コミュニティをつくるヒト1-2

コミュニティをつくるヒト1-2


今回は第2回、「人にまかせる」場づくりのお話です。

中央線、荻窪駅。線路沿いを進んでいった、白山神社と光明院というお寺を結ぶ三角地帯にそのお店はひっそりとあります。古い木造建築の階段を不安半分、期待半分の心持ちで上っていくとたどり着く「6次元」

ケンタ 借りるってなったときにイメージしていたものはどういうものだったんですか。

中村 古本屋さんとカフェとギャラリーがあってっていうイメージはあったんですよね。だけどここまでディープな感じは思ってなかったんですよ。オープンしたときは(テレビ制作の仕事で)旅番組ばっかりやってたからメニューが「エスカルゴ」と「ザリガニのスープ」しかなかったんです。

ケンタ 極端ですね(笑)。

中村 誰も頼まないから「あれ、おかしい」と思って。こんなおいしいエスカルゴをわざわざ取り寄せたのに。ザリガニスープなんか阿寒湖から取り寄せてたのに。でも誰もこれ頼まないと思って(笑)。

――おいしいのに(笑)。

中村 「珈琲ありますか?」とか言われて、「珈琲って……」って思いました(笑)。旅番組を10年ぐらいやってて日本全国のおいしいものをいろいろ食べ歩いてたから、そういうのを紹介したら面白いんじゃないかって実は思ってたんですよね。地方の特産がここに来ると食べられるみたいな。へしこのお茶漬けとかも最初出してました。そういうのしかなかったんで誰も何も頼まないんですよね。それでこれはイカンと思って、「たまごかけごはん」をはじめたら意外と頼む人が出てきたり。

――ほんとに一般的なメニューはなかったんですか? サンドイッチとか。

中村 ないないない。作るのめんどくさいじゃないですか。作れないし、仕事してるし。

――あははは(笑)。

中村 だから簡単に出せて面白いものって思ったんだけど、そしたらものすごく高くついちゃったりして。そしたらお客さんで働きたいって子が出てきて、「カレー作ります」って日替わりでカレーとか出しはじめたらお客さんが一気に増えて。カレーすごいなみたいな、そんな感じですよ。毎日めちゃめちゃで(笑)。全部をお客さんから学びましたね。すべて100%、お客さんがやってくれたんですよ。

――それもまたすごいですよね。

中村 プランみたいなのがほとんどなくて。最初は古本が読めるカフェみたいに思ってたんですけど、はじめてみたらぜんぜん違くなって。でもそういう面白い特殊なお店っていうのに惹かれて来る人も多いんだと思います。

――どのイベントもいつも満席ですよね。集客力が圧倒的だなと感じます。

中村 ちょっと募集しただけで、どうしてメールが100通も来るんだろうって思いましたね。そのときほんとに新しいなって思ったんですよ。僕はもともとマスコミでどっちかっていうと上から情報を注いでいくタイプだったから、こういう下から発信でこんなに反響があるんだって思いましたね。それはけっこう衝撃でした。twitterとかSNSの反響がこんなにすごいんだって。

――イベントの企画はどんな風に決定しているんですか。

中村 結果的に自然に発生してきたものがいちばん根づいている感じがしますね。読書会も僕の中ではぜんぜん想定外なものだったんですよ。しょっちゅう読書会やりたいっていろんなところから言われることがあって、なんでこんなに需要があるのかなって思ってたんですけど(笑)。でもそういうのをやるようになったらすごい人が集まるようになって、人気がありすぎて人が入れないくらいになっちゃってるんですよ。

――村上春樹さんの読書会もそこからですか?

中村 そうですね。読書会を頻繁にやるようになっていったら村上春樹の読書会も多くなって、ハルキストが集まるお店みたいにマスコミに紹介されるようにもなっていきました。いまでは村上春樹の取材は全部うちが受けるようにまでなってしまって。ノーベル文学賞の発表の日なんかはお店に中継車まで来るし(笑)。そういうのもなんか面白いなと思うんですよね。

ケンタ 面白いですね。

中村 海外からも取材に来るんですよ。フランスとかアメリカとか。春樹といえば6次元だみたいな。だからどんどんそうして伝わっていくんですよね。そういう(情報の伝わり方の)構造が最近は面白いなとも思います。うまく活用すれば世界中に情報を発信できるわけじゃないですか。情報っていくらでも操作できるし、操作されてるしね。ここだってもともと、春樹カフェじゃなかったのに(笑)。たかが2年くらいで世界中の人がここが春樹カフェだって認知しているところが面白いと思うんですよ。そしてそれが一瞬にして世界中に伝わるってことですよね。

――小さな場からでも世界に届けられることがあるということですよね。

中村 そうですね。それが面白いですよね。もともと村上春樹は読んでたけど専門家でも研究科でもないのに、最近は何かって言うとコメント求められたり、代表者みたいになっていて(笑)。ご本人見たらびっくりすんじゃないかなと思って。お前が語るなよって(笑)。

ケンタ 現象としてとても面白いですよね。

中村 うん。すごく可能性を感じています。

ケンタ 本当に縁というかいろんな繋がりで広がっていったんだなと思うんですが、会社を辞めて店をはじめるときの不安ってなかったんですか。

中村 不安はなかったですね。金銭的な不安とかはありましたけど。貯金ぜんぜんしてないじゃないかとか怒られたり、古物の免許も言われてあとから取ったり(笑)。事業プランも適当だったしそういう不安はありましたよ。でも途中で法則みたいなのが分かってきて。

――法則というのはどういったことですか。

中村 どうしたら人が集まるとか、どうしたら利益出るとか最初は分からなくて。正直、喫茶店で珈琲出してるだけってぜんぜん利益でないんですよね。お店に20人くらい人がいるとけっこうにぎわってる感じがするんですよ。でも500円の珈琲飲んでる人が20人くらい居ても1日の売り上げが1万円くらいにしかならないんですよね。なんでこんなに儲からないのかなって、僕びっくりして(笑)。カフェやってる人に聞いたらそりゃ回転させなきゃダメだよって言われました。

ケンタ 回転させるってなかなか難しいですよね。

中村 そうですね。でもいいカフェってなかなか回転しない店が多くて。うちは0回転って感じなんですよ。1回来たら5時間とか10時間くらいいる人もいるし。だから全然まずいなと思って。それでイベントしたらすごい人が集まったので、2時間ぐらいでこんなに利益が出るんだと思いました。いまでは出版社のイベントを6次元で開催するとほかの取材が入るとか、本が売れるみたいな伝説もけっこうあって(笑)。出版社が主催してやるとぜんぜん人が入んないのに、6次元が楽しんでやってるとみんな油断してほかの取材が来るんですよ。

――油断(笑)。でもそうなんですかね?

中村 たとえばプレス記者発表っていうとなんか警戒するじゃないですか。だからちょっと違う角度で変なイベントをやればやるほど取材も入るし、本も売れるみたいな。苔だったり山伏だったり、そういうすき間のイベントが増えていったんですよね。

ケンタ 想像ですけど、僕はいわゆるレセプションとかパーティーみたいなのが苦手なんですよ。業界人が集まって仲良くしている感じ。そういう排他的な雰囲気がここにはないですよね。誰でも受け入れてくれるみたいな感じがあるんですかね。

中村 僕があんまりこだわりがないのがいいのかもしれない。雑食だしテレビ出身だし、そういうラフな感じってけっこう大事だと思うんですよね。僕がこれで東大出ましたとか、文筆業やってますみたいな感じだったら嫌じゃないですか(笑)。僕がそういうのじゃなかったから、安心感ていうのはあると思いますね。

ケンタ twitterとかでも企業アカウントで人気があるのはその担当者にかなりの裁量権があって、相当自由にやっているところですよね。コンセプトやマニュアルみたいなものが強すぎると、それはなんとな分かりますし、何か狙いがあるんじゃないか疑ってしまう。そして囲い込まれてしまうんじゃないかとか思ってしまう。

中村 あるあるある。みんなが参加できるし、お客さん主催のイベントもすごく増えてて、お客さんが全部持ち込みでやってくれるんですよ。僕この仕組みすごいと思ってて、僕働かなくていいんだって(笑)。お客さんが企画してくれて、人も呼んでくれて、当日も仕切ってくれてっていう完璧な仕組みなんですよ。お客さんを参加させると何もしなくていいんだって。鍵開けて掃除して椅子を並べとけばいいんだっていう感じで。みんなでここをシェアしているみたいなもんですよね。

――大家さんみたいですね(笑)。

中村 ちょっとした村になってるんですよ。ここを使って何かしたいって感じの人が増えてきていて。ノマド系のクリエイターの人って何かしらの場所が絶対必要なんですよね。けっこういい場所借りちゃうと高いけど、こういう所だと利用しやすいんだと思います。そういう人がいまけっこう増えてますよね。実店舗は持てないという人に開放しているんです。それはこういう時代だからこそなのかなと思います。

――「持ち込みナイト」もはじめられましたね。

中村 なるべく自由にみんなが使えるようになるといいかなと思っていて。理想を言えばいつの間にか大家みたいになってて、毎月30人の企画者が毎日なんかやってくれれば僕は何もしなくてもここは回転していくわけじゃないですか(笑)。そこまではないかなとは思いますけど、そういう「人にまかせていく」っていうのは面白いなって思っています。

4/1月 「6次元」という場所に出会って

 

4/3水 「人にまかせる」場づくりのお話

 

4/5金 秘密の「カンペ」と「いま」という時代