたいなものを感じるんでしょうか。自分に近いと感じるものが支持を集めるような印象があります。
中村 これからはプロセスを全部見せちゃうっていうやり方が、ひとつの方法かもしれないですね。たとえば完成した料理を食べるだけよりも、その料理人がこだわりのトマトをどこどこまで買いに行ったっていう方に興味があるんですよね。そういうのにぐっとくるんだと思います。美味しいだけじゃなくて裏側のドラマみたいなことをみんな知りたいんですよね。
――なるほど。だから屋久島のガイドさんのイベントが支持される事にも繋がっていくんですね。
中村 屋久島のときも「おいしいお酒ができたんで飲んでください」って送ってきてくれてみんなで飲みながらやったんだけど、そういうことになるとみんな来たくてしょうがなくなるわけですよね。そういう姿勢にみんな惚れるんだと思います。
ケンタ 惚れますね。
中村 「イイね」って思う瞬間をところどころにちりばめていくことですかね。そういうノウハウはないんですけど、ところどころにツボはあるのかなって最近は思いますね。
――たしかに。これとは言えないですけど支持をされる物や人には確実なツボがありますよね。
中村 あるある。それはあんまり言ったりすることじゃないんだけど、ほんとはいっぱいありますね。
――いろいろお話を伺っていて、中村さんの柔軟性が6次元の度量の広さに繋がっているように感じました。
中村 飽きっぽいので毎日変わっていくのが面白いんですよね。お店の名前も変えちゃおうかなぐらい、なんのこだわりもないんですよ。本当はよくないんですけど(笑)。
ケンタ 決まりがないというか決めたくないんですかね。固執しないっていうか。
中村 それはあるかな。本当はいいのか悪いのか分かんないんだけど、頑固なお店っていうのも僕は好きなので。だけど僕はそういうタイプじゃないから、自己表現をするんじゃなくて他人を表現していくみたいなことに興味があるから。
――他人を表現していくというのは?
中村 この間、風の旅人の佐伯さんが20世紀は「自己表現の時代」だったけど、21世紀は「他人表現の時代」って言ってて。最近のクリエイターたちの中でも新しい人たちは自我を強くしていって、自分はこうですっていうところを出すんじゃなくて、人のいいところを活かしていく人が注目されているだろうと思うんですよね。いままではそういう人ってどっちかっていうと裏方だったじゃないですか。でもこれからは人のいいところを発見できる人の方が面白いっていう風になっていくと思うんです。最近の流れとしてそれはあるかなと思いますね。
ケンタ 確かに、求人でもコミュニティーとかソーシャル的な求人に対しての伸び率がここ数年ハンパないですよ。それはやっぱり自分で作るよりも、誰かとつながって何かを引き出すことにみんな興味があるのかなっていう感じはしますね。
中村 僕もそのラインにいるのかなって思っていて、自分がどうのこうのよりも人に関わっていくのって楽しいじゃないですか。だから面白い時代が来ましたよね。
ケンタ 僕も取材が毎回1冊の本を読むような感覚なんです。ここのイベントに来ている人ももちろん楽しんでいるんでしょうけど、中村さんも毎日毎日発見があるんでしょうね。
中村 あるある。ひたすら毎日いろんな人の話を聞けて勉強になってて、いまが楽しくてしょうがないですね。もともと人をバックアップすることに興味があったので、自分が紹介した人が有名になっていくのとか楽しくてしょうがないですよ。
――最後に、何かやりたいことがあるけど一歩が踏み出せない、やりたいことが何か決められないという人へ、アドバイスをいただけますでしょうか。
中村 やっぱりいろいろ試してみて調整していくことが大事じゃないですかね。たとえばいきなりお店をやらないで1回だけ1日カフェやって評判よかったら1カ月やってみてみたいな、そういう風にしていくのがいいんじゃないかなと思います。本もいきなり1万部は難しいけどとりあえず10部から刷ってみるとか。そこから学ぶこともたくさんあると思います。