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こんにちは、日本仕事百貨の並木仁美です。
一緒に食卓を囲みながら、働く人や暮らし、生き方など、とりまくことをぐるりと話す「ぐるりの食卓」。
前回に引き続き、島根の企業を訪ねています。
石見食品さんをあとにして向かったのは、出雲市に本社を構えるバイタルリードさん。公共交通計画やまちづくり計画などのコンサルティング業務を主体に、交通に関わるシステム開発なども行っています。
今回は、一体どんな食卓で、どんな出会いが生まれるんでしょう。
会社から15分ほど車に揺られ、可愛らしい小屋に到着。この場所は、社員のみなさんがよく食べる無添加の干物を製造・販売している「渡邊水産」さんが運営しているそう。
ドアを開ける前から、なにやら香ばしい香りがもれている。中は鮮やかな赤い壁に、広々としたキッチンスペース。
天窓からは柔らかな光が入って、手づくりの棚にはさまざまな食器が並びます。
なんだか、友達の家に遊びに来たような、不思議な安心感。普段は、干物を使ったお料理などを教える料理教室が開催されているのだとか。
私も、渡邊水産の方に教えていただきながら一緒に干物料理をつくらせてもらうことに。まずは、レンコ鯛の干物を使った鯛めしから。
それにしても、干物で鯛めしってつくれるんですね。
「干物を焼いた後のアラって、おいしいダシになるんです。本当に捨てるところがないですね」
「レンコ鯛はよく食べますよ。私らはお祝い事のときに鯛を焼いて、後片付けしている間に残骸を煮出しとくんです。それをこんなふうにごはんにする。そのときは人参とか、しいたけも入れてね。そうしたら子どもたちは、嫌いな野菜もなんでも食べるよ(笑)」
話をしながら、手早く準備を進める渡邊水産のお母さん。炊き上がりを待つ間に、今度は塩サバのオイル焼きに取りかかる。
お母さんに誘われて、バイタルリードのみなさんもエプロンをつけ、調理に参加します。
オイルに漬けた塩サバの干物を、刻んだねぎや鷹の爪と一緒にフライパンで焼くシンプルな料理。
焼き始めると、パチパチ、じゅわじゅわとおいしそうな音が食欲をそそります。まるで干物とは思えないくらい、ぷっくりと身が膨らむ。
ほかにも、かつては北前船が立ち寄ったという港町、鵜鷺(うさぎ)地区でとれたあらめという海藻を炊いたものや、あご(トビウオ)のすり身を酒やみりんで味付けして、棒に錬り付けて焼いた「あご野焼き」などなど。
いただきます!
塩サバのオイル焼きは、ピリ辛でなんだかちょっとイタリアンのよう。鯛めしは顆粒だしとか、便利な調味料では味わえない、噛み締めたくなるような味。さらに甘からいあらめが最高に合う。この3つ、ずーっと食べていられるな…。
みなさんビールがすすむなか、横で「コーラが沁みます…」と話す韓国出身の金(きむ)さん。日本にはいついらしたんですか?
「2007年にきたので…今年で10年になります。僕は釜山の生まれで。日本でいう大阪のような、都会生まれなので都会がすきだったんですよ。だけん…」
だけん!?
「あ、これ九州弁なんですけど。以前は福岡にいて、会社の仲間が九州の人ばっかりだったので」
「そのときに出会った嫁の実家が、出雲なんですよ。いつかは実家に帰ろうと話していたときに、IT技術者と島根の企業の交流会で社長と出会ったんです」
なるほど、そういうご縁があったんですね。
最初は静かな人なのかな、という印象だった金さん。けれど好きな食べ物の話になると、最近ハマっているという出雲蕎麦について熱く語ってくれた。
「僕の中では、出雲蕎麦って黒くて、どちらかというとコシがないイメージ。でも店によって茹で加減も全然違って…」と止まらない。
まわりで聞いている皆さんも「かなりディープに溶け込んでるね」と笑いながら、「あらめはサラダにしてもおいしいんですよ」「海が近いから練り物も沢山あって。スーパーでも売り場の充実感がすごい!」と食にまつわるいろんな話をしてくれる。
こういう話は本当にうれしい。ガイドブックには載っていない、地域のことをじかに感じられるから。
「住み心地がいいし、結構気に入っています。緑も豊かで。そうそう、蛍も島根にきてはじめて見たんです」と金さん。
島根は美肌ランキングで4年連続1位を獲得するくらい、水がきれいな地域なんだそう。
環境はかなりいいみたい。だけど、知り合いがいないところに外から入っていくのがネックになるんじゃないかなぁ。実際住んでみてどうですか?
「なんだか、巻き込まれていく感じがありますよ。町内の運動会も必ず出ないといけないし。嫁さんの実家に住んでいるんですが、お義父さんが体力的にきつくなってきてるらしくて、最近やたらと僕を前に出すんですよ(笑)」
やることが増えちゃって大変じゃないです?
「まぁ…でも、まわりの人から助けられてるのは、すっごい感じとって。つながりができたから、休みの日にコーヒー入れるようになったりもして」
コーヒー。
「うちの地区に秋祭りがあるんですけど。嫁が、マフィンとかお菓子つくるのが好きだから、出店してみないかって話がきて。僕ひまだけん、隣でコーヒーいれようかって」
いいですね。はじめはちょっと強制的に参加させられるのだろうけれど。半信半疑でもはじめてみると楽しくて、だからまたやろうと思うのかな。
「うん。僕もはじめは都会に憧れがあってきたはずなのに、出雲にいて、方言使って…。コーヒーいれたりなんかして。本当に人生、何が起きるかわからないですね。だから楽しいのかもしれない」
飲めない金さんの隣で、ガンガン日本酒をあけていく人もいる。金さんと同じく情報システム部で働くモナさんです。
「実家は和歌山だけど、中学から寮に入って、東京でも働いたし、海外にいたこともあったし。もうね、どこででも生きていけるかな」
そうカラカラと笑う姿が気持ちいい。
ちなみに、お酒のお供は板わかめ。炙ってそのままお酒のアテにしたり、海苔の代わりにおにぎりを包んで食べたり。噛んでいるとするめのようにじわじわ味が出てきます。
社長の森山さんによると「来てまだ1年経ってないけど、僕らよりも飲み屋さん知ってる。飲みに行くと、チーママ状態(笑)」とのこと。
確かに、なんかモナさんに話を聞いてほしくなる気持ち、わかる気がする。
「東京でITの仕事をやってきて、1分1秒でもシステムに狂いが生じるとクレームの嵐、みたいな。でもECサイトがなくても死にはしないよね?人の生き死にに関わってないのに、こんなに心がすり減ってるのやだなってずっと感じてて。でも稼ぎはいいし」
最近では、東京の仕事を地方でやるっていう形もありますよね。
「でも、それだとあんまり意味ないなって。結局東京の人が豊かに暮らすために働くなら、東京にいたほうがいいじゃん。この会社を選んだのは、ちゃんと地方に役立つ仕組みをつくれるから」
地方に役立つしくみ。
「たとえば、除雪機の監視をして雪深い地域で困っている人たちを助けるとか、バスの乗り方案内がなくて困ってるお年寄りに対して、仕組みを提案するとか。地域の人に役立つITがあるんだよね」
なるほどなぁ。最近、東京の仕事をよそに移すことばかり注目されている気がするけど、ちゃんとその地域に根付いた仕事をつくっているのがおもしろい。
そもそも、社長の森山さんはどうしてこういう仕事をはじめようと思ったんだろう。
「僕?僕はもともと建設コンサルタントで。道路の設計とか建設しとったんですけど。35歳のときに、仕事を休んで2年間大学院に行ったんです。たまたま集中講義で、公共交通の講義を受けて。めっちゃおもしろくて」
おもしろい?
「うん。ドイツを中心に、ヨーロッパが公共交通の先進国なんだけど、街の中心に教会があって、むしろ鉄道の駅とかは郊外にあって。車は使わず、街のなかに路面電車が走ってる」
車を気にせず安心して買い物を楽しめる。渋滞もない。古い街並みを保存しつつ再開発が行われ、道端ではストリートミュージシャンが音楽を奏でる。
「こんな街が、ずっと残っていく街なんだなって。公共交通でこんな素敵な街をつくる仕事がしたいと思って、今の会社をつくったんです」
岡山県や鳥取県をはじめ、会社のある出雲市の街並みも、交通を基点に変えてきた。
「たとえば出雲大社まで続く神門通りも、参拝客は車とバスで出雲大社に隣接する駐車場を利用するので、賑わいがなく商店街も衰退していたんです」
「道を石畳にするなど景観をデザインしたり、住民とワークショップを開催して実際に道を歩いてみながら、道路整備について考えたりしました。街の南側はまだ整備が続いています」
すると「私、絶対出雲で夜だけでも巡回バス走らせたら飲食店流行ると思う」とモナさん。
「こっちは車移動だから、その場のノリで飲みにいこうぜ!みたいのができないのよ。しょうがないから、飲み会の日は私歩いてるもん」
でも自分たちが感じている地域の不便さとか、そのまま仕事に活かしていけそうですよね。
「そうだよね。本当に仕事にしてください、社長!」
夜も更けて、気づけば1本、2本と日本酒の瓶が空いていく。
だんだんと一人一人のキャラクターも色濃く出てきた様子。いつもそっと飲み物を注いでくれたり、お料理をすすめてくれる岩崎さんも、違った面があるみたい。
「切り込み隊長なんですよ。出雲市役所とかいくとみんなに声かけられて。最近、調子どうよ?みたいな会話が繰り広げられている」「みんなの駆け込み寺みたいな感じ」
穏やかさに加え、チャーミングな笑顔が印象的な岩崎さんは、この中で唯一出雲の出身だ。
「主人が転勤族で、中国で暮らしていたこともあって。長男なんかは小学校3つ変わってるんですよ。国外にいたときに、自分が出雲のことも島根のことも全然語れないことに気づいたんです」
「外からの目でないと、わからないことがありましたね」
たとえば、どんなことですか?
「たとえば、子どもが夜泣きしたときにも、出雲では『にぎやかでいいじゃない、全然気にしないで』って何人もの方に言われて。逆に悪いことをしたらきちんと叱ってくれる人もいて」
「風景も、出雲って『出ずる雲』って書くように、雲が全然ちがうの。特に宍道湖、あそこに写す空は全然違います。神様が降りてくるというのを感じるくらい美しいですよ。出雲に来て思わず泣いてしまう方も多い。自分と向き合う時間がつくれるからかもしれない」
「ここは昔と変わらないものがある。人も、自然も。だから最後にはやっぱり…帰るっていう場所なんですよ、ここは」
帰る場所。
「そう。私は、自分のルーツが知りたくてずっとここで仕事をしているのかもしれません」
ぽつりとつぶやかれた「帰る場所」という言葉が強く印象に残った。
いつか帰る、自分の居場所。きっかけは何であれ、みんなこの土地が好きで、人と交わって、自分で居場所をつくってきている気がする。
最後に「チャンスの神様の話知ってる?」とモナさん。
「チャンスの神様には前髪しかないの。ここぞというときにつかまないと、すれ違っちゃったらもうつかめない。出雲はご縁という言葉が好きだけど、ご縁は自分でつかむものよ」
ここでこうして、出会って食卓を囲んだことも何かのご縁。そのご縁を育てるかなくしてしまうかは、きっと自分次第だ。
私は大事にしていきたいな、そんなことを思った夜でした。
今回お話を伺った、バイタルリードの岩崎さんとモナさんをお招きして、一緒に食卓を囲むイベントをリトルトーキョーで開催します!
日時:2017年9月16日(土) 18:00 〜 21:00 (開場 17:30)
定員:12名(応募者多数の場合は抽選とさせていただきます)
参加費:4500円
(ごはん7品+デザート、1ドリンク、小さなおみやげ 付き)
コラムでご紹介したバイタルリードのみなさんとの食卓が、東京にもやってきます。無添加のおいしい干物を使った料理や、地元のお母さんのレシピを再現するあらめ煮など、地域ならではのごはんやお酒と一緒に、お話ししましょう。
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