山のサハラさん2020/5/24
5月24日 日曜日
なんだか悲しい日。
山小屋で働きはじめてから、おそらく初めてそう思う自分がいます。
小屋番皆が仕事に一生懸命な分、空回りをしてしまったような、すれ違ってしまったような、そんなことが起きた。
なんだこれは、どうしてだろう。
「外出てみなよ」
陽が沈みはじめた頃、ひとりの小屋番に手招きされた。なになにと、わたしは小屋の玄関を出てみます。
カモシカだ。
よく会うわけではないが、たまに会う。あまり美味しくなさそうに草を食べています。
やあとか、よおとか声を掛けてみるけれど、まったく呑気。気づいているくせに、気づかないふりして、笑っているような表情をも浮かばせます。
しばらく黙って、カモシカのそばにいた。
カモシカも、わたしのそばで草を食べ続けます。ただそれだけのことなのに、なぜだか面白い気持ちになっていく。
春とはいえ、朝晩はまだ冷える八ヶ岳。再び会えるかわからないカモシカに、名残惜しいような気もするけれど。いよいよ寒くなってその場を離れ、小屋の中へ入ります。
夕飯となり、ついビールを開けてしまう。
その頃には悲しかった今日も昨日のことのようになっていて、ぼんやり夜へと向かいます。
ただ、布団の中に入って目をつむった途端、昼間の悲しさが頭をかすめていった。けれども、眠って明日になれば、大概のことは気が済んでしまうのでした。
「山のサハラさん」は、日本仕事百貨のメールマガジンから生まれたコンテンツ。全国を旅するように働く佐原真理子さんが綴る日記です。