
男はその緊張感を愛していた。その無機質な手術室が自分の居場所なのだと確信すらしていた。
「メス」
外科医の男は呼吸を整え、看護師からメスを受け取る。
難しい手術ではない。しかし、鼓動が少し早くなっていくのを感じる。
腹部を切開する。出血は多いが、脈拍は安定している。
血のついたメスをバットに置き、器具を取り替える。
コッヘル鉗子、アドソン鑷子、持針器・・・
「お疲れ様でした」
助手の言葉に会釈で応える。
血のついた器材で溢れたステンレス製のバットをみて、男は昨日出会った自称火星人の女を思い出す・・・
佐野仲登志『ダイモスのカルテ』(シゴトヒト出版)より
といった医療SF小説があったとして。
さて、ここで問題です。
血のついたメスやハサミは、このあとどうなるでしょうか。
使い捨て?洗う?どこで?誰が?どうやって?

「『中央材料室』のしごとバーをやれないかな?」
そう提案してくれたのは、医療機器の販売を行う株式会社名優の山根優一さんでした。
中央材料室?
中央材料室、通称・中材(ちゅうざい)は、手術などで使用される医療器材を、次の患者さんにも安全に使用できるように洗浄や滅菌をしている部署のこと。
手術で使った血のついたメスやハサミを、次の手術でも使えるように綺麗な状態にすること、と聞くとイメージがしやすいかもしれません。
再生処理は、感染症などから患者さんを守るとても重要な業務。

「でも、あまり認知されていないんですよね。日本の再生処理は、ヨーロッパに比べると20年は遅れてるとも言われているんです」
色々な要因があるそうですが、その重要性が社会的に認知されておらず、人材や予算が不足していることが大きな理由だそう。
病院のフロアマップにも記載がなかったり、医療関係者でもその存在がおぼろげな人も少なくない。
今回のしごとバーでは、中央材料室をふくめ、医療機器を安全な状態にするしごとをしているゲストをお呼びして話を聞いていきます。

再生処理は外科手術に使うメスやハサミに限ったことではありません。
身近なところだと、歯医者やアイクリニックでもたくさんの医療機器が使われています。
ほかにも、採血の注射器は?診察でべーってする銀色のへらみたいなやつは?
あれってどうなっているんだろう。
身近で大事なものだけどよく知らない、再生処理の現場を一緒に覗いてみませんか?
◎イベント概要
日程:2025/4/24、5/8
各回開催時間:19:30-20:15
会場:リトルトーキョー4F(東京都江東区三好1-7-14)
参加費:無料(ワンドリンク制)


第一回ゲスト:山根優一(株式会社名優)
1991年生まれ。千葉県出身。千葉大学経済学科卒。2016年4月、株式会社リクルートメディカルキャリアに新卒入社。遠隔医療アプリの営業や、大学病院との共同研究、後継者不在の医療機関への第三者事業承継支援などを経験。その後、2020年4月にPwCコンサルティング合同会社へ入社。ヘルス・インダストリー・アドバイザリー(HIA)に所属し、製薬会社のシステム導入や、医療機関の経営改善を支援。2021年11月に株式会社名優に入社。中央材料室向けプロダクトブランド『SALWAY』の立ち上げなどを担当。2022年4月より社長室 室長。2024年10月より代表取締役。
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第2回「中央材料室のしごと」
ゲスト:酒井大志(越谷市立病院 滅菌管理室)
越谷市立病院、診療部、滅菌管理室、主査。第1種滅菌技師。MDIC医療機器情報コミュニケーター。首都圏滅菌管理研究会編集事務局長。
2018年~PMDA医薬品医療機器総合機構・滅菌領域外部専門委員/2019年~厚生労働省・基準策定事業再製造SUD推進検討委員会委員、東京大学医学部附属病院手術部 登録研究員、日本医療機器学会・滅菌管理業務検討委員会委員/2020年~日本医療機器学会代議員/2021年~日本医療機器学会(広報委員会委員・将来構想委員会委員・病院サプライカンファランス委員会委員)/2022年第44回 日本手術医学会総会 優秀演題賞受賞/2023年AAMI教育セッション「Standards for Sterilization in a Healthcare Setting」
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第3回「小さな病院のしごと」
ゲスト:西島歩(西新井病院 手術室 看護師/第1種滅菌技師)
2002年 慶應義塾看護短期大学卒業、看護師資格取得。同年 慶應義塾大学病院中央手術室に配属。2015年 都内の病院に転職し手術室・中央材料室の責任者。2018年 第2種滅菌技士を取得。2020年より東京北部病院の手術室・中央材料室師長。同年、第1種滅菌技師を取得。2024年 日本医療機器学会 第28回 病院サプライカンファでシンポジストをつとめる。日本医療機器学会 滅菌供給部門 評価事業サーベイヤー。2025年4月より現職。2025年 第100回 日本医療機器学会のランチョンセミナーおよびシンポジウムで講演。
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